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勇者と魔王は、再び。  作者: おちゃむ


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1/3

プロローグ

世界の終わりを告げるような轟音が、魔王城を揺らしていた。


 巨大な玉座の間。


 天井は高く、何本もの巨大な柱が並んでいる。


 だが、そのほとんどが崩れ落ちていた。


 床には無数の亀裂が走り、壁には深い斬撃の跡が刻まれている。


 砕けた石と瓦礫が散乱する、その中央。


 一人の少年が立っていた。


 十六歳。


 まだ少年と呼べる年齢でありながら、その姿に幼さはない。


 傷だらけの身体。


 握りしめた右手には、幾度もの戦いを乗り越えてきた剣がある。


 ツンと逆立った黒髪が、吹き荒れる風に激しくなびいていた。


 その瞳には、疲労も恐怖もない。


 ただ、目の前にいる存在を打ち倒さんとする強い意志が宿っている。


 ――勇者。


 人類最後の希望。


 そして、この世界で最も強い人間。


「……〈回復魔法〉」


 少年は荒い息を吐きながら、自身に回復魔法をかける。


 淡い光が傷口を包み、流れ出ていた血がゆっくりと止まっていく。


 完全には癒えない。


 それでも、少年は構わず剣を握り直した。


 その視線の先。


 玉座に、一つの影があった。


 魔王。


 漆黒の魔力を身に纏い、その姿は濃密な闇に覆われている。


 顔も、表情も、ほとんど見ることができない。


 ただ二つ。


 闇の奥に浮かぶ赤い光だけが、静かに少年を見つめていた。


 世界の半分を支配し、数多の命を奪い、幾つもの国を滅ぼした存在。


 これまで勇者が戦ってきたどんな魔物とも違う。


 すでに幾度となく刃を交えた。


 それでも。


 魔王には、致命傷どころか大きな傷一つついていなかった。


 少年もまた、剣を握り直す。


 そして――消えた。


 ――ガキィンッ!


 玉座の間に、鋭い金属音が響いた。


 少年の剣が、魔王の腕によって受け止められている。


 その腕には傷一つない。


 少年は即座に身を翻した。


 ――ズドンッ!


 直後、魔王の拳が床を砕く。


 それと同時に、漆黒の爆発が起こった。


 少年は飛び散った瓦礫を足場に、再び踏み込んだ。


 剣を振り抜く。


 刃が赤く燃え上がった。


 ――炎が、剣身を包む。


 少年はそのまま斬り込んだ。


 魔王が腕を掲げる。


 ――ズガァンッ!


 炎を纏った剣と黒い魔力が激突する。


 少年は弾かれた直後、剣へさらに魔力を流し込んだ。


 今度は――雷。


 青白い閃光が刃を駆け抜ける。


 ――バチィッ!!


 雷を纏った斬撃が走り、魔王の闇を切り裂こうとした。


 だが。


 届かない。


 魔王は腕と手だけで、その一撃を受け流した。


 少年は一歩退く。


 次の瞬間。


 ――ビュオオオッ!


 少年の足元で風が渦を巻いた。


 その勢いを利用し、少年の身体が一気に前へ跳ぶ。


 凄まじい速度で接近し、その勢いを利用して少年は身体を捻った。


 ――斬り上げる。


 魔王は冷静に迎え撃つ。


 ――カンッ!


 ――ガキィンッ!


 ――ギィンッ!


 目にも止まらぬ連撃。


 火。


 雷。


 風。


 次々と属性を切り替えながら、少年は魔王へ斬りかかる。


 それでも――届かない。


 魔王は一歩も退かなかった。


 少年が距離を取る。


 次の瞬間。


 漆黒の魔力が弾けた。


「――っ!」


 少年は咄嗟に剣を構える。


 ――ドゴォッ!


 凄まじい衝撃。


 身体が吹き飛び、石造りの壁へ叩きつけられる。


 瓦礫が崩れ落ちた。


「ぐっ……!」


 少年はゆっくりと立ち上がる。


 血を拭う。


 魔王は動かない。


 玉座の前に立ったまま、ただ少年を見ている。


 その沈黙が、何よりも不気味だった。


 少年は剣を構え直す。


 再び踏み込む。


 魔王も動く。


 剣と拳がぶつかり合い、玉座の間を衝撃が駆け抜けていく。


 斬撃が柱を切り裂く。


 黒い魔力が床を抉る。


 炎が天井を焼き、雷が石床を砕く。


 それでも――決着はつかなかった。


 少年の剣は魔王を傷つけられず。


 魔王の攻撃も、少年を倒しきれない。


 それでも二人は立ち続けていた。


 やがて。


 少年が大きく息を吐く。


「……はぁ……はぁ……」


 剣を握る手が震えている。


 もう、長くは戦えない。


 魔王もまた、静かに少年を見つめていた。


 赤い瞳の奥に、感情は見えない。


 ただ――


 魔力だけが、さらに膨れ上がった。


 少年は理解した。


 次の一撃で決める。


 ここで全てを出し切る。


 少年の身体から、白い光が溢れ始めた。


 これまで身につけてきた、あらゆる力が一本の剣へと集まっていく。


 剣が震える。


 眩い光が刃を包み込み、その輝きは次第に巨大な光の剣となっていった。


 少年は剣を両手で構える。


「――これで決める!」


 魔王の背後に巨大な魔法陣が浮かび上がった。


 幾重にも重なる黒い紋様。


 その中心で、漆黒の魔力が凝縮されていく。


 玉座の間そのものが震え始めた。


 大気が軋む。


 床が割れる。


 柱が崩れ落ちる。


 世界そのものが、二人の力に耐えられなくなっていた。


 少年が踏み込む。


 魔王も、ゆっくりと片手を掲げた。


「――終わらせる」


 二つの力が、同時に放たれた。


《光爆一閃(ビッグバンスラッシュ)》!!


《地獄判決(ヘルジャッジメント)》!!


 二人の技が、真正面から激突した。


 ――――――――ドォォォォォォン!!!!


 衝撃音が、遅れて玉座の間を揺らした。


 白い光と漆黒の奔流が、互いを押し潰そうとぶつかり合う。


 どちらも引かない。


 どちらも譲らない。


「ぐっ……!」


 少年は歯を食いしばった。


 剣を握る手に、さらに力を込める。


 光が膨れ上がる。


 黒い奔流も、さらに勢いを増した。


 拮抗していた。


 その時だった。


 ――ピシッ。


 小さな音が、衝突の中心から響いた。


 少年が目を見開く。


 白と黒の力がぶつかり合う場所に、一本の亀裂が走っていた。


 ――ピシッ。


 亀裂が広がる。


 まるで巨大なガラスが、内側から砕けていくように。


 世界の輪郭が歪み、音も光も魔力も、すべてがねじれていく。


「これは……」


 魔王の声に、初めて明確な動揺が混じった。


 闇でも光でもない。


 ただ、この世界とは異なる何か。


 エネルギーとも呼べない、混沌そのものが、亀裂の向こうに広がっていた。


 そこから凄まじい力が生じる。


 白と黒、二人の魔力が一瞬にして霧散した。


 そして――


 二人の身体が、同時に引きずり込まれ始めた。


「くっ……!」


 少年は咄嗟に剣を地面へ突き立てる。


 だが、止まらない。


 身体が浮き、足が地面から離れていく。


 魔王も黒い魔力を放って抵抗する。


 しかし、その魔力さえ亀裂へ吸い込まれていった。


 大地が崩れ、空が歪む。


 世界そのものが、二人を拒絶するかのように軋み始めた。


「――ッ!」


 少年の身体が大きく引き寄せられる。


 少年は剣を握ったまま、必死に耐えようとする。


 だが。


 その手が、剣から離れてしまう。


 少年は、魔王のいた方向へ目を向けた。


 ――だが。


 そこに、魔王の姿はなかった。


 どこへ行ったのか。


 それを確かめる暇もなく、少年の身体は亀裂の向こうへ消えた。


 ――――――――。


 静寂。


 崩れた玉座の間に、もう二人の姿はなかった。


 ただ一本。


 ――カラン。


 少年が握っていた剣だけが、石床に落ちた音が虚しく響き渡る。


 その刃には、幾度もの戦いを越えてきた傷が刻まれていた。


 やがて。


 魔王城は、静かに崩れ始めた。


 勇者は戻らなかった。


 魔王もまた、姿を消した。


 こうして――


 この世界における、勇者と魔王の戦いは終わった。


 後に人々は、この戦いをこう語ることになる。


 勇者と魔王は、最後まで互いに譲らず――


 相討ちになったのだ、と。


 ――――――――。


 どれほど時間が経ったのか、分からない。


 少年は、ゆっくりと目を開いた。


「……ここは……?」


 最初に見えたのは、青い空だった。


 雲が流れている。


 風が吹いている。


 鳥の声が聞こえる。


 先ほどまでの戦場とは、あまりにもかけ離れた静けさだった。


 少年はゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡した。


「……ここはいったい……」


 どうやら、小さな丘の上にいるようだった。


 遠くに巨大な建物が見える。


 塔のような建築物。


 見たことのない服装をした人々。


 そして――


 巨大な城壁の向こうに広がる、途方もなく大きな街。


 少年は、まだ何も知らなかった。


 ここがどこなのかも。


 なぜ自分がここにいるのかも。


 そして――


 この世界で、何が待ち受けているのかも。


 少年は街に向かって歩き出す。

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