第141話 勘違い
アンジュはそわそわする気持ちを落ち着かせようと、動き出した馬車の窓から流れていく景色を眺めていた。隣にはレイフォナーが座っている。
「どちらに向かうのですか?」
「着いてからのお楽しみ」
ふふっと笑ったレイフォナーは、ずっとアンジュの髪をいじっている。おさげ髪がかなり気に入ったのだ。
昨夜、レイフォナーはアンジュに『明日の午後、空けといて』と言った。アンジュはてっきり国王やお偉い人たちの前に連れ出され、処罰を言い渡されるのだと思っていたのだが―――
二時間ほど前のこと。
いつもより早い時間に昼食を終えたアンジュは、侍女たちがワンピースを選び始めたことを不思議に思いながら見ていた。
「私はこのデザインが好き。これが一番可愛いわ」
「あなたが着るんじゃないのよ?こっちのほうがアンジュさんに似合うわ」
「今日は動きやすさ重視よ。だからこっちがいいわ」
どうやら自分はこれから着替えさせられるようだ。
「あの、なぜ着替える必要が?」
「なぜって、これからレイフォナー殿下とデートですよ?うんと可愛くしますからね!」
「ええぇ!?デート!?」
処罰はどうなったの?なぜデート?と混乱しているうちに、手際のよい侍女たちによって身支度が済まされていた。
踝丈のアイボリーのワンピースは、大きな襟とその中央のリボンがかわいらしい。ブラウンのブーツは安定感がある低い踵。宝飾品と化粧は控えめで、髪はふんわりと結われたおさげだ。
やりきった侍女たちに連れられエントランスホールに向かうと、平民姿に変装したレイフォナーが待っていた。
「アンジュ、すごくかわいいよ!いつもかわいいけど!」
「あ、ありがとうございます」
目が合うなり褒められてしまった。頭からつま先までじっくり観察され、かわいい、似合ってる、とさらに褒められた。
それは馬車に乗ってからも継続中だ。
「おさげ髪似合いすぎじゃないか?幼い雰囲気にいつも以上に庇護欲に駆られるんだが。アンジュの純粋さを際立たせる色合いとデザインのワンピースともよく合っていて、愛らしい天使にも崇高な佇まいの女神にも見える。それに控えめな宝飾品と化粧は、アンジュの素のよさを際立たせる脇役にすぎないな。つまりアンジュ自身がかわいいから、どんな格好でもかわいいということだな」
などと、真顔でブツブツと唱えている。
反応に困ったアンジュは、疑問に思っていたことを訊いてみることにした。
「この馬車、全然揺れませんね。車輪に細工してあるからですか?」
王家所有であるが、装飾が一切施されていないお忍び用の地味な馬車だ。その車輪に、チェザライの風魔法がかけてある。
「うん。魔法が振動を吸収してくれるんだよ」
「それはもしかして・・・」
「妊婦を乗せるからね。そのほうがいいかなって」
「お気遣い、ありがとうございます」
狭い空間に二人きりで、甘々な空気が流れている。逃げ場がないアンジュは、はやく目的地に着いて〜!!と、心のなかで叫び続けた。
その頃、城のエントランスホールには次なる一行が集まっていた。
「さあ、我々も参りましょう!」
と気合い充分に言ったのは、キュリバトだ。
「な、なあ、高貴な女性が好きそうな店とか行けるか?その・・・贈り物を買いたいっていうか」
「わぁお、急に色気づいたね〜」
チェザライは照れているショールに、また今度にしよう、お相手の好みをリサーチしてから、と説いている。
レイフォナーの護衛となるため、剣や魔法の訓練に勤しんできたショールは女性とお付き合いの経験がない。贈り物をしたこともない。変なものを贈って幻滅され、縁談が流れようものなら大問題である。
「勤務中ですよ。個人的用事は休日にでも済ませてください」
真面目なキュリバトは、若干呆れ顔だ。
この三人も平民のような格好をしている。アンジュとレイフォナーのデートを邪魔しないよう、こっそりと見守ることが今日の任務だ。




