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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇3章◇

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141/158

第141話 勘違い



 アンジュはそわそわする気持ちを落ち着かせようと、動き出した馬車の窓から流れていく景色を眺めていた。隣にはレイフォナーが座っている。


「どちらに向かうのですか?」

「着いてからのお楽しみ」


 ふふっと笑ったレイフォナーは、ずっとアンジュの髪をいじっている。おさげ髪がかなり気に入ったのだ。


 昨夜、レイフォナーはアンジュに『明日の午後、空けといて』と言った。アンジュはてっきり国王やお偉い人たちの前に連れ出され、処罰を言い渡されるのだと思っていたのだが―――



 二時間ほど前のこと。


 いつもより早い時間に昼食を終えたアンジュは、侍女たちがワンピースを選び始めたことを不思議に思いながら見ていた。


「私はこのデザインが好き。これが一番可愛いわ」

「あなたが着るんじゃないのよ?こっちのほうがアンジュさんに似合うわ」

「今日は動きやすさ重視よ。だからこっちがいいわ」


 どうやら自分はこれから着替えさせられるようだ。


「あの、なぜ着替える必要が?」

「なぜって、これからレイフォナー殿下とデートですよ?うんと可愛くしますからね!」

「ええぇ!?デート!?」


 処罰はどうなったの?なぜデート?と混乱しているうちに、手際のよい侍女たちによって身支度が済まされていた。


 (くるぶし)丈のアイボリーのワンピースは、大きな襟とその中央のリボンがかわいらしい。ブラウンのブーツは安定感がある低い(かかと)。宝飾品と化粧は控えめで、髪はふんわりと結われたおさげだ。


 やりきった侍女たちに連れられエントランスホールに向かうと、平民姿に変装したレイフォナーが待っていた。


「アンジュ、すごくかわいいよ!いつもかわいいけど!」

「あ、ありがとうございます」


 目が合うなり褒められてしまった。頭からつま先までじっくり観察され、かわいい、似合ってる、とさらに褒められた。



 それは馬車に乗ってからも継続中だ。


「おさげ髪似合いすぎじゃないか?幼い雰囲気にいつも以上に庇護欲に駆られるんだが。アンジュの純粋さを際立たせる色合いとデザインのワンピースともよく合っていて、愛らしい天使にも崇高な佇まいの女神にも見える。それに控えめな宝飾品と化粧は、アンジュの素のよさを際立たせる脇役にすぎないな。つまりアンジュ自身がかわいいから、どんな格好でもかわいいということだな」


 などと、真顔でブツブツと唱えている。


 反応に困ったアンジュは、疑問に思っていたことを訊いてみることにした。


「この馬車、全然揺れませんね。車輪に細工してあるからですか?」


 王家所有であるが、装飾が一切施されていないお忍び用の地味な馬車だ。その車輪に、チェザライの風魔法がかけてある。


「うん。魔法が振動を吸収してくれるんだよ」

「それはもしかして・・・」

「妊婦を乗せるからね。そのほうがいいかなって」

「お気遣い、ありがとうございます」


 狭い空間に二人きりで、甘々な空気が流れている。逃げ場がないアンジュは、はやく目的地に着いて〜!!と、心のなかで叫び続けた。




 その頃、城のエントランスホールには次なる一行が集まっていた。


「さあ、我々も参りましょう!」

 と気合い充分に言ったのは、キュリバトだ。

「な、なあ、高貴な女性が好きそうな店とか行けるか?その・・・贈り物を買いたいっていうか」

「わぁお、急に色気づいたね〜」


 チェザライは照れているショールに、また今度にしよう、お相手の好みをリサーチしてから、と説いている。


 レイフォナーの護衛となるため、剣や魔法の訓練に勤しんできたショールは女性とお付き合いの経験がない。贈り物をしたこともない。変なものを贈って幻滅され、縁談が流れようものなら大問題である。


「勤務中ですよ。個人的用事は休日にでも済ませてください」


 真面目なキュリバトは、若干呆れ顔だ。


 この三人も平民のような格好をしている。アンジュとレイフォナーのデートを邪魔しないよう、こっそりと見守ることが今日の任務だ。



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