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魔力は全てを解決する!  作者: 南国ブラックベア
第3章:侵略と防衛
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養殖兵

 帝都の東にある街レイジム。西から来た街道は東側に聳(そび)えるバロム山脈を迂回するよう北東に伸びており、そこから幾つかの街を経て更に東へと進めばグロリア帝国が見えてくる。言わばバロム山脈が有るからこそグロリア帝国との天然の防壁になったとも言えるだろう。だからこそ麓(ふもと)のレイジムは安全だろうと思われたのだが……。


「ドルガーさん、クランを抜けて本当に良かったんですかい? 代わりの仕事がレイジムでの警備とか、面倒にも程がありまさぁ」

「街の警備なんざ傭兵や騎士団にさせときゃいいんじゃと思うんすけどねぇ」

「バーロー! 抜けちまったもんは仕方ねぇだろ! しかもあんなガキ1人に負けたなんて、クランの笑い者だ。どっちにしろあのクランにゃ縁が無かったっつ~こった」


 レイジムで警備にあたっているのは少し前まで【ブレイキングKO】で活動していたドルガーを中心とするメンバーたちだ。後ろ指を差されるのが嫌で帝都を離れた彼らは、今では傭兵もどきの活動をしていた。


「もうすっかり日が落ちましたぜ? いつもなら酒場で盛り上がってる時間なんすが」

「だったらテメェが奢(おご)るってのか、ああん!?」

「い、いや、そういうわけじゃ……」

「いいか? 金が無くなりゃ路頭に迷うだけだ。テメェだってスラムの住人みたいになりたかねぇだろ? 仕事を選んでる余裕なんざねぇんだよ」


 長く冒険者を続けているだけあってドルガーは冷静だった。


「そういや近年はスラムの住人が減ってきてるんすよね」

「知るかよ。食いもんが無くて他に移っただけだろ。それより――」



 シュ――――ザクッ!



「うっ!?」

「「「ドルガーさん!?」」」


 先頭を歩いていたドルガーの首に矢が刺さる。突然のことで仲間たちに同様が広がるも、それだけでは収まらなかった。



 シュ――シュシュシュシュ!



「ヒィ!? て、敵だ、敵が現れたぞ!」

「んなバカな! グロリアの兵もアスタロトの連中も攻め寄せちゃいないんだぜ!? いったいどこから――ギャッ!?」

「おいマズイぞ、ドルガーさんも殺られちまったし、俺たちだけでも逃げろ!」

「クッソ~~~! ――へギャ!」


 堪らず街の中へと引っ込んでいくドルガーの取り巻きたち。これで警備が手薄になったと感じ取った襲撃者たちがゆっくりと暗がりから姿を現し……


「クフフフフフ! こんな簡単に夜襲が成功するとはな。やはり落ち目な帝国というライオネル様のお言葉は正しかったわけだ」

「プギプギ」


 現れたのは豚に跨がったコボルト。しかも人語を話す特殊個体だ。よく見れば豚の方も只の豚ではない。全長が人と同等はあるように見える豚、そう、豚ではなくオークだったのだ。その四足歩行のオークに跨り弓を担いだコボルトがおよそ100体近く。これらが険しいバロム山脈を越えてきたという事になる。


「ここレイジムの街を素早く占拠し、帝都マインクラウンへの足掛かりとする。一番槍はこのギーオがいただくぞ、者共続けぇ!」

「「「ガウガウゥ!」」」



★★★★★



「レイジムが襲撃された!? 本当なのラミ姉さん!」

「こんな真顔で嘘は付かないわよ」


 少し遅めの朝食を取っていると、向かいに座るラミエル姉さんことラミ姉が衝撃の一言を。


「イルフィーナとフレデリカは他の街に軍として同行している。帝都に残されたのは予備兵が中心。つまり……」

「つまり?」

「ランタール帝国は大ピンチってわけね」


 そんな緊張感なく言われてもな……


「だけど帝都の民に知らせるわけにはいかないでしょ? それこそ大混乱だし。だから待機組の私た(・)ち(・)の出番ってわけ」

「何でそれを俺に?」

「決まってるじゃない、今日の当番は私だもの。さ、食べ終わったら出撃しましょ」


 護衛対象の俺まで出撃するのか。


「邸のほうが安全なんじゃ?」

「それだと私の負担が大きいのよ。バーストた(・)ち(・)が居たほうが楽に終わるし」


 そして明るみに出るラミ姉の性格。なんだかんだ理由をつけて楽するのが得意だったなと軽く回想してみる。面倒なことは言葉巧みに他の姉妹に押し付けるんよ。いやぁ卑怯だと思いませんか奥さん?


「まぁまぁ、今脳裏で私のことを卑怯だとか言いましたか?」

「断じて御座いません」

「フフ、まぁそういう事にしておきましょう」

「それよりさっきから私(・)た(・)ち(・)という単語を強調してるような?」

「ええもちろん。ブローガン国家元帥様による直々の御命令だもの、最大戦力の貴方を伴わない手はないわ」


 やっぱり。というか元帥自ら?


「つい先ほどね、使いの者から書簡を受け取ったの。軍を動かせば城が手薄になるでしょ? だから少数精鋭でレイジムを救済して欲しいんですって」

「そりゃまた期待されてるな」

「これでも遊撃手としては評価が高いもの。それに天下のキルロード家ともなれば頼らざるを得ないのでしょ? それよりほら、手に持ったパンを早く飲み込んで」

「ウグググ!? ラミ姉、水水水ぅぅぅ!」


 危うく逆流しそうになったパンを走りながら飲み込む。外ではエリーとファーナがすでに待機しており、共に東門へと急ぐ。


「エリーにファーナ、2人とも参戦して大丈夫なのか?」

「……何も問題ない。同郷の者に命を脅かされるより百倍はマシ」

「右に同じ。てか今さらっしょ? 好きで冒険者やってんだから、危険は承知の上よ。それより門のところ、何だか混雑してるみたいね」


 ファーナの言う通り、東門の前が大勢の兵士でごった返している。事情は知らないけど元帥様の御命令だし優先して出してもらおう。――と思ったのだが、そのブローガン元帥もそこに居たようで……


「ラミエル殿、ちょうど良いところに! すまないがヴィクトル様をお止めするのを手伝ってはくれぬか?」

「止める?」


 元帥が指した先には今にも門を出ていこうとするヴィクトル様と、それを必死に止めようとしている兵士たちの姿が。


「ヴィクトル様、どうかお考え直しを!」

「何を言う、帝都が脅かされているというのに黙って見届けろとほざくか!」

「で、ですが、皇族であるヴィクトル様が軽々しく出向くのは危険が……」

「バカ者! 我々には民を護る義務があるのだ、それを放棄するわけにはいかん!」

「し、しかしですね……」


 普段は穏やかなヴィクトル様が口調を荒らげて出撃を熱望している。そもそもヴィクトル様って剣術が達者だったよな? 簡単に死なないと思う俺の考えは甘いんだろうか。


「そこまでして止めるのなら代わりとなる兵たちを連れてくるがいい。私が認めた人物ならば大人しく引き下がろう」

「そんな! ヴィクトル様より剣術が得意な人物なんて、もはやブローガン様をおいていらっしゃらないかと……」

「ならダメだ。彼には城を護るという役目があるじゃないか。やはり私が――ん?」


 ヴィクトル様と目が合い、俺に気付くと険しかった表情がキリッと早変わりし……


「やぁバーストくん。急で悪いんだけれど、私の頼みを聞いてもらえないだろうか?」

「レイジムに加勢しに行く――ですよね?」

「知ってたのかい!?」

「はい。俺の――コホン、自分の姉が元帥様より直々に御命令を受けまして、ちょうどこれから向かうところなんですよ」


 険しい顔→凛々しい顔→驚きの顔→納得の笑顔へと変化していき、最後はにこやかに笑い飛ばし……


「ハハ! な~んだ、そういうことなら最初から言って欲しかったな。ちゃんと手は打ってあるのならそう言えばいいのに。ブローガン、キミも中々にして頑固者だね」

「は、はぁ。ご納得いただけたようで何より……です?」

「バーストくん、キミが居るなら安心だ。その腕を存分に振るい、グロリア帝国を思い知らせてやってくれ。では失礼するよ」


 まるで憑(つ)き物(もの)が落ちたような清々しい顔でヴィクトル様は城へと戻っていく。後に続く兵士たちも互いに顔を見合わせつつ肩を竦(すく)め、ホッとした表情のブローガン元帥が顔の汗を拭った後に俺たちへ会釈し、その場を立ち去っていく。


「まぁまぁ、バーストったら期待されてるのね? ヴィクトル様が貴族の子息を覚えてるなんて余程の事よ」

「ちょくちょく出会してるからだよ。それで覚えられたんだと思う」

「それだけなはずないわ、私も何度かお会いしてるのに見向きもされなかったじゃない」


 言われてみれば……。けどそんな事ってあるか? まぁ期待されてるんなら悪い気はしないけど。

 その辺は頭の片隅に避けといて、今はレイジムに向かうのが急務。ラミ姉の靴にも風属性を付与し、人目を避けて猛ダッシュ。僅か30分でレイジムの街に到着した。今は中の様子が分からないため、離れた場所に留まっている。


「普通なら丸1日は掛かるのにね。これなら馬車も不要じゃない。次の家族旅行からバーストにお願いしようかしら?」

「それだと俺は楽しめない」

「……バーストをこき使っちゃダメ」

「いくらお姉さんでも許さないわ」

「まぁまぁ、冗談だから怖い顔しないで。ほら、アゼリアも呆れてるわよ?」

「アゼリア?」


 不意にアゼリアが上空から降りてきた。


「朝から見ないと思ったらこんなところに居たのか」

「中を探って欲しいとラミエルに頼まれてのぅ、先に偵察に来たわけじゃ。ちなみに街はすっかり占拠されたようじゃぞ?」


 アゼリアが言うには四足歩行のオークに乗ったコボルトが街中を徘(・)徊(・)し(・)て(・)い(・)た(・)んだとか。住民の大半は屋内に引きこもっているようで、人が集まる中央広場等も閑散としているらしい。


「領主はどうなってるのかしら?」

「領主が住んでいるとおぼしき邸がコボルト共に取り囲まれておった。籠城戦を展開しておるのじゃろう。まぁついて参れ」


 アゼリアの手引きで難なく街へ――というより門にも街中にもコボルトは見当たらず、代わり戦闘の跡と見られる黒ずんだ地面がそこかしこに散見された。


「気をつけてバースト、姿を隠して油断させているのかも!」

「なるほど、コボルトの癖に頭は回ると。アゼリア、上空からの監視を頼む」

「何を言う、コボルトが徘徊していたと言ったであろう?」

「過去形? じゃあ……」

「あんな雑魚共、オークもろとも消し炭にしてやったわぃ」

「「「oh……」」」


 全員の肩の力が一気に抜ける。


「それを先に言えっての! そこらに見える黒ずんだ地面は焼き焦げた跡かよ、きったねぇなぁ……」

「そうガッカリするでない。オークの丸焼きなら直ぐに手に入る」

「食いたいわけじゃねぇっての! ほら、領主の邸へ急ぐぞ」


 領主の邸へと近付くにつれて獣臭が強くなる。遠目でもコボルトの姿が徐々に見え、乗り物として扱っていたオークに命じて入口への突進を行わせているのが分かる。


「マズイぞ、門を突破されたら領主が危険だ。すぐに殲滅(せんめつ)しよう」

「ならあたしに任せてよ。最近コントロールが良くなってきたところなの。凍てつく吹雪!」


 サイキックグローブを使ったファーナの固有魔法だ。猛吹雪をコボルト共に当てて瞬時に冷凍していく。


「エリー、後は頼んだ!」

「……お任せあれ」

 

 シュ――――バババババン!


 凍った奴らに向けてバンビーボールをお見舞いし、次々にコボルトとオークの氷像が壊されていく。過半数を撃破したところでボスとおぼしきコボルトが怒りを露に突撃してきた。


「貴様らか、ライオネル様に逆らう不届き者は! このギーオが相手だ、全軍突撃ぃ~~~!」


 コイツ、包囲を解いて俺たちに向かって来やがった! 走りながらも矢を放ってくる――が……


 カツン――カツカツカツン!


「何だと、弓矢が効かない!?」

「見たところ普通の弓矢だな。その程度の性能じゃ俺の障壁は崩せないぜ?」

「障壁!? まさかお前、魔術師か!」

「魔法を使えるって意味ならそうかもな。魔術師だと思ったことはないが」

「クッ、ここまで来て残念だが今回はこちらの負けだ。この場は――」


 シュ――――ザクザクザクッ!


「――ギィォェア!?」


 逃走を計ろうとしたギーオに洗礼とも言える弓矢の嵐が吹き荒れ、全身を射貫かれて絶命した。


「弓はこうやって使うのよ、お雑魚さん」


 同じ弓使いとして思うところがあったのか、圧倒的実力を見せつけた勝利だった。


「お~い、外に居るのは援軍か!?」


 閉ざされた門の向こうから声がした。中は無事らしい。


「はい。帝都から駆けつけました、小隊長のラミエルです」

「それは有り難い! 見ての通り邸の陥落は免れた、礼を言うぞ!」


 よし、ミッションクリアーだ。これで帝都がパニックになる事は無いだろう。


「ところでキミたち、邸から出るのを手伝ってくれ!」

「はい?」

「どういうわけか門が凍りついたように動かないんだ!」


 すんません、それ多分凍ってます。


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