第149話 友人の来訪
「お久しぶりですわ、アンジュ様」
「お、お久しぶりです・・・」
気まずそうにそう挨拶したアンジュの向かいに座っているのは、ブランネイド帝国第一皇女のユアーミラだ。
忙しさのあまり、アンジュはユアーミラにしばらく手紙を出していなかった。そのことに業を煮やし、ブランネイド代表に立候補して、アンジュとレイフォナーの結婚祝いと第一子の誕生祝いに来たのだ。そして有言実行すべく、大量の贈り物を持参してきた。どれもレイディックの衣服やおもちゃである。
そんなユアーミラは、アンジュの隣の人物に目を移した。
「なぜあなたがここに?ラハリル王女」
「私、レイフォナー殿下の護衛のショール様と婚約致しまして。しばらく王城でお世話になることになったのです」
と照れながら言った。
「ご婚約のことは存じておりますわ・・・わたくしは、なぜあなたが同席しているのか?と申しているのです」
「アンジュ様と私は友人であり、姉妹のように仲が良いからです。妹が姉のご友人を歓迎してはいけませんか?」
自慢げに言ったラハリルと、眉間にしわを寄せているユアーミラは火花を散らしている。
ユアーミラはアンジュと二人で会いたかったのだ。レイフォナーの婚約者候補時代からラハリルを敵視していたが、今度はアンジュの親友の座を賭けてライバルとなってしまった。
対するラハリルも、ユアーミラが苦手である。高飛車で威圧的な態度が目に余るのだ。アンジュに救ってもらってから多少丸くなったが、やはりそりが合わないと感じた。
「はあ・・・わたくしもここに滞在したいわ」
「短期間でもご遊学できればいいのですが・・・」
「そ、それは無理ですよ!ユアーミラ皇女はご公務がありますから!」
そう言ったラハリルは慌てていた。ユアーミラの遊学が実現しようものなら面倒くさいことこの上なく、アンジュとの時間を邪魔されてしまうと考えた。
現ブランネイド皇帝の子は、ユアーミラとその妹だけだ。ブランネイドは性別に関係なく皇帝に就くことができるが、妹のほうは病弱で後継者から外れている。次期皇帝はユアーミラか、迎えた婿か、皇弟か、という継承問題を抱えている。
そんなユアーミラは皇帝としての才がある。子どもの頃、魔法はからっきしだったが勉学には真面目に取り組んでいた。いまでは魔法の訓練だけでなく政務にも勤しむようになり、わがまま皇女という汚名は返上された。現在ブランネイドにとって手放せない存在であるため、遊学などできるはずもない。
だが、ユアーミラは何かに閃いたようにアンジュを見つめた。
「遊学・・・継承問題・・・それだわ!!」
勢いよく立ち上がったユアーミラは、傍の従者になにやら説明をした。「かしこまりました」と言った従者は部屋の窓を開けると、手のひらから炎を出して鳥をつくり出した。
アンジュは訳がわからないまま、飛び立った鳥を眺めていた。
「・・・ユアーミラ皇女、何を企んでいらっしゃるのかしら?」
ラハリルは、なんとなく察しているような顔だがあえて尋ねた。
「ふふっ!わたくし、メアソーグで婿を探しますわ!」
ユアーミラはアンジュに駆け寄り、手を握った。
「アンジュ様、メアソーグ国王陛下にわたくしの遊学を勧めてほしいの!」
「えええぇぇ!?」
ユアーミラは皇帝になる気などさらさらない。政務に取り組んでいるのはあくまで皇女としての務めを果たしているだけだ。皇帝なんて地位はむしろ面倒くさいと思っている。
クランツに操られていたことはブランネイドでも一部の者しか知らないが、レイフォナーの婚約者候補を辞退したことは知れ渡っている。国内の貴族だけでなく、国外の王侯貴族からもちょっとした腫れ物扱いなため縁談は一向に進まない。ブランネイド皇帝は以前、ユアーミラがメアソーグに嫁ぐのであれば弟に帝位を譲るつもりだったが、現在はできればユアーミラか入婿に継がせたいと考えている。
ユアーミラは遊学が認められれば、婿探しとアンジュの傍にいられる権利が手に入るのだ。
「ですが、お仕事はどうされるのですか?」
笑みを浮かべているユアーミラには、どうやら考えがあるようだ。




