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【第二話】部屋の写真

「お邪魔しまーす。あ、圭介、靴。揃えてない」

「なんか小姑みたいな事を言うな」

「なんでよ。靴を脱いだら揃える。これ、常識でしょ?こういうのは普段からやってないと外で恥をかく事になるんだから」

「そうですね」

「何その言い方」

 ちょっと引っ掛かる返事をしてしまってすぐに謝罪したら、分かればよろしい、なんてすぐに機嫌を直してくれた。そしていよいよ自室に純香を自室に招き入れるワケだが。一応変なものがないか思い返したけど、そんなものは思いつかなかったでドアを開けて純香に部屋に入るように促した。

「わっ!なにこれすごい‼︎」

「勝手に触るなよ。一応固定してあるけど倒れると面倒だから。それじゃ僕はお茶を取ってくるから。いいか。くれぐれも触るなよ」

「そんなに念押ししなくても大丈夫だって」

 僕はその言葉を信じてキッチンに麦茶をとりに降りた。冷蔵庫を開けて冷やした水出し麦茶をコップに注ぎ入れる。

「なんかお菓子あったっけな……。あったあった」

 チョコレートが塗ってあるビスケット。この部屋の温度じゃ半分溶けてるかも知れないけど、それはそれで。

 

「純香ー。ドア開けてくれー」

 両手の塞がった僕は純香にドアを開けてくれるように頼んだのだが、一向にドアが開かない。

「おーい。純香ー。聞こえてるかー」

 そこまで言っても返答がないので麦茶とお菓子を乗せたトレーを下に置いてドアを開けた。

「なんだよ純香。居るんじゃん。トイレにでも行ったのかと思ってた」

 純香は手に何か持って僕の方をチラリと見たと思ったら、手に持ったものに再び視線を落とした。

「なに見てるんだ?」

 部屋のテーブルにトレーを置いて純香が見ているものに目線を移す。

「ああ、それか。何か思い出したのか?」

 

 純香が見ていたのは九木家と僕の家の家族みんなで撮影した写真。もちろん母さんも写っている。

「それくらいはいいだろ。飾ってあっても」

 純香は再び僕の顔を見たと思ったらすぐに写真に目線を落とした。

「なんだ?何かあったか?」

「ねぇ。この人って誰?」

「ああ、覚えてないのか?よく一緒に遊んでただろ。笹森杏香。そういえば今はなにをしてるんだろうな」

「笹森杏香……」

 純香は写真に目線を落としたまま聞いた名前を小さく呟いて、何かを考えているようだった。

「本当に覚えてないの?」

 杏香とは幼稚園からの付き合いで小学三年位に何処かに引っ越して行った経緯がある。純香は保育園上がりなので小学校の三年間しか付き合いがないので忘れていてもおかしくないのかも知れない。

「ほら、小学校低学年の頃にさ」

「この前に会ったの」

「誰に?」

「笹森杏香に」

「そうなのか。覚えてたんだ。そうならそうって言ってくれればいいのに」

「違うの。私は覚えて無かったんだけど、向こうは覚えていたみたいで。駅前で声を掛けられたの。九木さんですか?って聞かれて、そうだ、って答えたら私は笹森杏香だって」

「それで?どうしたの?」

「失礼ですがどちら様ですか?って」

「なんだよ冷たいな」

「だって。この写真とも全然違う感じだったし」

「そりゃ小学生から高校生になれば変わるだろうよ。で?どんな感じなってた?この写真みたいにショートヘアーな感じ?」

 そう。笹森杏香はとても活発な子で初対面の人からは男の子と間違われることが良くあったほどだ。

「ううん。全然違う。髪の毛は黒髪で長くて。うっすら化粧もしてて凄く大人っぽかった」

「なるほど。それじゃ全然分からんな。ってか、こっちの写真の杏香は覚えてないのか?」

「うーん……」

「まぁいいや。そんなわけで、その子は笹森杏香っていうんだ。駅前で会ったって事はこっちに帰ってきたのかも知れないな。案外夏休み明けから転校してきたりしてな」

 純香がその写真に食いついた理由は分からなかったけど、僕は他のフィギュアのことに気を取られていて、あまり深く考える事はなかった。

 

「そろそろ帰る時間じゃないのか?」

「ん?もうそんな時間?」

 僕はベッドの下に腰をおろして漫画を読んでいた。この漫画はいつ読んでも楽しい。というより夏休みに読むと、作中の季節とリンクして楽しめる。純香も同じ漫画を読んでいたが、半分くらい読んだところでタイムアップ。時計は十九時を指している。丁度太陽が沈んだ頃だ。

「圭介のお父さんっていつも何時くらいに帰ってくるの?」

「そうだなぁ。大体二十二時くらいらしい」

「なに?らしい、って」

「いや、その時間はもう寝てるからさ」

 それを聞いた純香は呆れた顔をしていた。

「なんだよ。早寝するのはいい事だろ?」

「勉強してるの?っていうか、そんなに睡眠とってるのになんで授業中に船漕いでるのよ」

「勉強は……、まぁ適当に。宿題くらいは。授業中はなんでだろうな。眠くなるんだよ」

「そんなのだからテストでつまづくんでしょ。これからは宿題以外に毎日一時間は勉強するように」

「勉強ってなにをするんだ?」

 これ。よく勉強しろと言われるが、実際問題なにをどうやって勉強するのか分からない。定期テストみたいに具体的な内容があれば、それの勉強をするが、日々の勉強と言われてもよく分からない。

「そんなの。漢字とか英単語とか色々あるでしょ?圭介は暗記ものが苦手なんだから、その辺やった方がいいわよ」

 ふむ……。それじゃ明日は問題集でも買いに行くか。

「分かった。今年の夏休みは勉強の虫になるか」

「心にも思ってないことを軽々しく口にしないの」

「まぁ、言うのはタダだし。っと。日も暮れてきたし送るよ」

 僕はそう言って純香を家まで送ることにした。

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