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Hack The World  作者: Hide
第二章 幸福同期教団篇

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8/11

ep.8 Initial Foothold

 翌朝。オレは一人で、幸福同期教団総合本部の前に立っていた。


 郊外の山中に建てられたその施設は、宗教施設というより巨大な研究所に近い。


 ――想像していたより、ずっと物々しいな。


 潜入方法は、入信希望者を装って内部へ入るだけだ。単純な方法ほど疑われにくい。これはソーシャルエンジニアリングの基本でもある。


 彩子とは別々に入る。偽名で事前登録した入信希望者として、30分の時間差で。中では赤の他人だ。


 門前には「新規同期希望者受付」と書かれた看板がある。


 オレは腕時計を確認して、門へ向かった。



 受付で端末に名前を入力すると、教団職員が現れた。


 全員、白い法衣。全員、同じ笑み。


「ようこそ、同期の園へ」


 機械のように揃った声だった。


 ――気味が悪い。


 施設内部に入ると、白い法衣に着替えさせられ、巨大なホールへ案内される。


 数百人の信徒が無言で座り、正面を見つめていた。


 その中央。壇上に、神代隆真が現れる。


「人は皆、ノイズに苦しんでいる」


「だが同期すれば、世界は一つとなる」


 信徒たちが恍惚としたように頷く。


 神代が両手を広げた。


 次の瞬間、壇上脇に置かれた金属製の壺が、ふわりと浮いた。


 ――来た。


 信者たちがざわめいた。感嘆とも祈りともつかない声が広がる。


 オレはその声を聞いていなかった。


 壺を見ていた。浮き方が均一すぎる。神代の手の動きと、壺の動きが、微妙にずれている。


 オレは神代の傍にいる幹部たちに目を向けたが、特に不審な点は見当たらなかった。



 ホールでのセレモニーが終わると、信徒の一人が近づいてきた。


「新しい同期の方ですね。昼食のご案内をいたします」


 案内された食堂は、修道院の食堂を思わせる長テーブルが並ぶ広い部屋だった。メニューは白米と野菜の煮物、味噌汁。質素だが清潔だ。


 離れたテーブルに彩子の姿が見えた。目が合ったが、互いに視線を外した。


 食事を終えると、午後の研修を経て、職員に宿舎へ案内された。


「新入同期の方はこちらです」


 案内された宿舎棟は、男女別のドミトリー形式の相部屋が並ぶ構造だった。


 部屋に通されると、職員は一礼して去った。


 オレはすぐにSignalを開いた。


『彩子は施設内を散策してマッピングしてくれ。目的は神代の部屋の特定だ。オレは教団の実態を洗う』


『りょ』


 了解......ってことだよな?


 オレはスマホを置いて、ベッドに腰を下ろした。


 この施設のどこかに、USBの所持者がいる。洗脳されているなら、まず敵ではない。


 ――だが、まだわからない。


 自分の意志でここにいる可能性も、ゼロじゃない。


 どちらにせよ、明日には輪郭が見えてくる。


 オレは静かに息を吐いた。

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