第150話 新メンバー①
王城に一泊したユアーミラは、アンジュに「遊学の件、お願いしますわね」と念を押し、ブランネイドへと帰っていった。
その日の午後。アンジュはレイディックを連れ、キュリバトと王城の訓練場に来ていた。これからイルたちの稽古が始まる。アンジュはまだ参加できないが、今日から新メンバーが加わるのだ。
稽古はフリアの剣術とダンデリゼルの体術が日替わりだが、顔合わせのため二人とも集まっていた。
「うはは、もちもちだな!」
イルはレイディックを片手で抱っこし、頬をつついている。
「ふふ、この人たち誰?って顔してる」
「ちっちゃくて、かわいー!」
イルに抱っこされ、フリアとダンデリゼルに囲まれているレイディックは、大きなお目々をぱっちりと開け、大人たちを凝視している。驚いているようだが泣き出す様子はない。
「アンジュ、おまたせ」
稽古着に身を包んだレイフォナーが、ショールとチェザライの他にも数名引き連れてやって来た。
「義姉上〜!」
「アンジュ様!」
そう言いながら手を振っているのは、レイフォナーの後方で護衛を従えているクランツとラハリルだ。稽古着姿のこの二人が新メンバーである。
「みなさん、お疲れさまです」
「アンジュもお疲れさま。ところで・・・」
レイフォナーは眉間にシワを寄せ、睨むような視線をイルに向けた。
「私でさえ起きている息子になかなか会えない上、抱っこすると泣かれるのに・・・イルには懐いているようだな」
嫉妬心を向けられたイルは、ニヤリと笑みを浮かべた。
「抱っこが下・手・く・そ、なんだよ」
「くっ・・・!」
イルはレイディックに、「父ちゃんキライなのか?」と話しかけた。レイフォナーは、自分は息子に嫌われているのか?と本気で落ち込んでいる。そんな姿にイルは、仕方ねえな、というため息をついた。そしてレイフォナーにレイディックを渡し、抱っこの仕方を教え始めた。イルは年の離れた弟の世話をしてきたため、赤ん坊の扱いもお手の物だ。
「泣かない・・・」
抱っこしても泣かない息子に、嬉しさのあまりレイフォナーが泣き出してしまいそうになっている。
「うん。いいんじゃねえの」
「イル、ありがとう」
どうやらこれまでレイフォナーは、落とさないよう無意識に指先まで力を入れていたようだ。レイディックはそれが痛くて泣いていたのだ。父に優しく抱っこされ、居心地のいい息子は笑みを見せた。
そんなレイフォナーとイルのやりとりを見ていたアンジュも、思わず笑みがこぼれた。二人は出会った頃、仲がいいとは言えなかった。といっても、イルが一方的にレイフォナーを敵視していたのだが。そんな二人がいまではすっかり友人のような関係だ。アンジュはそのことがとてつもなく嬉しかった。
そんな視線に気づいたイルは、照れを隠すように仕切った。
「そ、そろそろ稽古始めようぜ!」
「そうだな。だがまずは」
レイフォナーは惜しみつつ息子をアンジュに渡し、新メンバーを紹介することから始めた。
「今日から稽古に参加する、私の弟・第二王子のクランツだ」
「闇空間から帰還し、自由の身となったクランツです!剣術も体術も未経験なので、お手柔らかにお願いします!」
「こちらはバッジャキラ王国のラハリル王女だ。剣術が得意な彼女には、先生として参加してもらう」
「バッジャキラから参りました、ラハリルと申します。剣術歴はまだ五年ほどですが、よろしくお願いいたします」
クランツは自身を守る術を学ぶため、ラハリルは母国で毎日剣を振るっていたため、この稽古の話を聞きつけて参加を志願した。
前もってこの二人の参加を知らされていたイルたちだったが、王子と他国の王女を目の前にして少し緊張しているようだ。
「次に紹介するのは、我が妻・アンジュだ。現在育児中のため稽古を休んでいるが、折を見て復帰する予定だ」
「ア、アンジュです!今日は稽古を見学させていただきます!」
まさか自分も紹介されるとは思っていなかったアンジュは、緊張しながら挨拶した。
「次に、ビスト伯爵家の三男・ダンデリゼル。王都の学園に通っていて、まだ十六歳だが体術は師範クラスだ」
「気軽にダンデって呼んでください!」
「こちらは、元王城騎士団員のフリア。現場を離れて数年経つが、剣の腕は衰え知らずだ」
「フリアと申します。身分は平民ですが、よろしくお願いいたします」
「ちょっと、レイく〜ん。大事な紹介が抜けてるんですけど〜」
と口を挟んだチェザライに、フリアはすかさず注意した。
「こら!殿下に口答えしないの!」
アンジュは数日前の出来事を思い出した。チェザライがレイディックの乳母を務めている実母・マリーニに怒られている光景だ。フリアとマリーニの姿が重なった。どうやらこの家系に嫁ぐ女性はしっかり者のようだ。
レイフォナーは仕方なさそうに、「私の護衛魔法士、チェザライの奥方だ」と付け加え、紹介を続けた。
「そして、アンジュの幼馴染のイル。超人的な身体能力の持ち主だ。イルに腕を掴まれようものなら骨折し、殴られれば即死だが、日常生活はもちろん稽古中もその能力を抑えているから安心してくれ」
「おい!大げさに言うな!怖がるだろ!」
その場にいた者たちは、骨折や即死という言葉にうっすら冷や汗をかいた。
「事実を言ったまで。だが、みな心配ない。先ほどイルが赤ん坊をあやしている姿を見ただろう?能力のコントロールは完璧だ」
新メンバーやその護衛たちは、なるほど、と納得した。
「・・・イルです。剣術と体術両方教わってます。田舎者なんで、多少の無礼は目をつぶってください」
レイフォナーは次に、護衛たちを紹介した




