再始動
朝食で肉を頬張る俺を見た家族一同を驚かせた後、渋るアゼリアを連れて西の森へと出掛けた。アゼリアの話が本当ならこの森のどこかにエリーが居るはずで、彼女の魔力反応を感知するため俺とアゼリアは森を疾走中ってわけさ。
「肉も食べたし、身体の調子も申し分ない。これなら魔物と接触しても対処できそうだ」
「何を言う、たった一切れの肉で満足したと申すか? あの量なら秒で溶けるわぃ。すこしは妾を見習うがよい」
そう言うアゼリアも俺は向かいでゴッツイ骨付き肉を豪快に平らげてたな。
「まさかアゼリア、半年間も自分の顔と同じ大きさの肉を毎日食べてたのか? さすがにそれは……」
「デリカシーの無い発言は止めい! 男なら多少の大食いくらいは大目に見よ! そもそも肉の大きさと妾の顔が同等じゃと? 失礼な奴め、半年と言わず一生寝とけ!」
…………。
「……酷くね?」
「酷くないわ! 妾に恥をかかせたお主が悪いのじゃ! これに懲りたら二度と妾をバカにしない事じゃ、分かったな?」
「バカにはしてないんだけど、一応は了解した」
「フン! ったく、タダ飯なんじゃから食いたくもなろうが」
「やっぱ酷ぇよお前!」
もしも家計が圧迫したら、真っ先にコイツに協力させよう。拒否権はない!
「ところでバーストよ、お主の魔法の使い方はなかなかにしてユニークじゃのう。まさか靴に風属性を加えることで移動をスムーズに行うとは」
「ああ、これか」
これがなきゃ非力な俺が冒険者として活躍するのは無理だったろうな。
「アゼリアのお陰さ。ホントに感謝してる」
「フッ、良い心掛けじゃ。婿にしてやってもよいぞ?」
「すぐには無理。その時が来たら考える」
「意外と頭が固いのぅ」
あ、でも俺がアゼリアを引き取ったのは許嫁にするためってのが史実なんだよな。確かアゼリアに都合が良い形で修正されたとか言って――まさか!
「外堀を埋めに来てる!?」
「クククク、ようやく気付いたか? 妾が人の子を気に入るなど滅多にないからな。伴侶とするには丁度良いと思ったのじゃよ」
これは……喜ぶところか? だけど嫁選びは簡単じゃない、慎重に見極める必要があるだろう。
「この話は保留だ。今はエリーを探すことに集中するぞ」
「むぅ、仕方ないのぅ」
こうして探し回ること数10分。エリーの反応は見つからなかったものの、一軒の簡易的な小屋に何人もの男が群がっているのを発見。木陰から様子を見てみると……
「おいガキ共、大人しく出てこい! 手間かけさせんじゃねぇ!」
「さっさとしねぇと後が怖ぇぜ!?」
扉をガンガンと叩きながら怒声をあげる男たち。会話の内容から小屋の中には子供たちが立て籠っているのだろう。
どっちが悪いか判断できないし、堂々の姿を現して尋ねてみることに。
「あ~ちょっとちょっと、そんな大声出して何やってんのさオッサンたち」
「ああ? テメェに関係は――ん? よく見りゃテメェもガキかよ。丁度いい、コイツらも捕まえりゃ報酬が増えるぜ!」
「おっし、そうと決まりゃまずはこっちからだ!」
はい、悪人決定。
「アゼリア、コイツら――」
「…………」ボゥゥゥ!
「「「ギョェェェェェェ!」」」
俺が言う前に黙ってファイヤーブレスを吐きつけるアゼリア。辛うじて生きてるのか男たちは黒焦げになったまま倒れ込み、ピクピクと痙攣している。
「お前な、他人ん家の前でグロ過ぎるだろ」
「ほんの挨拶代わりだったのだがな。炎耐性のないコイツらが弱すぎるのじゃ」
大半の奴は耐性なんか持っちゃいないんだが。まぁコイツらは運が悪かったってことで。
「凄い、お兄ちゃんたちがやったの?」
男女3人の子供たちが恐る恐るといった感じに小屋から出てきた。
「ああ。もう心配ないぞ? 悪人は俺たちが成敗した」
「ありがとう! ボクたちの親がキャラバン隊だから一緒に行動してたんだけど、今日の夜明け前に盗賊に襲撃されて、誘拐されるところだったんだ」
賊か。確か去年もいたな? まだ活動してる奴らが残ってたのか。
「逃げた先でたまたまこの小屋を見つけて立て籠ったわけか」
「ううん、違うよ? ここに住んでるお姉ちゃんに助けてもらったんだ」
「お姉ちゃん!」
思い当たる人物が1人、恐らくエリーだろう。しかし肝心の彼女が見当たらない。
「そのお姉ちゃんは何処に?」
「冒険者ギルドに助けを求めに行ったよ。すぐに戻るから待っててって――」
話の途中で魔力を含んだ何かが猛スピードで突っ込んで来るのを感じ取り、向き直って構えたところに謎の球体を視界に捉えた。
速度から見て回避は不可能。シールドを強化して受け止めようとしたところで、横からアゼリアの手が伸びてきた。
「――ほいっと」
バシィ!
弾いた球体が樹木にぶつかり、大きく削ったところでようやく停止。飛んできた方向に視線を向けると……
「……お前たち、何者? まさか不審者の仲間?」
「エリー!」
凛々しい顔つきのエリーが枝の上に立っていた。身に付けている服も初めて会った時のままだ。
「不審者じゃないって。ほら、俺だよ俺俺、よく見ろバーストだよ、久し振りって言えばいいか? 元気そうで何よりだな」
「こらこらこらバーストよ!」
呆れた様子のアゼリアに耳を引っ張られ、茂みへと移動。
「な~にが久し振りじゃバカタレが。エリーは出会う前に戻ったと教えたではないか」
「あっ!」
とんでもねぇミスだ! おもいっきり不審者やんけ!
「あ、あの~、エリーさん?」
「……お前、何者? どうしてエリーを知ってる?」
茂みから少しだけ顔を覗かせて様子を伺ってみた。まぁ当然の反応だ。さて、どうしたものか……
「そ、それはだな……ま、前にさ、森の中で偶然見かけたんだよ。それで可愛いなぁとか思ったりしちゃったりして……」
「…………」
無言の圧! だが嘘でもここで信用を得ないと元の関係には戻れない。
「う、嘘じゃないぞ? 見事なボール捌きに見惚れたんだ」
「……本当?」
「ホントにホント、バンビーボールを武器にするなんてセンス良いぜ!」
「…………」
心なしかさっきよりも視線が柔らかくなったような気がする。もうひと押しか?
「……さっきのボール捌きの話。貴方が見たのは木にゴブリンを縛りつけて当てる練習をしていた時?」
え、そんな悪趣味なことしてたんか? 練習なら仕方ないかもだが。
「それともストライクボアをゴブリンの巣に誘導して運動会を開催した時?」
運動会って言うのかソレ? 勝ったところで誰にも得が無いようだが。
「もしくはゴブリンの巣とオークの巣を貫通させてマスターオブモ○スターズを始めた時?」
エリーはゴブリンに恨みでもあるのだろうか? まぁゴブリンが可哀想とは1ミクロンも思わんのだけど。
「……どれ?」
「う~ん、強いて言えばゴブリンを木に縛り付けてるやつかな。跳弾の練習でもしてたのか?」
「…………」ピクッ!
動きが止まった!? ど、どうなんだ、まさかしくじったか!
「……大正解。複数のゴブリンを離れた位置に縛り付けて、跳弾の練習に励んでいた」
「まさかの大当たり!?」
「……疑ってゴメン。最近は不審者が多くて困っていた。貴方くらいの年齢でも油断は出来なかった。だから先制攻撃を仕掛けた。防がれたけれど」
良かった。一応は信用してくれたらしい。
「じゃあ改めて自己紹介な。俺はバースト、これから宜しくなエリー!」
「……うん。こちらこそ。嬉しいから再会のハグを」
「え? だ、大胆だなぁ、まぁいいけど」
見ている子供たちに冷やかされながらハグをする俺とエリー。うん、久し振りの匂いに俺感激。あ、言っとくが匂いフェチじゃないぞ? 何と言うか安心する匂いなんだ。
だがその時、何かに気付いたアゼリアが俺とエリーを引き剥がそうとしてきた。
「騙されるなバースト! この女狐め、記憶を取り戻しておる!」
「えっ!?」
どういう事かとエリーの顔を見ると……
「…………」ニヘェ
「ホレ見ろ、どう見ても確信犯じゃ! さっきも妾に向けてアッカンベーまでしよったからに!」
ふむ、よう分からんけど俺の知ってるエリーに戻ったらしい。
「お~いキミたち~!」
そこへエリーが呼んだ冒険者パーティが駆けつけた。簡単に事情を話して子供たちを引き渡すとパーティは足早に引き上げて行く。
だがリーダーとおぼしき女性だけは立ち止まり、燃えカスになった賊共を指差し……
「1つ確認する。コレをやったのは誰か?」
「妾じゃ。事もあろうに妾たちを誘拐するとか言い出したのでな、文字通り消し炭にしてやったわぃ」
「ほほぅ、キミが……」
「これは正当防衛というやつじゃから抗議は受け付けんぞ?」
「フッ、そのようなくだらん戯言を吐くつもりはないさ。これも奴らの自業自得というもの。だがキミの実力には興味がある。さぞ魔法に長けていると見た」
む? まさかこの女性、アゼリアを勧誘するつもりじゃ?
「名乗るのが遅れたな。私の名前はセルファー、冒険者クラン【精密の矢】のクランリーダーを任されている。どうだろう、キミの実力を我がクランで発揮してみないか?」
やはりか。だがアゼリアは静かに首を振り……
「すまんのぅ。妾にはこの男を導くという大事な役目があるのでな、他に身を置くわけにはいかんのだよ」
「……そうか。しかし世の中どう転ぶか分からん。気が変わった時には是非とも訪ねてほしい。では……」ギロリ!
セルファーさん、去り際に俺を睨みつけてったな。俺が居なければ勧誘出来たのに邪魔しやがってという視線だ。出来ることなら教えてやりたい、俺が居なくても古代竜の勧誘は無理だってことを!
「んじゃ俺たちも帰るか。エリーは――」
「……もちろん付いてく」
その即答は嬉しく思うぞ。また家族に紹介しなきゃならないのが面倒だけど、エリーのためならエンヤコラってもんだ。
「しかし妙だのぅ。バーストから遠ざけるために記憶と環境を変えたはずなんじゃが」
「俺から遠ざける?」
「あ……」
しまったという顔をするアゼリア。しかし時すでに遅し。
「まさかお前……」
「チッ! バレてしまっては仕方がない。そうじゃ、お主を独占するために遠ざけてやったのじゃ。まさか失敗するとは……」
「……フッ」
唸るアゼリアとは真逆に、勝ち誇ったエリーが鼻を鳴らす。
「……ずっと不思議だった。大人数の邸で過ごしたような記憶が微かにあるのに今は1人なのかって。けれどバーストの顔を見て思い出した」
「――という事らしいぞアゼリア?」
「フン。おおかた関わりの強い者と接触することで記憶が刺激されたのだろう。悪運の強い奴め」
かくして俺を独占してやろうというアゼリアの計画は潰えた。しかし気になることも多く残っているのは確かなわけで、道中で聞いてみることに。
「デファート教徒の鎮圧にはエリーも一緒だった。そこはどうなってる?」
「当然エリーは関わっておらん。お主の家族だけで鎮圧しておる」
「学校生活は?」
「お主が入ったのは北クラウン。クラスに馴染めず中退したことになっておる」
「うわぁ……」
さも有りそうな過程だ。それで今は通学してないのか。
「だが安心せい。今年の春から南クラウンへの入学が決まっておる。エリーも森での生活に飽々していたところで入学を薦められる流れであったし、そこでお主が知ってる顔触れと再会になる予定だったのだがな」
「何でまた喜劇作家みたいな真似を……」
「完全に関係を断ち切るのは流石に可哀想だと思うたのじゃ。現に他のクラスメイトたちとは赤の他人じゃしな」
「……ハッ!?」
何かに気付いたエリーがアゼリアに耳打ちを始めた。
「……どう?」
「お主、見かけによらず腹黒いのぅ。残念じゃが記憶の操作は別空間でなければ出来んし、アレを行うには1年間はクールタイムが必要じゃ。ファーナやリスティに対する策略は諦めよ」
「チッ……」
うん、エリーが何をしようとしたのか何となく分かった。これ以上ややこしくするのは勘弁してくれよホント……。
しかし帰宅後、更に予想外な関係を築いていた者と再会することに。
登場人物紹介
名前:エリー
性別:女
年齢:19歳
種族:ハーフエルフ
備考:バーストの邸で居候しているクラスメイト。アゼリアの企てにより森の中での一人暮らしという激変した生活環境になるが、バーストとの再会により元の生活に戻る。半分サバイバル的な生活を送っていたため、前年より逞しくなっている?
名前:グレイバム:J:キルロード
性別:男
年齢:18歳
種族:人間
備考:バーストの4つ上の兄でキルロード家の二男。バーストはグレ兄ちゃん、もしくはグレイ兄ちゃんと呼んでいる。冒険者ギルド北支部を拠点としている【ブレイキングKO】というクランに所属し、日々冒険者としての腕を磨いている。
名前:アドセルト:J:キルロード
性別:男
年齢:16歳
種族:人間
備考:バーストの3つ上の兄でキルロード家の三男。バーストはアド兄さんと呼んでいる。曲がった事を嫌う生真面目な性格で、ルーズなグレイバムに小言を言うことも多い。ちなみに一人称は我輩。
名前:ルドラス・J・キルロード
性別:男
年齢:16歳
種族:人間
備考:バーストの2つ上の兄でキルロード家の四男。物腰が柔らかいためか、バーストやアイリからは舐められている節がある。正義感は強いが押しに弱く、バーストやアイリに言いくるめられる光景がしばしば。日々増えつつあるバーストの嫁候補に苦言を呈すも、やはり言いくるめられている模様。




