ep.5 Poisoned Handshake
突然部屋に侵入してきたのは、地雷系の装いに身を包んだピンク髪ツインテールの少女だった。両手には、迷いなくこちらへ向けられた銃口。
反射的にオレは後ろの窓ガラスの大きさを1ミリに縮め、そのまま外へと身を投げ出した。
「にがさないよ!」
背後から軽い声。直後、少女もためらいなく窓から飛び出した。
地面まではおよそ10メートル。普通なら、無事では済まない高さだ。
だが――
オレはポケットからティッシュを引き抜くと、落下地点へ移動させ、一瞬で巨大化させた。繊維を厚く展開し、衝撃を吸収するクッションへと変える。
「すごーい! なにそれ、でっかいティッシュ!」
無邪気な声を上げながら、少女も同じ地点へと軌道を合わせてくる。
「そうはさせない」
着地の直前、オレはティッシュを元の大きさへと戻した。クッションは消え、残るのは硬い地面だけ。
「わっ! ちっちゃくなっちゃった!」
高さ10メートルの窓から侵入できるなら、その逆もまた可能だろう――さぁ、能力を見せてみろ。
「それなら――スロー!」
次の瞬間、彼女の落下速度が目に見えて鈍化した。空間ごと、時間の流れが歪んだかのように。
――奴の持つUnreal USBはSPEEDか!
「あ......れ......これ......じぶんの......しょり......そくど......も......」
思考すら遅れている。なるほど、自身の速度低下は内部にも影響するらしい。
なら――隙は、今。
オレは速度を戻される前に、持っていたボールペンをバットサイズに巨大化させ、彼女の頭を思いっきり振り抜いた。
―――
「ん......ここは......」
意識が浮上する。視界が滲む中、最初に理解したのは、自由が利かないことだった。手足はロープで縛られ、椅子に固定されている。
「――っ!」
頭がズキンと脈打つ。殴られた衝撃が、まだ残っている。
――そのとき。
「ガチャ」という音とともに、あたしを殴った男、第2位が部屋の中に入ってくる。
「こんなところに閉じ込めて一体どういうつもり? USBが欲しいなら、さっさとコロせばいいじゃん。ねえ、第2位さん?」
「いや、お前には俺の仲間になってもらう。」
「......は?」
思わず間の抜けた声が出た。
「あんたさ、何言ってるかわかってる? これは16人のうち1人が世界の管理者になるゲームでしょ? 仲間なんて概念、最初から存在しないって」
「違うな」
男は即座に否定した。
「どちらかが管理者になって、もう一人に管理者権限を付与すれば、二人で世界の管理者になることができる。だから問題はない」
――ヤバい。
こいつ、第2位のくせにとんでもないバカだ。
「はぁ......そもそも管理者になった人間以外が――」
あたしはそこで言葉を止めた。
「......わかった。仲間になってあげる」
「本当か?」
「うん! 確かにこれから他の連中と戦う上で、味方がいるってのは大きなアドバンテージになるしね!」
男は一瞬だけ目を見開き、それから頷いた。
「ありがとう。今、ロープをほどくから少し待っていてくれ」
そう言って、男は丁寧に縛られたロープをほどいていく。
「では、改めて――オレはTHW第2位のclear、本名は黒瀬 透だ。これからよろしくな」
「あたしは第4位のayako、本名はそのまま西園寺 彩子だよ! よろしくねトオル☆」
「いきなり名前呼びか......それにしても、あの第4位だったとは」
少し困ったように笑いながらも、男は手を差し出してきた。
あたしはそれを握り返す。
「ふふっ、あたしのことも気軽にアヤコって呼んでいいからね☆」
「ああ、わかったよ彩子」
―――
......バーカ、あんたのことなんて1ミリも仲間だなんて思ってないから。
だって、もし管理者になった人間以外のTHWランカーが全員死ぬって設定だったら意味ないじゃん。そんなことにも気づかないだなんてね。
でもまぁ、第2位という実力はあるし、こいつは今少なくとも2個のUnreal USBを所持していて相当な戦力になる。
すべてのUSBを集め終わったら、今度こそあんたの頭撃ち抜いてあげるから☆
――こうして、あたしの偽りの協定がここに結ばれた。




