【第一話】灼熱の空の下
まったく。なんでこんな事になっているのか。こんな事をするよりも勉学に励む方が理にかなっているのではないか。放課後の校庭の周りをロングトングとビニール袋を片手に下を向いて歩きながら、そんなことを考える。七月の夕日、いや、まだ陽が高いから昼下がりの灼熱、とでもいうのだろうか。まぁ、そんな炎天下の下でゴミ拾いなんてしている訳で。
「あー!だるい‼︎圭介なんで赤点とか取るの⁉︎」
「手伝うって行ったのは純香だろ?」
九木純香、「ここのき」なんて初発で読めないから、みんなからはキューちゃんなんて呼ばれている。でも僕は純香と呼ぶ。理由は単純に呼ばせてくれないからだ。圭介からの呼び声だって分からないから、というのが理由らしいが、僕だけそんな呼び方をするものだから二人は付き合ってるとか言われてたりする。
「だって。私が勉強を教えたのに赤点取るなんて私の責任もあるじゃない。あー!でもムカつく!なんで赤点なんて取るのよ!」
「そう言うなよ。赤点取ったのは時間が無くて勉強できなかった物理だろ?それ以外の教えてもらった教科は大丈夫だっただろ?」
そう。大丈夫だと思ったんだよな。物理。しかし、解答欄を間違えて一つズレた選択肢解答を書いてしまって見事に赤点。まぁ、正しく書けていたとしても決して褒められた点数ではなかったのだけれど。
「だって大丈夫って言ったじゃん!」
「言ったけども。でも他の教科が赤点回避できたのは純香のおかげだと思ってるよ」
「本当に感謝してるの?」
「してるしてる。このゴミより大きな感謝だ」
「なにそれ。私への感謝小さくない⁉︎」
「うそうそ。本当に感謝してるよ。教えて貰ってなかったら全教科赤点なんて有り得ない結果になってたまである」
炎天下の下でそんなつつき合いをしながらゴミ拾いをして、その成果を先生に報告してから帰路につく。僕も純香も部活には手を出していないから気楽に帰れる。クラスメイトで比較的仲の良い近藤なんてバスケ部の練習にどっぷりだもんな。よくあんな熱心に運動に取り組めるものだ。僕は運動がからきしダメって訳ではないけども、この暑い中、汗だくになりながら何かを成し遂げようという大きな志が無いだけだ。
「なぁ、純香は生徒会に誘われてるんじゃ無いのか?」
「誘われてるけど。この前も言ったけど断ってる」
「なんで?」
コンビニで買ったパピコを二人で分けていっときの涼を得ながら聞いてみる。純香は学年でも指折りの成績だし、素行も良いので生徒会からのオファーが度々あるらしい。以前、やるべきか相談を受けたことがあるけども、やってみれば?という僕の答えを受けずに今も断り続けているとのことだ。
「嫌なのよ。なんか生徒会って誰だれ派閥みたいなのがあるらしくて。学生の身分で派閥ってなんなの?そんなのに巻き込まれたらロクな事にならないでしょ」
「ああ、それ、前も言ってたな。生徒会長派閥と書記派閥に分かれてるんだっけ?ってか、書記派閥ってなんなんだ。副会長なら分かるけども」
「なんか選挙での組織票があるって言ってた。それで得票数の高い方が、その年の生徒会長をやるとか」
「で、今の生徒会長が東堂ってわけか。あいつ、去年は確かに書記やってたな。政権交代したのか」
「そう。そのおかげで、あんなゴミ拾いなんてルールが出来たんだけどね」
赤点を一つでも取ったら慈善活動。とりわけ掃除系が多いわけだが、校庭外周のゴミ拾いは暑い時期に一番人気がない。今日はその抽選、というかじゃんけんに間に合わなかったのだ。理由は純香の説教。そんな訳で一緒に手伝ってくれたという訳だ。
「それにしても今年の夏は暑いな。七月でこれだから八月なんてどうなるんだ。溶けるんじゃ無いのか?あ、そうだ。純香は夏休み何か予定あるか?」
「夏休みの予定?そんなのアンタの夏期講習でしょ。夏休み明けの校外実力テストがあるでしょ。もう高校二年なんだからそろそろ受験についても考えてよね」
純香がそんな事を言っているのは理由がある。同じ大学に行こう、そんな約束を中学時代に交わしたのだ。その頃から学力差があったから僕は無理だと言い続けているけども、純香は諦めないらしい。そんなに一緒の大学に行きたいのか。この前、理由を聞いたら面倒を見始めたんだから最後まで面倒を見る、と帰ってきた。そんな事をして自分の勉強がおごそかになるんじゃない?なんて言ったこともあるけど、実際の成績を見るにそんなこともないわけで。
「それじゃ、今日はお疲れ」
「お疲れ、じゃないでしょ」
「え?なに?なんか忘れてる?」
「漫画。貸してくれるって言ってた」
「ああ、漫画。漫画ね。明日学校に持って行くよ」
「あんたね……。今日学校で何してきたのよ」
「ゴミ拾い?」
「あのね……。いくら暑いからって、そこまでボケるものなの?それともわざとなの?」
「そんなに顔を近づけなくても」
「あのね。明日から夏休みでしょ!今日は修了式だったでしょ!」
「ああ。そうか。夏休みか」
夏休み。小学生の時は楽しみだったけども、今の生活になってからは朝昼晩と自分でご飯を作らないといけなくて憂鬱なものになった。
「あのさ。おばさんが亡くなってもう何年も経つんだからしっかりしなさいよ」
純香にはご飯を作るのが面倒で憂鬱なんて言えない、というより言ったら毎日作りにくるとか言いかねないので、母が亡くなったのが夏休みだから、という理由にしている。そんな理由で納得させられているのは、家族旅行中にトラックに突っ込まれて助手席に座っていた母だけ亡くなった、という不幸を絵に描いたような出来事があったからだ。
「ああ。そうだな。それで、漫画、どうする?」
「運ぶのが面倒だから圭介の部屋に行ってもいい?」
「良いけど、年頃の女子が男子の部屋に一人で来るのはどうなんだ?」
「あー。またそれ。なんで部屋に上げようとしないの?あ、分かった。見せられないようなものがあるんでしょ?」
「そんなエロいものはない」
「誰もエロなんて言ってないじゃん」
「その他に見られて困るようなことってなんだ?」
「ないなら良いじゃん。部屋に行っても」
今日はやたらと引き下がらない。いつもはこの辺で「じゃあ、私の部屋で勉強」とか言い始める頃なんだけども。
「うーん……。別に良いけど、勝手に部屋のものを触るなよ」
「分かってるって」
許可が出たのが嬉しかったのか、僕の家に向かいながら鼻歌なんて歌っている。にしてもどうしたものか。部屋にある大量のフィギュア。エロいものは無いけれども、一般常識からしたら珍しいものに違いない。純香にはそういうのは一切言ったことないし。正直、ドン引きされたらどうしようなんて考えたこともある。でもいつかはバレることだし、この辺で解禁しても良いかも知れないな、なんて思って許可したんだけど…….。




