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【第十三話】入会

「何してるの?」

 なんてタイミングでやって来るんだよ……。杏香がやって来て、自分の母親と僕を交互に見ている。

「杏香……、あなた圭介くんと付き合ってるって本当なの?」

「ん?ええ、本当だけど。と言っても期間限定だけどね。あと二ヶ月くらいでしょ?結婚するまで」

 あまりに自然な受け答えで挟まる余地がない。僕は純香に視線を移した。純香は何か言いたげな顔をしているが、現実は今、杏香が答えた内容なわけで。

「純香は家の中には入ってこない、ってことじゃなかったのかしら?」

「う……、それは……」

「どういうことなの?」

 杏香の母親が僕に状況の確認をしてくる。ここで何を言っても真実を杏香は話すだろう。そう思って僕はありのままをを話すことにした。

 

「そう。そういうことなの。杏香はそれでいいの?」

「私が言い始めたことだから」

「圭介くんはなんでこの事を受け入れたの?」

「いや……」

 受け入れたというより選択の余地がなかった、というのが正しいが、当事者がそれでは話がまとまらない。

「僕は……。杏香がそれで満足するなら、と思いまして」

「そう、圭介くんは優しいのね。普通は断るでしょ?」

「いや……」

「お母さん、そういう事だから心配しないで」

 期間限定だから心配するな、そういう事なのだろう。でも普通の感覚ならそれでも止めるような気がしないではない。でもここでそれを議論してもどうしようもない。

「あのー……」

 一旦、蚊帳の外になった純香が話に入ってきた。

「なにかしら?」

 今は家の中。僕は杏香の彼氏ということになる。それもあってか杏香は純香に少し強めの反応をした。

「そろそろ学校に行かないと遅刻しそうなんですけど……」

「あら。もうそんな時間?ごめんなさいね。杏香、ちょっと話があるからこのまま時間あるかしら?純香ちゃんと圭介くんはもういいから学校に」

 そう言われたので僕は急いで準備をして玄関に戻ってきた。そして純香と一緒に学校に向かって歩き始めた。

 

「純香、これからどうするんだ?」

「これからも何も。さっきの話聞いてたんでしょ?」

「聞いてたけど……。いいのか?」

「いいのよ、これで。杏香のお母さんには期間限定ってしっかり伝わったし、外では私の方が強いし」

「そうじゃなくてさ。僕の彼氏になるって話なんだけどさ……」

 そういうと純香は「あっ……」という顔で早口で捲し立ててきた。

「べ、別に私からそういうんじゃないけど、圭介が否定しないし、私が引き下がったら杏香と圭介が何をしでかすか分からないし。だから私は……。あー!もう!分かってよ!」

 ここで分かったというのは簡単だけど、本当にそれで良いのか、という気持ちがまだ少し残っている。でもこんな純香を目の前にして、この話はなかったことに、というのもなぁ。流石に泣かしてしまうかも知れない。

「単純なことを聞くんだけど、純香は僕のこと好きなの?」

「はぁ⁉︎なんでそうなるのよ!」

「違うのかよ……」

「圭介が杏香と変な事にならないように、って思って……」

 頑固だなぁ、なんて思っていたら何を観念したのか一つ息を吐いてから話し始めた。

「私はね、杏香のことが嫌いとかじゃないの。親の件は子供には関係ないしね。そりゃ生活環境が違うのは知ってるんだけど、こればっかりは私がどうこう出来るものでもないしね。それに私が今まで行動に移してなかったから、こんな事になってる訳だし」

 行動。僕と付き合う、という事だろう。でも僕は純香からそう言われて首を縦に振っていただろうか。いつも近くにいてそういう対象には見ることはできなかったかも知れない。でも今は別の視点で純香を見てしまってハッキリ言われたら何て答えれば良いのか分からない。

「とにかく。期間限定は絶対だからね。家族になっても付き合うなんて私、絶対に許さないから。幼馴染として!」

 幼馴染、強調したなぁ。あくまでそういうスタンスなんだ。だったら自分もそういう感じで行けば良いのかな。そう思って授業をいつも通りに聞き流して放課後になった。

 

「野宮くん」

 帰る準備をしていたら教室の後ろのドアの外から僕を呼ぶ声がして目線を送ると、東堂生徒会長が手招きをしていた。

 僕は帰る準備を済ませてから用事を聞きに行った訳だけど……。

「あ!生徒会長!今度は圭介を誘ってるんですか⁉︎圭介は成績最悪ですよ?」

「いきなり来て失礼だな」

「なによ。事実でしょ?」

「ぐ……」

 純香が僕たちのところに来てそんな会話を挟んできた。

「九木さんは生徒会に入る気になった?」

 社交辞令的に生徒会長が純香に聞く。返事は当然にノー、だと思ったのに。

「いいですよ。入っても。その代わりに派閥とかそういうのはナシです。生徒会長にも書記にも肩入れしません。それでも入って欲しいですか?」

 まぁ、純香は成績も良いし人当たりも良いので選挙の時は色々と使えるとか思ってのことだろうから、この反応なら無理をしないでも、という返事だろう。

「それは手痛いな。でも。笹森さんが顧問に来るけど、それでも良いかな?」

 純香の耳がぴくりと動いた。生徒会長がここで杏香の名前を出すとは。

「あの。生徒会長は僕に何か用事があったんじゃ?」

「ああ、そうそう。さっき九木さんは生徒会には誘う訳ないって言ってたけども、僕は野宮くんに生徒会に入ってもらいたいと思ってる。今日はその勧誘かな」

「え?」

「ちょっ!圭介なんて生徒会に入っても生徒の見本にはならないですよ!」

「なんだなんだ。失礼な。ってか、純香も生徒会に入るんだろ?僕の監視も出来るじゃん」

「なんだい?野宮くんは九木さんの彼氏さん、なのかな?大丈夫だよ。生徒会に彼女募集中のメンバーは居ないよ」

「そういうのじゃないですからっ!」

「何にしても生徒会は今、人員が足りなくてね。派閥なんて言ってる場合じゃないんだよ。近々だと十一月の文化祭の仕事が特にね。笹森さんに顧問になってもらうのも、派閥とか関係なしに平等に指導してもらうためだしね」

 この前と言ってることが違うのは気になるが。でも、僕も生徒会に入るならその辺の事柄についても関わりが持てるというものかも知れない。

「まぁ、なんだ。こんなところでの立ち話もなんだし、生徒会室に行かないかい?」

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