【第二十二話】プレゼント
「くっそ!くっそ!くっそ!何で気が付かなかった!」
僕は病院に飛んで行った。そして受付で杏香の名前を出したら奥から出て来た担当者も杏香を探しているという。思い当たるところはないか聞かれたけども思いつかない。
「とにかく僕も探してきます!」
リミットはあと四日。ギリギリまで期限を伸ばしていた。杏香はそれを僕に伝えようと手紙を残していた。
「何がよろしくだ!ふざけるな!」
探す。探す。探す。居そうな場所を探す。バイト先の本屋に行って東堂生徒会長を捕まえて行き先を知っているのか聞いてみたが、そもそも入院している事すら知らない様子で役に立たなかった。
「純香!」
「なに?そんなに慌てて。何かあったの?」
「杏香が消えた!」
「え?病院にいるんじゃないの?」
「そのはずの人間が消えたんだよ!知らないか⁉︎」
「えっと……。私はなにも……。でも、探して欲しいところがあれば探すよ。どこかある?」
僕は純香に井の頭公園を探して欲しいと頼んで、思い当たる場所、関公園を目指した。
「杏香!」
池の対岸のベンチに座っている女の子を呼ぶ。そして、ぐるりと回ってその場所目指した。
「残念でした」
「え?なんで?」
そこにいたのは新宿先輩だった。それに残念、とは?僕は思いを巡らせるより先に質問を投げた。
「杏香がどこにいるのか知ってるんですね⁉︎」
「笹森さん。そうね。笹森さんからこの場所に座っててって頼まれて来てる。でも驚いちゃった。本当に来るなんて。はい。これ」
そして手渡されたもの。
「何でだよ!何でこんなものを……」
「なんか、渡せば分かるって」
渡された紙袋には僕の誕生日に用意してくれていたフィギュア。僕が昔、杏香から貰ったプレゼントを当てないとくれないとあげないと言われていたもの。
「何かわかった?あ、あと、これは学校の前で渡されたわよ。なんか急いでるみたいだったけども」
「学校⁉︎何時ごろ⁉︎」
僕が家に帰ったのは夕方の十六時半。学校を出たのは十六時というところだ。関公園までの移動時間を考えたらもっと早い時間だ。
「うーんっと……。十二時くらいだったかな。急に連絡が来たと思ったら要件だけ伝えられて。それで、なんか面白そうだなって思って引き受けた。でも本当に来るなんてびっくり。そのフィギュアって何かあるの?」
「それで、杏香がどこに行ったのかは分からないんですか?」
「野宮君はさ、女の子からのキスってどう思う?」
「え?キスですか?」
「そ。キス。この場所でしたんでしょ?キス」
「や……。杏香から聞いたんですか?」
「聞いたよー。でもなんで笹森さんからのキスだったの?私はここで野宮くんと笹森さんがキスをした場所だから、今日の夕方に必ず野宮くんが来るって。その時に今の質問をしてって頼まれてる。ね、どう感じたの?女の子からのキスって」
正直、それどころではなかったけども、杏香からの質問。多分その答え次第で行き先を伝えるのかどうか、というところなのだろう。僕は咄嗟にそう考えてから答えた。
「プレゼント、ですかね」
「んー。プレゼントかぁ。じゃあ、ちょっと私が質問をアレンジするね?女の子が自分からキスをする相手の事は大好きだからするのか、そのタイミングだからしたのか、だったら?」
質問が選択式になった。杏香は僕のことを……。
「言ってない」
「もう少し具体的に。誰が、何を、言ってなかったの?」
「僕が、いや違うな。杏香が僕に、僕のことを好きって言ったことがない!」
「うん。そこまで分かったら最初の質問、答えられるよね?」
女の子からキスはどう思うのか。そういうことか。
「ギフト。特別な相手だからこその贈り物……」
「よし。それで正解にしてあげようかな。それじゃ、正解者に欲しいものを差し上げましょう。笹森さんの居場所」
やっぱり知っているようだ。しかし、どこだ?
「どこですか⁉︎」
「野宮くんが笹森さんから初めてギフト……親愛なる相手への贈り物を貰った場所、と、そう言えば分かるって言われたけども。分かる?」
そうか。そういう事か。それと併せた手紙の意味。
「ありがとうございます!」
「ああ!これ!」
「すみません!持っていて下さい!」
僕は渡されたフィギュアを新宿先輩に預けて走り出した。杏香はあの場所にいるに違いない。しかし、その場所に居たとしたら……。
「杏香‼︎」
「あ、やっと来た」
「やっと来たじゃないよ」
「あれ。プレゼントは?」
「とりあえず新宿先輩に預けてきた。それよりも『私がいなくなっても』ってなんなんだよ」
「そんなの文字通りの事だけど?ほら、前もって言わないと圭介泣くから」
「そんなことがあったら誰だって泣くだろ」
杏香は井の頭公園にいた。ボートで桜のトンネルが潜れる場所に面したベンチ。誰が見たって病院から抜け出してきたというような出で立ち。
「それでね?私、本当にどうなるのか分からないの。ギリギリまで伸ばしちゃったから」
「なんでそんなこと……」
「だって。圭介と一緒に居たかったから」
「万が一があったら元も子もないじゃないか」
「恋人でいることが大事なの。あと四日あるから最後まで一緒に居てくれる?」
「約束は守るよ」
「約束とかじゃなくて。私はね?本気だったんだから。だから圭介も本気で考えて」
本気で考える。約束だから恋人になるのではなく、心から恋人になることを願うという事。僕は今までの間、どう考え、どう思っていただろう。
「杏香は僕のことが好きだった?」
「だった、って過去形なの?」
「いや、すまない。現在進行形で」
「そうねぇ。禁断の恋だしねぇ。ね、もし私が無事に戻ってきたら続き、やってくれる?」
「確率は?」
「大分引っ張ったから下がっちゃってるみたいだけど。でもお医者さんは大丈夫って言ってる」
「そうか。だったら、よろしく、なんて書くなよ」
「そうでもしないと探してくれなかったでしょ?私、ここで待ちぼうけになってるところだった」
「病院から抜け出したら誰だって探すだろ?」
「でもそれじゃ誕生日プレゼント渡せなかったじゃない?」
「ここで渡してくれれば良かったのに」
「それじゃ面白くないじゃない。さ、私は病院に戻らなくちゃ」
杏香が立ち上がったので、僕も後に続いたのだが……。
「杏香!」
杏香はふっ……と力が抜けるように倒れていった。幸いにして僕の方に倒れてきたから支えることが出来たけども、呼びかけても意識がないようで返事がない。僕はスマホを取り出して救急車を呼んだ。
病院に到着すると杏香はすぐに処置室に運ばれていった。そこまで見送ってから杏香の母親と父さんに連絡を入れる。杏香の母親はすぐに向かうと言っていたが、少々時間がかかるらしい。僕の父さんは大阪に出張しているとの事で、今日中に来られるかどうか、という事だった。
「あの」
廊下のシートに腰掛けていたらいつぞやの看護師の人が僕に声をかけてきた。
「ご家族、になられるんですよね?少々時間がないので同意書へのサイン、お願いしても良いですか?」
「同意書ですか?」
「はい。手術に入ります。ですのでご家族の同意書が必要なのです」
杏香が助かるなら、と思い「僕で良ければ」とサインをしたけども、それはつまり杏香が僕の家族になる事を指していて、杏香の想いを考えてしまい複雑な気分だった。




