第一話 異世界の街
初めまして、おちゃむと申します。
今回初めて小説を書きます。
駄文や誤字脱字も多いかと思いますが、頑張りますので今後ともよろしくお願いいたします!
更新は不定期になるかと思いますが、完結までしっかり走り切りたいと思います。
ちょっと説明パートが長いかもしれません。ご容赦ください。
知らない街だった。
勇者は、大通りの端に立ちながら、行き交う人々を眺めていた。
勇者「……ここは、いったい?」
周囲を見渡してみる。
高い建物が並び、広い石畳の道を大勢の人々が歩いている。
商店からは活気のある声が聞こえ、道の脇には見たこともない魔道具が並んでいた。
だが、それ以上に彼の目を引いたのは――人々の姿だった。
人間だけではない。
長い耳を持つ者。
獣の耳や尻尾を持つ者。
人間よりもずっと小柄な者。
逆に、二メートルを優に超えるような大柄な者。
様々な種族が、何の違和感もなく同じ街を歩いている。
勇者「……こんな場所、知らない」
彼の知る世界では、これほど多くの種族が同じ街で暮らしている光景など見たことがなかった。
さらに、街のあちこちでは不思議な光景が繰り広げられている。
建物の壁には魔石を利用した照明が取り付けられ、昼間だというのに淡い光を放っている。
荷物を積んだ台車が、馬も人も使わずにゆっくりと道を進んでいる。
店先に置かれた薄い板には文字が浮かび上がり、その横では店員が何かを操作していた。
勇者「魔法……なのか?」
彼が知っている魔法とは、少し違う。
魔法を直接使うというより、魔法を道具や技術として利用しているように見える。
勇者「……すごいな」
思わず声が漏れた。
しかし、そんな街の中で。
彼自身も、かなり目立っていた。
髪は乱れ、顔や腕には土埃が付いている。
身につけている服も、ところどころ破れていた。
黒い布地には血が染みつき、何度も攻撃を受けたせいで袖や裾はぼろぼろになっている。
腰には、旅の途中で使っていた小さな革製の鞄を引っ提げていた。
中には、長い旅の間ずっと持ち歩いていた最低限の道具と――古びた、愛用のブーメランが入っている。
剣はない。
魔王との最後の一撃の直後、手から離れてしまった。
あの剣がどうなったのかも分からない。
彼は自分の服を見下ろした。
勇者「……ひどいな」
改めて見ると、自分でも驚くほど汚れている。
このまま街を歩き回るのは、さすがにまずいかもしれない。
勇者「……寒いし」
風が吹き抜ける。
そのときだった。
??「そこのお兄さん」
背後から声がした。
振り返ると、そこには一人の中年女性が立っていた。
少しふくよかな体つきで、エプロン姿。
どうやら近くの食堂の店員らしい。
女性店員「あなた、その格好じゃ風邪を引いちゃうわよ」
彼女は勇者の姿を上から下まで眺める。
女性店員「ずいぶんボロボロじゃない。旅の途中で何かあったの?」
勇者「……まあ、そんなところです」
彼は曖昧に答えた。
女性店員「ちょっと待ってて」
そう言うと、彼女は店の中へ戻っていった。
しばらくして彼女が戻ってくる。
その手には、畳まれた服が何着かあった。
女性店員「これ、息子が昔着てた服なの。もう着ないから、よかったら使って」
勇者「いや、でも……」
女性店員「いいのよ。捨てるつもりだったんだから」
勇者「……ありがとうございます」
女性店員「ほら。そこの裏に空いてる部屋があるから、そこで着替えてきなさい」
半ば押し切られるようにして、彼は服を受け取った。
◇
しばらくして。
着替え終えた勇者が食堂の裏から出てくる。
先ほどまでのぼろぼろの服とは違い、今は清潔なシャツとズボンを身につけている。
少し大きめではあるものの、動くには問題ない。
女性店員「あら、似合うじゃない」
勇者「……そうですか?」
女性店員「ええ。やっぱり若い子はちゃんとした服を着たほうがいいわ」
勇者「ありがとうございます。本当に助かりました」
女性店員「いいのよ」
彼女は笑いながら手を振った。
女性店員「もしこの街に来たばかりなら、宿を探すんでしょう?」
勇者「はい……たぶん」
女性店員「だったら、うちでも部屋を貸してるわよ。食堂の二階が宿になってるの」
勇者「そうなんですか?」
女性店員「お金があるならね」
勇者「あ……」
彼は腰の革製の鞄を確認した。
中には元の世界で使っていた硬貨が入っている。
当然、この世界で使える保証はない。
勇者「……あの、これは使えますか?」
女性は首を傾げた。
女性店員「どれどれ。……うーん、あたしゃ見たことないわね」
やはり通貨も違うらしい。
勇者「とりあえず、街のことを調べてみます」
女性店員「そうかい。あたしはマルノ。ここで食堂と宿屋をやってるわ。困ったらいつでも来なさい」
勇者「はい」
彼は頭を下げた。
勇者「ありがとうございました」
マルノ「気をつけてね」
マルノに見送られ、勇者は再び大通りへ戻った。
知らない街。
知らない人々。
知らない技術。
けれど――不思議と、先ほどより少しだけ気持ちは落ち着いていた。
勇者「……いい人だったな」
彼は小さく呟いた。
魔王討伐の旅に出てから、こんなふうに誰かから服をもらったことなどなかった。
元の世界では魔王軍の侵攻が著しく、どの街も余所者を気遣う余裕なんてなかった。
だからこそ。
何気ない親切が、妙に心に残った。
自分が助けることはあっても、人に助けてもらうことがあまりなかったからだ。
勇者「……これが平和、ということなのかな」
そんなことを考えながら歩いていると。
やがて、街の中心に巨大な建物が見えてきた。
周囲には多くの若者が集まっている。
剣を持った者。
本を抱えた者。
魔道具らしきものを持った者。
白衣のような服を着た者。
様々な人々が、その建物へ入っていく。
建物の正面には、大きな文字が刻まれていた。
――アスペリオン学園。
勇者「……学園?」
彼には、その言葉の意味がよく分からなかった。
しかし。
これだけ大きな施設なら、この街について知っている人間も多いだろう。
彼は学園へ向かって歩き出した。
◇
建物に入ると、そこでは多くの生徒たちで賑わっていた。
受付の女性「入学希望の方ですか?」
学園内の建物に入って少しのところで、受付の女性に声をかけられた。
緑色の長い髪をした女性で、きちんとした制服のような服を身につけている。
勇者「……入学?」
受付の女性「はい。入学手続きでしたら、こちらの受付で――」
勇者「すみません。そもそも……ここは何をする場所なんですか?」
受付の女性が固まった。
受付の女性「……え?」
勇者「俺、こういう場所を知らなくて」
受付の女性「アスペリオン学園は、様々な分野が学べる総合教育機関でして――」
勇者「教育……機関?」
受付の女性「……はい」
勇者「…………」
受付の女性「…………」
受付の女性は、目の前の少年を改めて見た。
どうやら、本当に何も知らないらしい。
受付の女性「……失礼ですが、どちらから?」
勇者「ノルレアンです」
受付の女性「ノルレアン……?」
女性は地図や資料で調べてみる。
受付の女性「そんな国や地名は存在しなさそうですが……」
勇者「……! そんなはずは……!」
受付の女性「ご家族か、知り合いの方は?」
勇者「……いません」
女性の表情が、少しずつ困惑に変わっていく。
その様子に気づいた白衣姿の男性が近づいてきた。
白衣の男性「どうした?」
受付の女性「先生。この方、少し事情が特殊なようで……」
白衣の男性は勇者を見る。
落ち着いた雰囲気の人物だった。
白衣の男性「私は特殊科の教授をしている、ケビン・アンダーソンだ。君、名前は?」
勇者「俺は“レン”です」
ここで初めて、自分の名前を名乗った。
ケビン「年齢は?」
レン「十六です」
ケビン「どこから来たんだい?」
レン「ノルレアンという国ですが……」
ケビン「聞いたことがないな……」
受付の女性「私の方でもお調べしましたが、ノルレアンという名前は見当たりませんでした」
ケビン「……ふむ。ここには何をしに?」
レン「……自分がどこにいるのかを知りたくて」
ケビン「どういうことだ?」
レン「俺は魔王と戦っていたんです」
ケビン「魔王?」
レン「はい」
レンは、あのときのことを思い出す。
魔王との戦い。
互いに放った最後の一撃。
その直後に生まれた、世界そのものを裂くような亀裂。
レン「魔王と戦っていたら、空間に亀裂が生まれて、そこから歪みが広がって、穴に吸い込まれて……」
レン「気がついたら、この街の近くにいました」
ケビンと受付の女性は、目を見開いたまま固まっていた。
ケビン「……なんだって?」
「魔王と戦っていたら空間が歪んで吸い込まれて、ここにやってきた……?」
レン「はい」
ケビン「……」
ケビンはレンのことをじっと見つめる。
ケビン「とても信じがたい話だが……」
しばらくして、困ったように息を吐いた。
ケビン「君が嘘をついているようにも見えないな」
レン「……」
ケビン「もちろん、今の話だけで信じるわけじゃない。だが、私一人で判断できる問題でもない」
ケビンは受付の女性へ振り返った。
ケビン「マナさん。少しの間、彼のことを見ていてくれ」
マナ「……! はい!」
ケビン「私は上に報告してくる」
そう言うと、ケビンはどこかへ走り去っていった。
マナと呼ばれた受付の女性が返事をすると、その場にはレンとマナの二人が残された。
マナはちらちらとレンを見る。
レンもまた、周囲を見回していた。
やがてレンは、ふと口を開いた。
レン「……あの」
マナ「はい?」
レン「ここは総合教育機関、と言っていましたよね。具体的には何を学べるんですか?」
マナ「あ! そういえば説明の途中でしたね!」
マナは少し嬉しそうに笑うと、改めて説明を始めた。
マナ「アスペリオン学園には、全部で十の学科があります。それぞれ専門分野は違いますが、自分の得意なことや、将来やりたいことに合わせて選ぶんです」
「まず一つ目が、近接科です」
「剣術や槍術、弓術、格闘術など、身体を使った戦闘技術を学びます。騎士や護衛、冒険者を目指す人も多いですね」
「二つ目は、魔法科」
「魔法の使い方だけではなく、魔力の扱い方や魔法の理論、様々な属性について学びます。魔法士や魔法研究者を目指す人が多いです」
「三つ目は、発明科です」
「新しい道具を考えたり、今ある道具を改良したりします。『こんなものがあったら便利なのに』という発想を、実際の形にしていく学科ですね」
「四つ目は、魔導技術科」
「魔法と技術を組み合わせて、実際に使える製品や設備へと発展させるための研究をします」
「街で使われている魔導具や、魔力を利用した設備の中には、学園の研究から生まれたものもたくさんあるんですよ」
「五つ目は、錬金薬学科です」
「錬金術や薬学、植物や鉱物、魔物から採れる素材などを研究します。回復薬や解毒薬の開発なんかも、この分野ですね」
「六つ目は、学問研究科」
「ここでは歴史や地理、生物、魔物の生態、古代文明、遺跡、古代文字など、この世界そのものについて研究しています」
「簡単に言えば、『この世界はどうなっているんだろう?』を調べる学科ですね」
「七つ目は、芸術科です」
「絵画や音楽、演劇、彫刻、工芸など、様々な表現を学びます」
「画家や音楽家だけじゃなく、俳優や舞台関係の仕事を目指している人もいますよ」
「八つ目は、商売経営科」
「商売や会社、店舗の経営について学びます。会計や金融、販売、流通なども扱います」
「自分のお店を持ちたい人や、大きな商会を経営したい人にも人気ですね」
「九つ目は、国際外交科です」
「国と国、都市と都市、そして異なる種族同士の関係について学びます」
「外交や条約、貿易、各国の文化や言語、戦争と和平についても学ぶんですよ」
「この世界には、人間だけじゃなくて様々な種族が暮らしていますから。お互いのことを知らなければ、うまく付き合っていくこともできませんからね」
「そして最後が、特殊科です」
「ここは少し特殊で……他の学科では扱いにくい才能や能力を持つ人だけじゃなく、自分が何に向いているのか、まだ分からない人も入ることができます」
レン「……分からない人?」
マナ「はい」
「自分にはどんな才能があるのか知りたい。自分に何ができるのか試してみたい。そんな人も、面接と試験を受けて合格すれば特殊科に入れます」
マナ「そこで様々な分野を経験しながら、自分の可能性を探していくんです」
レン「……面白いですね」
マナ「でしょう?」
マナは少し嬉しそうに笑った。
マナ「もちろん、最初に選んだ学科だけしか学べないわけではありません」
「基本となる専門分野を一つ選んで、そこを中心に学びながら、他の学科の授業を受けることもできます」
「近接科の学生が魔法科の授業を受けたり、発明科の学生が錬金薬学科の研究に参加したり……学科を越えた研究や活動も珍しくありません」
レン「なるほど……」
マナ「そして、学園で学ばれているのは知識や技術だけではありません」
「ここで生まれた新しい魔導具や技術は街へ広がり、新しい薬が作られたり、新しい商売が生まれたりします」
「芸術や演劇、音楽などの文化も、学園から街へ広がっていくんです」
「だから、アスペリオン学園はただの教育機関ではありません」
マナ「研究者や技術者を目指す人だけじゃなく、冒険者、騎士、商人、職人、芸術家、俳優、外交官……いろいろな人がここを目指します」
マナ「この学園で学ぶために、世界中から人が集まってくるんですよ」
マナ「そして、学生だけではありません」
マナ「学園で生まれた技術を求めて商人が集まり、研究のために各地から学者が訪れ、新しい商品やサービスを求めて企業や職人も集まってきます」
マナ「そうして人が集まることで、街がさらに発展していく」
マナ「……それが、この学園都市アスペリオンなんです」
レンは、先ほど歩いてきた街を思い返した。
魔石を利用した照明。
馬も人も使わずに走る台車。
店先に浮かび上がっていた文字。
そして、様々な種族が当たり前のように行き交う大通り。
あれらも、この学園の発展によるものなのだろうか。
レン「……すごい場所なんですね」
マナ「ええ」
マナは笑った。
マナ「私も、ここが好きですよ」
そのときだった。
廊下の奥から、足音が聞こえてきた。
ケビン「待たせたね」
レン「!」
戻ってきたケビンの後ろには、先ほどまでとは違う人物が立っていた。
白髪で耳の長い老人。エルフだろうか。
落ち着いた雰囲気をまとっているが、その眼差しは鋭い。
ケビン「こちらはアスペリオンの学園長だ」
学園長「初めまして、私はこの学園の長を務めるクリフト・カタラーナ・エクセリオン。名前が長いのでみな学園長と呼んでいる」
レン「……初めまして、レンです」
学園長「少し、君と話をさせてもらってもいいかな?」
レン「はい」
◇
学園長室。
レンは学園長と向かい合って座っていた。
学園長「まず、最初に言っておこう」
「ここはおそらく君のいた世界ではない」
ケビン「……つまり、彼は異世界からやってきた……」
レン「……やはり、そうですか」
学園長「確定ではないが、話を聞いている限り、おそらくな」
「君は、魔王と戦い、その影響でここに飛ばされた、と聞いている」
レン「はい、その通りです」
学園長「魔王との戦いで、何らかの強大な力がぶつかり合い、その結果として次元の歪みが生まれた……そう考えるのが自然だろう」
マナ「そ、そんなことが起こり得るのですか?」
ケビン「……あり得ない話ではない」
「この世界には過去に『異世界から人が現れた』という記録が残っている」
レン「異世界から……?」
ケビン「そうだ」
「だが、その記録に残っているのは、異世界から人が現れたという事実だけだ」
「どこから来たのか。なぜ来たのか。どうやって来たのか。その後どうなったのか――詳しいことは分かっていない」
レン「……」
学園長「君の話は、確かにこの世界の常識から考えれば信じがたい」
学園長「だが、だからといって嘘だと決めつけることもできない。何より……」
「私はこれまで、多くの若者を見てきた。君が嘘をついているようには見えないのだよ」
レン「学園長……」
学園長「異世界から来たとなれば、今日明日を生きるのも大変じゃろう。どうだね? しばらくの間、この学園で過ごしてみるのは」
レン「……!」
ケビン「学園長、よいのですか」
学園長「確かに彼は異質な存在だ。ただ、学園の外で自由にさせるより、学園内で監視した方が安全ともいえる」
レン「……」
学園長「悪気はない、許しておくれ。我々も君がここにやってきた事象について調べてみるが、君自身もこの世界を知る時間が必要だろう」
レン「……ありがとうございます」
学園長「そして、生活する以上、学園の生徒として登録させてもらう」
レン「俺が……この学園の生徒に……」
学園長「ああ」
学園長「幸い、この学園は専門分野が多い。君に合った学科を選べばいい」
レン「学科……」
学園長「先ほどマナから聞いたと思うが、この学園には10もの学科がある」
学園長「君が、何ができるのか。何をしたいのか。それを踏まえた上で決めるといい」
学園長はレンを見つめる。
学園長「レンくんの得意なことは何かね?」
レン「剣術と、魔法をいくつか」
学園長「ほう。どのような魔法を?」
レン「火、風、雷……それと光。あとは回復魔法や移動の魔法。魔法を剣に纏わせることもできます」
マナ「複数魔法を使えるだけでもすごいのに、それを6種類も……! しかも移動の魔法は超高難度の魔法ですよ……!」
ケビン「剣と魔法の融合まで! これはすごい……!」
学園長「……では異世界の魔王と撃ち合えたその力、少しばかりでよいので見せていただけないだろうか」
レン「……はい。では今剣がないので魔法を……」
右手を前へ伸ばした。
何度も繰り返してきた動作だ。
魔力を集める。
術式を組み立てる。
そして――。
レン「――《ファイア》」
ポッ。
小さな炎が、レンの手のひらに灯った。
レン「……?」
レンは、その炎を見つめた。
小さい。
あまりにも小さい。
今までなら、初級魔法とはいえ、もっと大きな炎を出すことができた。
レン「……もう一度」
レンは集中する。
レン「《ファイア》!」
今度は先ほどより少し大きな炎が生まれた。
しかし、それでも今までに比べると小さい。
レン「…………」
ケビン「どうした?」
レンは答えなかった。
自分の手を見つめる。
他の魔法を試そうとするが、
レン「《ウィンド》!」
「《サンダー》!」
――発動しない。
レン「……嘘、だろ」
火の初級魔法しか使えない――。
人類最強の勇者の名前はレン!
そんな彼が火の初級魔法しか使えなくなった理由とは?
どうすれば戻る?
あと、魔王はどうなったんだ??




