第142話 久しぶりのデート
到着したのは王都にある、平民向けでありながら貴族にも定評のある子ども用品を扱う店だ。衣類や靴、おもちゃに食器などがところ狭しと置かれている。
店内を見渡したアンジュは、どれも小さく愛らしい品に別世界に迷い込んだ気分になった。寝不足や不安が吹き飛んでしまうほどに目が釘付けになっている。
「かわいい!」
「気に入ったものは全部買おう」
「えぇ!?ですが、その・・・」
アンジュはお金を持っていない。光剣だけを持って王城に行き、その後レイフォナーの救出に向かった。脱出後は一度も村に戻っていないのだ。
「いいから。まずは衣服から見よう!」
「は、はい!」
店の隅々まで見た結果、低価格なものから高級品まで色とりどりで素材もさまざまな品揃えだった。アンジュはどれも可愛く目移りしているため、ほぼほぼレイフォナーが選んだ。しかも大量である。
会計をしている店員は気前のよさに内心大喜びで、同じくご機嫌なレイフォナーと気さくに話をしている。レイフォナーは平民のような格好をしているが、平民はこんな大量買いをしない。店員は、なにやら訳あり貴族なのでは?と勘ぐっているが、それを微塵も表情に出していない。
「あの、レイフォ・・・レイさん、買いすぎでは?」
アンジュは山積みになっている購入品を横目で見た。
「そうか?まあ、確かに馬車に乗り切らないかもしれないな」
すると店員は、とあるサービスについて説明した。度々訪れる貴族たちも大量に購入するため、自宅への配達を行っているという。この店が人気なのは有名デザイナーがオーナーであり、品揃えや接客、サービスの良さにある。
「それはありがたい!このあとまだ行く所があってな。では、王城まで頼む」
「かしこまり・・・え、王じょ・・・えええぇぇ―――!?」
店員はレイフォナーの正体に気づいた。目を丸くし、不敬を働いていないだろうかと慌てふためいている。
レイフォナーは、口元に人差し指を当てた。
「まだ未発表だから、このことはくれぐれも内密に」
「かっ、かかかかしこまりましたっ!!」
「よろしくね」
と言ったレイフォナーはアンジュの手を取り、店を出た。
「あれ?あいつら手ぶらで出てきたぞ」
「子どもの誕生を待ちわびているレイくんが、何も買わないわけないでしょ〜」
「配達を頼んだのでしょう。すごい量が王城に届きそうですね」
と言ったのは、ショール、チェザライ、キュリバトだ。三人は、向かいの建物の屋根から二人の様子を窺っていた。
アンジュとレイフォナーはその後カフェで休憩し、アンジュの希望で本屋に寄った。楽しい時間はあっという間に過ぎ、空には星や月が姿を現している。食事をするため、二人は馴染みの食堂に向かった。
アンジュの大きな腹に、食堂の奥さんは驚いている。
「あらあら、まあ!」
「お久しぶりです」
アンジュは照れくさそうに、レイフォナーは笑顔で声を揃えた。
「二人とも久しぶりね!来てくれて嬉しいわ!」
ここはアンジュが何度も日雇いで世話になった食堂であり、レイフォナーも度々お忍びで訪れている。奥さんはレイフォナーの正体に気づいているが、他の客にバレないようあくまで平民として接している。そしてこの二人の関係も察している。
奥さんは端の目立たない席に二人を案内した。するとすぐに別の席から声をかけられ、行ってしまった。奥さんの他にもう一人、若い女性が注文を聞いたり料理を運んだりと忙しそうにしている。それを眺めていたアンジュは思わず手伝いたい衝動に駆られてしまったのであった。
アンジュとレイフォナーから少し離れた席には、ショールたちも案内されていた。野菜、穀類、肉など偏りない料理を注文したアンジュたちに対して、ショールたちは肉料理ばかり注文した。
料理が運ばれ、アンジュとレイフォナーは賑やかな店の雰囲気に心地よさを感じつつ、マナーを気にせずのんびりと、ショールたちは追加注文するほどに食事の時間を楽しんだ。
店主と奥さんに挨拶をしたアンジュとレイフォナーは外に出た。今日はさほど冷えておらず、やわらかな夜風が気持ちいい。今日は楽しい一日だったな、と思っていたアンジュだったが、デートはこれで終わりではなかった。
「城に戻る前に寄りたい所があるんだけど、付き合ってくれる?」
「はい」
二人を乗せた馬車は、王城方面に向かった。




