【第十五話】生徒会長代行
「はぁ⁉︎生徒会長代行⁉︎あんたが?本気で言ってるの?熱ある?」
翌日、迎えにきた純香に学校に向かう途中に起きたことを簡単に説明した。案の定の反応である。
「まぁ、生徒会長がなんでも決められる訳ではないらしいし、周りの意見の調整くらいでしょ」
「あんた……。文化祭の開会宣言とかやる勇気あるの?それに何か起きたら責任を取るのは圭介よ?」
「何かってなんだ?」
「何が起きるのか分からないから何か、なんでしょ。過去に何かあったのか確認した方がいいと思うわよ」
「そうだな。それはある。でも今回は顧問がいるから……」
「責任、取ると思う?」
「いや、そこまで無責任じゃないと思うぞ」
「なんにしても私はそんなに助けられないような気がするから」
「会長代行なんだから純香を何かに指名すればいいだけなんじゃないの?一蓮托生」
「ええ……」
露骨に嫌な顔をされた。でも本当に何かあった時のことは考えておいた方が良さそうだ。
十月。
いつもの生活を送っていたらあっという間に十月だ。この前までの灼熱の世界は去ったが、今年の秋はなかなかやって来ない。このまま秋を通り越していきなり冬でもやってくるのか、そもそも、この世界から冬が消えて無くなるのか。そんなことを考えるほどの気温である。
「あ。おかえり」
「最近は家に居るけども、バイトは良いのか?」
「んー。もうあと一ヶ月しかないじゃない?私達。だからそんなものに時間を割くんじゃなくて、もっと一緒にいたいなって思って。それに、来月からそんなに一生懸命に働く必要もなくなるでしょ?」
僕の父さんと結婚して家庭が安定するから、ということだろうが逆に言うと今まではそれほどまでにカツカツの生活をしていたという事になる。それを考えると純香の父親は何を考えてきたのか、と思ってしまった。
「それで?ラスト一ヶ月は何をするんだ?」
「あら?何かしたいの?じゃあ、手始めにそこに座って」
杏香が指差したのはリビングのソファーではなくダイニングチェアの方だった。こっちなら良からぬ事もなさそうだ、とカバンを置いて制服のままで座った。
「で?」
「目を閉じて」
「うーん。何か変なことするつもりだろ」
「しないわよ」
「じゃあ……」
半信半疑で目を閉じた。するとパタパタとスリッパの音が少し遠ざかって行くのが聞こえた。本当に何もないのか?
パタパタパタ……。
今度はこっちに向かってくる。そしてテーブルの向かい付近で足音が消えた。
「はい!いいよ、目を開けても」
そして目を開けると、そこにはミニホールケーキが置かれていた。
「ハッピーバースデー圭介!」
「え?あれ?」
「正確には明日かな。でも純香よりも先にお祝いしたくて。日付変更後に起こされるのは嫌でしょ?」
「いや、そうだけれど」
「なに?何かご不満でも?」
「特にそういうのはないけど」
「けど?」
「単純にびっくりした」
「でしょ?こういうのはサプライズがあった方がいいのよ。明日帰ってきてハッピーバースデー!って迎え入れても、ああ、そうだね、ってなるだけでしょ?それと、ハイこれ」
そう言ってダイニングテーブル向かいの席に置かれていた箱の中から僕が買おうと思っていたフィギュアが出て来た。
「これ、欲しかったやつでしょ?」
「そうだけど、なんでわかったの?」
「一番数が多かったから。それで新作が出るのを知ってね。絶対に欲しがってるかなって」
どうやら僕のフィギュアコレクションの中で一番数が多いものを調べてくれたらしい。これは単純に嬉しい。そう思って僕は素直にお礼を言った。
「あー。圭介にお礼を言われるなんて久し振りだなぁ。いつ振りだっけ?」
「そんなにお礼言ってなかったか?」
「私がお礼されるようなことをすると思う?」
「うん、ないな」
「そこは否定してよ……。でも、そうね、昔に私が同じようにプレゼントを渡した時以来かしらね。覚えてる?」
プレゼント。純香からのプレゼント。何があったか。頭をフル回転させたけども思い当たる様なものはない。
「あー!覚えてないんだ!」
「すまん。なんだっけ?」
「もういいですぅ。思い出すまでこのプレゼントはお預けですぅ」
「そんなご無体な……」
しかし、本当になんだ?杏香からのプレゼント。小さい時に別れてるからその時期に貰った物。物保ちは良い方だから何か貰ってたら保管してるかと思うんだけど、記憶にない。
「でも。このケーキは勿体無いから食べましょう?」
「そうだな。でもプレゼントってマジでなんだ?」
「それは自分で考えてください。あ、そうだ。明日、文化祭の委員会があるんでしょ?資料ってもう纏めてあるの?」
「何もまとめてないな。というより、全体像が見えてないしまとめるも何もない。杏香は聞いてるの?」
「方向性?聞いてるけど。結構なお祭り騒ぎになるじゃない。私は嫌いじゃないけども、生徒会長がよく飲んだわね」
「ん?なんだ?生徒会長について何か聞いてるの?」
「一応ね。でも生徒会長の考える文化祭はつまらなそうだったけど」
やはり一般的な価値観で見てもつまらないらしい。でも書記の考える文化祭のような内容で教員は許可を出すのだろうか。それとも、そのくらいの権限が生徒会に与えられているのか。だとしたら僕の決断は大きな意味を持ってしまうな。責任論とかになると面倒だな。
「あ、今面倒だな、って思ったでしょ。大丈夫だから。私も同じ船に乗ってあげるから」
「沈没したら責任取ってくれ」
「そこは生徒会長が矢面に立たないと」
やっぱりそうなるのか。安請け合いしてしまったのを今更になって後悔。でも杏香が一緒に何か考えてくれるなら大丈夫だろう。そんな安心感があった。
翌日。学校に行くと教室の前に生徒会長が待っていた。ひどくソワソワしている。
「何かあったんですか?」
「ああ、野宮くん、待ってたよ。実はさ……」
会長からの話を聞いて僕は思わず声を上げてしまった。
「書記が辞めた⁉︎」
そんなことがあるんか。自分の思い通りの文化祭に出来るというのに。それを投げ捨てて何をしようというのか。一度会って話をした方が良さそうだ。
「会長はどうするんですか?生徒会に戻るんですか?」
「今日はそれを相談しに来たんだ。僕は美術部の発表をしたい。そのための作品作りに集中したいんだ。書記の考える文化祭は一般ウケするのは分かってる。だから野宮くんの手腕でそれを実現させて欲しい」
「そんな無茶な。代行の僕にそんなこと出来るわけ……」
「引き受けたんでしょ!しっかりしなさいよ!」
後ろから純香がそう言ってきた。そうだ。純香も生徒会の一員になったんだった。一人で抱え込む事もない。そう思って判断を仰ごうとしたけども、生徒会長代行はあくまで僕だし、純香に格好つけようとか思ってしまって「分かったから」と返事をしてしまった。




