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【第十四話】顧問

「ようこそ。生徒会へ」

 生徒会室に入るなり生徒会長が僕たちに歓迎の言葉を送って来た。

「あの。今更なんですけど、生徒会に入るのに選挙的なもの、というか生徒の許可みたいなものは要らないんですか?」

「役職者だけだよ。通常のメンバーは自由だ。自由だけにこの前に二名退会してしまってね。君たちはその穴埋めも兼ねている」

 なんだそういう事か。要するに雑用係ってわけだ。でもこうして生徒会に入れば杏香がなにかしでかさないか監視できるし良いかも知れない。

「さて、早速だけど、この紙にクラスと名前を書いてくれないか?」

 と、しれっと渡されたのは会計関連の仕事についてだった。確か会計は生徒会長の派閥だったはずだ。雑用なら庶務だろうが、そちらは書記派閥だ。かといって自ら雑用ポジションになるのもなんだし、僕ごときが生徒会長派閥に入ったとして票田が動くわけでもない。むしろ杏香に近いポジションで監視できると思えばよい。と、同じようなことを純香も考えているかと思ったけども、何の抵抗もなくペンを走らせている。まぁ、派閥に関係なくって言ってたしな。そういう事なのかも知れない。

 

「はい。確かに受け取った。晴れて今日から君たちは生徒会のメンバーだ。それで早速なんだけど顧問の笹森さんと打ち合わせがあって……」

 なるほど、僕を自分の派閥に迎え入れたのはそういう事もあるのか。でも残念ながら僕に杏香をコントロールする事なんてでき……なくはないな。少なくとも杏香との今の関係を持ってすれば暴走させないことくらいは簡単だろう。それ以上に何か事を起こす前に相談を持ちかけられる可能性も高い。

「って、野宮くん聞いてるかい?」

「ああ、すみません。何でしたっけ?杏香と打ち合わせでしたっけ?それって純香も一緒の方がいいんですか?」

 一応聞いてみる。今朝の出来事があったばかりなので、再び二人が相対するのは何か気が引ける。

「ああ、すまない。九木さんは遠慮してもらえると助かるかな」

「私が居たらなにかマズイ話でもするんですか?」

 純香はどこか気に入らない様子。おおかた生徒会長と杏香で何かを企むとか思っているのだろう。にしても、何を企むと考えているのかは興味はある。

「純香、話の内容はあとで伝えるから。その……、なんだ。今朝のことがあるから……」

 そういうと純香はわかったという顔で軽く息を吐いてから頷いた。

「話はついたのかい?それじゃ、待ち合わせの場所に行こうか」

「あれ?学校じゃないんですか?」

「指定された場所があってね。なんでその場所なのかは分からないんだけれどね」

 杏香のことだ。なにか考えがあっての事だろう。少々興味が出てきた。僕は床に置いた鞄を持ち上げて、いつでも出られるという格好を取った。それを見て純香は「先に家に帰る」と言って生徒会室を出て行った。


「さて。九木さんは帰りましたよ」

「え、そう見たいですね。どこに行くんです?」

「ばぁ!」

「うぉ!なんだ⁉︎」

「はーい、杏香ちゃんですよー」

「ちゃんって……。学校外で会うんじゃないのかよ……」

「学校外よ。予定では。でもなんで生徒会室に圭介がいるの?」

「僕も生徒会に入ることになった」

「あの成績で?」

「うるさいな」

「まぁ、良いんだけど。私が顧問になったからにはこき使ってあげるわ」

 冗談に聞こえないのが怖い。

「それで?今日の要件ってなに?」

 僕が杏香に訊ねると生徒会長が先に口を開いた。

「実現、できるのかな?」

「出来ると思うわ」

 なんの話なのか。生徒会長と杏香の間では話が噛み合っているようだが、僕は蚊帳の外だ。

「なにが実現できるんだ?」

「ああ、すまない。学園祭での出し物でね……」

「東堂くん、もっと正直に言わないと」

「え……」

「分かってるんだから。貴方が私の事を調べてるって。十一月の文化祭の頃には私と圭介は家族になってる。だから自分にも分がある、そういうことよね?」

「いや、そういう訳では……」

「違うの?」

 僕だけ話に置いてけぼりにされている。でも、なんとなくは分かってきた。多分、学園祭で告白系のイベントを開催してそこで生徒会長が杏香に何かする、まぁ、そんなところなんだろう。

「生徒会長は杏香のことが好きなんですか?」

 僕は面倒になって確信部分を直接突いた。それを聞いた生徒会長は視線を僕と杏香を交互に移しながら一歩下がって机に腰をもたれ掛けた。そして、軽く息を吐いた後に吐露するように話し始めた。

「好きか嫌いかと問われれば、好き、だと思うよ。でも今回の件はそうじゃない」

「違うんですか?」

 僕がそう言うと、杏香も同じように感じたのか、若干不思議そうな顔をしている。

「僕はね、今回の文化祭で結果を出したいと思う。だから笹森さんにはそれを見てもらいたい」

 男らしいところを見てもらってから判断してくれ、と言うことなのだろうか。だとしたら、もう告白はしているのだろうか。僕はそう考えながら杏香を見たけども、意図を汲み取ったらしい杏香は首を横に振った。

「文化祭が終わったら杏香に告白でもするんですか?」

「それも良いかも知れないな。でもまずは文化祭の成功を優先させるかな。笹森さん、今回の文化祭で書記の瀬野を説得してくれませんか?」

「説得?なにか軋轢が起きているんですか?」

「軋轢という程じゃないんだが、僕の発案する文化祭の方向性に賛同を得ることが出来ないでいる」

「方向性、ですか。生徒会長の考える文化祭ってどんな感じなんですか?」

「文化を愛でる、これが文化祭だ。各クラスには……」

 語り始めからしてつまらなそうだ。生徒会長の案はお客も来るのか?というものだった。当然にして杏香もつまらなそうな顔をしている。

「生徒会長、対して書記の瀬野さんはどんな感じなんです?」

 聞くと、これぞ文化祭という内容で楽しそうだ。逆に説明している生徒会長はつまらなそうな顔をしている。

「杏香はどっちの方がいいと思う?」

「うーん。面倒だからミックスしちゃえば?文化部は無理に華々しい展示にする必要ないと思うし。まぁ、なにか模擬店とか出し物をやりたいってところもあると思うけど。なんにしても全員お祭り騒ぎになる必要はないと思うわよ」

「ですよね!」

 生徒会長の表情が明るくなった。にしてもなんでそんなに地味な文化祭を開催したがっているのか。理由はあるんだろうけど、聞いてもつまらなそうなのでスルーする事にした。

 

「さて。早速だけど野宮くんにはやってもらいたい事がある」

 自分の思い描くものが多少なりとも実現できると踏んで表情も明るく僕に話しかけてきた。

「やってもらいたい事ですか?それって僕にしかできない事ですかね?」

 雑用なんだろうけど、自分にしか出来ないものの方が、やりがいがあるってものだが。そして帰ってきた答えは予想外なものだった。

「会長代行をやって貰いたい」

「はえ?」

「僕は所属する美術部の作業に専念したい」

「ちょ、待ってくださいよ。生徒会長って兼務出来るんですか⁉︎」

「この前に出来るようにした」

「そんな無茶苦茶な」

「それで?返事はどうだい?」

 いきなり生徒会長の代行なんて。そもそもぽっと出の僕が生徒会長代行なんて許されるものなのだろうか。袋叩きにされないだろうか。どうも不安しかない。

「良いんじゃない?生徒会長代行。どうせ私が顧問になるんだし、圭介が生徒会長代行になってくれたら諸々話が進めやすいし」

「いや、でもさ……。周りがなんて言うか分からないじゃない?書記とか」

「大丈夫だ。その辺は先に話をつけてある。代行者が決まったら連絡をしてくれと言われている」

 なるほど。最初から織り込み済みなのか。大方、生徒会長が去ってくれた方が書記の思い描く文化祭がやり易くなるとかそういう感じなんだろう。個人的には書記の掲げる文化祭の方が楽しそうだし異論はないと思うし。

「圭介はやりたくないの?生徒会長代行」

「そういう訳じゃないんだけど、自分なんかで務まるのか分からないな」

「大丈夫だよ。物事を独断で決めるような運営はしてないから」

「兼務出来ることを決めたのにですか?」

「ははは、それは書記も同じことだからね。彼は兼務可能になってから図書部に入っている。本の虫だからね」

 意外だ。あんな企画を立てる人が本の虫だなんて。なんにしても、この流れだと僕が生徒会長代行をやるのは既定路線になりそうだ。僕はどうせ細かい指示は杏香がやるだろうし、別に良いか、と安請け合いしてしまった。

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