第50話 アネックスの父親参観・朝長家の場合
<AI依存度>:
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AI文をベースに改稿:25~30%
ユーザー独自の構成・設定・加筆:23~28%
ママ三部作を前にやったので、じゃあ、こんどはパパ三部作ってことで。執筆時点で筆者多忙の為、この三部作、総じてAI利用率高いです。
健介父に続き、今日のパパは泰造……ではありません。健介父同様、過去一回しか登場してないあのパパです。いつ登場したでしょうか?答えはあとがきで。
一学期終了直前の火曜日、午後四時過ぎ、高宮市春若町のアパート、アネックス久世の敷地内に、高校生三名と一人の男性がいた。
高校生は古波蔵茉衣子、それに朝長慎吾と雛灯、双子の兄妹である。茉衣子の横にいる男性は古波蔵泰造、茉衣子の父だ。かなり白髪と皺が目立つが、祖父ではなく父で間違いない。
「だからよ、成績上がったって言ったじゃねえか」
「お前、一年前のこと忘れたのか? あんときも同じこと言って、二学期は見事に成績下がったさー」
「だからよ、塾行きはじめたんだろ。それに、一年前と違って、理系科目は強え味方がいんだ」
そう言って、茉衣子は慎吾の背中を叩いた。
「ま、そういうことっすよ、泰造さん。でも、妙ちゃんの三者面談って、どんな感じなんだ?」
急に話題が変わる。茉衣子は一年七組、二年五組と、目下二年連続で榊原妙子が担任である。ロリータファッションで教壇に立つという、可憐で風変わりで、でも授業やクラス運営はうまい彼女に、慎吾はあくまで異性としてではなく、知的な興味がある。
「妙ちゃんは頭いいさー。俺も言われた通りにやってみたら、ちゃんと当たってたさ」
慎吾は今度は妹の方を向く。雛灯は今は二年七組だが、去年は茉衣子と同じクラスだったのだ。
「ほんと、ママもはっとさせられた、って言ってたし。なんというか、私が言うことじゃないのかなって思うけど、生徒を乗せるのがうまいなって思うよ。やっぱり、自分も九大卒だから、実感があるんだろうね」
「なるほどなあ。いいな、俺も妙ちゃんか、せめてたこ福がよかったよ」
たこ福とは、去年の慎吾の担任であり、現在の雛灯の担任でもある伊福のことである。
「うちなんかフカチョだぜ、体育だからさ、もう受験とか疎いのなんのって。多分、来年は担任はずれるべ。一年生までが限界だぞ、担任やんの」
二年六組の慎吾が、現在の担任の深町をディスる。
「まあ、な。でも、カモネギよりましじゃねえか?」
茉衣子が横から口を挟む。カモネギとは学校中から嫌われている二年九組の担任、鴨川のことである。
「ちげえねえ。妙ちゃん・たこ福がプラスなら、フカチョはゼロで、カモネギはマイナスだ。あいつなんぞ、ウチの学年どころか、この学校からいなくなればいいのに」
慎吾が吐き捨てるように言う。
「まあ、とりあえず、話は尽きないが、そろそろ帰るか」
「おう、暑いしな」
慎吾が音頭を取り、茉衣子が同調する。全員、ここに住んでいて、茉衣子は107号室に泰造と、姪の紗莱と住んでおり、慎吾と雛灯は202号室で二人暮らしをしている。しかし、その時だった。
「あれ」
雛灯が駐車場を見て声を漏らした。
「どした、ひな?」
茉衣子が首をかしげる。
「うん、あの軽トラ、うちのに似てるなって思って」
「お前んち軽トラあるんか?」
「そりゃ、大工だもん。あるよ」
慎吾と雛灯の実家は、工務店を経営している。
「ナンバー見たらわかるさ」
「そ、そうですよね。ちょっと近づきますね。私、目が悪くて」
泰造に促され、半笑いで軽トラックに近づくと、途中で雛灯が固まった。
「あー、これ、うちのだわ」
振り返って雛灯が苦笑する。
「何でだよ?」
慎吾が言う。
「わかんないよ。ママ……?」
さっきまで一緒にいて、そのままアルファードで去って行ったはずだ。
「なわけねえだろ。トラックなら……」
「……パパ? なんでよ」
「知るかよ」
兄妹で話が進む。
その時だった。アパートの階段から足音が聞こえてきた。作業着を着て、上を長くしたツーブロックに髷を結った大柄な男。慎吾と雛灯の父親、朝長大輔である。
その後ろには、もう一人誰かがいた。
「千宥、なんでいるのよ、うちのパパと」
唖然としながら雛灯が言う。双子と茉衣子の同級生である、杠千宥だった。
「あ、ひなちゃんたち、帰ったんだ。おかえり」
千宥が言う。
「おう、お前ら、遅かったじゃねえか。ママは一緒じゃねえのか?」
「……帰ったぞ」
「は?!」
あっさりと言う慎吾に、大輔が叫ぶ。
「話が見えてこねえぞ。ちょっとどういう意味だ?」
茉衣子が顔をしかめる。
202号室、朝長家。帰宅した慎吾と雛灯の他に、その場にいた父、大輔に千宥、茉衣子、そして何故か泰造までついてきた。
「どうも。古波蔵茉衣子の親父の泰造さ」
「あー、噂の彼女の父ちゃんですか。慎吾たちの父の朝長です。どうも」
父親同士、握手を交わす。
「いやー、やっと挨拶できたさ。母ちゃんはこないだ会ったさ」
「こちらこそ。慎吾の彼女ちゃんも、まだ『二度目まして』なんすわ」
「うん。でも母ちゃんにはもうウチの茉衣子もすっかり懐いてるさ」
お互い、噂になっている同士の念願の対面なので、話が弾むが、状況はまだまだこんがらがりっぱなしである。
「それはいいけどさ、どういう状況なんだよ、これ」
慎吾が声を上げる。
「何でパパがここにいるのか、何で千宥と一緒にいたのか、とか、まだわかんないままよ」
雛灯も兄に同調する。
「俺はたまたま通りがかったんだよ」
大輔が言う。それぞれの話をつなぎ合わせると、事情はこうだった。
本日、三者面談につき、授業は早めに終わっていたが、茉衣子、慎吾、雛灯は全員校内に居残っていた。というのも全員が面談予定日だったからだ。
五組の茉衣子は泰造と、六組の慎吾と七組の雛灯は母、茜と面談をすませ、両家ほぼ同時刻に終了した。
この段階で泰造と茜が挨拶を交わしたが、先日会ったばかりであるし、茜も市内での買い物の予定を入れていたため、お茶したりとかはなく、アネックスの前まで四人を送り、そのまま春若を後にした。
ほぼ同じ頃、仕事で春若の近所を訪れていた大輔は、仕事がひと段落したことから、このアネックス久世を訪れた。今日、茜が春若に来ているので、もしかすると三人で家で過ごしているのかと思いつつだ。
しかし、三人でいるどころか、慎吾も雛灯も返事をしない。もしかして、部屋番号を間違えたか? 茜に連絡を取ろうとするが、返事がない。電話もしてみたが、出ない。
もう一度かけてみようか、そう考えていた時に現れたのが、207号室から出てきた千宥だった。尋ねたところ、子供達の友人であることが分かり、部屋は間違っていないことが分かった。
「もしかして、まだ帰ってないだけかもしれませんよ」
という千宥のアドバイスで、エントランスまで降りてきたところだった。
――これが真相だった。
「とりあえず、入れ違いになったわけだな」
慎吾が呆れたように言う。
「こっちは何度呼んでも出ねえし、電話しても返事ねえし、部屋番号間違えたかと思ったんだぞ」
「運転中だったんじゃない?」
雛灯が言った。
「運転中だったら逆に出るだろ。ブルートゥースでつながってるだろうから」
「あ、そっか」
慎吾のさらなるツッコミに、雛灯は素直に応じた。
「今の車は便利さ」
泰造まで口を挟む。会話を聞きながら、茉衣子が首をひねる。
「でも、運転してるんなら、何で出ないんだよ?」
「それは、わかんないなあ。ママ、スマホ、どっかに忘れたのかな」
雛灯が首をかしげる。
「ひとまず、もう一回電話かけてみませんか?」
千宥の提案に、大輔がスマートフォンを取り出した。
「今度は出るかもしれねえしな」
そのまま茜へ電話をかける。数回の呼び出し音の後、通話がつながった。
『もしもし?』
「おう、俺だ」
『分かるってば。何?』
「何じゃねえよ。今どこだ」
『運転中だけど?』
「さっき何で出なかったんだ」
『ああ、ごめん。コンビニでトイレしてたからかな』
なるほど、車のブルートゥースも接続されていないタイミングにぶつかったのだろう。
「慎吾とひな降ろしてそのまま帰ったんか」
『言ったでしょう。面談が終わったら買い物して帰るって』
「俺は聞いてねえぞ」
『言ったってば』
あっさり返され、大輔が眉を寄せる。
「お前なあ」
『何よ。仕事だったんでしょう?』
「まあ、そうだけどよ。今、春若にいる」
『春若?』
「こいつらのアパートだ」
一瞬、電話の向こうが静かになった。
『……何で?』
「仕事が早く終わったから寄ったんだよ」
『連絡もせずに?』
「近くまで来たからな。白百合で仕事して、ふと思い立った。久世近所やって」
『泥棒じゃないんだから、普通は先に連絡するでしょ』
「ぼちぼち帰ってきてんだろって思って。お前も来る日だって聞いてたしな」
『こっちは知らないから出てきたよ』
茜の声が大きくなり、大輔がわずかにスマートフォンを耳から離した。
『で、慎吾と雛灯はいたの?』
「今はいる。さっき帰ってきた」
『今は、って何よ』
「俺が来た時はいなかったんだよ。代わりに友達が出てきた」
大輔が千宥を見る。つられて、その場にいる全員の視線が千宥へ集まった。千宥は困ったように笑った。
「二階の奥だぞ、かわいい女の子だ」
女の子、という言葉に、千宥がちょっと恥ずかしそうにはにかむ。
『ああ、千宥ちゃんね』
「知ってんのか?」
『当たり前でしょ。家でも何度も話に出たでしょ。ほんとは男だっていう。年末帰った時にも同じ階だって言ってたじゃん』
「ああ、あの子か」
千宥は一転、静かに苦笑する。まあ、仕方ない。事情を知らない身からすれば、「かわいいけど男」というのは自然な感想である。
「それでよ。茉衣子ちゃんと、その親父さんもいる」
『何でそんなことになってるのよ』
「……わかんねえけど、成り行きだよ」
大輔が首を傾げつつ泰造を見る。
「いや、俺たちは最初からここにいただけさー」
泰造は電話に聞こえるよう、少し声を張った。
『泰造さん、いるんですかー?』
「どうもー」
『あら、どうも。先日はありがとうございました』
「こちらこそさー。孫までごちそうになって、ありがとうね」
『とんでもないですー。……とにかく、パパ。あんまり迷惑かけないでよ』
「俺が何したってんだよ」
『そこにいるだけで騒がしいのよ』
「ひでえ言い方だな」
『あと、勝手に冷蔵庫開けたり、部屋の物いじったりしないでよ』
「何で分かんだよ」
『あんたならやるから』
大輔は無言になった。慎吾と雛灯が、そろって父親を見る。
「……もう開けたの?」
雛灯が聞く。
「まだだよ」
「まだ、ってことは開ける気だったんじゃねえか」
慎吾が呆れる。
『ほらね』
電話の向こうで茜が言った。
「うるせえな。子供がちゃんと飯食ってるか見るぐらいいいだろ」
『昨日電話で聞いたら、ちゃんと食べてるって言ってたわよ』
「口じゃ何とでも言えるだろ」
『そうやって信用しないから、子供に嫌がられるの』
「信用してねえんじゃねえ。確認だよ」
『同じよ』
大輔が何か言い返そうとしたが、雛灯が先に口を開いた。
「ママ、別にいいよ。パパ、そんな長くいないんでしょ?」
「何でお前まで俺を追い返そうとしてんだ」
「追い返してないよ。何時に帰るのかなって」
『だからあんまり遅くならないようにね。じゃ』
大輔はスマートフォンを作業着の胸ポケットへ戻す。
「にしても、意外と広いな、この部屋」
大輔が改めて室内を見回す。
「二人で住むには十分だろ」
「まあな。思ってたよりちゃんとしてる」
「何だよ、もっとひでえと思ってたのか?」
「お前がいるからな」
「俺を何だと思ってんだ」
「散らかす側」
「即答すんな」
大輔は慎吾を無視する。
「まあ、でも、慎吾はパパに似たんだと思うけどね」
雛灯が茉衣子と千宥にだけ聞こえる声量で言う。大輔は、今度は台所へ視線を向けた。
「で、どっちが飯作ってんだ?」
「両方」
雛灯が答える。
「本当か?」
大輔は慎吾を見る。
「何で俺に聞くんだよ」
「お前が作ってる姿、想像できねえから」
「作るって。チャーハンとか、焼きそばとか」
「炭水化物ばっかじゃねえか」
「肉も入ってる」
「そういう問題じゃねえ」
大輔の目つきが変わった。
「お前、ひなにばっかやらせてねえだろうな」
「やらせてねえよ」
「ほんとか?」
「ほんとだって」
「掃除は?」
「分担してる」
「洗濯は?」
「それも分担」
「ゴミ出しは?」
「俺」
雛灯が横から口を挟む。
「半分ぐらい私」
「半分は俺だろ」
「曜日忘れて、私が出すことの方が多いじゃん」
「それはたまにだろ」
「先週も忘れた」
「うるせえな」
兄妹の言い合いを、大輔は腕を組んで眺めていた。その顔には呆れと、ほんのわずかな安堵が混じっていた。
「まあ、二人とも生きてはいるみてえだな」
「見りゃ分かるだろ」
慎吾が言う。
「わかんねえよ。春若のお前らのことは。俺は南でのお前らしか知らねえ」
思いがけず静かな声だった。慎吾が少しだけ目を細める。大輔はすぐに視線をそらし、台所の方へ歩いていった。
「よし。とりあえず、冷蔵庫見るぞ」
「結局開けんのかよ!」
慎吾の声が、202号室に響いた。
「うるせえな。開けられて困るもんでも入ってんのか?」
「そういう問題じゃねえだろ」
大輔は構わず冷蔵庫の扉を開けた。中には卵、牛乳、納豆、豆腐、半分ほど残ったキャベツ、パックに入った豚肉。それに、保存容器が二つほど並んでいる。
「……思ったより入ってんな」
「だから、ちゃんと暮らしてるって言ってんだろ」
慎吾が胸を張る。
「これ、何だ?」
大輔が保存容器の一つを取り出した。
「昨日の肉じゃが」
答えたのは雛灯ではなく、茉衣子だった。大輔が顔を上げる。
「知ってんだな、茉衣子ちゃん」
「昨日食ったから」
「ここで?」
「ここで」
茉衣子は何でもないことのようにうなずく。大輔は容器と茉衣子を交互に見た。
「ずいぶん出入りしてんだな」
「うん、しょっちゅう。普通に。まあ、慎吾があたしんちに来る方が多いっすけどね」
「普通にか?」
「普通にだよな?」
茉衣子が慎吾へ同意を求める。
「まあ、普通……だろ」
「何でお前まで自信ねえんだよ」
「変な聞き方するからだろ」
大輔は冷蔵庫へ容器を戻すと、今度は食器棚へ目を向けた。
「茶でも飲むか」
「勝手に決めんなよ」
「客が来たら茶ぐらい出せ」
「客が自分で言うな」
慎吾が言い返している間に、茉衣子が立ち上がった。
「はいはい、あたしが」
大輔の動きが止まる。
「やっぱり詳しいじゃねえか」
「あたし、麦茶ぐらい何回も飲んでるし」
「茉衣子、余計なこと言わなくていい」
慎吾が顔をしかめる。
「何が余計なんだよ」
「いや、別に」
「何だよ」
二人のやり取りを眺め、大輔はにやりと笑った。
「なるほどな。思ってたより馴染んでんな」
「どういうの想像してたんだよ」
慎吾が眉をひそめる。
「もっと遠慮して、端っこで小さくなってるようなの」
「茉衣子が?」
慎吾と雛灯が同時に言った。
「何だよ、その反応」
茉衣子が二人を睨む。千宥が口元を押さえて笑い、泰造も肩を揺らした。
「まあ、茉衣子が遠慮する姿は、父親の俺でもあんまり見たことないさー」
「なんだよ、父ちゃんまで」
「でも、その方がいい」
大輔が麦茶をコップへ注ぎながら言った。
「慎吾に遠慮してたら、こいつ調子に乗るからな」
「ほぼ初対面に近え彼女に何吹き込んでんだよ」
「吹き込むも何も、事実だろ」
「そうかもしれねっすね」
茉衣子があっさり同意する。
「お前まで乗るなよ」
「で、茉衣子ちゃんは、慎吾のどこがよかったんだ?」
大輔が唐突に尋ねた。
「は?」
「何聞くんだ!」
慎吾が声を上げる。
「何だよ。息子の彼女に聞くぐらいいいだろ」
「ほぼ初対面で聞くことか?」
「別に減るもんじゃねえし」
「俺の精神が減るんだよ」
茉衣子は腕を組み、少し考えた。
「ちょくちょく考えるんだ。何であたしこいつと付き合ってんだろなって」
「おい!」
慎吾も一応、大声は出しておく。もう既に何回も面と向かって言われていることではあるのだが。
「まあ、一緒にいて楽だからかな」
「へえ」
「女好きだし、すぐ格好つけるし、面倒くせえとこもあるけど」
「悪いとこばっかじゃねえか」
「でも、いざって時はちゃんと動くしな。あたしが困ってたら、なんだかんだ助けてくれる」
慎吾は何も言わず、露骨に視線をそらした。大輔がその横顔を見る。
「お前、彼女の前だとそんななのか」
「そんなって何だよ」
「家じゃ文句言ってるばっかからな」
「家族と彼女で同じなわけねえだろ」
「その言い方、パパそっくり」
雛灯が言った。
「どこがだよ」
「慎吾、マジでパパ似だよな」
茉衣子も笑う。
「似てねえ」
「俺もこいつとは似てねえ」
大輔まで同時に否定した。千宥が小さく吹き出す。大輔は麦茶を一口飲むと、改めて室内を眺めた。
「しかし、こうして見ると、ずいぶん人が出入りしてんだな」
「まあな」
慎吾が答える。
「茉衣子も千宥ちゃんもいるし、他にも何人かいるぞ」
「飯も一緒に食うのか?」
「まあ……たまにかな。なんか、冬に鍋パーティーとかそういうのはしたことあるよ」
今度は雛灯が答えた。
「なんか、昔ながらのご近所づきあいみてえだな」
「最初からこうだったわけじゃないですけどね」
千宥が言う。
「いろいろあって、気づいたらこうなってた感じですよ」
「千宥ちゃんも、こいつらに世話になってんのか?」
大輔が尋ねる。
「もちろん。慎吾くんやひなちゃんはもちろん、本当に皆にはお世話になってるんです」
自分自身のことで、この半年足らずに色々あったことを思い出し、千宥は遠い目をした。
「あと、ありがたいことに、私を頼ってくれることもあるし……」
「慎吾とか、糞の役にも立たねえだろうけど、まあ、いいようにしてやってくれよ」
「とんでもないです。本当にお世話になってるんですから」
千宥は微笑みながら思い出す。あの時、慎吾くんがいたから、私は自然とチーム・アネックスのみんなの前で話せた。
「賢いから、こうこうこう思うけど、どう?ってわかりやすくまとめてくれるんです。ひなちゃんは冷静だから、心乱されたときに落ち着かせてくれるって言うか」
「なあなあ、千宥、あたしは?」
茉衣子も欲しがる。お父さんの前だから慎吾くんたちの話をしたんだけどな……。千宥は苦笑する。
「茉衣子ちゃんは、何でも正直に言ってくれるところと、熱血なところ」
「おう、二個も。悪いな」
茉衣子は上機嫌だ。千宥はほっと力を抜く。
「こうやってみんなで助け合って、みんなここで生活してるんです。慎吾くんは結構みんなのこと見てくれますし」
千宥が穏やかに言った。
「まあ、あたしらが困ったら、文句言いながら手伝ってくれるし」
茉衣子が口を挟む。
「文句は言うんだな」
「そこは慎吾だから」
雛灯が即答する。
「お前ら、本人の前で好き放題言うなよ」
慎吾は不満そうだったが、誰も悪く言っているわけではないことは分かっているらしく、それ以上は反論しなかった。
大輔はしばらく黙っていた。自分の知らない場所で、息子と娘が二人きりで暮らしている。そう思っていた。しかし実際には、同じ建物に、互いに様子を知る者がいて、助け合って暮らしている。それも、今いるのはその一部らしい。
「まあ、孤立してねえならいいか」
大輔がぽつりと言った。
「何だよ、急に」
慎吾が聞き返す。
「別に。お前らだけでやっててパンクしてるとな、思ってたからてっきり」
「だから、ここに茉衣子たちが住んでるのにはびっくりしたけど、来て正解だったよ」
雛灯が笑う。大輔はうなずき、それから泰造へ向き直った。
「泰造さんもいるなら安心ですね」
「俺は火曜日以外はあんまりいないからね。でも、なんかあったらすぐ飛んでこようね。朝長さんも色々、遠慮はいらないさ」
「なんか保護者会みたいなの立ち上げようとしてないです?」
慎吾が言う。
「いいじゃねえか。子供同士がつるんでんだから、親同士も連絡取っといた方が早いだろ」
「監視網が広がるだけだろ」
「悪いことしなきゃ困らねえ」
「そういう問題じゃねえんだよ」
その時だった。誰かのスマホが鳴った。
「あ、あたしだ……もしもし」
茉衣子が電話を取る。
「ん? 慎吾んち。ああ、じいじもいるぜ。うん、珍しく一緒にな。ああ、飯だろ。うん、もう帰るぜ」
茉衣子が電話を切った。
「父ちゃん、サラからだったぞ。どこおる?って言われた」
「あい、大変さ。サラに晩ごはん作らないと」
親子はすっと立ち上がった。下の階で待つ姪もしくは孫のために帰ることにした。
「それじゃ、俺たちは帰ろうね。朝長さん、またいつか。慎吾、ちょっとは孝行しなさい。ひなちゃんも千宥ちゃんも、じゃあ」
「じゃあ、慎吾のパパもまた近いうちに!」
二人が去る。
「ああ、すんません。じゃ、ここで」
大輔は軽く立ち上がり会釈した。
「私も帰ります。今日はありがとうございました」
千宥も茉衣子親子について行くように一礼してその場を後にする。
三人が、客人を見送ると、大輔はもう一度冷蔵庫を開けた。
「で、今日の晩飯は?」
「まだ決めてねえ」
「何か買いに行くか」
「何でパパが仕切るんだよ」
「俺がお前に男の料理を伝授する」
「……いいよ。俺、それなりにやってっから」
「パパ、お願い」
ぶすっとする慎吾の横から雛灯が父親に言う。
「とにかく、買い物行くぞ。慎吾、荷物持ちで来い。あと、スーパー案内しろ」
「何で俺が」
「息子だからだろ」
有無を言わせない大輔に、慎吾は深いため息をついた。居間のソファに戻らず、父親と息子は、そのまま玄関へと歩いて行った。
「じゃ、牛乳買ってきて」
「お前は行かないのか」
慎吾が雛灯に言う。
「二人乗りでしょ、あれ」
「……ああ」
慎吾はため息をつく。
「慎吾、ちゃんと見ててよ。パパに任せると肉ばっか買うから」
「肉食わなきゃ大きくならねえぞ」
「もう十分大きいよ」
「早く行くぞ。店閉まる前に」
「まだ五時前だろうが」
二人で車に乗り込み、慎吾はため息をつきつつ玄関を出た。
二人で車に乗り込み、大輔が車を発進させる。
「で、スーパーどこだ?」
大輔がハンドルを握りながら尋ねた。
「知らねえのに出たのかよ」
「お前が知ってんだろ」
「出て左だよ。学校の入口の次んとこを、斜め右に行ったらつくよ」
慎吾が案内する。
車内は狭く、二人の肩が近かった。実家では家族全員で乗る車が別にあるため、こうして大輔と軽トラックに二人で乗る機会はほとんどなかった。
「この辺、もう慣れたか?」
「まあな、半年以上たったし、そりゃな」
「南より便利だろ」
「まあ、店は多いな。学校も近いし」
「うるさくねえか?」
「何が?」
「人が多いだろ。アパートも、あんな感じだし」
慎吾は少し考えた。
「それが楽しくて羨ましそうだったから、入ったんだよ。バスに往復三時間揺られるより、三時間、あいつらとわちゃわちゃしてる方がいい」
「そうか」
大輔はそれ以上聞かなかった。
スーパーに着くと、大輔は、慎吾の押すカートに、豚肉、鶏肉、牛肉を次々とかごへ放り込んだ。
「待て待て。何人分買う気だよ」
「余ったら明日食えばいいだろ」
「冷蔵庫そんな広くねえぞ」
「冷凍しろ」
「野菜も買えって言われただろ」
「肉にも栄養ある」
「そういう話じゃねえ」
慎吾がキャベツ、もやし、玉ねぎを追加し、牛乳もかごへ入れた。
「お前、ちゃんと値段見るんだな」
「見るだろ、普通」
「実家じゃ見たことなかったぞ」
「実家じゃ自分で金払わねえからな」
「今は?」
「仕送りからだよ。もらった金でも、切り詰めるもんは切り詰める。俺もやってるつもりなんだけど、それでもひなから怒られるんだ。……今日は出してくれるんだろうけどな」
「ちゃっかりしてんな」
大輔は笑いながら、さらに大きな豚肉のパックを入れた。
会計を終え、慎吾が両手に袋を提げる。
「重っ。買いすぎだろ」
「荷物持ちで来たんだから働け」
「二人いるんだから持ってくれよ」
「俺は運転する」
「行きは何も持ってなかっただろ」
文句を言いながらも、慎吾は袋を荷台ではなく助手席の足元へ積んだ。
アネックスへ戻ると、雛灯がすでに米を研ぎ終えていた。
「遅かったね」
「パパが肉ばっか入れるから止めてた」
「お前も結構入れてただろ」
「俺は必要な分だけだ」
「どっちでもいいから、手洗って」
雛灯に言われ、二人は並んで洗面所へ向かった。
大輔が作ると言い出したのは、豚肉と野菜の炒め物だった。包丁を握る手つきは雑に見えて速い。キャベツを大きめに切り、玉ねぎを厚く刻み、豚肉を豪快にフライパンへ入れる。
「油多くね?」
「これぐらいでいいんだよ」
「火、強すぎない?」
「男の料理は強火だ」
「焦げる料理の間違いだろ」
「うるせえ。黙って見てろ」
慎吾は呆れながらも、雛灯とともに付け合わせのサラダの準備をする。雛灯が野菜を洗い、受け渡して慎吾が切って盛り付ける。
「慎吾、邪魔」
「俺じゃなくてパパが詰めてるんだよ」
「右が流しなんだよ、しゃあねえだろ」
完成した炒め物は、見た目通り味が濃かった。
「濃ゆい」
慎吾が一口目で言う。
「飯が進むだろ」
「でも、おいしいよ」
雛灯が素直に褒める。
「だろ?」
大輔が得意そうに胸を張る。
「味噌と醤油と何入れた?」
慎吾が聞いた。
「適当」
「それじゃ次作れねえだろ」
「舌で覚えろ」
「昔の職人かよ」
「職人だよ」
言われてみれば、その通りだった。
食事中、大輔は学校の話をほとんどしなかった。代わりに、近くの店はどこが安いのか、朝は何時に起きるのか、体調を崩した時はどうしているのか、そんなことを聞いた。
慎吾と雛灯は、面倒そうにしながらも一つずつ答えた。
「病院は?」
「近くにあるよ」
「夜、何かあったら?」
「茉衣子とか千宥ちゃんたちもいるし。最悪、タクシー呼ぶ」
「そうか」
大輔は短く答え、炒め物を口に運んだ。
食後、慎吾と雛灯が皿を片づけている間に、大輔は部屋の引き戸を何度か動かしていた。
「これ、引っかかるな」
「前からちょっとね」
雛灯が答える。
「大家さんに言ったんだけどね」
「おじちゃんも、こういう作業は専門じゃないもんな」
このアパートの大家、根〆昭信は元住宅メーカー勤務でアパート管理にはたけているが、大工作業はあまり得意ではないらしい。
「この程度ならすぐ直る。待ってろ」
大輔はそう言い残して外に出た。およそ三分。軽トラックから工具箱を持って戻ってきた。
「勝手にやっていいのかよ」
「壊すわけじゃねえ」
しゃがみ込み、戸車を調整する。
数分後、引き戸は先ほどまでの重さが嘘のように滑らかに動いた。
「ほら」
「早っ」
雛灯が何度か開け閉めする。
「さすが本職」
慎吾も少し感心したようだった。
「こういうのは俺に言え。待たせねえぞ」
「遠いだろ」
「仕事でこっち来ることもある」
「今日みたいに?」
「まあな」
時刻は七時半。日の長い真夏ではあるが、さすがに外は薄暗くなっていた。大輔は工具箱を持ち、玄関で靴を履く。
「じゃあ、帰るわ」
「気をつけてね」
雛灯が言う。
「ママに、あんまり遅くならないようにって言われてたぞ」
慎吾が付け足す。
「分かってるよ」
大輔は玄関を出かけてから、一度振り返った。
「まあ、思ってたよりちゃんとやってんな」
「思ってたより、は余計」
「主にひなのおかげだな」
「俺は?」
「お前は、周りに恵まれてる」
慎吾が何か言い返そうとして、やめた。
「……まあ、それはそうかもな」
「たまには連絡しろよ」
「ママにはしてる」
「俺にもだよ」
「用があったらな」
「それでいい」
大輔は笑い、階段を下りていった。
やがて軽トラックのエンジン音が聞こえ、駐車場から遠ざかっていく。慎吾が部屋へ戻り、何気なく引き戸を動かした。それは少しの抵抗もなく、静かに開いた。
「パパ、来てよかったね」
雛灯が言う。
「まあ、飯は濃ゆかったけどな」
「おかわりしてたじゃん」
「腹減ってたんだよ」
慎吾はもう一度だけ戸を開け閉めし、台所へ戻った。
「ほら、洗い物残ってるぞ」
「慎吾の番ね」
「分かってるよ」
春若での二人の生活は、父親が帰った後も、いつも通り続いていった。
【次回予告】
パパ三部作最後は……。大企業の社長!
という感じです。お楽しみに。
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ちなみに、朝長大輔の登場は第11話、慎吾と雛灯がアネックスに入居する時でした。




