【第二十一話】予想
「それって文化祭を失敗させたいのって新宿先輩って事になるんじゃないの?」
「だよなぁ。でもそうすると東堂生徒会長が杏香を顧問に連れて来たのが分からん。だってそんなリスクがあるのに呼ぶなんて」
「それは……」
純香は何か言いにくそうな顔をしている。
「言いたいことがあるなら聞くよ」
「そう?気を悪くないで欲しいんだけど、東堂生徒会長と新宿先輩って付き合ってるんだと思う。それで二人ともに文化祭を失敗させたいと思っている、みたいな。そう考えたらしっくり来るのよ」
それは僕も考えたことだ。話の矛盾がなくなる。となると今の杏香と東堂生徒会長の関係は……。
「騙されてるってことか」
「かも知れないわね」
「でもそうなら僕達で文化祭を成功させたらいいんじゃないの?」
「そうね。でも一応は文化祭実行委員と生徒会の他の面々の状況も確認した方がいいと思う」
四面楚歌。その可能性も捨てきれない。そう言いたいのだろう。しかし、生徒会、文化祭実行委員の全員が文化祭の失敗を望んでいるなんて、そんなことはないとは思うけど。と、ここまで仮説を立てて翌日の生徒会、文化祭実行員合同会合に臨む事になった。
「純香はどう思う?今日の会合を聞いて」
「信じられないけども……。笹森さんの味方はいない、かな……」
そうなのだ。文化祭を率直に失敗させようなんて意見はもちろん出なかったのだが、何か起きた時の引責を誰が引き受けるのか、という話題が出た。その場に杏香が居なかったから直接的な意見は出なかったものの、明らかに顧問に引き受けてもらう、というような空気だった。
「純香はどうする?」
「どうするって?」
「今回の件、僕に付くと大変な思いをすると思うぞ」
「そんなの。分かってるわよ。でも圭介を一人になんて出来ないし。もちろん、表立って動くのは逆効果だと思うから……。なんか上手く立ち回るわよ。だから、圭介はやりたい事を私に伝えて頂戴」
純香は僕の味方になってくれる。誰も居ないわけじゃない、それだけでも心強い。
僕は生徒会メンバーとして役割を負っている訳ではないが、各クラスの状況確認をする事にした。まずは各クラスの出し物のチェックだ。
「うーん……。やっぱり問題が発生しそうなのはこのカップル喫茶なんだよなぁ。出店系のトラブルなんて事故になるからそれはないと思うし……」
図書室で出し物の一覧を作ってチェックをしていたら後ろから声を掛けられた。
「野宮くん」
「あれ?新宿先輩。どうしたんですか?」
今回のキーになる人物ではあるが、正直接触は避けたいところだった。しかし、向こうから声を掛けてきたという事は、僕と純香の行動に釘を刺しに来た、その可能性がある。
「それって文化祭の出し物一覧よね?そのカップル喫茶ってなに?」
やはりそう来たか。目立つものな。他のクラスはありきたりな内容だ。このカップル喫茶だけ字面的に見ても目立つ。
「ああ、これですか。なんでもカップル、と言っても男女同数であれば入店出来るお店のようですね」
「ふーん。そういうのって生徒会的な、というか男女異性交友的に学校がバックアップしても大丈夫なの?」
「一応、職員会議は通過してるみたいですね。でも僕もこの出し物は何か気になるところがあるので注意しておきます。ありがとうございます」
僕はここで話を切りたかったのだが、新宿先輩は質問を続けてきた。
「顧問の笹森さん、この前の会合に出席しなかったみたいだけど、大丈夫なの?」
ここの大丈夫、は何を指しているのか。体調面を指しているのか、責任者的なことを指しているのか。杏香の体調のことは流石に分からないと思うから、責任者として……。
「いや……」
「うん?何かあった?」
仮説通り新宿先輩と東堂生徒会長が付き合ってるとしたら、東堂生徒会長から何か聞いている可能性がある。それはつまり……。
「新宿先輩って今回の文化祭には何も関わってないんですか?」
「私?」
「はい」
こういうのはストレートに聞くのが一番だ。中途半端な確認方法だとはぐらかされる可能性が高い。
「私は書記も辞めちゃったし、一般生徒として参加する感じになるけど。どうして?」
「いえ。その……新宿先輩って生徒会でもそれなりの人望を集めているじゃないですか。その人達から何も言われてないのかな、と思いまして」
派閥のトップ。今でも何らかの影響力を持っていてもおかしくない。しかし、帰ってきた反応は、その予想を崩すものだった
「全部置いてきちゃったから」
置いてきた。普通に考えて権力を置いてきた、ということだろう。それは誰に?
「私ね、生徒会で誰が何を決めるとか、派閥があるとか、そういうのってなんか違うと思ってたの。だから書記を辞めたんだよね」
そうかも知れない。新宿先輩はそう思ったかも知れないけど、権力というのは誰かが必ず握るものだ。新宿先輩も東堂生徒会長も生徒会から身を引いたということは、誰かが実権を握っているハズだ。
「新宿先輩から見て、今の生徒会は誰の元で一丸となってると思いますか?」
「そのための顧問、何だと思ってるのだけれど。違ったかしら?」
やはり、生徒会での出来事を杏香に責任を押し付ける気でいるのか?それなら……。
「杏香は僕の幼馴染なんで何かあったら僕も責任を取りますよ」
「あら。そうなの?それじゃもしかして九木さんも?」
「純香はどうか分かりませんが……。何にしても起きたトラブルは僕と文化祭実行員の面々で……」
とここまで言ってから、文化祭実行員も全員完全な味方なのか分からない状況だった事を思い出した。
「そう。それなら大丈夫そうね。でもこのカップル喫茶、絶対に何か起きると思うから要注意、かな。それじゃ、私は用事があるから」
そう言って新宿先輩は手を振ってから図書室を出て行った。
「絶対に何か起きると思う、か」
それは予言というより忠告に近い気がした。その内容が何なのか事前に予想を立てておく必要があるが……。今のところは何が起きるのか想像がつかなかった。
家に帰ると父さんが珍しく早く帰って来ていて何かを読んでいる。
「今日は早かったんだ。それ何読んでるの?」
「生徒会の会報誌かな。昨日自分で机の上に置いたんだろ?」
「え?」
生徒会の会報誌。今回は文化祭の出し物について書かれている。確かにその存在は知っていたし読んでもいたんだけど、家に持ち帰った記憶はない。
「圭介、このカップル喫茶って大丈夫なのか?」
「それかぁ。父さんも気にするのかぁ」
「やっぱり他の人も同じような事を言ってるのか。昔、似たようなもので一悶着あってな」
「え?なにそれ」
父さんからの話だと、学外から来た生徒がナンパ目的で利用する様なことがあったらしい。別に相手の了承があるんだから問題ないのでは?と聞いてみたら事後にトラブルになるケースがあったらしい。所詮はナンパ、なのだそうだ。要するに出会い系喫茶に使われるという懸念点らしい。
「かと言ってカップルの証明書なんて無いしなぁ……」
部屋に戻って独りそんな事を呟いていたら一体のフィギュアが目に入ってきた。
「あれ?」
フィギュアの持っている大砲が左右入れ替わってる?杏香か純香が触ったのかな、と思って元に戻そうとしたら、その大砲を落としてまった。
「おっと……」
そして拾い上げた大砲のパーツがズレている事に気がついた。
「ううん??」
何か違和感を感じたのでそのパーツを取ってみたら中に何か入っている。
「紙?」
僕はその紙切れを引き出してみた。そしてそこに書かれていた文字を見て家を飛び出した。




