第143話 王家の霊廟
そこはアンジュが初めて訪れる場所だった。馬車を降りると、白い建物が松明と月明かりに照らされ、厳かに闇夜に浮かび上がっている。すぐ近くには王城がそびえており、高台にあるここからも王都の街を見渡すことができた。
「綺麗ですね・・・」
「ああ。この穏やかな灯りを絶やさぬことが私の役目だ」
アンジュは、繋いでいるレイフォナーの手に力がこもったと感じた。
街をまっすぐ見つめているレイフォナーの瞳は、暗くてもはっきりとわかるほど力強く、王家に生を受けた者の覚悟が宿っていた。
ふと、以前ダンデリゼルから聞いた話を思い出した。レイフォナーは昔から勉強も稽古もすごく頑張っていたのだと。子どもの頃から自身の立場を理解し、凡人では計り知れないほどの重圧を背負ってきた立派な人だ。
「ん?どうした?」
と言われたアンジュは、レイフォナーの頭を撫でていたことに気づいた。褒めてあげたい、と思ったら無意識に手が動いていたのである。
「あああっ!も、申し訳ありません!!」
「ふふ。じゃあ、お返し!」
レイフォナーは両手でアンジュの頬をこねくり回した。それはパン生地を扱う職人のような手つきであった。
「やめてください!」
うまく言えず、もはや誰だかわからないほどの変顔に、レイフォナーは声を出して笑っている。
「ちょっ・・・ぶふっ、あはははは!」
「もう!ここに何しに来たんですか!?」
「はあぁぁ〜、そうだった」
レイフォナーは笑いを堪えながら再びアンジュの手を取り、白い建物へと向かった。
「私、ここに来るの初めてです」
と、キュリバトが言った。
「限られた人しか入れないからな。俺らも久しぶりに来たし。ていうか、あいつらイチャつきすぎじゃね?」
「そんなことより、これから今日のメインイベントが始まるよ。緊張してきた〜」
三人は息を呑み、茂みからアンジュとレイフォナーの後ろ姿を眺めた。
建物の入口の衛兵二人は、レイフォナーが来ることを知っていたようだ。平民姿に変装しているレイフォナーに一礼し、分厚く大きな扉を開けた。
中は明かりが灯っており、両サイドの壁にはいくつもの石板が並んでいる。レイフォナーはそれらを素通りし、正面奥にある石像の前まで足を運んだ。
「この石像は、初代メアソーグ国王だ」
背丈ほどもある杖を右手に持ち、左手は民に手を差し伸べているような慈悲が感じられ、精悍な顔つきだ。その双眼は正面を見据え、現在もこの国を守り続けているような誇りに満ちている。
アンジュは、街を見つめていた先ほどのレイフォナーに似ていると思った。
「あの、ここは?」
「王家の霊廟だよ。歴代の国王や王妃、王子や王女を祀っている」
そう言ったレイフォナーは踵を返し、とある石板の前で足を止めた。
アンジュがレイフォナーの視線の先を追うと、“第42代国王 レイフォナー・エリアス・メアソーグ”、“王妃 アンジュ・メアソーグ”という文字が刻まれた石板が目に飛び込んできた。
「これって・・・」
「二百年前の私たちの名だ」
するとレイフォナーはその場に片膝をつき、アンジュを見上げた。
「アンジュ。私との結婚を考えてもらえないだろうか?」
「・・・え?」
「私の妃になってほしい」




