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第50話 アネックスの父親参観・朝長家の場合

<AI依存度>:

ほぼそのまま使用:45~50%

AI文をベースに改稿:25~30%

ユーザー独自の構成・設定・加筆:23~28%


ママ三部作を前にやったので、じゃあ、こんどはパパ三部作ってことで。執筆時点で筆者多忙の為、この三部作、総じてAI利用率高いです。

健介父に続き、今日のパパは泰造……ではありません。健介父同様、過去一回しか登場してないあのパパです。いつ登場したでしょうか?答えはあとがきで。


挿絵(By みてみん)

 一学期終了直前の火曜日、午後四時過ぎ、高(たか)宮(みや)市春(はる)若(わか)町のアパート、アネックス久(く)世(ぜ)の敷地内に、高校生三名と一人の男性がいた。

 高校生は古(こ)波(は)蔵(ぐら)茉(ま)衣(い)子(こ)、それに朝(とも)長(なが)慎(しん)吾(ご)と雛(ひな)灯(ひ)、双子の兄妹である。茉衣子の横にいる男性は古波蔵泰(たい)造(ぞう)、茉衣子の父だ。かなり白髪と皺が目立つが、祖父ではなく父で間違いない。

「だからよ、成績上がったって言ったじゃねえか」

「お前、一年前のこと忘れたのか? あんときも同じこと言って、二学期は見事に成績下がったさー」

「だからよ、塾行きはじめたんだろ。それに、一年前と違って、理系科目は強え味方がいんだ」

 そう言って、茉衣子は慎吾の背中を叩いた。

「ま、そういうことっすよ、泰造さん。でも、妙(たえ)ちゃんの三者面談って、どんな感じなんだ?」

 急に話題が変わる。茉衣子は一年七組、二年五組と、目下二年連続で榊(さかき)原(ばら)妙(たえ)子(こ)が担任である。ロリータファッションで教壇に立つという、可憐で風変わりで、でも授業やクラス運営はうまい彼女に、慎吾はあくまで異性としてではなく、知的な興味がある。

「妙ちゃんは頭いいさー。俺も言われた通りにやってみたら、ちゃんと当たってたさ」

 慎吾は今度は妹の方を向く。雛灯は今は二年七組だが、去年は茉衣子と同じクラスだったのだ。

「ほんと、ママもはっとさせられた、って言ってたし。なんというか、私が言うことじゃないのかなって思うけど、生徒を乗せるのがうまいなって思うよ。やっぱり、自分も九大卒だから、実感があるんだろうね」

「なるほどなあ。いいな、俺も妙ちゃんか、せめてたこ福(ふく)がよかったよ」

 たこ福とは、去年の慎吾の担任であり、現在の雛灯の担任でもある伊(い)福(ふく)のことである。

「うちなんかフカチョだぜ、体育だからさ、もう受験とか疎いのなんのって。多分、来年は担任はずれるべ。一年生までが限界だぞ、担任やんの」

 二年六組の慎吾が、現在の担任の深(ふか)町(まち)をディスる。

「まあ、な。でも、カモネギよりましじゃねえか?」

 茉衣子が横から口を挟む。カモネギとは学校中から嫌われている二年九組の担任、鴨(かも)川(がわ)のことである。

「ちげえねえ。妙ちゃん・たこ福がプラスなら、フカチョはゼロで、カモネギはマイナスだ。あいつなんぞ、ウチの学年どころか、この学校からいなくなればいいのに」

 慎吾が吐き捨てるように言う。

「まあ、とりあえず、話は尽きないが、そろそろ帰るか」

「おう、暑いしな」

 慎吾が音頭を取り、茉衣子が同調する。全員、ここに住んでいて、茉衣子は107号室に泰造と、姪の紗(サ)莱(ラ)と住んでおり、慎吾と雛灯は202号室で二人暮らしをしている。しかし、その時だった。

「あれ」

 雛灯が駐車場を見て声を漏らした。

「どした、ひな?」

 茉衣子が首をかしげる。

「うん、あの軽トラ、うちのに似てるなって思って」

「お前んち軽トラあるんか?」

「そりゃ、大工だもん。あるよ」

 慎吾と雛灯の実家は、工務店を経営している。

「ナンバー見たらわかるさ」

「そ、そうですよね。ちょっと近づきますね。私、目が悪くて」

 泰造に促され、半笑いで軽トラックに近づくと、途中で雛灯が固まった。

「あー、これ、うちのだわ」

 振り返って雛灯が苦笑する。

「何でだよ?」

 慎吾が言う。

「わかんないよ。ママ……?」

 さっきまで一緒にいて、そのままアルファードで去って行ったはずだ。

「なわけねえだろ。トラックなら……」

「……パパ? なんでよ」

「知るかよ」

 兄妹で話が進む。

 その時だった。アパートの階段から足音が聞こえてきた。作業着を着て、上を長くしたツーブロックに髷を結った大柄な男。慎吾と雛灯の父親、朝長大(だい)輔(すけ)である。

 その後ろには、もう一人誰かがいた。

挿絵(By みてみん)

「千(ち)宥(ひろ)、なんでいるのよ、うちのパパと」

 唖然としながら雛灯が言う。双子と茉衣子の同級生である、杠(ゆずりは)千宥だった。

「あ、ひなちゃんたち、帰ったんだ。おかえり」

 千宥が言う。

「おう、お前ら、遅かったじゃねえか。ママは一緒じゃねえのか?」

「……帰ったぞ」

「は?!」

 あっさりと言う慎吾に、大輔が叫ぶ。

「話が見えてこねえぞ。ちょっとどういう意味だ?」

 茉衣子が顔をしかめる。


 202号室、朝長家。帰宅した慎吾と雛灯の他に、その場にいた父、大輔に千宥、茉衣子、そして何故か泰造までついてきた。

「どうも。古波蔵茉衣子の親父の泰造さ」

「あー、噂の彼女の父ちゃんですか。慎吾たちの父の朝長です。どうも」

 父親同士、握手を交わす。

「いやー、やっと挨拶できたさ。母ちゃんはこないだ会ったさ」

「こちらこそ。慎吾の彼女ちゃんも、まだ『二度目まして』なんすわ」

「うん。でも母ちゃんにはもうウチの茉衣子もすっかり懐いてるさ」

 お互い、噂になっている同士の念願の対面なので、話が弾むが、状況はまだまだこんがらがりっぱなしである。

「それはいいけどさ、どういう状況なんだよ、これ」

 慎吾が声を上げる。

「何でパパがここにいるのか、何で千宥と一緒にいたのか、とか、まだわかんないままよ」

 雛灯も兄に同調する。

「俺はたまたま通りがかったんだよ」

 大輔が言う。それぞれの話をつなぎ合わせると、事情はこうだった。

 本日、三者面談につき、授業は早めに終わっていたが、茉衣子、慎吾、雛灯は全員校内に居残っていた。というのも全員が面談予定日だったからだ。

 五組の茉衣子は泰造と、六組の慎吾と七組の雛灯は母、茜(あかね)と面談をすませ、両家ほぼ同時刻に終了した。

 この段階で泰造と茜が挨拶を交わしたが、先日会ったばかりであるし、茜も市内での買い物の予定を入れていたため、お茶したりとかはなく、アネックスの前まで四人を送り、そのまま春若を後にした。

 ほぼ同じ頃、仕事で春若の近所を訪れていた大輔は、仕事がひと段落したことから、このアネックス久世を訪れた。今日、茜が春若に来ているので、もしかすると三人で家で過ごしているのかと思いつつだ。

 しかし、三人でいるどころか、慎吾も雛灯も返事をしない。もしかして、部屋番号を間違えたか? 茜に連絡を取ろうとするが、返事がない。電話もしてみたが、出ない。

 もう一度かけてみようか、そう考えていた時に現れたのが、207号室から出てきた千宥だった。尋ねたところ、子供達の友人であることが分かり、部屋は間違っていないことが分かった。

「もしかして、まだ帰ってないだけかもしれませんよ」

 という千宥のアドバイスで、エントランスまで降りてきたところだった。

 ――これが真相だった。

「とりあえず、入れ違いになったわけだな」

 慎吾が呆れたように言う。

「こっちは何度呼んでも出ねえし、電話しても返事ねえし、部屋番号間違えたかと思ったんだぞ」

「運転中だったんじゃない?」

 雛灯が言った。

「運転中だったら逆に出るだろ。ブルートゥースでつながってるだろうから」

「あ、そっか」

 慎吾のさらなるツッコミに、雛灯は素直に応じた。

「今の車は便利さ」

 泰造まで口を挟む。会話を聞きながら、茉衣子が首をひねる。

「でも、運転してるんなら、何で出ないんだよ?」

「それは、わかんないなあ。ママ、スマホ、どっかに忘れたのかな」

 雛灯が首をかしげる。

「ひとまず、もう一回電話かけてみませんか?」

 千宥の提案に、大輔がスマートフォンを取り出した。

「今度は出るかもしれねえしな」

 そのまま茜へ電話をかける。数回の呼び出し音の後、通話がつながった。

『もしもし?』

「おう、俺だ」

『分かるってば。何?』

「何じゃねえよ。今どこだ」

『運転中だけど?』

「さっき何で出なかったんだ」

『ああ、ごめん。コンビニでトイレしてたからかな』

 なるほど、車のブルートゥースも接続されていないタイミングにぶつかったのだろう。

「慎吾とひな降ろしてそのまま帰ったんか」

『言ったでしょう。面談が終わったら買い物して帰るって』

「俺は聞いてねえぞ」

『言ったってば』

 あっさり返され、大輔が眉を寄せる。

「お前なあ」

『何よ。仕事だったんでしょう?』

「まあ、そうだけどよ。今、春若にいる」

『春若?』

「こいつらのアパートだ」

 一瞬、電話の向こうが静かになった。

『……何で?』

「仕事が早く終わったから寄ったんだよ」

『連絡もせずに?』

「近くまで来たからな。白(しら)百合(ゆり)で仕事して、ふと思い立った。久世近所やって」

『泥棒じゃないんだから、普通は先に連絡するでしょ』

「ぼちぼち帰ってきてんだろって思って。お前も来る日だって聞いてたしな」

『こっちは知らないから出てきたよ』

 茜の声が大きくなり、大輔がわずかにスマートフォンを耳から離した。

『で、慎吾と雛灯はいたの?』

「今はいる。さっき帰ってきた」

挿絵(By みてみん)

『今は、って何よ』

「俺が来た時はいなかったんだよ。代わりに友達が出てきた」

 大輔が千宥を見る。つられて、その場にいる全員の視線が千宥へ集まった。千宥は困ったように笑った。

「二階の奥だぞ、かわいい女の子だ」

 女の子、という言葉に、千宥がちょっと恥ずかしそうにはにかむ。

『ああ、千宥ちゃんね』

「知ってんのか?」

『当たり前でしょ。家でも何度も話に出たでしょ。ほんとは男だっていう。年末帰った時にも同じ階だって言ってたじゃん』

「ああ、あの子か」

 千宥は一転、静かに苦笑する。まあ、仕方ない。事情を知らない身からすれば、「かわいいけど男」というのは自然な感想である。

「それでよ。茉衣子ちゃんと、その親父さんもいる」

『何でそんなことになってるのよ』

「……わかんねえけど、成り行きだよ」

 大輔が首を傾げつつ泰造を見る。

「いや、俺たちは最初からここにいただけさー」

 泰造は電話に聞こえるよう、少し声を張った。

『泰造さん、いるんですかー?』

「どうもー」

『あら、どうも。先日はありがとうございました』

「こちらこそさー。孫までごちそうになって、ありがとうね」

『とんでもないですー。……とにかく、パパ。あんまり迷惑かけないでよ』

「俺が何したってんだよ」

『そこにいるだけで騒がしいのよ』

「ひでえ言い方だな」

『あと、勝手に冷蔵庫開けたり、部屋の物いじったりしないでよ』

「何で分かんだよ」

『あんたならやるから』

 大輔は無言になった。慎吾と雛灯が、そろって父親を見る。

「……もう開けたの?」

 雛灯が聞く。

「まだだよ」

「まだ、ってことは開ける気だったんじゃねえか」

 慎吾が呆れる。

『ほらね』

 電話の向こうで茜が言った。

「うるせえな。子供がちゃんと飯食ってるか見るぐらいいいだろ」

『昨日電話で聞いたら、ちゃんと食べてるって言ってたわよ』

「口じゃ何とでも言えるだろ」

『そうやって信用しないから、子供に嫌がられるの』

「信用してねえんじゃねえ。確認だよ」

『同じよ』

 大輔が何か言い返そうとしたが、雛灯が先に口を開いた。

「ママ、別にいいよ。パパ、そんな長くいないんでしょ?」

「何でお前まで俺を追い返そうとしてんだ」

「追い返してないよ。何時に帰るのかなって」

『だからあんまり遅くならないようにね。じゃ』

 大輔はスマートフォンを作業着の胸ポケットへ戻す。

「にしても、意外と広いな、この部屋」

 大輔が改めて室内を見回す。

「二人で住むには十分だろ」

「まあな。思ってたよりちゃんとしてる」

「何だよ、もっとひでえと思ってたのか?」

「お前がいるからな」

「俺を何だと思ってんだ」

「散らかす側」

「即答すんな」

 大輔は慎吾を無視する。

「まあ、でも、慎吾はパパに似たんだと思うけどね」

 雛灯が茉衣子と千宥にだけ聞こえる声量で言う。大輔は、今度は台所へ視線を向けた。

「で、どっちが飯作ってんだ?」

「両方」

 雛灯が答える。

「本当か?」

 大輔は慎吾を見る。

「何で俺に聞くんだよ」

「お前が作ってる姿、想像できねえから」

「作るって。チャーハンとか、焼きそばとか」

「炭水化物ばっかじゃねえか」

「肉も入ってる」

「そういう問題じゃねえ」

 大輔の目つきが変わった。

「お前、ひなにばっかやらせてねえだろうな」

「やらせてねえよ」

「ほんとか?」

「ほんとだって」

「掃除は?」

「分担してる」

「洗濯は?」

「それも分担」

「ゴミ出しは?」

「俺」

 雛灯が横から口を挟む。

「半分ぐらい私」

「半分は俺だろ」

「曜日忘れて、私が出すことの方が多いじゃん」

「それはたまにだろ」

「先週も忘れた」

「うるせえな」

 兄妹の言い合いを、大輔は腕を組んで眺めていた。その顔には呆れと、ほんのわずかな安堵が混じっていた。

「まあ、二人とも生きてはいるみてえだな」

「見りゃ分かるだろ」

 慎吾が言う。

「わかんねえよ。春若のお前らのことは。俺は南でのお前らしか知らねえ」

 思いがけず静かな声だった。慎吾が少しだけ目を細める。大輔はすぐに視線をそらし、台所の方へ歩いていった。

「よし。とりあえず、冷蔵庫見るぞ」

「結局開けんのかよ!」

 慎吾の声が、202号室に響いた。

「うるせえな。開けられて困るもんでも入ってんのか?」

「そういう問題じゃねえだろ」

 大輔は構わず冷蔵庫の扉を開けた。中には卵、牛乳、納豆、豆腐、半分ほど残ったキャベツ、パックに入った豚肉。それに、保存容器が二つほど並んでいる。

「……思ったより入ってんな」

「だから、ちゃんと暮らしてるって言ってんだろ」

 慎吾が胸を張る。

「これ、何だ?」

 大輔が保存容器の一つを取り出した。

「昨日の肉じゃが」

 答えたのは雛灯ではなく、茉衣子だった。大輔が顔を上げる。

「知ってんだな、茉衣子ちゃん」

「昨日食ったから」

「ここで?」

「ここで」

 茉衣子は何でもないことのようにうなずく。大輔は容器と茉衣子を交互に見た。

「ずいぶん出入りしてんだな」

「うん、しょっちゅう。普通に。まあ、慎吾があたしんちに来る方が多いっすけどね」

「普通にか?」

「普通にだよな?」

 茉衣子が慎吾へ同意を求める。

「まあ、普通……だろ」

「何でお前まで自信ねえんだよ」

「変な聞き方するからだろ」

 大輔は冷蔵庫へ容器を戻すと、今度は食器棚へ目を向けた。

「茶でも飲むか」

「勝手に決めんなよ」

「客が来たら茶ぐらい出せ」

「客が自分で言うな」

 慎吾が言い返している間に、茉衣子が立ち上がった。

「はいはい、あたしが」

 大輔の動きが止まる。

「やっぱり詳しいじゃねえか」

「あたし、麦茶ぐらい何回も飲んでるし」

「茉衣子、余計なこと言わなくていい」

 慎吾が顔をしかめる。

「何が余計なんだよ」

「いや、別に」

「何だよ」

 二人のやり取りを眺め、大輔はにやりと笑った。

挿絵(By みてみん)

「なるほどな。思ってたより馴染んでんな」

「どういうの想像してたんだよ」

 慎吾が眉をひそめる。

「もっと遠慮して、端っこで小さくなってるようなの」

「茉衣子が?」

 慎吾と雛灯が同時に言った。

「何だよ、その反応」

 茉衣子が二人を睨む。千宥が口元を押さえて笑い、泰造も肩を揺らした。

「まあ、茉衣子が遠慮する姿は、父親の俺でもあんまり見たことないさー」

「なんだよ、父ちゃんまで」

「でも、その方がいい」

 大輔が麦茶をコップへ注ぎながら言った。

「慎吾に遠慮してたら、こいつ調子に乗るからな」

「ほぼ初対面に近え彼女に何吹き込んでんだよ」

「吹き込むも何も、事実だろ」

「そうかもしれねっすね」

 茉衣子があっさり同意する。

「お前まで乗るなよ」

「で、茉衣子ちゃんは、慎吾のどこがよかったんだ?」

 大輔が唐突に尋ねた。

「は?」

「何聞くんだ!」

 慎吾が声を上げる。

「何だよ。息子の彼女に聞くぐらいいいだろ」

「ほぼ初対面で聞くことか?」

「別に減るもんじゃねえし」

「俺の精神が減るんだよ」

 茉衣子は腕を組み、少し考えた。

「ちょくちょく考えるんだ。何であたしこいつと付き合ってんだろなって」

「おい!」

 慎吾も一応、大声は出しておく。もう既に何回も面と向かって言われていることではあるのだが。

「まあ、一緒にいて楽だからかな」

「へえ」

「女好きだし、すぐ格好つけるし、面倒くせえとこもあるけど」

「悪いとこばっかじゃねえか」

「でも、いざって時はちゃんと動くしな。あたしが困ってたら、なんだかんだ助けてくれる」

 慎吾は何も言わず、露骨に視線をそらした。大輔がその横顔を見る。

「お前、彼女の前だとそんななのか」

「そんなって何だよ」

「家じゃ文句言ってるばっかからな」

「家族と彼女で同じなわけねえだろ」

「その言い方、パパそっくり」

 雛灯が言った。

「どこがだよ」

「慎吾、マジでパパ似だよな」

 茉衣子も笑う。

「似てねえ」

「俺もこいつとは似てねえ」

 大輔まで同時に否定した。千宥が小さく吹き出す。大輔は麦茶を一口飲むと、改めて室内を眺めた。

「しかし、こうして見ると、ずいぶん人が出入りしてんだな」

「まあな」

 慎吾が答える。

「茉衣子も千宥ちゃんもいるし、他にも何人かいるぞ」

「飯も一緒に食うのか?」

「まあ……たまにかな。なんか、冬に鍋パーティーとかそういうのはしたことあるよ」

 今度は雛灯が答えた。

「なんか、昔ながらのご近所づきあいみてえだな」

「最初からこうだったわけじゃないですけどね」

 千宥が言う。

「いろいろあって、気づいたらこうなってた感じですよ」

「千宥ちゃんも、こいつらに世話になってんのか?」

 大輔が尋ねる。

「もちろん。慎吾くんやひなちゃんはもちろん、本当に皆にはお世話になってるんです」

 自分自身のことで、この半年足らずに色々あったことを思い出し、千宥は遠い目をした。

「あと、ありがたいことに、私を頼ってくれることもあるし……」

「慎吾とか、糞の役にも立たねえだろうけど、まあ、いいようにしてやってくれよ」

「とんでもないです。本当にお世話になってるんですから」

 千宥は微笑みながら思い出す。あの時、慎吾くんがいたから、私は自然とチーム・アネックスのみんなの前で話せた。

「賢いから、こうこうこう思うけど、どう?ってわかりやすくまとめてくれるんです。ひなちゃんは冷静だから、心乱されたときに落ち着かせてくれるって言うか」

「なあなあ、千宥、あたしは?」

 茉衣子も欲しがる。お父さんの前だから慎吾くんたちの話をしたんだけどな……。千宥は苦笑する。

「茉衣子ちゃんは、何でも正直に言ってくれるところと、熱血なところ」

「おう、二個も。悪いな」

 茉衣子は上機嫌だ。千宥はほっと力を抜く。

「こうやってみんなで助け合って、みんなここで生活してるんです。慎吾くんは結構みんなのこと見てくれますし」

 千宥が穏やかに言った。

「まあ、あたしらが困ったら、文句言いながら手伝ってくれるし」

 茉衣子が口を挟む。

「文句は言うんだな」

「そこは慎吾だから」

 雛灯が即答する。

「お前ら、本人の前で好き放題言うなよ」

 慎吾は不満そうだったが、誰も悪く言っているわけではないことは分かっているらしく、それ以上は反論しなかった。

 大輔はしばらく黙っていた。自分の知らない場所で、息子と娘が二人きりで暮らしている。そう思っていた。しかし実際には、同じ建物に、互いに様子を知る者がいて、助け合って暮らしている。それも、今いるのはその一部らしい。

「まあ、孤立してねえならいいか」

 大輔がぽつりと言った。

「何だよ、急に」

 慎吾が聞き返す。

「別に。お前らだけでやっててパンクしてるとな、思ってたからてっきり」

「だから、ここに茉衣子たちが住んでるのにはびっくりしたけど、来て正解だったよ」

 雛灯が笑う。大輔はうなずき、それから泰造へ向き直った。

「泰造さんもいるなら安心ですね」

「俺は火曜日以外はあんまりいないからね。でも、なんかあったらすぐ飛んでこようね。朝長さんも色々、遠慮はいらないさ」

「なんか保護者会みたいなの立ち上げようとしてないです?」

 慎吾が言う。

「いいじゃねえか。子供同士がつるんでんだから、親同士も連絡取っといた方が早いだろ」

「監視網が広がるだけだろ」

「悪いことしなきゃ困らねえ」

「そういう問題じゃねえんだよ」

 その時だった。誰かのスマホが鳴った。

「あ、あたしだ……もしもし」

 茉衣子が電話を取る。

「ん? 慎吾んち。ああ、じいじもいるぜ。うん、珍しく一緒にな。ああ、飯だろ。うん、もう帰るぜ」

 茉衣子が電話を切った。

「父ちゃん、サラからだったぞ。どこおる?って言われた」

「あい、大変さ。サラに晩ごはん作らないと」

 親子はすっと立ち上がった。下の階で待つ姪もしくは孫のために帰ることにした。

「それじゃ、俺たちは帰ろうね。朝長さん、またいつか。慎吾、ちょっとは孝行しなさい。ひなちゃんも千宥ちゃんも、じゃあ」

「じゃあ、慎吾のパパもまた近いうちに!」

 二人が去る。

「ああ、すんません。じゃ、ここで」

 大輔は軽く立ち上がり会釈した。

「私も帰ります。今日はありがとうございました」

 千宥も茉衣子親子について行くように一礼してその場を後にする。

 三人が、客人を見送ると、大輔はもう一度冷蔵庫を開けた。

「で、今日の晩飯は?」

「まだ決めてねえ」

「何か買いに行くか」

「何でパパが仕切るんだよ」

「俺がお前に男の料理を伝授する」

「……いいよ。俺、それなりにやってっから」

「パパ、お願い」

 ぶすっとする慎吾の横から雛灯が父親に言う。

「とにかく、買い物行くぞ。慎吾、荷物持ちで来い。あと、スーパー案内しろ」

「何で俺が」

「息子だからだろ」

 有無を言わせない大輔に、慎吾は深いため息をついた。居間のソファに戻らず、父親と息子は、そのまま玄関へと歩いて行った。

「じゃ、牛乳買ってきて」

「お前は行かないのか」

 慎吾が雛灯に言う。

「二人乗りでしょ、あれ」

「……ああ」

 慎吾はため息をつく。

「慎吾、ちゃんと見ててよ。パパに任せると肉ばっか買うから」

「肉食わなきゃ大きくならねえぞ」

「もう十分大きいよ」

「早く行くぞ。店閉まる前に」

「まだ五時前だろうが」

 二人で車に乗り込み、慎吾はため息をつきつつ玄関を出た。


 二人で車に乗り込み、大輔が車を発進させる。

「で、スーパーどこだ?」

 大輔がハンドルを握りながら尋ねた。

「知らねえのに出たのかよ」

「お前が知ってんだろ」

「出て左だよ。学校の入口の次んとこを、斜め右に行ったらつくよ」

 慎吾が案内する。

挿絵(By みてみん)

 車内は狭く、二人の肩が近かった。実家では家族全員で乗る車が別にあるため、こうして大輔と軽トラックに二人で乗る機会はほとんどなかった。

「この辺、もう慣れたか?」

「まあな、半年以上たったし、そりゃな」

「南より便利だろ」

「まあ、店は多いな。学校も近いし」

「うるさくねえか?」

「何が?」

「人が多いだろ。アパートも、あんな感じだし」

 慎吾は少し考えた。

「それが楽しくて羨ましそうだったから、入ったんだよ。バスに往復三時間揺られるより、三時間、あいつらとわちゃわちゃしてる方がいい」

「そうか」

 大輔はそれ以上聞かなかった。

 スーパーに着くと、大輔は、慎吾の押すカートに、豚肉、鶏肉、牛肉を次々とかごへ放り込んだ。

「待て待て。何人分買う気だよ」

「余ったら明日食えばいいだろ」

「冷蔵庫そんな広くねえぞ」

「冷凍しろ」

「野菜も買えって言われただろ」

「肉にも栄養ある」

「そういう話じゃねえ」

 慎吾がキャベツ、もやし、玉ねぎを追加し、牛乳もかごへ入れた。

「お前、ちゃんと値段見るんだな」

「見るだろ、普通」

「実家じゃ見たことなかったぞ」

「実家じゃ自分で金払わねえからな」

「今は?」

「仕送りからだよ。もらった金でも、切り詰めるもんは切り詰める。俺もやってるつもりなんだけど、それでもひなから怒られるんだ。……今日は出してくれるんだろうけどな」

「ちゃっかりしてんな」

 大輔は笑いながら、さらに大きな豚肉のパックを入れた。

 会計を終え、慎吾が両手に袋を提げる。

「重っ。買いすぎだろ」

「荷物持ちで来たんだから働け」

「二人いるんだから持ってくれよ」

「俺は運転する」

「行きは何も持ってなかっただろ」

 文句を言いながらも、慎吾は袋を荷台ではなく助手席の足元へ積んだ。


 アネックスへ戻ると、雛灯がすでに米を研ぎ終えていた。

「遅かったね」

「パパが肉ばっか入れるから止めてた」

「お前も結構入れてただろ」

「俺は必要な分だけだ」

「どっちでもいいから、手洗って」

 雛灯に言われ、二人は並んで洗面所へ向かった。

 大輔が作ると言い出したのは、豚肉と野菜の炒め物だった。包丁を握る手つきは雑に見えて速い。キャベツを大きめに切り、玉ねぎを厚く刻み、豚肉を豪快にフライパンへ入れる。

「油多くね?」

「これぐらいでいいんだよ」

「火、強すぎない?」

「男の料理は強火だ」

「焦げる料理の間違いだろ」

「うるせえ。黙って見てろ」

 慎吾は呆れながらも、雛灯とともに付け合わせのサラダの準備をする。雛灯が野菜を洗い、受け渡して慎吾が切って盛り付ける。

「慎吾、邪魔」

「俺じゃなくてパパが詰めてるんだよ」

「右が流しなんだよ、しゃあねえだろ」

挿絵(By みてみん)

 完成した炒め物は、見た目通り味が濃かった。

「濃ゆい」

 慎吾が一口目で言う。

「飯が進むだろ」

「でも、おいしいよ」

 雛灯が素直に褒める。

「だろ?」

 大輔が得意そうに胸を張る。

「味噌と醤油と何入れた?」

 慎吾が聞いた。

「適当」

「それじゃ次作れねえだろ」

「舌で覚えろ」

「昔の職人かよ」

「職人だよ」

 言われてみれば、その通りだった。

 食事中、大輔は学校の話をほとんどしなかった。代わりに、近くの店はどこが安いのか、朝は何時に起きるのか、体調を崩した時はどうしているのか、そんなことを聞いた。

 慎吾と雛灯は、面倒そうにしながらも一つずつ答えた。

「病院は?」

「近くにあるよ」

「夜、何かあったら?」

「茉衣子とか千宥ちゃんたちもいるし。最悪、タクシー呼ぶ」

「そうか」

 大輔は短く答え、炒め物を口に運んだ。

 食後、慎吾と雛灯が皿を片づけている間に、大輔は部屋の引き戸を何度か動かしていた。

「これ、引っかかるな」

「前からちょっとね」

 雛灯が答える。

「大家さんに言ったんだけどね」

「おじちゃんも、こういう作業は専門じゃないもんな」

 このアパートの大家、根(ね)〆(じめ)昭(あき)信(のぶ)は元住宅メーカー勤務でアパート管理にはたけているが、大工作業はあまり得意ではないらしい。

「この程度ならすぐ直る。待ってろ」

 大輔はそう言い残して外に出た。およそ三分。軽トラックから工具箱を持って戻ってきた。

「勝手にやっていいのかよ」

「壊すわけじゃねえ」

 しゃがみ込み、戸車を調整する。

挿絵(By みてみん)

 数分後、引き戸は先ほどまでの重さが嘘のように滑らかに動いた。

「ほら」

「早っ」

 雛灯が何度か開け閉めする。

「さすが本職」

 慎吾も少し感心したようだった。

「こういうのは俺に言え。待たせねえぞ」

「遠いだろ」

「仕事でこっち来ることもある」

「今日みたいに?」

「まあな」

 時刻は七時半。日の長い真夏ではあるが、さすがに外は薄暗くなっていた。大輔は工具箱を持ち、玄関で靴を履く。

「じゃあ、帰るわ」

「気をつけてね」

 雛灯が言う。

「ママに、あんまり遅くならないようにって言われてたぞ」

 慎吾が付け足す。

「分かってるよ」

 大輔は玄関を出かけてから、一度振り返った。

「まあ、思ってたよりちゃんとやってんな」

「思ってたより、は余計」

「主にひなのおかげだな」

「俺は?」

「お前は、周りに恵まれてる」

 慎吾が何か言い返そうとして、やめた。

「……まあ、それはそうかもな」

「たまには連絡しろよ」

「ママにはしてる」

「俺にもだよ」

「用があったらな」

「それでいい」

 大輔は笑い、階段を下りていった。

 やがて軽トラックのエンジン音が聞こえ、駐車場から遠ざかっていく。慎吾が部屋へ戻り、何気なく引き戸を動かした。それは少しの抵抗もなく、静かに開いた。

「パパ、来てよかったね」

 雛灯が言う。

「まあ、飯は濃ゆかったけどな」

「おかわりしてたじゃん」

「腹減ってたんだよ」

 慎吾はもう一度だけ戸を開け閉めし、台所へ戻った。

「ほら、洗い物残ってるぞ」

「慎吾の番ね」

「分かってるよ」

 春若での二人の生活は、父親が帰った後も、いつも通り続いていった。

【次回予告】

パパ三部作最後は……。大企業の社長!

という感じです。お楽しみに。

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ちなみに、朝長大輔の登場は第11話、慎吾と雛灯がアネックスに入居する時でした。

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