第64話 THE高校生の夏休み(前篇):双子の気遣いと一年生トリオのイベント
<AI依存度>:
ほぼそのまま使用:40%
AI文をベースに改稿:10%
作者独自の構成・設定・加筆:50%
はーい、すみませーん。今回も前回と同じぐらいAI使ってます。反省してまーす(国母感)。
7月の期末試験後から下旬の海水浴までの半月間を、57話から63話まで7話かけてお送りしてきたわけですが、ここで一気に一か月時間が飛びます。それはなぜか。まあ、この後すぐ説明いたします。
八月のアネックス久世は閑散としている。決して学生向けアパート、というわけではないのだが、十八部屋中五部屋が春若栄久高校の生徒であるし(もっとも、その大半に成人の同居人がいるのだが)、実は二、三部屋ほど高宮大学の学生もいる。となると、夏休みシーズンはどうしても賑わいがなくなってくるものなのだ。
樋口健介は、丁度お盆のシーズンに両親の実家である島本と笠木山に四日ずつ滞在した。姉・有希乃も何日か有休を取ったため、比較的いい感じの連休を過ごせた。
唯一父親と暮らす古波蔵茉衣子は八月頭からお盆まで半月も沖縄に帰省した。父・泰造はこのために夏休みと有休をがっつり取得したそうだ。
そして、彼女に合わせるかのように、彼氏の朝長慎吾とその双子の妹・雛灯も半月ほど実家に帰省した。
新宮領美佳に至っては海水浴の直後に東京に帰省し、八月二十日現在、未だに帰ってきていない。
残された杠千宥と妹の二生であるが、二生は帰省する方針としたが、千宥は帰省を拒否した。二生を通じて久々に父親と電話したが、結果、一歩も引かず、逃げ切った。二生は八月上旬から半月ほど帰省し、昨日戻ってきた。
チーム・アネックスと呼ばれる面々には上記の他に玉井絢那がいるが、彼女はアネックスには住んでいない。大家の根〆昭信の孫娘なのだ。ただ、普段しょっちゅう祖父に会いに来る分、彼女もお盆の途中ぐらいまで半月ほど、父方の祖父宅に滞在していた。県北の仙波市というところにある。
お盆の間も基本的にアネックスにいた千宥であったが、特にイベントもなく、薬代を稼ぐために同居人で従姉の田中丸鈴蘭のお店「リリーベル」でのバイトに明け暮れる日々だった。もっとも、お盆は、それすらも休みになり、ただ退屈な日々を過ごしていたわけだが。
ただ、LINEグループだけはそこそこの頻度で動いており、このところの一番のトレンドは、毎年八月第四土曜日に行われるという春若大花火だった。上記のチーアネメンバーは去年、当時春若にいなかった美佳と二生を除く全員が参加した。今年も茉衣子が音頭を取って、行く予定にしていたところだった。その日に実家の用事があるという美佳を除く全員の参加が見込まれていた。ちなみに、当然ながら茉衣子の姪の紗莱も参加予定だった。
誰もがそう思っていた矢先のことであった。
春若大花火を三日前に控えた水曜日のことである。突然グループにメッセージが到着した。
古波蔵茉衣子『悪い、じーちゃん死んだ。今日からまた沖縄帰るわ』
茉衣子は幼少期に自身の母親を亡くしている。祖父母は、父方祖父すなわち泰造の父を除き健在だった。泰造の実家はもちろん、亡き母の両親のもとにも毎回帰省していた。しかし、この度、母方の祖父が亡くなったという。実は今回、そんな祖父を見舞うため、例年より長めに沖縄に帰省していたというのだ。
古波蔵茉衣子『こんな急速に悪くなると思わんで、言い出しっぺなのにごめん!』
Shingo Tomonaga『それはしゃあねえ。行ってこい』
ともながひなひ『そうそう、残った私たちでどうにかするから』
杠千宥『気を付けてね。おじいちゃん、茉衣子ちゃんに会いたがってるよ』
以下、こんな感じで、一通りお悔やみLINEが来た。そして、茉衣子とサラの不参加が決定し、その後、チーアネで大花火に行く話そのものが、結果から言えば、ポシャった。
まず、動いたのが雛灯だった。
ともながひなひ『なんか急に推しの生配信入ったから家いるわ、ごめん』
同じく『ごめん』と書かれたスタンプまで来た。続いては玉井だった。
あやな『あやなはゆーくんと行くね!』
そして『Sorry』と書かれたスタンプ。要は彼氏の綾香雄人と行くことにしたわけだ。さらに数分後、もう一件来た。
Shingo Tomonaga『俺と健介は、野郎どもと行くことにした!』
そして、『Bye!』のスタンプ。野郎ども――要するに渡辺啓太郎と大上茂のことだろう。玉井と一緒の雄人を除くイツメン四名であることは、容易に想像がつく。
この流れを見て、「茉衣子ちゃんの求心力って、改めてすごかっただな」と苦笑する千宥であった。
後日、茉衣子は「あたしがいなくなった途端、みんなブッチしやがって」とプリプリ怒っていたらしい。ただ、これは、二生に対する朝長兄妹なりの配慮というのが真意だったらしい。先輩だらけでは二生も気を遣うし、同級生と遊びたくても遠慮するだろう。そう考えて、別行動を言い出しやすくしたのだ。二生は、性格的に遠慮するだろうと踏んだのだ。ちなみに、玉井は配慮というよりも、単に「茉衣子ちゃんがいないなら、雄くんと行こう」という軽いノリだったらしい。
二生は当初、折を見て、彼女の友人である若杉果文としろここと城宏子を誘っていいか聞くつもりだったそうだ。しかし、この配慮のおかげで、無事に、『私は自分の友達と行きます』と連絡することができたのだった。
迎えた春若大花火の当日である。杠二生はワクワクしていた。友達と花火大会に行ける。友達との、ちょっと遅い時間までのお出かけ。それは、生来友達も少ないうえに、実家にいた頃は門限が厳しかった二生にとって、念願の「高校生の夏休みっぽいイベント」だった。
とはいえ、既に一か月前、若杉果文と海に遊びに行った。でも、その時は、アネックスに住む先輩たちと一緒だった。もちろん、チーム・アネックスの先輩たちにはよくしてもらっているし、入学当初は緊張したけど、今はみんな好きだ。
だけど、いつも仲良くしている同級生三人で遊びたかった。果文とは割と遊べているが、芸能活動に忙しい城宏子とはなかなか遊べない。寧ろ、この夏休み、仕事関係の方が忙しかったらしく、全然会えていなかったのだ。だけど、この貴重なオフの日を、二生たちと過ごすことを選んだのだ。
茉衣子が身内の不幸でキャンセルとなり、幸か不幸か、他の参加者もバタバタと抜けていった。
当初、果文と宏子の参加を先輩たちにおねだりするつもりだったが、その状態になってからは、三人で行くつもりだった。しかし、そうはならなかった。結局、前述のLINEで唯一態度保留になっていた兄(もしくは姉)の千宥を連れていくことになったからだ。
千宥は、行くつもりだったけど、みんながキャンセルして困っていた。だから、二人に了承を得て、四人で行くことにしたのだ。二人の快諾はとてもありがたかった。そして、家族なので、普通の先輩ほど気を使わなくて済む。二人がどう思っているかはわかりかねるが、少なくとも二生にとって、この布陣はかなり「私得」だった。
二生は、去年も参加した千宥の案内で、121番系統・城が崎行きのバスで会場最寄りの前浜まで乗り付けた。乗車した栄久高校下の二つ先の大門バス停で果文が乗り込んできた。出発に際して、二生が三人のLINEグループに連絡を入れたところ、タイミングを見計らったようなのだ。
「おーっす!」
中央のドアから乗り込んできた果文が、二生たちを見つけて片手を上げた。
「果文ちゃん!」
二生も嬉しそうに手を振る。
「千宥先輩も、乙です」
果文は、千宥にも会釈する。
「ごめんね。一年トリオのイベントなのに私もお邪魔しちゃって」
「いや、全然いいんです。ほんとは、チーアネと一緒に誘ってくれるつもりだったみたいなんですけど、茉衣子ちゃん、大変ですね」
古波蔵家の不幸のことは、果文も聞いたらしい。
「でも、茉衣子ちゃんがいなくなったら、みんなキャンセルしたんですね」
「……推し活のひなちゃんはさておき、みんなチーアネ以外にもお友達とかがいるから。玉ちゃんも雄人くんに取られたからなあ」
千宥が苦笑する。
「先輩、玉ちゃん先輩の彼氏さんも、昔のお友達なんですよね。三人で行けばよかったんじゃ?」
果文が冷やかす。
「そ、そんな、入れないよ……! まあ、茉衣子ちゃんはほんとに残念だけど……、去年はワチャワチャしすぎてたから、四人ぐらいがちょうどいいのかも」
千宥が苦笑しつつコメントする。去年、総勢七名で参加して、なにげに大変だったことを覚えているのだ。その理由の四割ぐらいは当時、茉衣子と慎吾が不仲だったことにあるのだが、そのことはあえて触れない。
果文は千宥の前の空いている席に腰を下ろした。大門から前浜までは、それほど長い距離ではない。既に車内には浴衣姿の客もちらほら見えており、普段とは違う雰囲気になっていた。
「しろちゃんは?」
二生が尋ねた。
「現地集合。親に送ってもらうって」
「今日も仕事だったの?」
「いや、なんか午前中までレッスンだったとか言ってた」
「レッスンかあ」
宏子は、最近、事務所で「レッスン」を受けている、とよく聞いていた。夏休みもそうだったらしい。
なにせ、一介のローカルタレントとしてのテレビやCMの仕事はたかが知れている。それよりも、今後の活躍を見据えたトレーニングに余念がないのだろう。二生はそう解釈していた。
「最近ずっとそんなんだよねえ。でもさ、何のレッスン?って聞いても教えてくれないのよ」
「まあ、色々あるんだろうね」
二生は苦笑した。二生も身内にタレントがいるため、身内にすら明かさないことがあるのは知っている。
「この前も遊ぼうって言ったら、『その日レッスン』って言われたし」
果文がぼやく。
「大変だねえ」
「本人は結構楽しそうだけどね」
果文はそう言って肩をすくめた。
やがてバスは前浜へ到着した。普段ならそれほど人の多くないバス停だが、この日ばかりは降りる客が多い。三人も流れに従ってバスを降りた。
会場となる春若港の広場まではここから歩いて五分ほどである。周囲には同じ方向へ向かう人の流れができており、屋台から漂ってくる匂いも既に感じられた。
「しろこ、まだかな」
果文がスマートフォンを取り出した。
「あ、今着いたって」
「どこ?」
二生が首をかしげる。
「えーっと……」
三人が辺りを見回したところで、道路脇に一台の黒いアウディが停車した。
「あれ」
果文が指差す。後部座席のドアが開き、城宏子が降りてきた。
「しろちゃん!」
二生が大きく手を振る。
宏子はこちらに気づくと、ぱっと笑顔になった。
「二生ちゃん! 久しぶり!」
車内へ一度振り返り、何か言葉を交わしてからドアを閉める。車はそのままゆっくりと走り去っていった。
「ほんと、久しぶりだね」
「ねー。この夏ぜんっぜん会えてない」
「忙しかったんでしょ?」
「まあねえ。でも仕事っていうより、ほとんどレッスン」
「みたいだね。果文ちゃんから聞いたよ」
「余計なこと言ってないでしょうね」
宏子が果文をにらむ。
「レッスン漬けだったって」
「漬けって言うな」
宏子が果文の肩を軽く叩いた。
「しろちゃん、久しぶり」
千宥が三人の輪に加わる。
「千宥先輩! ご無沙汰です」
「忙しかったんでしょ。二生とか果文ちゃんに聞いたよ。ありがとうね」
「大丈夫です! こういうの、大事にしていきたいんです。ほんとに。私も、高校生したいんですよ」
特に後半のセリフは、三人に聞こえるような声量だった。
「今日はもう、オフですから」
ここまで声のトーンを押さえていたが――
「今日は、遊ぶ!」
妙に力強い宣言だった。
二生はちょっと申し訳なくなった。
「そんな貴重なお休みに、私たちでよかったの?」
「何言ってんの」
睨むように言う宏子に、二生はきょとんとした顔をした。
「私は今、こういうイベントを友達と過ごすのを、買ってでもしたいの」
宏子がしみじみと言う。
「……そっか」
「そ。花火見たかったし」
それだけのことのように言う。二生はなんとなく嬉しくなった。
「で」
宏子はそこで千宥の方を見た。
「今日は千宥先輩も一緒なんですね」
「うん。お邪魔します」
「なんでそんな他人行儀なんですか」
宏子は笑いながら言う。
「いや、一年生三人で行くところに混ざっちゃったかなって」
やはり千宥はどうしても気になるらしい。
「全然いいですよ」
宏子が即答する。果文も頷いた。
「むしろ人数多い方が楽しいですし」
こうして四人が揃った。会場へ向かう道は、近づくにつれてさらに賑やかになっていった。
焼きそば、たこ焼き、唐揚げ、フライドポテト。少し先にはかき氷やりんご飴の看板も見える。
二生は辺りを見回すだけで楽しかった。
友達と花火大会。しかも、まだ日が完全には沈んでいないとはいえ、普段なら実家ではそろそろ帰宅時間を気にし始めていた時刻である。今日は違う。
「何食べる?」
果文が聞いた。
「えっ、もう食べるの?」
二生が驚く。
「祭りに来て食べないで何すんの」
「花火を見るんじゃないの?」
「そこまでどうするかでしょ」
当然でしょ、とばかりに果文。
「果文、絶対食べ物が目的でしょ」
宏子が口を挟む。
「失礼な。半分ぐらいだよ」
「十分ウエイト大きいよ」
宏子が笑った。
「私はまずなんか飲みたい。この時間でも暑いんだもんね」
宏子が手で顔を扇ぎながら言う。
「私、かき氷食べたい!」
果文が手を挙げて言う。
「いきなり? でも、確かに暑いから欲しいかも」
二生は自分でも少し浮かれている自覚があった。
でも、それでよかった。隣には果文がいて、久しぶりに会えた宏子がいて、千宥もいる。
一か月前の海水浴も楽しかった。けれど、これは少し違う。自分の友達と、自分で約束して、少し遅い時間まで遊ぶ。そんな当たり前のことが、二生にとっては、まだ特別だった。
結局、最初に立ち寄ったのはかき氷の屋台だった。
「何味にする?」
「私、ブルーハワイ」
果文が即答する。
「舌青くなるよ」
「祭りの時ぐらいいいじゃん」
「じゃあ、私はいちご」
二生も注文する。千宥はレモン、宏子は少し迷った末に宇治金時を選んだ。
「しろちゃん、渋いね」
二生が目を丸くする。
「いいじゃん。好きなの」
「なんか、大人っぽい」
四人は屋台脇の少し空いたところに寄り、それぞれかき氷を口に運ぶ。
「つめたっ!」
二生が思わず声を上げた。
「かき氷なんだから当たり前でしょ」
果文が笑う。そうも言いながら、自分もハイペースで食べる。そして――
「……っ! ん゛~~~!」
頭を押さえて悶え始めた。
「お約束……」
千宥が苦笑する。
「果文、わざとでしょ。体張るなあ」
一番果文を熟知する宏子がコメントする。
夕方とはいえ、八月下旬の高宮はまだ暑い。日中ほどではないものの、会場には熱気が残っていた。加えてこの人出である。冷たいものがちょうどよかった。
かき氷がある程度減ったところで、四人は歩き始めた。間もなく、果文は今度はたこ焼きの屋台に目を奪われた。
「……あれ、おいしそう」
「まだかき氷食べてるじゃん!」
宏子が突っ込む。
「甘いもの食べたら、しょっぱいもの欲しくなるでしょ?」
「理屈としては分かるけど早いよ」
「まあ、食べ物目的は半分って言ってたもんね?」
千宥まで加勢する。
「そうなんですよ、先輩! 今日は私、食べる日なんです」
そう力説すると、屋台まで駆けていった。
「いいなあ、好きなだけ食べられる人は」
宏子がそう小声でぼやいたのが聞こえて、二生はとっさに振り向いたが、直後、聞こえていないことにした。
果文はたこ焼きを三人前購入した。
「四頼んでもよかったんだけどね。別に、残ったら私が食べてたし」
「果文ちゃん、最近、本当に茉衣子さんみたい」
小食な二生は、このところ茉衣子からよく「食え」と言われているのを思い出した。こういうところでも、「茉衣子の妹」感を感じるのだ。
果文はたこ焼きを宏子に差し出す。
「はい、しろこの。全然食べないわけにもいかないでしょ。いらなくなったら私が食べるよ。もしくは二生にあげて」
「あ、ありがと……」
少し困惑したような表情を見せて、宏子はたこ焼きを一つつまんだ。
たこ焼きを食べている間にも、会場へ向かう人波はどんどん増えている。二生は時折、無意識にスマートフォンの時刻を確認していた。まだ帰らなくていい。頭では分かっているのに、実家にいた頃の癖が抜けない。
この時間に外にいるというだけで、少しそわそわする。それなのに、今日は誰からも「何時に帰るの」と言われない。もちろん、姉――千宥は隣にいるし、鈴蘭にも花火大会に行くことは伝えてある。だからこそ、不思議なほど自由だった。
「二生ちゃん、なんでさっきから時間見てんの?」
宏子に気づかれた。
「えっ?」
「もう三回ぐらい見てるよ」
「そんなに?」
「見てる見てる」
果文も頷く。二生は少し恥ずかしくなった。
「いや、その……。実家だと、こういう時間まで友達と出かけること、ほとんどなかったから」
「ああ」
宏子が納得したように頷いた。
「門限厳しかったって言ってたもんね」
「うん。だから、なんか落ち着かなくて」
「じゃあ今日は気にしなくていいじゃん」
果文があっさり言った。
「せっかく来たんだし。千宥先輩もいるんだし」
「……そうだね」
二生も笑った。
そうだった。今日は花火を見るまで帰らなくていい。そう思うだけで、また少し気分が浮き立った。四人はそのまま会場の中を歩いた。
途中、射的の屋台を見つけた果文が立ち止まり、今度は食べ物ではないからセーフだと言い張ったり、千宥が金魚すくいを眺めて「これ持って帰っても飼えないよね」と現実的なことを言ったり、宏子がりんご飴を見て「写真だけ撮りたい」とスマートフォンを構えたりした。
そんな、ごく普通の祭りの時間だった。その時であった。
「あの……」
背後から、控えめな声がした。
四人が振り返る。中学生ぐらいだろうか。浴衣姿の女の子が二人、少し離れたところに立っていた。視線は明らかに宏子へ向けられている。
「あの、城宮ひろこちゃんですよね?」
一瞬だけ、宏子の表情が止まった。ほんの一瞬だった。すぐに、先ほどまでと変わらない笑顔になる。
「はい、そうです」
「やっぱり!」
二人の顔がぱっと明るくなった。
「いつもテレビ見てます!」
「ありがとうございます」
「写真って、いいですか?」
「もちろん」
宏子は慣れた様子で二人の隣に並んだ。二生たちは少し離れて待つ。スマートフォンを渡された果文が、当然のように撮影役を引き受けた。
「はい、撮るよー」
数枚撮り終えると、二人は何度も頭を下げながら去っていった。
「ありがとうございました!」
「はい。応援ありがとうね。これからもよろしく」
宏子も手を振る。二人が人混みへ消えていったところで、果文が言った。
「早速バレたね」
「まあ、こういう人多いところだとね」
宏子は特に気にした様子もなく答えた。
「よくあるの?」
二生が聞く。
「んー、時々かな。高宮だとまあまあ」
「へえ……」
二生は改めて宏子の顔を見る。
学校で会えば、果文とくだらないことで言い合っている普通の同級生だ。今だって、ほんの少し前まで、宇治金時を食べながら果文をからかっていた。
でも、知らない人から見れば、この子は春若栄久高校一年生の城宏子ではない。テレビに出ている、城宮ひろこなのだ。
「何?」
宏子が二生の視線に気づいた。
「いや……、しろちゃんって、やっぱり芸能人なんだなって」
「そ、そうかなあ。私、そんなタレント風吹かせてるかなあ」
「頑張って普通の子になってるけど、でも、知名度が上回ってる感じ」
「そ、そうか……」
二生の返事を聞き、宏子は少しだけ声を落とした。
「今日ばかりはプライベート、って言いたいんだけど、周りの人はそうしてくれないんだよなあ」
それから、すぐにいつもの調子へ戻る。
「というわけで、次どこ行く?」
「わたがし。もしくはチュロス」
「まだ食べるの?」
果文の即答に、また笑い声が上がった。
結局、果文はチュロスを選んだ。
「わたがしは持ち歩くの邪魔だから、後」
「まだ食べる気なんだ……」
二生が呆れる。
「だって祭りだよ?」
果文にとっては、それだけで全ての理由になるらしい。
宏子はたこ焼きを三つ食べたところで箸を止め、さりげなく二生へ容器を差し出した。
「もういいの?」
「うん」
「ありがと」
二生は千宥と一人前を分け合っていたため、ありがたくいただく。果文があれだけ食べているので、自分もちょっとは食べてみようという気になったのだ。
「プライベート、って言いたいんだけど、周りの人はそうしてくれないんだよなあ」――二生は、先ほど宏子が呟いた言葉を思い出した。しかし、やはり何も聞かなかった。芸能人なら、そういうこともあるのだろう。その程度の認識だった。
【次回予告】
花火大会、まだまだこれからです。四人以外にも会場に来ている人たちはいるみたいですが……?
次回に続きます。お楽しみに。
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