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生真面目マリーは生きるために嘘をつく  作者: 苔茎花
第二章 竜と竜

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21/82

#6 入学式当日

 1カ月なんてあっという間に経ってしまいました。できるのならもっと準備したいことが沢山あります。

———中央学園。

中央国にはいくつか学び舎がありますが、学園の話が出た場合は、十中八九この中央学園を意味します。なんでもリンゴォ氏もこの学園出身だそうで、ある程度のことは教えてもらいました。この学園に貴族がこぞって来るのには理由があるます。もちろん、全ての国の交渉路にあるということも関係があるのですが、この学園に通うことがある種ステータスになっているのです。学園に通うのはリア様のように卒業しても元の国に戻る人も多いです。ある程度爵位のある方は、学園に通っていないと舐められてしまうということもあり、無理してでも通うという方も多くいます。また、将来の家臣を探したりと引き抜き的な意味で通う人もいます。学園に通える時点で優秀なのですから。

 そして、卒業した後のもう一つの道もあります。中央国の官僚になる道です。殆どの貴族は、長男が家督を相続します。つまり、次男、三男は家に戻っても、何も手に入れられなかったり、長男にこき使われたりしてしまうのです。そうした長男以外が唯一立身出世をするための手段がこの学園というわけです。しかし、そうした次男、三男は人が多いので、その中でも競争が起こります。だからこそ優秀な人が集まるという側面もあります。そういった意味で野望と欲望に満ちた学園とも言えます。


 そんなこんなで準備をしている間にあっという間に入学式当日を迎えてしまいました。一カ月という期間はあまりにも短く、しかし、有意義に過ごすことができました。クラブにおいても名前をしっかりと覚えてもらえました。

既に制服の試着はしていますが、制服に袖を通して見ると未だに新鮮味を感じます。

「リア様私の身だしなみを見てくれませんか?って」

「#♪」

リア様は元々お洒落を楽しむ様な方でもない。というよりもいつも真っ白な同じ様な服を着ているのだけれど、何処か神聖さの様なものがあるので、毎日同じ様な服を着ていても違和感がない。と言うよりどこか神々しさの様なものがあるのだ。

精霊教の司祭様が毎日同じ服を着ていても不快感はないだろう。あんな感じなのだ。

だからいざ違う制服を着るまで身だしなみがなっていないことに気づかなかったわけなのだ。

「リア様...教えますから、せめてネクタイのやり方覚えて下さいね」

リア様も別に馬鹿ではないので、覚えればできるのだが、如何せん貴族という人種は服を自分で着ない。別に着方がわからないというわけではないのだが、そういうことを自分ですることがないのだ。

 ただ、この目下悩みの種である制服という物は面白い役割をしていた。学園に入ると学園に所属した証としてこれが配られる。面白い点が二つある。一つは帰属意識。二つは建前上の平等だ。帰属意識は言わずもがな、学園に通っているということがステータスとなり、横の繋がりも縦の繋がりも広めてくれる。二つ目の平等は面白い仕組みで、教師が何故自分より上の階級の人間を教えるかという説明にもなっている。学園の生徒という所属である以上、ある種貴族という枠組みから離れた存在になる。同じ服を着て同じ館で過ごす。それだけで既存の権力層からの特別待遇を防いでいる。と言っても、ある程度防いでいるとしか言いようがないだろうが。だが建前は使えるから建前なのだ。これに関しては覚えておくべきだ。

「流石に男性寮までは入れませんから毎朝直すことはできませんからね」

そう、リア様にとってはそれが問題だ。いや、正確に言えばリア様以外も問題なのだが、特に問題なのはリア様なのだ。

学園では、身支度含め一人で全てやるという建前がある。しかし、リア様の様な階級の人間は一人で服を着替えることもあまりない。そうなるとリア様の様な階級の人は、御付きの人を同じ学生として入学させる。私もそれで入学している。しかし、私はリア様とは違う性別上、男性寮内には流石に入れない。

 そうなるとリア様をお世話する人がいないのだ。これが公爵も気にしていたことである。

 そして、リア様は別に着崩している訳でもなく、ネクタイのやり方を覚える気がない訳でもなく、ただ本人がちゃんとしているつもりでも出来ていないだけなのだ。

いや、これはもっと悪いか。

そういったことにビクビクと怯えながらリア様のネクタイを直した。

「これで良し。リア様今朝は時間が無いので教える時間はありませんが、後でしっかりと覚えてくださいね」

「#」

「リア様のことを思って言っているのですから」

入学式の始まりまでまだ時間があるとは言えど、準備すべきことは沢山ある。

私たちは学生である前に、一貴族なのだ。


 入学式が始まった。

と言ってもやることは基本的に形式張った挨拶という名の儀式だ。単調で誰も彼も同じ事を言うような挨拶。当然誰が何を言ったか覚えていない。横目でチラリと見ると欠伸をする人や居眠りをする人がいた。気の小さい私としてはそんなに堂々と眠れるなんて豪胆だなとしか思えない。それに何よりも私は緊張していた。

だって。

「新入生代表 リア・クローバー」

学年の中で一番階級の高い人間はリア様なので、当然新入生の挨拶はリア様がやることになる。

「#」

その一言で軽いどよめきが現れる。その一言で人が発生した音ではないとわかってしまうのだから。

「静粛に」

予想していたのだろう。すぐさま窘められる。リア様の噂は有名だ。しかし、殆どの人間が会ったことすら無いので、根も葉もない噂だと思っていたのだろう。

「代弁者 マリー・スプリングフィールズ」

「はい」

そう、これが緊張していた理由だ。新入生の中で一番階級が高い人間がリア様だ。でもリア様では喋ることが出来ない。そうなった時に別の人間に任せるなどはあり得ない選択肢だ。それは西の国が軽んじられるからである。そうしてできた役職が代弁者である。でも代弁者も本来ならばリア様に準ずる階級の人がやるべきなのだ。実際リハーサルの時にはそうだったのだ。しかし、リア様は同じ文章を読んでいるにも関わらず、何故か発している言葉が違うという性質が出たため、リア様と代弁者で言葉が被ってしまうということが何度も起きた。その結果、リア様に準ずる階級の人が怒ってしまったのだ。

それはリンゴォ氏も通った道なので私としては言う事はない。

強いて言うならば真面目な人間ほど怒ってしまうのだろうなと。

そうしてお鉢が回って来たのが私である。

 親の階級がここではある意味自分の階級とも言えるここで、子爵令嬢ではこの場と釣り合っていない。本人が子爵の階級を持つリア様とは、雲泥の差がある。だからこそ周囲の視線は冷たい。多分この場の誰もが釣り合っていないと思っている。

でも、そんなことは覚悟の上だ。

最初から釣り合いなど取れていない。私が釣り合いを取れる様に頑張るしかないのだ。

「#%÷##」

「健やかな春の風が感じられる今日この日、私達はプレイア中央学園に入学します」

私がリア様の言葉がわかる時はかなり限定的な場合だ。リア様が言いたいことがあり、因果関係があり、私がそれの前後関係を知っていることだ。こんな入学式の挨拶なんてものは到底理解できない。しかし、入学式の原稿を持っているのはリア様であり、私ではない。だから暗記した。後はリア様の発話が終わるタイミングを見るだけだ。

「#>×、っ! ÷##>>#」

あの、リア様、今原稿読む場所間違えましたよね。私以外わからないから良いんですけど。

「本日は私達の為にこの様な式を開いて頂きありがとうございました」

何事も無かった様に読むが、当然誰も気づいていない。これからの学園生活でリア様の理解者は出てくるのだろうか。

「以上をもちまして新入生代表の挨拶とさせて頂きます」


 式が終わり、教室へと向かう。喜ばしいことにリア様と教室は一緒だった。リア様と一緒に学べるのは、大変助かった。リア様のことを面倒が見れるとまでは自惚れていないが、リア様はだいぶ抜けている方だし、何よりも政治に対してあまり興味がない。別に政治に興味を持って欲しい訳でも無いが、確執は起こして欲しくない。だからこそ面倒を見ているつもりさえあったのだが、その必要性は無いのかもしれない。リア様は既に三人の有力な貴族と知り合っていた。

「先程の新入生の挨拶には驚かされた。君がそれをやるという意味でね」

黒髪短髪の糸目が印象的なお方はイットウ・フジワラ。東の国の侯爵の息子だ。

「しかし、誰がやるかと聞かれれば彼一択だろう」

色濃い肌の色が特徴的なのはアリー・バットゥータ。南の国の大貴族の息子だ。南の国は商売で有名な国なので、中央国で食べられる南の国産の食物の殆どは彼の家が商っている。

「君が嫌と言えば僕が変わったのに」

「それはただやりたいだけだろう」

ハハハと笑う二人とは対照的に一人黙るものがいる。

「・・・・」

彼は西の国出身で2番目に偉いと言えるダーシー・ウィリアムズである。入学式の挨拶を断ったのは彼である。前に一度話したときは、もっと明るい方だと思っていたが、今回は雰囲気が少し違った。

「しかし、ダーシー君。君はもったいないことをしたね。入学式の挨拶、しかも、今回の挨拶はさぞ目立ったろうね。」

そう、怒って帰ってしまったその人とは、ダーシーさんのことなのである。

「私にはできなかった。ただそれだけだ。リア君。先ほどはすまなかったね」

隣のリア様に軽く謝った。

「ふ~ん。それじゃあ彼女が凄かったということかい?」

「そうだ」

「それを聞いてどう思う?」

イットウ様は少し意地悪そうに私にお話を聞いてくる。

「私ですら未だにわからない事があるのですから、初対面であるダーシー様がわからないのは当然のことかと」

そう言うとダーシー様が私を停めるように手を出した。限りなく、気を使った言葉選びをしたのだが、何か癇に障ることを言っただろうか?

「マリー嬢。君と私は学友だ。様付けはいらない」

リア様の言葉を訳すことができなく、怒ってしまったのを見ただけで、この人はただプライドが高いのだろうと思っていた。しかし、もしかしたら高潔なあまり、ルールに厳しいだけなのかもしれない。

「ふむ、それはどうなんだろうね。僕は建前の中でも分別がある人が好きなのだがね」

反対にイットウ様は一見飄々としている態度でプライドはあまり高くないように見えたが、貴族という意識が強いように感じる。案外プライドが一番高いのは彼かもしれない。

「わかりました。それではダーシーさんのことはダーシーさんとお呼びして、イットウ様のことはイットウ様とお呼びしますわ」

「なるほどそれは分別のある判断だ。僕もイットウ君のことはこれからイットウ様と呼ぼうか。イットウ様、これで満足でございますか?」

アリーさんはこの二人に比べると貴族らしくない。どちらかと言えば商売人気質な気がした。家柄故なのか、この人は貴族とそれ以外の調節をするのが上手いように感じる。

「軽い冗談じゃないか。二人して虐めないでくれ」

多分冗談ではなかっただろうが、引き際を弁えたということだろう。この三人はリア様の友達となっていく方だろう。目立ち過ぎるのもどうかと思うが、この三人に対して引く様な態度をとってしてしまえば、リア様の立場を下げることになりかねない。

後注目すべき人と言えばもう一人いる。

「リア様、ご挨拶遅れて申し訳ございません」

ヴィクトリア・エバーグリーン。この学園で唯一知り合いと言えるのは、彼女とダーシー様くらいなものだろう。ヴィクトリア様とダーシー様とは一カ月前に会った馬車の入れ替わり事件以来である。あの時は正直言えば、この人の評価をするのは難しい。話した時間で言えばそれなりになるかもしれないが、お互いにまだ壁がある状態だ。リア様や彼女の父であるエバーグリーン公爵の前だと少し我儘な印象を受けるが、それ以外には案外優しいというのが、彼女の御付きの言うところであった。我儘なのも甘えているとのことらしいのだが、よくわからない。

「#」

「おはようございます。ヴィクトリア様」

「…おはよう」

一瞬間があったのは気の所為だと思いたい。

「おや、彼女のことは様付けで呼ぶのかい?」

余計なことを言ってくるのはイットウ様である。

「何のお話ですか」

「いや、これから建前上と言えど同じ学園を共にするのだから、敬称をしないように頼んだだけさ」

「それでしたらマリーさん。私も同様にしてください」

「それは…わかりました」

ヴィクトリアさんは「様付け」しないでくれと口では言うが、本当かと疑ってしまう私がいる。男の人の前と女の人の前で露骨に態度が変わる人だっている。それをズルいとは思わない。だって誰でも体面を保つ為に演技する。私ですらそうだ。

「でも、リア様をリア様とお呼びするのは変えるつもりはありません」

そう突然宣言したのだが、リア様以外の反応は驚き半分笑い半分という感じだった。私はリア様を「リア様」と呼べないことに危機を感じていた。何が理由でそう思ったのかは自分でもわからない。

でもそれだけは恐らく無理なのだ。

「いやあ、それは」

と口を出してきた男性陣を止めたのは、意外にもヴィクトリアさんだった。

「私もリア様をお慕いする身、リア様と呼んでしまう気持ちは分かりますわ」

彼女からの助け舟が出されたのは意外だった。お慕いするが尊敬なのか、それとも違うものなのか。この中でリア様以外で一番お話をしたのは、ヴィクトリアさんだ。知り合ってから時間が経過すればする程、人となりがわかってくるものだ。だが、ヴィクトリアさんは知れば知るほどわからなくなっていった。

 一カ月前、一緒に中央国への道のりを一緒にしたときには、ヴィクトリアさんはリア様と非常に距離が近く、我儘を沢山言っていた。しかし、今では節度のある距離を維持しているのである。もちろん、それは周りの目を気にしてというのもあるとは思う。でも、あの馬車に乗った時からすこしリア様とヴィクトリアさんの関係性はギクシャクしているように見えるのだ。

「羨ましいものだね。僕もここまでお慕いされてみたいものだよ」

「だったら竜を二十匹倒してこないと」

そうアリーさんが言うと二人は笑った。

しかし、ダーシーさんもイットウさんも口こそ笑っていたものの、目は笑っていなかった。

そこに男性特有のプライドがあるのか、対抗心があるのかわからないが、今こうして仲良くしているのも、もしかしたら一枚岩ではないのかもしれない。

当分は気の抜けない友好関係が続くのかもしれない。

ガタガタと揺れる石の上に立つように、私の立ち位置は安定していなかった。

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