第155話 一目惚れ
「ユアの遊学が有意義な時間となることを願い、乾杯」
周囲にユアーミラが皇女だとバレないよう愛称を口にしたレイフォナーの号令に、全員がグラスを掲げた。
「乾杯!!」
ユアーミラの歓迎会が始まった。前日に国王や王妃も交えた会食が行われたが、この日は若者だけが参加している。主役のユアーミラに、アンジュとレイフォナー、クランツにラハリル。そしてフィー以外の各護衛たちと、ユアーミラの従者兼護衛の十三名だ。
場所は王都にある平民向けの食堂である。ユアーミラは平民の料理に興味を持っていたため、アンジュとレイフォナーは馴染みのこの店を選んだ。すっかり日が落ちたこの時間の店内は仕事帰りであろう男性が多く、家族連れの姿もあり賑わっている。
店には大人数で訪れることを前もって連絡しており、いくつかのテーブルを寄せて席を空けてくれていた。オススメの料理も頼んでいたため、乾杯後すぐに奥さんと若い女性が料理を運んできた。
奥さんは、レイフォナーに似ているクランツが第二王子で、気品を放つユアーミラとラハリルが高貴な人物だと察しているようだが、まったく物怖じしていない。
「どんどん追加注文してね!メニュー表置いておくわ」
と言った奥さんは、アンジュとレイフォナーに耳打ちした。
「第一子ご誕生、心よりお祝い申し上げます。親子水入らずでのご来店もお待ちしておりますので」
メニューには載っていないが、要望があれば乳児や子供向けの料理を提供している。
「ああ、ありがとう。次は三人で来るとしよう」
「離乳食が食べられるようになってからですね」
アンジュたちがそんな話をしている間。護衛たちは大皿から取り皿へと料理をよそい、配っていた。目の前に置かれたそれをじっと見つめているユアーミラは、ナイフとフォークを手にしつつもなかなか手を付けられないでいた。初めて見る料理に戸惑っているようで、アンジュは一つずつ説明した。
「一番のオススメは鶏の唐揚げです!とっても美味しいんですよ」
「からあげ・・・」
そしてアンジュは食べ方の手本を見せた。唐揚げをフォークで刺し、大きく開けた口に運び、大きく顎を動かしてモグモグした。他の者たちも同じように食べる姿に、ユアーミラも真似をした。そんな彼女は肉料理が大好きだ。口に入れた唐揚げを噛むたびに幸せそうな表情へと変わっていた。
ゴクンと飲み込んだユアーミラは若干興奮気味だ。
「美味しいわ!!お肉にしっかり味が付いていて、しかもやわらかい!」
「お口に合ってよかったです!」
「こんなにも開放感がある食事、初めてだわ!お肉を小さく切らなくていいなんて!」
「ふふ。ここはマナーも身分も関係なく、自由に食事を楽しむ場なんです」
アンジュにそう言われ、ユアーミラは周囲を見渡した。誰もが楽しそうに食事をしている。大声で笑っている者もいれば、酒を飲んで陽気になったのか手拍子に合わせて踊っている者も。
「ユアーミラ皇女、お野菜も食べないとダメですよ〜」
と言ったのはクランツだ。
「そ、そそそうですわね・・・」
クランツが苦手なユアーミラは、なんとか笑みを浮かべた。
そんな反応が面白いようで、クランツは笑いを堪えている。
すると、「遅くなりました」と言ってフィーがやって来た。チェザライの隣に座った彼に、ユアーミラは目を見開いた。魔法学校に顔を出していたため遅れたと説明し、店の奥さんが持ってきた酒をゴクゴクと飲み、すらりと長い指で髪をかき上げる姿を凝視している。
フィーはそんなユアーミラの視線に気づいた。
「ユアーミラ皇女殿下。ご挨拶もせず申し訳ございません。私はクランツ殿下の護衛、メアソーグ王国魔法学校バラック研究室所属、フィーと申します」
「さ・・・」
「さ?」
「採用!!」
「・・・はい?」
彼女はかつて顔面至上主義だった。レイフォナーのような美形にしか目がなかったが、心を入れ替えてから男性の好みが変わった。いや、美形以外の顔もちゃんと目に映るようになったのだ。フィーも整った顔立ちではあるが、ユアーミラより十五ほども歳上である。
ユアーミラの言う採用とは婿候補の意だ。中年の色気にあてられ、フィーに一目惚れしてしまったのである。




