怒涛の再会?
意気揚々とエリーを連れ帰った俺。家族に紹介するとアゼリアの件もあってか「またか」という顔をされる始末。
「言っちゃなんだけどバースト、そんなに嫁候補を連れ込んでどうするつもりだい? 考えなしに触れ回ったら後が大変だよ? 先代の皇帝なんかも女性問題を多く抱えてて、結局はお金で解決したくらいだし」
故人である先代陛下は百人を越える嫁を城に住まわせていたらしいく、現皇帝はそれを反面教師として「妻は1人のみ」を宣言しているとか。
「先代のことは俺も反面教師にするよ」
「うむうむ。つまりバーストは妾を妻とさるのじゃな」
「……違う、そこにはエリーが収まる」
「なんじゃと? 正妻に逆らう気か愛人枠めが!」
「……それも違う。アゼリアは所詮遊び相手。本命は私」
「グヌヌヌヌ!」
「…………」
「落ち着けよ2人とも。取りあえず部屋に行こう」
姉たちから白い目を向けられながら部屋の前まで移動。
「あ~そうそう。今日はアド兄――つまりアドセルト兄さんの誕生日だから、食事の時まで威嚇し合うのは無しな。じゃあエリーは好きな部屋を使ってくれ」
そう言って部屋に引きこもる俺。一度頭ん中を整理しなきゃならないからな。ったく、何だってこんな面倒な展開に……。
バタン!
「…………」
「…………」
バーストがその場から去ると、瞳に炎を宿す2人。互いに向き合うと……
「めでたい席なら仕方あるまい、今日だけはいがみ合うのを禁止としようぞ」
「……賛成。今日だけなら」
そしてどうやって相手を出し抜くかを互いに思案し、各々の部屋に入ろうとした。
が……
「おい……」
「……何?」
互いに手を掛けたのはバーストの隣室にあたる扉であった。
「ここは妾の部屋じゃ。お主は別の部屋を使え」
「……笑えない冗談。ここは最初から私の部屋だった。横取りしたのはお前」
「それは過去の話じゃ。今は妾のものとなっておる。諦めぃ」
「……黙れ泥棒ネコ。後からしゃしゃり出て来たくせに生意気」
「誰が泥棒ネコか! あんな下等生物と一緒にするでない! 妾は古代竜であるぞ!」
「……じゃあ泥棒竜」
「竜が泥棒して何が悪い!? み~んな妾にひれ伏すせばよいのじゃ!」
「……竜が偉いと思い込んでいる? 慢心環境の違い」
「よく分かっておるではないか。お主らとは育った環境が違うのじゃ」
「……褒めてない」
一歩も譲らぬ睨み合い。バーストが止めに入るまで続くと思われたその時!
ギィィ!
「も~ぅ、何なのよ~、真っ昼間から騒がしいわねぇ……」
たった今起きましたと言わんばかりの少女が目を擦りながら出てきた。
「起こして悪かったな。だが生憎と取り込み中でお主に構ってる暇はないのじゃ」
「……どうぞお構いなく」
「そう? じゃあ二度寝しよっと」
バタン!
「「…………」」
「「……んん?」」
そう言って引っ込んだ少女を見送った2人が互いに顔を合わせる。そう、さっきの少女にはとてつもなく見覚えがあったからだ。
「待て待てまて~~~ぃ!」
「……おかしい、こんなのはおかしい。いったい何故ここに!」
睨み合いを止めた2人が引っ込んだ少女を強引に引きずり出す。その少女は……
「なぜお主がここに居る――」
「――ファーナよ!」
そう、先程の少女はファーナで、何故かバーストの向かいの部屋に居たのだ。2人に詰め寄られたファーナは迷惑そうに口を開く。
「なぜって……昨日から居候させてもらうって言ったじゃん。言ってなかったっけ?」
「言っとらん!」
「……同じく初耳」
詳しく聞くと、ファーナの両親と兄は大口の依頼のためにクランメンバーを引き連れて遠出することになったらしい。月を跨ぐ可能性もあり、通学が必要なファーナはバーストの邸から通うことになったとか。
「それにしたっておかしいではないか! 何故お主とバーストが繋がっておるのじゃ、まだ出会ってはおらんであろう!?」
「……そうそれ。私だってついさっき再会したばかりなのに」
するとファーナはとんでもない事実を明かしてきた。
「バーストのお兄さんに誘われたのよ。ほら、長男のグラスフォードさん。いきなり声を掛けられたから訳が分からなかったけど、バーストの名前を聞いた瞬間に思い出したの、1年前から知ってたって」
「フムフム……ん?」
「……え?」
なるほど――と頷きかけて待ったをかける2人。アゼリアのスキルで記憶の改竄が行われたのなら、グラスフォードも知らないはずである。
「……どうなってるのアゼリア?」
「いや、妾にもさっぱりじゃ。しかしファーナの言うことが真実ならばグラスフォードには妾のスキルが効かなかったことになる」
「へ~ぇ。流石は勇者候補ね、古代竜のスキルを跳ね退けるとか、将来有望じゃない」
「バカ言え。人間風情が妾に対抗できると思うてか。これは奴を交えて話し合う必要がありそうじゃ」
ギィィ
「お~ぃ、さっきから騒いでるけど、いい加減おとなしく――ってファーナ!?」
部屋から出てきたバーストを再度自室へと促し、一からの説明を繰り返すのであった。
★★★★★
「なるほど。グラス兄さんが絡んでいる可能性が。う~ん……」
正直なところ半信半疑だ。そりゃ我が家の中じゃグラスフォード兄さんに匹敵する者はいないと言っていい。それだけズバ抜けてるんだ、グラス兄さんの実力は。そんな実力者だからこそアゼリアに対抗できた可能性もあるわけで。だとしたら人間じゃないかもしれない?
「ともかくじゃ、今後はグラスフォードの言動をよ~く観察することじゃ。エリーとファーナもよいな? 同じ邸での生活じゃし、さほど苦労はせんじゃろ」
「……うん」
「よく分かんないけどグラスフォードさんを見張ってればいいのね、了解」
コンコン
上手く話がまとまったところで部屋がノックされ、使用人の声が聴こえてきた。
「バースト坊ちゃま、ご友人の方々がお見えになりましたよ」
「ご友人?」
悲しいけど友人と言える人物に心当たりがない。だが訪問してるのは事実だし、アゼリアたちを連れて応接室に向かうと……
「え……これはどういう……」
相手から見たら俺の顔は引き吊っていたことだろう。何故なら相手は……
「アニキ~、すんげ~ご無沙汰ッス!」
「ウィル!」
「久しいなバースト。元気そうでなによりだ」
「ヴォルトも!」
「しばらく顔を見てないから心配だったのん」
「リスティまで!」
なんと、訪ねてきたのはこの3人だった。
「けどどうしてここに?」
「依頼ッスよ依頼。冒険者ギルドの依頼にキルロード家からのものが有ったッス」
「妙なことに我々がその依頼書を見た瞬間、バーストの記憶がなだれ込んできたのだ」
「なのなのん。ウチら3人は冒険者パーティどすぇ」
そこで3人は見覚えのある武器を取り出し見せてきた。それは正しく俺の自家製武器であり、世界に二つとない極上品だ。(←予備で複製してなかったっけ?)
「リスティのは浄化の槊杖で、ウィルのは破魔の剣、そしてヴォルトのは獄炎の爪か」
「あたしも持ってるよ、好きな魔法を使えちゃうサイキックグローブ」
ファーナしか装備できない正にファーナ専用のやつな。
「言っておくが、これらを製作できたのも妾のお陰じゃからな? 妾という存在が無かったならば、バーストは只の小僧に過ぎんかったのじゃからのぅ」フンス!
「「「はいはい」」」
最初は怪訝な顔でアゼリアを見ていたクラスメイトたちも最後には慣れていた。俺が魔力持ちになった理由を説明したからな。
「ほいじゃあ本題に入るッスよ」
「本題?」
「依頼ッスよ、俺たちがここに来た一番の理由ッス」
「そういやそうだったな。で、どんな依頼なんだ?」
「聞いて驚くッス! なんとなんと、バーストアニキを誘っての討伐依頼ッスよ!」
「討伐依頼だと!?」
場所は西の山の上部で、そこに居座るアゼルの番人ってのを倒すのが目的らしい。
って、ちょっと待て。いま西の山って言ったか?
「西の山の上部って、崖になってて数日かかるって言われてる場所だろ」
「ああーーーっ! もう昼過ぎじゃないッスか! 早くしないと日が暮れるッスよ!」
「別に日を改めてもいいだろ」
「そうはいかん。日時は今日の夜までと言われている」
「ええっ!?」
「とにかく時間が無いのん、早く向かうのん!」
リスティに手を引かれ邸を出る。何か重要な事を忘れてる気がしたが細かい事は後回しだ。アゼリア以外の全員の靴に風属性を付与し、北門から帝都の外へと飛び出る。
「まさかバーストと出会った場所に全員で向かうなんてね」
「俺とファーナが?」
「あ、ひょっとして忘れてる? あたしは覚えてるよ、颯爽と登場してロックゴーレムを木端微塵にしたところを」
「ロックゴーレムを……あ!」
思い出した。確かウィルの後を追って西の山に向かったんだっけな。
「書き換えられた記憶だと、ウィルと一緒に命辛々逃げ延びたことになってたんだよ。大活躍したバーストが消されてたなんて、酷いと思わない?」
「そりゃ酷いなぁ」
「あ~あ~、聞こえない聞こえない」
聞こえない振りをして急加速して前に出ていくアゼリア。彼女を先頭に風を切ること1時間。崖を登る途中でエリーの高所恐怖症が発覚するというトラブルに見舞われながらも無事に山の上部へとたどり着く。
「あ~、懐かしいなこの風景。あれから1年も経ったのか」
「正確にはもう少しで1年かな。それよりほら、ロックゴーレムのお出ましだよ」
騒々しくやって来たせいか、人の3倍近くの全長を持つゴーレムがノッシノッシと近付いて来た。
「Goooooo!」
シュイン!
「いきなりか! ――セイッ!」
目が紅く光ったのに気付き全力でシールドを展開した直後、超列な光がまっすぐに放たれる。光に飲まれたもののシールドが直撃を完全に防ぎ、光が収まった後も全員が無傷であることが見てとれた。
「ふむ、流石は妾が見込んだ男じゃ。完全に魔力を制御しとるな」
「褒める暇があるなら加勢しろよな」
「何を言う。せっかくの機会じゃ、お主の実力を見せてみぃ」
俺たちがゴーレムの光線を受ける中、アゼリアだけはちゃっかり空中に逃げていた。しかも実力を見せろだぁ? 上等だ!
「なら特等席で眺めてろよ――フレイムキャノン!」
ドゴォォォン!
ゴーレムの股間に炎の砲弾が直撃し、その周囲を大きく吹き飛ばす。バランスを崩したゴーレムは前のめりに傾き、偶然にも頭部がこちらに倒れてきた。
「オーライオーライ――っと、グランドアッパー!」
「Gooaa!?」
頭部だけを打ち上げて後を追い、更に追撃を仕掛ける。
「ウォーターナックル!」
「Gogaaaaaa!?」
水平に飛んで行ったところを先回りし、再度別の魔法を叩き込む。
「まだ終わりじゃないぜ、ヒートジャブ!」
「Gagagagagigigi!?」
拳の先から炎の塊を打ち出す魔法だ。この時点で頭部はボロボロだが、最後の仕上げが待っている。
「これで終わりだ、ウィンドスマァァァッシュ!」
「Ga!」
最後は地面に向けて叩き落とた。
――ドォォォォォォン!
「Ga……gagagi……gigi……」
不快な音を撒き散らしていたゴーレムがとうとう動かなくなる。紅い目も完全に消えたし、これにて討伐完了だ。病み上がりにしちゃ上出来だろう。
「へへ、どんなもんよアゼリア?」
「うむ。お主の実力、しかと見せてもらったぞ。そこで見ている兄も満足しておろう」
「は? そこで見ているって……」
どうして兄がと問いかける前に、どこからともなく拍手の音が聴こえてきた。
パチパチパチパチ!
「いや~、流石は俺の弟だ。こんなに強くなってくれて、兄としても嬉しいぞ!」
「グ、グラス兄さん!」
岩陰から出てきたのは実の兄グラスフォード兄さんだった。
「どうしてここに?」
「そりゃバーストの実力を見るためさ。かわいい弟にもしもの事があってはおちおち遠征もできないからね。お~ヨシヨシ」
「頭撫でるな恥ずかしい!」
そうだった。兄弟で一番の溺愛っぷりが駄々漏れてるのがグラス兄さんだったな。いい加減に弟離れをしてもらいたいが。
「まったく、他人を試すような真似をしよってからに。バーストの実力を測るなら組手でもすればよかろう」
「そこはアゼリアの言う通りだね。でも俺としてはゴーレムの魔石も確保してもらいたかったんだよ」
そういやグラス兄さんが依頼主だっけ。
「まさかグラス兄さんも魔石を集めてたり?」
「違う違う、アドセルトの誕生日プレゼントだよ。俺が買い付けるよりバーストが作ったほうが何倍も高性能だからね。さぁ、帰ったら錬金も見せてもらおうかな」
どうやら兄の掌だったようだ。




