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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇最終章◇

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154/157

第154話 遊学



 今日から一段と王城が賑やかになる。それは、上機嫌でアンジュの自室にやって来たブランネイド皇女のユアーミラが関係している。


「アンジュ様、ラハリル王女。ごきげんよう」

「ようこそお越しくださいました。ご挨拶がこのような私的な場で申し訳ございません」

「かまいませんわ」

「まさか本当にいらっしゃるとは・・・お仕事は大丈夫なのですか?」

 と少し呆れているのはラハリルだ。

「問題ありませんわ」


 ユアーミラは父親を説得し、メアソーグへの遊学を実現させた。今日から一年間の予定だ。

 アンジュはレイフォナーに、レイフォナーは国王に、ユアーミラが遊学したがっていることを伝えていた。国王は、「ブランネイドが許可を出すのならかまわない」と受け入れに前向きであった。


 執務は魔法を使い、国に残してきた二人の補佐官とやりとりをするそうだ。遊学前に試してみたところ問題なく、ブランネイド皇帝から遊学の許可が下りた。どうしても参加しなければいけない夜会や式典があるときは一時的に帰国するという。

 ただブランネイド皇帝は、“遊学期間内に婿を見つけられなければ、ユアーミラが次期皇帝に就くこと“という条件を提示した。


「アンジュ様。どなたか紹介してくださいな」


 と言われたアンジュだったが、知り合いは平民ばかりだ。ユアーミラの婿とはすなわち次期皇帝を指す。相応の身分や頭脳、統率力が問われる。


「数少ない貴族の知り合いでしたら、レイフォナー殿下の執務補佐・サンラマゼル様と私の体術の師・ダンデリゼル先生でしょうか。伯爵家のご兄弟です」

「伯爵家・・・候補に入れておきましょう。まあ、この際身分は問いません。見目がよく、頭脳明晰でリーダーの素質があり、わたくしを愛し、皇帝になってくれるお方でしたら誰でもよいのです」


 その条件に見合う殿方はメアソーグにどれくらいいるのだろう?


 アンジュとラハリルは目を合わせてそう思った。


「ラハリル王女はいかが?」

「私もご紹介できるような知り合いがメアソーグにはいません。婿候補ならクランツ殿下が筆頭なのでは?」


 クランツには婚約者がいない。二百年前のクランツから解放されてやりたいことがたくさんあるため、結婚を考えてもいない。


「ク、クランツ殿下は・・・そのぉ、王位継承権第三位でいらっしゃいますし・・・婿に来ていただくわけには・・・」


 ユアーミラは珍しく歯切れが悪い。クランツに闇魔法で操られた経験がトラウマになっているのだ。

 レイフォナーからクランツについてすべて聞いている。乗っ取られていたことだけでなく、身体を取り戻したことも。自分を操ったのは二百年前のクランツでありいまのクランツではないとわかっているが、どうしても身構えてしまう。


「ま、まあ、遊学は始まったばかりですし?一年かけてじっくり探しますわ」


 ユアーミラが焦る姿を、ラハリルは悪事を企むような顔で見つめていた。


「アンジュ様。ユアーミラ皇女の歓迎会をしませんか?クランツ殿下もお呼びして」

「いいですね!レイフォナー殿下に相談してみます!」

「え、ちょ・・・」


 できるだけクランツと顔を合わせたくないユアーミラは目が泳いでいる。そして、アンジュの傍に控えているキュリバトとばっちり目が合い、助けを求めるように指をさした。


「あ、あなた!火魔法士の護衛!」

「お久しぶりです。アンジュ様の護衛、キュリバトと申します」

「キュリバト!えっと、て、手合わせを申し込むわ!」

「では、次の休日にでも」

「いいえ!いますぐよ!アンジュ様、キュリバトをお借りしますわ」


 キュリバトは、いまは無理だと断った。勤務中であるためアンジュの傍を離れるにはレイフォナーの許可が必要であり、魔法学校に訓練場の使用許可を得る必要もあると説明し、日を改めようと提案した。


「でしたら、いますぐ許可をもらいに行きますわよ!」


 ユアーミラはこの場をお開きにし、強引にキュリバトの腕を掴んで連れて行ってしまった。皇女に逆らえるはずもないキュリバトは火魔法でつくった鳥をアンジュに残し、大人しく付いていくことにした。

 その後ラハリルもイルとクランツの稽古に向かい、アンジュは静かになった部屋でレイディックの様子を見つつ、勉強することにした。




 許可をもぎ取ったユアーミラは、三時間ほどしてキュリバトと一緒に戻ってきた。二人とも服がボロボロで傷だらけだ。


「あなた手加減したでしょう?次は本気を見せなさい」

「本気で挑みましたよ。次は『まいりました』と言わせてみせます」

「それ、わたくしのセリフよ」


 どうやら引き分けだったようだ。


 ユアーミラは以前、上級になったら手合わせを申し込むとキュリバトに言い放っていた。そんな彼女は魔法の才能を開花させ、異例のスピードで上級となっていたのだ。

 たった一度手合わせをしただけなのに二人はずいぶん打ち解けていた。ユアーミラは平民を見下すきらいがあったが、キュリバトを良きライバルだと認めたようだ。乗り気ではなかったキュリバトも、火魔法士同士で存分にやり合えたのか満足げな顔をしている。


 アンジュは反省会を始めた彼女たちの話に耳を傾けながら、光魔法で傷を治してあげることにした。



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