表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/52

第27話  終わりが前提の日常とその加速1

「僕の父は、ソフィアでした」


 ざわつく教室。隣で、田崎先生が、唖然としているのが分かる。

 嘘をついた僕の狙いは、明白だった。

 自分を餌にして、鳥使いをおびき出す。

 ソフィアと違い、パナリオンは、情報力が乏しい。ソフィアに関する情報を欲するに違いない。ソフィアを父に持つという嘘をつけば、直接的、または間接的に近寄ってくるはずだと踏んでいた。

 僕の父は、実際はメフレグにかぶれた、ただ、暴れたい欲求からテロに参加した男で、僕が神と初めて契約したときに殺している。だが、僕は本物のソフィアだ。真実味がある嘘をつけるはずだ。学校側に問い合わせられても嘘がばれないように、海藤さんとはすでに口裏を合わせている。

 そうやって、嘘でおびき寄せて、それから。


「出ていけよ」


 一番前に座っていた男子生徒が声高に言った。


木田きだ……、やめなさい」

「だって、先生」

「やめなさい」


 木田と呼ばれた生徒は、仕方なしに口をつぐんだ。目だけは、僕をにらみつけてくる。ざっと見渡すと、ほとんどの生徒が同じような態度で、僕に敵意を向けていた。


「ごめんなさい」


 僕は頭を下げた。


「前の学校でそれを隠していたのがばれて逆に疑われたから、今度はきちんと前もって伝えようと思ったんだ」

「わざわざ転校したんだから、言わなくて良かったんじゃねぇの」


 木田君が再び口を開く。


「新しいクラスメートに隠し事はしたくなかった」

「あのさぁ」


 教室の端の前の席にいた女子生徒が言った。


「この街のこと、知ってるっしょ?」

「鳥使いのこと?」


 僕が言うと、その子はため息をついた。


「知ってるなら、来ないでよね。私たちまで、鳥に狙われるじゃん」

「僕はソフィアじゃないよ。ただ、父がそうなだけで」

「遺伝するって噂もあるしさ、ともかく私、あんたとは仲良くなれないわ」


 賛同するように、何人かの生徒が頷く。


「浦賀……」


 先生が気遣わしげにこちらを見てくる。僕は、気まずそうな表情を作ったまま、ぽつりと教壇の上に立ちながら、うまくいったことに満足する。

 そうだ、そうやって、僕を避ければいい。

 できれば、鳥使いにだけ、僕に近づいてほしいのだ。


「ええっと、浦賀の席は、あそこだ」


 先生が指さす方へと僕は教壇から下りて向かう。教室のちょうど、真ん中。僕が座ると、周囲の生徒が机と椅子を僕から遠ざけた。


「みんな、くれぐれもよろしくな」


 そう言う先生も、それ以上はフォローを入れず、どこか僕を見る目はよそよそしい。

 幾つかの連絡事項を済ました後、先生は急いで教室から出て行った。

 見捨てられたのだろう、恐らくは。

 事前に説明を受けていた通り、一限目が始まるまでは、休み時間だ。

 教室の空気は重々しく、周囲の生徒はゆっくりと席を立って、遠巻きに僕を見ながら何かを話している。

 時折、


「最悪」

「まじやばい」

「迷惑」


 などと、聞き取れる音量で声がするが、それでも、僕に直接危害を加えるつもりはないらしい。

 僕が、噂のように遺伝によって能力を持っていたら、怖いからだろう。

 我ながらいいポジションに来たものだ。

 あとは、鳥使いが、この罠に引っかかってくれれば。

 勝算はある。先日鳥使いがネブロを撃退したという報道でニュースは持ちきりだ。本当は、ネブロは手がかりをつかんだ後、ソフィア側の被害を抑えるために自ら退いたのだが、マスコミの目にはそうは見えていないし、ネブロも気づかれるようなへまはしなかった。鳥使いは今、油断まではいかなくても、勢いづいているはずだ。


「よっ、転校生」


 考え事をしていた僕へと、直接声がかかった。


「早速、先生にも見捨てられて、大変だな」

「ああ」


 僕は、その男子生徒と向き合った。

 髪は短めで、肌はやや黒い。細い目で、僕を見てくる。

 まぁ、あの先生、気が弱いから、と彼は付け加えながら、


「俺、森戸直哉もりとなおやっていうんだ、お前と同じく」


 わざとらしく大きな声を出して言った。


「みんなから、避けられた存在だよ」


 その生徒が強気な笑顔を周囲に向けているのを眺めながら、僕は聞いた。


「森戸君……だね。よろしく。浦賀司です」

「浦賀ね、よろしく、浦賀」

「んでさ」

「ああ」

「なんで、避けられてんの?」


 自分で声を大にして言うくらいだから、理由を聞かれても動揺はしないだろう。

 案の定、森戸君は苦笑しながら即答した。


「一瞬だけでも、鳥、いなくなってくんねぇかなぁって言ったから」

「森戸! お前、まだ」


 さっき僕に手厳しい言葉を言った木田君が、森戸君に対して言葉を飛ばす。森戸君は片手をふらふらさせて、雑に返す。


「それ言ったら、もう誰も話しかけてこなくなった」


 まっ、お前よりはましだ。

 森戸君は、そう呟いた。


「なんで、そんなことを?」


 僕が聞くと、森戸君は笑って言った。


「初対面で、話す内容じゃないかな。まぁ、お前はいきなり爆弾投げてきたけどさ」

「やっぱり、君も引いた?」


 僕は苦笑いしながら言うと、森戸君は首を横に振った。


「俺は大丈夫だよ。遺伝するなんて、ただの噂だと思ってるし。むしろ、話し相手ができそうで、良かった」


 にかっと笑う。


「みんな、鳥が怖いからさ」


 森戸君が、窓の外を見やる。向こうの空を白い鳥の群れが飛んでいる。


「テロはもちろん、俺を直接いじめるってこともできない。あまり非行じみたことをすると、鳥使いにメフレグ主義者だと勘違いされて、誤爆されるかもしれないからな」


 彼は笑った。

 僕が他の生徒に直接危害を加えられないのには、そういった理由もあるかもしれない。


「そんなに、この街って、鳥使いに影響されてるの? 行動までも」


 僕と明菜が乗ったタクシーの運転手の話を思い出す。怖い、みたいなことを言っていた気がする。


「爆弾が上空からいつでも投下準備オーケーみたいな状態で、大量にあるようなものだからさ。みんなそうだよ。俺はちょっと一線超えてしまったけどさ」


 みんなが怯える中、なぜ、森戸君だけは言動を制御されないのか。

 理由が気になる。


「ちなみに、浦賀は、どっから来たの?」


 森戸君が、僕の顔を見ながら言った。


「旧首都」

「あそこかぁ」


 森戸君は、手を叩いた。


「救世主がいるって街だよな」


 予想はできたことだが、理恵の話が出てきて、僕はずきっと、胸が痛んだ。


「会ったことあるのか、救世主に」

「ないよ」


 僕は首を横に振って、嘘をついた。


「見に行かないのか?」

「嫌いなんだよ、そういうミーハー的なの」

「へぇ……」


 森戸君はぼんやりと呟いた後、再び窓の外を見た。


「なぁ、浦賀」

「ん?」

「旧首都ってさ、青空見えるか?」

 

 森戸君が、そこまで言った後、チャイムが鳴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ