第156話 伯父①
メアソーグ王城の国王の執務室に呼び出されたのは、レイフォナーとバラックだ。
「どうだった?」
国王はバラックに尋ねた。
「魔力は光でした」
バラックはここに来る前、アンジュとレイフォナーの子・レイディックの魔力検査を行った。アンジュの腹にいたときから魔力があることはわかっていた。その時点では色がはっきりしていなかったため、生まれてから検査することにしていたのだ。
「光・・・」
「先生、間違いないのですか?」
バラックは自信を持って頷いた。レイディックの身体に魔力を流したところ、確かに黄金の魔力を見たのだ。
アーメイア、アンジュ、レイディック。途絶えていたはずの光の魔力が三代に渡り発現した。クランツや闇魔法と関係があるのか。それともラプラナ家ではこの二百年、実は密かに光の魔力を有する者が生まれ続けていたのか。
腕を組んであれこれ考えていた国王は、お手上げのポーズをとった。
「考えてもわからんな。しかし光の魔力を有する子が生まれたのは僥倖だ」
「そうですな」
「ラプラナ公爵がアンジュに会いたがっている理由はもしかして・・・」
「光の魔力が関係してるのかもなぁ」
そして翌日。
メアソーグ王城の応接室には上座のソファに国王と王妃、二人の視線の先には、アンジュとレイフォナーがエルゼルド・ラプラナと向かい合って座っている。
アンジュは目を丸くしてエルゼルドを見つめていた。ブラウンの髪にガッシリとした体格で、顎髭がよく似合っている彼はアーメイアとはまったく似ていない。そんなことよりも、アンジュはこの顔に見覚えがあるのだ。
「ラプラナ公爵って・・・エドさん!?」
「ふふふ。お久しぶりです、アンジュ王太子妃殿下。エドことエルゼルド・ラプラナと申します」
「アンジュ、知り合いなの?」
「知り合いというか、食堂の常連さんです」
それはアンジュが出稼ぎで王都に来たとき世話になっていた食堂だ。レイフォナーも度々通っており、先日ユアーミラの歓迎会をした店でもある。
二人は顔見知りのようだが、国王はアンジュにエルゼルドについて簡単に説明することにした。ラプラナ公爵家の長子として生まれ、数か月前に父親から公爵を継いだばかりであること。自分とは学生時代の同級生で親友であること。
「やっと正体を明かしてあなたとお話ができます」
というわりには、その笑みからはどこか悲哀を感じる。
「そのことも含め、詳しく聞かせてもらおうか」
国王にそう言われたエルゼルドは「ああ」と返事をすると、目を閉じた。
二十年ほど前、妹のアーメイアが突然姿を消した。家族に手紙を残し、愛する者と駆け落ちしたのだ。それを知った当時の公爵である父は怒り狂ってアーメイアを勘当扱いした。父の前ではアーメイアの話は禁物だったが、自分はこっそりと行方を捜していた。
数か月かけてワッグラ村で生活していることを突き止め様子を見に行った。アーメイアは質素な服装で小さな木造家屋で暮らしていたが、愛する者の隣りで小さな子を腕に抱く姿はとても幸せそうだった。自分が声をかけたらそれを壊してしまいそうで、物陰から眺めるしかできなかった。
屋敷に戻り、父に妹一家を家族として迎え入れるか支援を訴えたが聞いてもらえなかった。それ以降、定期的に村に足を運んでは陰ながらアーメイアの様子をうかがっていた。
数年経ったある日、村人にアーメイアが大怪我をして亡くなったと聞かされた。
後悔に苛まれた。会って話をして、何か力になってやることが出来たのではないかと。父親と手を繋いで散歩しているアンジュは、母親の死を理解しているのだろうか。
それからも時間を作ってはワッグラ村に足を運んだ。アンジュは父であるアザバンが亡くなっても一人で生活できるほどたくましく、そして心優しい娘に成長した。
使いの者からアンジュが王都に来ている、と報告を受ける度に食堂に向かった。生き生きと働く姿は活発な性格のアーメイと重なり、何度も正体を明かしてしまいそうになった。
自分はアザバンが亡くなった頃からアンジュを養女に迎えようと考えていた。
数か月前、父が病に侵されて引退することになり公爵を継いだ。これまで父に逆らえずにいたが、これからは自分の意のままに行動できる。意気揚々とアンジュを迎えに行こうとしたところ、使いの者から王城に滞在していると聞かされた。以前から王城に出入りしていることは把握していたが、四六時中アンジュを見張らせているわけではないため調べてもその理由がさっぱりわからなかった。そんな中、レイフォナーとの結婚が発表されたのだ。




