ep.7 Social Engineering
彩子が仲間になって三日が経ったある日。
「トオル、トオル! ちょっとこれ見てよ!」
彩子は駆け足でオレに近づき、スマホを差し出してきた。
「これは......YouTubeの動画か」
『【衝撃】幸福同期教団教祖・神代隆真、念力で壺を空中浮遊させる瞬間を捉えた』
――何もかも胡散臭い。
とりあえず、再生してみるか。
画面に映ったのは、グレーがかった長髪を後ろに流した肥満体型の中年男だった。紫レンズの細フレーム眼鏡。金チェーンのネックレスを何本も重ね付けし、白いロングローブの上から教義めいた文字が刺繍された紫金のストールを羽織っている。
「皆さん、こんにちは。ワタシは、かつて世界の同期を司った至高神アドミオンの正統なる末裔、神代隆真です」
この時点で、これがカルトの類であることはオレの中で確定した。
「いま、この世界は非同期によって乱れています。争い、病、貧困......そのすべては魂の同期率が低下した結果なのです」
「しかし安心してください。アドミオンは、選ばれしワタシに調和の権能を授けました」
「今からお見せするのは、科学では説明不可能な神聖現象――念動同期です」
そう言うと神代は目を閉じ、両手を合わせ、呪文めいた言葉を唱え始めた。
そして――
「はああああぁぁぁ!!」
叫びとともに、目の前の壺が宙に浮く。
「......ご覧になりましたか」
「物質は意志に従い、重力は信仰に屈する。これがアドミオンの御業です」
「入信された方には、魂の周波数を整える幸福同期プログラムへの参加資格が与えられます」
「運命を変えたい方、病を断ちたい方、孤独を恐れる方たち――どうか目覚めてください」
「世界の幸福は同期します」
そこで動画は終了した。
「ねぇ見たでしょ! このジジィ、絶対USB所持者だよ!」
「――違う。神代は所持者ではない」
「え!? まさか今の現象、本当に念力だと思ってるの!?」
彩子が信じられないという目でこちらを見る。
「いや、現象自体はUnreal USBによるものだ。ただし、使っているのは神代じゃない。別の人間だ」
「どうしてそう言い切れるわけ?」
「まず、こいつがTHWランキングに入れる頭脳の持ち主とは到底思えない」
「それに、自分自身を浮かせた方がより神秘的に映る。それをしていないのは、できないからだ。つまり神代はUSBを所持していない――別の人間が操作している」
「相手の人体はオブジェクトとして認識できない以上、第三者が仕方なく壺を浮かせていると考えるのが自然だ」
「......たしかに、その理屈なら筋は通る。それで、浮遊を可能にするUSBとなると......重力系かな?」
「順当に考えればな」
「よーし! そうと決まれば、教祖の裏に隠れてるランカーを暴かなきゃだね! 教団の中身もちょっと気になるし☆」
彩子の目がすでに先を見ていた。
「ああ。明日の朝、総合本部へ向かう」
排除ではなく奪取。今回はそれが目的になる。
恐らく、この所持者は神代に洗脳され、都合よく操られている。
――これはチャンスだ。
洗脳を解ければ、こちら側に引き抜けるかもしれない。
「それと彩子、オレと連絡を取る際はSignalというアプリを使ってくれ。通信内容がエンドツーエンド暗号化されているから、第三者に解読されるリスクは低い」
「うん! わかったよ☆」
彩子はこくりとうなずいた。
仲間として動く感覚が、少しずつ形になり始めていた。




