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魔力は全てを解決する!  作者: 南国ブラックベア
第3章:侵略と防衛
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長男の秘密

「アド兄さん誕生日おめでとう! この剣は俺が自ら錬金したレア物さ、大事に使ってくれよ!」

「もちろんだとも! 例えこの身が滅びようとも剣だけは護り抜いて見せよう!」

「逆だ逆!」


 件のロックゴーレムからドロップした魔石から誕生した一振の剣。素早さと集中力が爆上がりするバフが掛けられるという素晴らしい出来にグラス兄さんも満足げだ。


「いい剣じゃないか、後で俺にも振らせてくれよ」

「断る。乱暴なグレイバムに使わせたら数日でボロボロになる」

「んなこたぁねぇって!」

「おやおや、なら私が使ってみよう」

「イル姉さん、貴女の武器はハルバードでしょう。剣を持つ必要はない」

「あらあらですわよイルフィーナ。ここは双剣使いのわたくしが代わりに――」

「何の代わりだ何の! フレデリカにも貸さん!」


 はい、俺の剣は大人気の模様。こりゃ家族の誕生日が来るたびに苦労しそうだ。


「ん~~~このケーキ最っっっ高♪ 皿まで食べれそう!」(←食うなよ?)

「まぁまぁ、ファーナちゃんったら良い食べっぷりね。良かったらコレもどうぞ~」

「あ~りがと~ラミエルさん!」

「……ファーナには負けない」

「エリーちゃんも凄い勢いね。そんなにガッついても痩(や)せてるなんて羨ましいわ」

「……エルフは体質的に肥りにくい。ハーフエルフも一緒」

「あたしもエルフに生まれたかったわ……」


 アド兄の席から目を離すと、ファーナとエリーがケーキに夢中になっている光景が飛び込んできた。間に入ったラミ姉さんがケーキを切り分けている中、アイリだけは羨ましそうに2人を眺めている。そんな目をしたって胃袋は人間のままだからな?


「ん? どこか行くのかグラスフォード」

「父上、少々外の空気を吸って参ります。俺までケーキをつついてると女性陣からの批判が凄そうなので」

「そうか? 私は気にならないが。どう思うルイザ?」

「中年肥りは醜いからダーリンは自重しな」

「むぅ……」


 残念そうな父上を尻目にグラス兄さんは食堂を出ていく。すると透かさずアゼリアに手を引かれ……


「妾たちも外に出てくる。ほれ――」

「あ、ああ……」


 グラス兄さんに続いた。しかし兄さんは外には出ずに自室へと入ったので、俺とアゼリアも押し掛ける形に。すると待ってましたとばかりにグラス兄さんが微笑みかけてきた。


「バースト、お前には色々と話さなければと思っていたんだ」

「じゃあ……」

「すでに気付いてるだろうけれど、改めて伝えよう。俺には人知を超えたスキルの大半は通用しない。だから直ぐに気付いたよ、アゼリアが記憶の改竄(かいざん)を行ったとね」


 やっぱりか。只者じゃないと思ってたけどアゼリアのスキルを防ぐとか予想以上じゃないか。だとするとアゼリアとしても黙ってはおれず、グラス兄さんに噛みついた。


「グラスフォードよ、妾としてはお主の存在は危惧するものだと認識しておる。危険だと判断すれば直ぐにでも行動に移す」

「それは……キミ自身が危機に陥(おちい)るとの判断かな? それともバーストに危害が及ぶとの判断かい?」

「強いて言えば後者じゃ。バースト自身も不安がっておるしな、のぅ?」

「俺に振るなよ。俺からしたらどっちも桁外れな存在だって」

「戯(たわ)け! お主はどっちの味方なんじゃ!」

「どっちのって……」

「まぁまぁ落ち着いて」


 怒りの矛先が俺にも向いたところでグラス兄さんがやんわりと止めに入る。そして落ち着き払った様子で心中を明かした。


「アゼリアからしたら俺の存在が気に食わないのは分かる。けれどね、俺だってバーストの身は案じていたんだよ。遠征に出向くことが決まってからというもの、非力なバーストが心配で仕方がなかったし。だからアゼリアには感謝してるんだよ」

「感謝じゃと?」

「うん。バーストが人並み外れた魔力を得たのはアゼリアのお陰。そこは紛れもない事実だからね」


 それはそう。死にかけたけど結果はご覧の通りだ。


「ほほぅ、分かっておるではないか。これバースト、お主も兄を見習って妾に敬意を払うがよい」

「はいはい」

「敬意が足りん! もっと誠心誠意で敬うがいい」

「はいはいはい」

「バカにしよって、ハイは1回じゃ!」

「ほ~~~い」

「それでいい!」

「いいのかよ!?」


 判断基準がいまいちなアゼリアは置いとくとして、グラス兄さんからはもっと肝心な部分を確認したい。


「ファーナに接触したりリスティたちに依頼を出したのはどうして?」

「ああそれか。お節介だとは思ったけどね、交友関係はフェアじゃなきゃいけないと思ったのさ」

「フン。横槍を入れるのがフェアじゃと? 他人の恋路を邪魔しておきながら何というふてぶてしさじゃ!」

「そうは言うけどね、最初に横槍を入れたのはアゼリア、キミのほうなんだよ?」

「「え?」」


 地団駄を踏んでいたアゼリアに対し、爽やか笑顔を崩さないグラス兄さんはさらりと言い返す。


「よく考えてほしい。自分に都合よく事実改変を行ったのは誰なのか」

「…………あ」


 そうだった、エリーたちを意図的に遠ざけたのはアゼリアだ。


「俺はそれを修正したまで。だからエリーの記憶も直ぐに戻っただろう?」

「それは……」


 そうなんだけど、それだとグラス兄さんはますます人間離れした存在ってことに……


「心配はいらないよ? これでも勇者候補として名を上げてきた身だ。自分の身は自分で護るさ。アゼリアも……ね?」

「愚問じゃ。妾を害する存在なんぞ、一瞬で塵(ちり)に変えてくれるわ」


 ううん、この絶望的なまでに安心させられる台詞よ。アゼリアで無理なら諦めるしかないもんな。


「だけどバースト、お前は違う。まだまだ不安定な存在だ」

「精進せよ――という事じゃな。聞いておるかバースト?」


 聞いてるって。だからこそ魔石をかき集めて武器を作ろうと思ったんだ。


「俺も考えてはいるよ」

「ああ、見せてもらったよ、アドセルトに贈った見事な剣を。俺にも魔法は使えるけれど錬金には向かない。恐らくアゼリアも」

「うむ。小手先の細かい事は苦手じゃ。自慢するわけじゃないがな!」

「自信満々に言われたくはなかったけれど……まぁいい。とにかくバースト、来(・)る(・)べ(・)き(・)時(・)に備えておくんだ。国の――帝国の行く末はお前の手にかかっている」


 いつになく真剣な顔で訴えてくるグラス兄さん。大袈裟な――とは思ったけど、次に発せられた台詞を聞いて大袈裟ではない事が判明する。


「近々、近隣諸国と戦争になるかもしれない。いや、まず避けられないだろう」

「せ、戦争!?」


 戦争の2文字に凍りつく。思わず生唾を飲み込むも、グラス兄さんの険しい表情が嘘ではないことを物語っていた。どこ吹く風のアゼリアとは対称的なグラス兄さんが、静かに真相を告げてくる。



★★★★★



 冒険者ギルド東支部。ランタール帝国において一番の規模を持つ支部であり、そこに近い東門は帝国にとっての正面玄関のような役割を持っていると思っていい。つまり、人の出入りが最も活発なのだ。

 当然のように冒険者ギルドの中で最も重要な場所とも言え、この日は主要な人物を集めた緊急会議が開かれていた。


「全員揃ったようなので、さっそく始めさせてもらいたい。進行は東支部のギルドマスターであるこのワシ――ベーリングが行わせてもらう。異論はあるだろうが時間が惜しい、速やかに意見をまとめるためにも協力をお願いする」


 重苦しい雰囲気の中、ギルマスのベーリングの主導で会議が始まる。


「本日、我が国のブローガン国家元帥より正式に告知があった。内容は次の通りだ。【隣国グロリア帝国からの宣戦布告を受けた。これに備えるべく我が国の防衛体勢を強化するため、治安維持と霧払いの積極的協力を要請する】と」


 宣戦布告というフレーズにざわつきが起こる。グロリア帝国はランタール帝国の東にあり、魔王との戦いの際にも連合軍として参戦した国だ。魔王が討伐された終戦後も不可侵の関係を維持してきたはずが、最近になって国の方針が180度変わったらしい。その要因となったのは……


「かの国は新皇帝ライオネルのもと生まれ変わったと告げてきた」

「「「ライオネル!」」」


 その場の全員が驚愕(きょうがく)する。ライオネルは強靭な肉体を持つ獅子獣人で、立ちはだかる敵は草木の如く捻り潰すという逸話を持つ。更に極めつけは……


「そう、魔王軍四天王のライオネルだ」


 静かに……それでいてしっかりとした口調でその名を呟くベーリング。


「魔王の打倒に意気消沈かと思えばとんでもない。【俺様が腑抜(ふぬ)けた帝国を甦(よみがえ)らせてやろう】と豪語しているらしく、魔王に代わり世界を征するつもりのようだ。最早かつて共闘した国とは別物だと思ってよいだろう」


 国のトップが世界の支配を望んでいる。即ち戦争は避けられないという事だ。ならば他の国の動向も気になるところであり、【鉄壁の盾】のクランリーダー――セルガノがベーリングに尋ねる。


「グラディウス王国はどうなっている? あそこも連合国の1つだった。我が国とも友好であったし、協力を要請できないのか?」


 しかし、ベーリングは静かに首を振り……


「恐らく無理だろう。グラディウス王国は終戦間際に国王が討たれたため国家分裂を引き起こした。国土を切り分けたグラジオラス公国とは今もなお戦争中だ」


 実は国王の訃報(ふほう)には黒い噂が付きまとっている。国王が討たれたのが魔王を討ち取った直後だからだ。国王亡き後のグラディウス王国は幼い王子に国政は無理と判断され、宰相のプギオが代理を勤めた。現在は王子のシーザーが国王となっているが、実質プギオの操り人形だという。これに異を唱えた貴族たちがグラジオラス公国を建国。長きに渡りグラディウス王国とは戦争中である。


「グラディウス王国に余裕は無さそうですな」


 【熱血の拳】のクランリーダー――セルドアが呟き、皆も同調する。とてもじゃないが頼れる状況ではない。ならばと次に声を上げたのは【精密の矢】のセルファーだ。


「それならばやる事は1つ。1歩でもランタールの地に踏み入れば完膚なきまでに叩きのめすのみ!」


 魔王はすでに倒れたのだ、四天王の1人くらい返り討ちにできる。そう語気を強める。

 しかし……


「セルファー殿のその意気や良し――と言いたいところだが……」

「何か問題でも?」

「敵はグロリア帝国だけではない。アスタロト共和国からも宣戦布告を受けたのだ」

「「「何っ!?」」」


 一同に動揺が走る。東のグロリア、南のアスタロト、この2国を同時に相手にせねばならないからだ。この報せに南支部のギルマス――バルドスが堪らず声を荒らげる。


「アスタロト共和国までが!? これまで平和だったのはランタール帝国が盾になっていたという事実を忘れたか! まさかとは思うがグロリア帝国に下ったとか言わねぇだろうなぁ!?」

「それはない、2国の動きが重なったのは偶然と思われる。それにアスタロト共和国に関しては前々から兆候があった」

「兆候だと?」

「そう、国全体がデファート教に乗っ取られた可能性が高い」


 深いタメ息がその場に広がる。デファート教というフレーズが逆に納得せざるを得ない状況に追い込んだのだ。

 だがここは強者が揃う場所。今さら半狂乱になる者は存在しない。しかし、次のフレーズか問題であった。


「そこでブローガン元帥は次のように述べた。【有事の際は冒険者クランも1部隊として速やかに国軍の指揮下に入り、共闘して敵を迎え撃つものとする】というものだ」


 これには各クランの代表者から非難が上がる。当然だ、共闘だけならまだしも直接的な指示に従えというのだから。これに真っ先に反応したのは【マウンテンビート】のクランリーダー――ボルネオであった。


「とてもじゃないが容認できない。国軍は我々を傭兵代わりにするつもりか!」

「落ち着かれよボルネオ殿」

「これが落ち着いていられるか! 有事に我々を盾にする、その考えが見え見えではないか!」


 ボルネオの主張に多くの者が頷く。次に声を上げたブレイキングKOのクランリーダー――アンカムも同様で、穏やかな口調ながらも確かな怒りを露(あらわ)にした。


「私も同意見です。協力はやぶさかではないとして、完全指揮下に入るのは抵抗があります」

「同意だ。冒険者には冒険者の戦い方がある。軍と同列に扱われては戦闘パフォーマンスの低下は避けられん」

「兄の言う通り、戦い方が違うのであれば軍に従うことで支障を来(きた)す。各々のクランで動くべきだろう」


 ボルネオの意見にアンカムも同調。セルガノとセルドアも同じく同調し、セルファーやバルドスもウンウンと頷いて見せた。そこでこれまで黙っていた北支部のギルマス――ベゼルが最後に締めくくる。


「我々は傭兵ではない。協力はするが指揮下に入るのは断固として拒否する。これを共同声明としてブローガン元帥に報告しよう」


登場国の紹介


ランタール帝国:主人公バーストが暮らしている国。15年以上前、北方に展開していた魔王国の侵略を受けて一部の領土を失うも、東のグロリア帝国、北西のグラディウス王国、その他幾つかの小国と共に連合軍を結成し魔王軍を撃退。多大な被害を被りつつも魔王を討ち取ることで一気に終戦。現在は失った国土と不安定化した経済の回復に努めている。


グロリア帝国:ランタールの東に位置する国。四天王の1人ライオネルが軍部に入り込みこれを掌握。クーデターを起こして皇帝にのしあがるのと同時にランタールへ宣戦布告。一気に緊張が高まった。


アスタロト共和国:周囲との争いがなく平和な国であったが、デファート教徒率いるミネルバが現れたことで状況が一変。議員の大半を洗脳してデファート教を国教として定めると、満を持してランタール帝国に宣戦布告をした。


グラディウス王国:連合として魔王との戦いに参戦した国の1つ。魔王が倒れて終戦間際というタイミングで王宮を奇襲され国王は落命。代理で宰相が国政を引き継ぐも、魔王軍の奇襲は宰相の手引きではないかという噂が過熱。その結果、宰相派のシーザー王子が継承したグラディウス王国と、異を唱えた貴族たちによるグラジオラス公国に分裂。今もなお戦いは継続中である。


グラジオラス公国:グラディウス王国から分離した国。前国王は宰相によって暗殺されたという主張のもと、国民の支持を得てグラディウス王国の打倒を目標に掲げている。両国とも戦力が拮抗しているため、終戦は当分先だと思われている。


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