姐さん、事件です!
どうしよう、どうしよう……。
頭にはその言葉だけがぐるぐる回っている。よりによってピンクの真珠。しかもいなくなったのが、旅の仲間のセイレーンのカレンさん。
「各関所で足取りは掴めてませんか?」
「湖やそれを繋ぐ川の関所では通過の確認が取れてませんか?」
「最悪の場合、捜索隊を組まないと」
アルタイルとカティアとコリーナが地図を広げて確認する。それぞれの関所や砦に黄色と赤のピンを手際よく刺していく。騎士団長が部下に指示を出し、鷹に書状を持って飛ばさせる。
そうだよねー。人狼達にも連絡回して捜索隊組んでもらえたら……。
「希少で加護付きの真珠ですからね。本人がソレ持ってトンズラの可能性もありますし」
「カレンさん、光り物好きですからね」
「旅先で珍しい鉱石や水晶の鉱脈見ると目の色変えてましたし。」
………………えっ?
「ちょっとぉーっ!!? 何疑ってんですか!」
「そうよっ、旅の仲間を疑うなんて!第一、まずカレンさんの身の安全を案じるのが先でしょう!?」
憤慨する子供達。しかし大人達は困ったように眉を寄せた。
「カレンさん、セイレーンなんですよ!美人美声揃いの種族で一族内でもピカイチの歌い手でナイスバディな迫力美人なんですよ!
人攫いとかの可能性だってあるじゃないですかっ!」
「勿論その可能性も考えてますよ。でもこれまでの彼女の言動が……」
「確かにっ!カレンさんは宝石や金細工といった光り物には目がないですよ!
『この美しい私に着飾れる為に生まれてきたのね』なんて意味不明なことを宝飾品に言ってる不思議ちゃんですけど!
彼女はオシャレに拘って、誇りをかけて着飾るのが人生みたいな方なんですよ?
彼女が真珠を盗むなんて、ありえません!」
「………………」
「なんでみんな黙っているの?」
「ゴメン、姫さん。俺もだんだん不安になってきた……。」
「ちょっとぉーーーーーっ!!??」
むしろそんな援護(?)でどうして疑わない者がいるだろうか?
ブランシュは真面目なんだが、その分皆の心に不安が募る。
そこへ旅の仲間がもう一人やって来た。
「ふぇ〜〜ん、テオ姐さぁーん。みんなが酷いのぉ〜〜(泣)」
「よしよし、姫様。聞こえてたわよ。全くヒドイわよねぇ?
でもね、世間はそんなに優しくないの。残酷なことは幾らでも転がっているわ。
だからみんな疑心暗鬼に陥っちゃうの。信じることも大事よ?
でもね、上に立つ者は沢山の責任を抱えるから色んな可能性を考えるのよ。悪く取らないであげて?」
よしよしと抱き上げてブランシュの頭を撫でるエプロンドレスの大男。
言ってることはマトモなのだが、筋肉隆々の髭を生やしたハゲの大男のオネエ言葉は異様であった。
しかも声は渋くてコレで耳元で睦言を囁かれた日には、女性という女性は腰砕けは必須である。
なぜ、普通に男に育たなかったんだーーっとは、彼に会った皆が一度は思うことである。
今日も姫から下賜されたらエプロンドレスは、素晴らしい破壊力を持って皆の衆を直撃した。
主に精神的ダメージが深い………。
「………テオドール、お前さん、その格好はわしらの前ではやめてくれと言ったはずなんじゃがのぅ?」
「やあねぇガント。だったらセクシードレスの方が良かった?」
『やめて下さい。お願いします。』
思わず丁寧にお願いするガント達。タイのオネエコンテストで優勝した何某オネエタレントならともかく、ランプの精の様な彼女ではキツイ。
「あたしもあの子は宝石盗んでトンズラなんて事しないと思うわぁ。
カレンは欲しい物はハッキリ欲しいと面と向かって言う子だもの。プライドは高いし、コソ泥のマネなんてできない子よ。
それよりも地方から回って来たこの書類なんだけど、最近国内で見目のいい子の誘拐が流行っているらしいわよ?」
「誘拐?人間だけですか?それとも異種族もですか?」
「人族に限らずよ。人狼もエルフもドワーフもよ。セイレーンは最近ようやく交流が生まれたけど、これまで何度か誘拐されたケースもあったらしいから、彼女も巻きこまれた可能性が高いと思うわ。
それと製造元に確認したら他の品ーーレースや絹の布もいくつか途中で搬送者ごと消えている事が判ったの。
コレは情報の開示と共通化をスムーズにした成果と見て良いんじゃないかしら。」
「情報の流通の初の成果が犯罪の露呈ですか……喜ぶべきか悲しむべきか……。」
「早速地方から用紙に被害者の絵姿と情報を書いて送って来てくれたわ。
紙と印刷ってこう言う時便利よねー。カレンの分も追加して各砦と関所に回しましょ?」
「そうだな。彼女達の最後に見た地点と目撃者を割り出して行方を探そう。関連があるなら何らかの共通点があるはずですから。
大捕物になりそうですな。」
テオドールの提案の最後に騎士団長が締めくくった。
「姫様、真珠等は彼女達と共にあると思いますが、最悪輸送者の皆さんと強奪されたらしい品々とどちらを優先いたしますか?」
「輸送者の皆さんを。真珠はまた採れますが、カレンさんはこの世に一人だけだもの。
他の搬送者の皆さんも同じ様に。誘拐事件も人命優先でお願いします。」
厳つい顔の騎士団長の目を逸らさずに真っ直ぐに見て言い切る姫を従者達は眩しげに見つめた。
「拝命仕りました。姫君。」
騎士団長は恭しく礼をとった。