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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇3章◇

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第140話 眠れぬ夜



 アンジュはバルコニーに椅子を置き、腹の子をあやすように撫でていた。


 その右手中指には、指輪がはまっている。青く輝く一粒の宝石にはレイフォナーの魔力が込められており―――時間が経つと魔力が減ってしまうため定期的に込め直す必要はあるが、離れていても身に着けた相手の居場所がわかる代物だ。

 アンジュはこれを、バッジャキラに向かう前にレイフォナーから贈られた。帰国して妊娠がわかり、村に帰るときに王城に置いていったのだが、ツィアンから戻ったその日に『身に着けておくように』と再び渡されたのだ。指輪の宝石には、レイフォナーの魔力がたっぷりと込められていた。


 夜空を眺めているアンジュは、今後について考えている。


 レイフォナーと白い球体(クランツ)を救出し、現実空間に戻ってくることができた。異空間から脱出する際、本当はメアソーグを思い浮かべたかったのだが、出口が目前に迫り焦ってしまった。咄嗟に頭に浮かんだのが、転移前に見たシュノワの漁港だ。それなのになぜツィアンにたどり着いたのかは、バラックでもはっきりとわからないという。過去に見たことがある漁港がシュノワとツィアンだけで、二つの景色が混ざってしまったのでは、という見解だ。


 そして白い球体は身体を取り戻し、ツィアンで世話になったフィーの処遇も決まった。色んなことが良い方向へと向かっている。


 では、自分の処遇はどうなるのだろう。


 王家の血を引く子の存在を隠していた。ツィアンから王城に戻ったとき、国王や王妃は歓迎するような様子だったが、なんらかの罰を与えられてもおかしくない。村に帰れるのだろうか、子は王家に取り上げられるのだろうか。魔力を込めた指輪を互いに身に着けることは、あくまで王族と光魔法使いとしての関係なのか。そんなことばかり考えてしまう。


「それは子守唄か」

 と背後から声をかけられた。

「レイフォナー殿下!」


 どうやら無意識に口ずさんでいたようだ。それを聴かれたことがものすごく恥ずかしくなり、レイフォナーから目を背けてしまった。


「また脱走したな、私の子猫は」

「あっ・・・」


 これまでにも子猫と例えられ、注意されたことがある。レイフォナーは、バルコニーに出る=脱走だと思っているようだ。


 久しぶりのこのやりとりに、アンジュはふふっと笑ってしまった。


「さあ、部屋に戻ろう。身体も腹の子も冷えてしま・・・うん?子猫の子はなんて言うんだ?」

 レイフォナーは真剣に考えている。

「お腹の子が子猫で、私は大人の猫・・・だと思います」


 自分で言っておきながら妙に恥ずかしくなったが、レイフォナーは「なるほど」と納得したようだ。


 そして手を引かれ、部屋に入るとソファに座らされた。その隣にレイフォナーも腰を下ろし、しばらく沈黙が続いた。



「寒くない?」

 沈黙を破ったのはレイフォナーだ。


 メアソーグは年中温暖で過ごしやすい気候だが、夜に昼間のような格好だと肌寒く感じる日もある。


「大丈夫です」

 アンジュは厚めの生地でできたナイトドレスに、ストールを羽織っている。

「お前はどうだ?」

 レイフォナーは、アンジュの腹に手を当てて問いかけた。


 先ほどまで元気に動いていた子は、子守唄のせいかすっかり静かになっていた。


「もう寝ているのかもしれません」

「ふふ。アンジュの腹の中は寝心地がよさそうだな」


 腹を優しく撫でるレイフォナーの右手中指にも指輪がはめられている。黄金色に輝く宝石にはもちろん、アンジュの魔力が込められている。


 腹から手を離したレイフォナーから笑みが消え、アンジュは緊張が走った。


「その・・・アンジュの今後についてなんだが」

「は、はい!」

「明日の午後、空けといて」


 つまり明日、なんらかの処罰を言い渡されるということだ。



 執務が残っているレイフォナーは部屋を後にし、ベッドにもぐりこんだアンジュはあれこれ考えてしまい、ほとんど眠れなかった。



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