第63話 いつの世も変わらぬ夏の定番(後篇):海もいいけど砂浜もね
<AI依存度>:
ほぼそのまま使用:65%
AI文をベースに改稿:15%
作者独自の構成・設定・加筆:20%
2026年11月、大改訂大会により分割となりました。
ちなみに、茉衣子が砂で○○○○を作っていますが、あれはAIママです。最近のChatGPT、やりよる。
前々回から続いています。61話からどうぞ。
高宮市南町は宮ヶ浜海水浴場へやってきたチーアネ一行。いよいよ、午後の部である。
昼食の後、しばらく休憩を挟んだ一同は、再び浜辺へ出た。茉衣子がビーチボールを持ち出した。
「よし。次、これやろうぜ!」
「ビーチバレー?」
雛灯が尋ねる。
「みたいなもん。落としたら負け!」
「ルール雑だなあ」
健介がぼやく。
最初は全員で輪になり、単純にボールを落とさないよう打ち合った。サラは低い球を両手で押し返し、二生は自分のところへ来るたびに「わっ」と声を上げる。果文は意外に安定しており、難しい球でも何度か拾った。美佳も最初こそ戸惑っていたが、すぐに要領をつかんだらしい。
「美佳ちゃん、うまいね」
千宥が感心する。
「そう? こういうの、あまりしたことないんだけど」
そう言いながら、飛んできた球をきれいに果文へ返す。
「全然そんな風に見えないですよ」
ボールと一緒に、果文は返事を返す。一方の千宥は、腕を高く上げるたびに水着の胸元を気にしているようだった。取れる範囲の球は返すものの、無理な球には飛び込まない。
「千宥さん、無理しないでね」
美佳が言う。
「うん。でも、せっかくだからちゃんとやりたい」
千宥はそう答え、次に来たボールを両腕で慎重に返した。そして、問題は茉衣子である。
「行くぞー!」
勢いよく打ち返したボールが、全員の頭上を遥かに越えた。
「あ」
「お前、力加減ってもんをなあ」
健介がぼやく。慎吾がすかさず走って追いかける。
「任せろ!」
砂浜へ飛び込むように腕を伸ばしたが、指先をかすめることすらなく、ボールはぽすんと砂の上へ落ちた。
「取れてねえじゃん!」
「今のは茉衣子が悪い!」
「慎吾が鈍いんだろ!」
ひとしきり遊んだところで、茉衣子が言った。
「よし、これだけじゃつまんねえ。試合しようぜ」
「どう分けるんですか?」
二生が尋ねる。
「もう、適当でいいだろ」
「グーパーでいいさ」
泰造が腕をブンブン回している。
「泰造さん、やるんすか……」
健介が驚きあきれつつ言う。
結局、茉衣子、慎吾、雛灯、健介、果文の五人と、千宥、二生、美佳、サラ、泰造の五人に分かれた。
茜は審判兼荷物番である。
「七点先取な!」
慎吾が宣言する。健介は相手チームを見る。千宥、二生、美佳、サラ。そして六十四歳の泰造。
「……これ、結構こっち有利じゃないか?」
「楽勝だろ」
慎吾も同じことを思ったらしい。若い男子が二名ともこっちに来た時点で有利だし、女子の中でも動ける茉衣子もいる。
それを聞いた泰造が笑った。
「言ったね? 後悔するさ」
「父ちゃん、腰やんなよ」
茉衣子が忠告する。
「お前はまず親父に勝ってから言え!」
試合が始まった。最初の一点は、あっさり茉衣子たちが取った。慎吾の球を二生が返しきれなかった。
二点目も、雛灯がサラの頭上を越す。
三点目は果文だった。美佳が返した球をきれいに空いたところへ落とす。
「三対ゼロ!」
慎吾が得意げに声を上げる。
「悪いな。このメンバーで負ける気しねえわ」
「慎吾くん、そういうことは最後まで言わない方がいいと思うわ」
美佳が淡々と言った。次の球が始まる。健介が相手側へ返した球を、サラが低い位置で拾った。
「じいじ!」
「任せろ!」
泰造が前へ出る。
「父ちゃん、本当にやる気じゃん!」
茉衣子が笑う。泰造の打った球は強くはなかった。しかし、茉衣子と慎吾のちょうど間へ落ちた。
「お前取れよ!」
「お前の方が近かっただろ!」
カップルの痴話喧嘩が始まった。
「三対一ね」
茜が冷静に告げる。次は美佳だった。慎吾の強めの球を一度二生が上げ、美佳が落ち着いて返す。雛灯が取ろうとしたが、わずかに届かない。
「美佳、コントロールいい」
「今、そっちのチームで狙うなら、ひなでしょ」
オーッホッホッホ……とまでは笑わないが、美佳が得意げに言う。三対二だ。
「おいおい」
慎吾の顔から余裕が少し消えた。
「まだ一点勝ってるだろ」
茉衣子が言う。ところが次のラリーでも、相手はなかなか落とさない。二生が危なっかしくも丁寧につなぎ、サラが低い球を拾い、美佳が安定して返す。そして泰造が、年齢を感じさせない勢いで左右へ動く。
「泰造さん、元気すぎません?」
健介が思わず言う。
「まだ六十四さ!」
「十分いい歳ですよ!」
その隙に飛んできた球を取り損ねた。三対三。
「健介、しゃべってる場合じゃねえぞ!」
「誰の親父のせいだよ!」
次の一点は茉衣子が強引に決め、四対三。しかし、その次だった。慎吾が千宥の側へ少し強めに打つ。千宥は一瞬迷った。
「千宥さん!」
美佳が動こうとする。だが、千宥は一歩前へ出た。
「大丈夫!」
両腕にボールを当てる。高く上がった。
「二生!」
「えっ、私?!」
慌てながらも、二生がもう一度つなぐ。
「美佳さん!」
美佳が最後に押し返した球は、慎吾の横を抜けて砂浜へ落ちた。
「よし!」
珍しく千宥が声を上げる。四対四。
「千宥、うめえなあ!」
茉衣子が敵味方を忘れて褒める。
「お前どっちのチームだよ!」
慎吾が突っ込んだ。そこからは完全な接戦になった。五対四。五対五。六対五。茉衣子たちが先にマッチポイントへ届いた。
「あと一点!」
慎吾が叫ぶ。
「はいはい、油断しない!」
雛灯が兄を制する。しかし次のラリーで、果文が珍しく返球を外した。
「あっ、ごめん!」
「大丈夫!」
健介が即座に答える。六対六。
「次で最後さ」
泰造が構える。
「絶対取るぞ!」
茉衣子も腰を落とす。最後のラリーが始まった。美佳から二生へ。二生が慎重に上げ、千宥が返す。
「慎吾!」
「任せろ!」
慎吾が受ける。健介がつなぐ。ボールは茉衣子の頭上へ上がった。
「茉衣子、決めろ!」
「おう!」
茉衣子が思い切り腕を振り抜く。ぱんっ、といい音がした。全員が空を見上げた。ボールは相手コートどころか、サラたちの頭上を遥かに越え、そのまま風に乗って飛んでいく。
「……あ」
茉衣子が固まった。数秒遅れて、遠くの砂浜へボールが落ちる。
茜が淡々と手を上げた。
「アウト。七対六」
一瞬の静寂。
「勝ったー!」
サラが飛び跳ねる。
「やった!」
二生も思わず両手を上げ、美佳と千宥も顔を見合わせて笑った。泰造は両腕を組み、これ以上ないほど得意げである。
「見たか! これが古波蔵家の力さ!」
「最後にミスったのも古波蔵家でしょ!」
健介が突っ込む。慎吾が茉衣子の肩を叩いた。
「戦犯」
「うるせえ!」
茉衣子の平手が慎吾の背中へ飛ぶ。
「痛ってえ!」
「お前がもっといい球上げねえからだろ!」
「健介が上げたんだよ!」
「俺に飛び火させんな!」
横では、千宥がまだ嬉しそうに笑っていた。
「勝てると思わなかった」
「私も」
二生が答える。
「ね、果文ちゃんたちのチーム、絶対強そうだったのに」
「そっちが思ったより強かったんだよ」
果文も笑う。
その場に立っていた慎吾が、とうとう力尽きたように砂浜へ仰向けになった。
「もう無理。疲れた」
茉衣子が、その姿を見下ろす。しばらくして、にやりと笑った。
「……なあ、こいつ、このまま埋めねえ?」
茉衣子の一言で、サラの目が輝いた。
「埋めたい!」
「おい、待て」
慎吾が慌てて起き上がろうとする。しかし、健介と雛灯が両側から押さえた。
「何でお前らまで!」
「面白そうだから」
雛灯が平然と答える。
「兄に対する情はないのか!」
「ないよ。日頃の恨み」
雛灯はニヤッと笑う。慎吾は砂の上へ寝かされ、首から下を少しずつ埋められていった。二生と果文も最初は遠慮していたが、サラに促され、砂を運び始める。
最初、抵抗していた慎吾であるが、いざ埋められるとまんざらでもなさそうだ。
「美女に囲まれて砂に埋められるなんて、男の夢だな」
慎吾が妙に満足そうに言う。
「じゃあ、もっと埋めてやるよ」
茉衣子が慎吾の胸の上へ砂を盛る。
「お、筋肉作ってくれんの?」
「いや、おっぱい」
「やめろ!」
茉衣子は左右に大きな山を作り、サラが貝殻を飾り始めた。雛灯は兄の顔の周囲へ指で妙な模様を描いている。
「ひな、何描いてんだ」
「遺影の黒いリボン」
「縁起でもねえ!」
健介は少し離れたところで笑っていたが、茉衣子が振り返った。
「次、健介な」
「俺はいい」
「何でだよ」
「埋められる理由がない」
「慎吾だってないぞ」
「こいつは自分から寝たようなもんだろ」
健介は捕まる前に逃げた。茉衣子が追いかけようとしたが、慎吾から「置いてくな!」と叫ばれ、仕方なく戻る。しばらくして慎吾を掘り起こすと、全員すっかり汗をかいていた。
「かき氷食べたい!」
サラが宣言する。
「さっき言ってたもんね」
果文が笑う。
一同は海の家へ向かい、それぞれ好きな味を注文した。慎吾と茉衣子は、相談したわけでもないのに二人ともイチゴだった。
「お揃いじゃん」
雛灯がニヤニヤしながら言う。
「別に合わせてねえよ」
慎吾が答える。
「イチゴが一番うまいだけだ」
茉衣子も同じことを言う。
「息ぴったりだね」
千宥が笑うと、二人は同時に顔をそらした。
美佳はレモン、千宥と二生の姉妹は共にメロンを選んだ。
「一口交換しない?」
美佳が尋ねる。
「いいよ」
千宥がカップを差し出す。美佳は嬉しそうに一口もらい、自分のカップも千宥へ渡した。
「間接キスやな」
横からサラが言う。
「サラちゃん、どこでそんな言葉覚えたの?」
千宥が赤くなる。
「言わへんかった? 千宥ちゃんが小学校の時」
「言ってた、かなあ?」
千宥が首をかしげる。
「若いね。間接キスで照れていいのは高校生までさ」
「私、高校生ですよ。泰造さん」
千宥が苦笑する。サラはブルーハワイを食べ、すぐに舌を真っ青にして果文へ見せた。
「見て、果文ちゃん!」
「青っ!」
果文も同じ味を頼んでいたため、自分の舌を出す。
「私も青い?」
「青いで!」
二人が笑い合う。健介はちょっと珍しいグレープを選んだ。急いで食べたせいで、頭の奥に鋭い痛みが走る。
「いてて……」
「健ちゃん、頭痛いの?」
「急に食べすぎた」
その隣では、泰造も大きな口でかき氷を頬張り、同じように額を押さえていた。
「泰造さんもですか」
「これは効くさ……」
「張り合わなくていいんですよ」
健介がため息をつく。
「こういうの、年寄りの冷や水って言うのかな」
雛灯が茉衣子と慎吾ぐらいだけに聞こえる声量でこそっと言う。
「氷だろ」
茉衣子があっけらかんと言う。
夕方にはまだ少し早いが、日差しは相変わらず強かった。それでも、かき氷の冷たさと海風のおかげで、身体の熱は少しずつ引いていった。一同はそれぞれ色のついた舌を見せ合いながら、しばらく海の家の前で笑っていた。
かき氷を食べ終え、しばらく海風に当たりながら休んでいると、茜が時計を見た。
「そろそろ帰るよ。片付け始めようか」
「えー、もう?」
茉衣子が露骨に不満そうな声を上げる。
「もう十分遊んだでしょ。帰るのにも時間かかるんだから」
「あと一時間ぐらい……」
「ダメ」
「三十分」
「交渉しないの」
茉衣子は口を尖らせた。健介はそのやり取りを見て、やっぱり親子みたいだな、と改めて思う。
「ほら、茉衣子。片付けるぞ」
慎吾が立ち上がる。
「お前までママ側につくなよ」
「遅くなるぞ。俺らはともかく、マ……お袋は南まで往復だぞ」
「……」
ママと言いかけた慎吾に指摘することもできないぐらいしょんぼりしている。ただ、さすがの茉衣子も観念したらしい。
一同はレジャーシートへ戻り、荷物をまとめ始めた。浮き輪の空気を抜き、濡れたタオルや水着を入れる袋を確認する。
「みんな、シャワー浴びて着替えてきなさい。荷物は私が見てるから」
「ねえねえ、ママ。最後に記念撮影しようよ。それはいいでしょ?」
茉衣子が茜にせがむ。茜は一瞬目を見開いたが、すぐに緩ませた。
「それもそうだね。じゃあ、最後に写真撮ろうか」
茉衣子は通りがかりの優しいお兄さんにスマホを預け、今日一日の締めくくりを記録してもらった。
茜の言葉で、水に入っていない茜を除く面々が、屋外のシャワーへ向かった。海水と砂をシャワーで流すだけでも、思った以上にさっぱりした。
男女の更衣室に分かれ、千宥のみそのまま引き返す。荷物を持って控えていた茜に車に連れていかれるのが見えた。
「疲れたな」
健介がタオルで髪を拭きながら言う。
「でも最高だったな」
「お前はずっと最高だっただろ」
「来年も行くさ」
後ろから泰造が割り込む。
「何で泰造さんが一番前のめりなんすか……」
「来年どころか、茉衣子なら来週また行くとか言い出しそうだけどな」
「それはありそうで怖い」
「血筋さ」
何故か泰造は得意げである。
「てか、俺ら来年受験生だろ」
「夏は受験の天王寺動物園ってか」
「天王山な」
もちろん、慎吾はわかってボケている。
「いいだろ、夏の一日ぐらいこんなことしても」
「お前は受かるだろうからいいけどさ」
慎吾はこう見えて学年トップクラスの成績を誇る。
「わかった、お前は置いていく」
「いや、そういうわけじゃなくてな」
健介が急にしどろもどろになる。
「今年は欠席者もいたから、来年はもっと呼ぼうね。アーキーに頼めば四、五人はいけるさ」
「だから、何で泰造さんが仕切るんですか」
三人は着替えを済ませ、更衣室を出た。もう更衣室からは、そのまま駐車場で合流する約束だった。茜も千宥を案内しつつ、取った場所を引き払ったのだ。
車の前に着くと、エンジンのかかったアルファードの後部座席に黒いカーテンが引かれていた。
「これが……」
千宥用の更衣室か、と健介は口にまでは出さなかった。
「おお、車に着いたなあ。よし、乗らないと」
慎吾が棒読みで後部座席のドアに手をかけ、茜にパシッと払われる。
「ってえ」
もちろんわざとである。すると、車のドアが開いた。
「ありがとうございました。……あ、健ちゃんたち、早かったね」
「おうよ、脱ぎ着するもんが少ねえからな」
慎吾が答えた。
「千宥、髪、濡れてるな」
健介が指摘する。タオルで拭いてはいるのだろうが、まだ湿っているように見える。口にした後で改めて見て、健介はドキッとした。
「さすがにドライヤーはないから。でも、こんなに海が楽しめて、嬉しかった」
千宥がはにかむ。
「おーい」
後ろから声が聞こえる。茉衣子だ。女子更衣室に行った全員を引き連れてきていた。
「千宥、案外早かったんだね」
茉衣子のすぐ横にいた雛灯が言った。
「うん、まあね。ひなちゃんちの車、広々してて、着替えやすかったよ」
「むしろ女子は時間かかったな」
横からその兄が口を挟む。
「しょうがないでしょ。髪乾かしてたんだから。……あ」
ここで、千宥の髪が湿っていることに気づく。
「あー、そっか。千宥。大丈夫?」
「あ、また家帰ってお風呂入るし……」
千宥が気遣うように言う。後ろから妹が駆け寄る。
「お姉ちゃん、来てよかった?」
「うん」
千宥は迷わず答えた。
「来年ももう断らなくて済みそう」
「千宥さん、私も楽しかったわ。お友達とこんなことして遊ぶの、初めて」
「え、そうなの? 東京の友達とも?」
てっきり、あっちで海水浴に行くのかと思いきや。千宥は意外だった。
「みんな気を使って誘ってくれないのよね。でも、茉衣子は遠慮ないから」
苦笑してみせるが、本当は嬉しそうだ。なるほど。千宥にはわかる。美佳は本来、あのお嬢様学校の中でも相当に格の高いお嬢様なのだ。
「あんだよ、美佳! そんなにあたしって強引かよ」
茉衣子が美佳を小突く。
「強引だからこその茉衣子、でしょ?」
「言うようになったなあ、お嬢も。こっちの生活も慣れてきたろ」
茉衣子が笑った。
「果文ちゃん、来年もいこ」
サラは果文とすっかり仲良くなったらしい。
「うん、また行こうね。アネックスのみんなのところにお邪魔してよかったよ」
「茉衣子ちゃん、言うてたで。果文ちゃんはもう実質チーアネやて」
「あはは、茉衣子ちゃんだなあ。私もアネックス住みたいな」
「お前、実家近くだろ」
横で健介が突っ込む。
「健ちゃんだってそうじゃん」
健介と果文は、元々家が近い同士だった。
「俺の実家はなくなった」
樋口家は元々借家だったうえに両親のW単身赴任で、今、姉と二人暮らししているのだ。
「あー。……うちのお父さん、どっか転勤にならないかな」
果文がため息をつく。
「その前にお前んち、持ち家だろ」
帰りも車の組み分けは行きと同じになった。
ムーヴの後部座席では、サラが乗って十分もしないうちに眠っていた。健介の肩にもたれかかり、完全に熟睡している。
「……動けねえ」
健介が小さくつぶやく。助手席の茉衣子も、さっきまで「全然疲れてねえ」と言っていたくせに、今では窓に頭を預けて目を閉じていた。
「こいつも寝てるじゃないすか」
「朝からはしゃぎすぎさ」
運転席の泰造が笑う。行きはあれだけ騒がしかった車内が、嘘のように静かだった。
「泰造さんは寝ないでくださいよ。泰造さんも大概はしゃいでたんですから」
「俺は起きとくのは得意さ」
「マジで休憩してもらっていいんで」
「どうしてもなら考えるさ」
そう言いつつも、高宮バイパスへ入った。ここから春若インターまではパーキングエリアもなく、走り切るしかない。山の景色が流れていく。健介も眠気に襲われたが、肩のサラを落とさないようにするだけで精いっぱいだった。
一時間あまりして、車はアネックス久世へ戻った。
「着いたよ、ほら」
泰造の声で茉衣子とサラが目を覚ます。
「……もう?」
「もうだよ。俺の肩返せ」
「健ちゃん、枕ありがとな」
「どういたしまして……」
健介が苦笑する。
アルファードからも皆が降りてくる。二生と果文も少し眠そうだった。
「今日はありがとうございました」
果文が茜と泰造に頭を下げる。
「うん。またいつでも来なさい」
泰造が言う。
「果文、今度は普通にアネックスにも遊びに来い」
茉衣子も続ける。
「え、いいの?」
「何でダメなんだよ。今日一日一緒にいたじゃん」
「いや、そうなんだけど……」
「うちにも来てよ、果文ちゃん」
二生が言う。果文は一瞬驚いたあと、嬉しそうに笑った。
「うん。今度行く」
「じゃあ決まりな」
茉衣子が勝手に話をまとめる。それぞれ荷物を持ち、住人たちは部屋へ戻っていった。
健介も106号室へ帰り、シャワーを浴び直した後、しばらくベッドに腰掛けていた。スマホが何度も震える。今回の海水浴の特設グループが作られていた。
古波蔵茉衣子『写真送るぞー!』
その直後から、今日撮った写真が次々と送られてくる。
海で水をかけ合っている写真。慎吾が砂に埋められている写真。青い舌を出しているサラと果文。泰造が妙に張り切っている写真。そして最後に、海を背に撮った集合写真が表示された。
健介は少しだけ画面を眺めた。茉衣子と慎吾が並び、二生の隣には果文がいる。美佳は当然のように千宥のそばにいた。サラは前列で大きく笑っている。雛灯もちょっと控えめに画面に収まっている。
去年の海水浴には参加できず、写真を見るだけだった千宥も、今年は当たり前のようにその中にいた。
「……まあ、いい写真なんじゃないか」
健介は写真を保存し、スマホを伏せた。そのまま勢いよくベッドへ身体を倒す。
「いってえ!」
肩に鋭い痛みが走った。慌てて起き上がり、鏡を見る。日焼け止めを塗ったはずの肩が、見事に赤くなっていた。
「慎吾、雑に塗りやがったな……」
その瞬間、またスマホが震える。
Shingo Tomonaga『肩いてえ』
健介は数秒、画面を見つめた。
「お前もかよ……」
健介は笑うしかなかった。
【次回予告】
今年も大花火の季節がやってきました。
という感じです。お楽しみに。
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