デファート教
「さぁさぁ皆さんご注目~♪ ここに置きますはご存知、ヴォルト氏の鉄爪。一方で取り出すは何と、タール火山で入手したゴーレムのコア。もちろん只のコアじゃ御座いません。何とこのコア、普段は発生しないヒートゴーレムのコア、つまりはレア中のレアで御座いま~す♪」
「「おおっ!」」
おんや~? 感動が少ないぞ~? ウィルとリスティしか驚いてませんがな。これじゃ苦労が報われないだろ~?
「で、何? バーストはタール火山に行ったからって自慢したいの? フフ、まだまだ子供ねぇ。あたしら一家は冒険者家族だし~、タール火山なら何度も登ってるも~ん」
得意気に話すファーナ。たまに出る冒険者してますアピールか。
「アホか、たかが山登りで自慢する奴がいるかよ」
「あれ、そうなの? 見栄を張るために見たことのあるお土産とか買ってきてタメ息つかれる側かと思ったわ」
それは逆の立場でもうやった……。
「……コホン。さて、このコアがレア物である事は間違いない。従って今回はこのコアを魔石の代用として錬成を行う」見てろよ見てろよ~
シュイン!
真っ赤なコアが鉄爪に入り込み、一瞬だけ激しい光が帯びる。光が収まると、極限まで磨み上げたかのような輝きを持った鉄爪が鎮座していた。
「よ~し完成! さぁ受けとれヴォルト、滅多にお目にかかれないレア装備だぞ!」
豪炎の鉄爪……どんなに硬い鎧も貫き、どんなに硬い盾をも無力化してしまう爪。任意で炎を纏ったり熱を込めることも可能。
発動可能魔法:ファイヤーボール、フレイムキャノン、フレイムシールド、ファイヤーストーム
うんうん、これぞ極上品。唯一ゲットしたヒートゴーレムのコアを使ったんだ、これくらいの性能がなくちゃな。
ちなみに巨大ゴーレムのコアは使わず保管してある。そのうち機会が有れば使ってみるつもりだ。
「これは……はっ!? ま、まさか魔法を使えるのか!」
「気付いたか? まぁ役には立つと思う」
「役立つどころじゃない、俺みたいな獣人が魔法を使うなどと誰が考えようか! 感謝してもしきれん! ありがとうバーストォォォ!!」
「お、おぅ――ってあっぢぃぃぃ! 熱、熱が込もってるって!」
ふぅ……なんと情熱的なハグか、もう少しで火傷するところだったぜ。
「…………」
「どうしたエリー、不機嫌そうだな?」
「……バースト、私を置いてった」
「その事か」
魔石に夢中になっててエリーのことがすっかり頭から抜け落ちてたんだよなぁ。ここは1つご機嫌取りを。
「これ、お土産だけど……いる?」
「……それ知ってる。バーストが作った指輪」
「そ、そ~だったかな~?」
「……売ってた場所はドビンチャビンが出店してる店。買ったのはイルフィーナ」
「いや~でもさ、わざわざ同じやつをイル姉が買うか?」
「……イルフィーナはバカ。普通に買う」
だそうだぞイル姉、ちゃんと反省しろよな~。(←お前モナ~)
「それよりアニキ、俺の武器もそろそろお願いするッス。この中で専用の武器が無いのは俺だけッスよ~」
「あ~善処しとく」
「もっと真剣さが欲しいッス!」
せめて普通のゴーレムからドロップ出来てればなぁ。アイリに譲って貰うのは絶対にダメだと俺の全神経が訴えてきてるし、しばらくは無理かもな。
ガラッ!
「皆さん、揃ってますね?」
ここでマイティーチャーの入室。でもいつもと違って真剣な眼差しだ。
「何か良くない事でも?」
「察しが良いですねバーストくん。すでに気付いてる人もいるでしょうが、異教徒の動きが以前よりも活発になっているようでして、外出の際は単独行動を控えるようにと通達しようと思いまして」
異教徒……ここで言う異教徒とは女神デファートを信仰する【デファート教】の信者を指す。帝都でもたびたび目撃されていた連中で【武器を棄て、平和を愛せ】というのがデファートの教えらしく、ランタール帝国の軍国主義を平和主義に変えるのが目的だそうな。宗教活動に制限はないのだがやたらと武装放棄を促してくるので、国からは要注意組織として監視されているとか。
「無理やり連れてかれそうになった者もいるようで、生徒を預かる我が校としても深刻な事態として受け止めてるんですよ」
「そりゃ穏やかじゃねぇな」
「はい。ですから明日からしばらくは――」
「――休校になりま~す♪」
何でちょっと嬉しそうなんだ? あ、コイツまたサボれるとか思ってるんじゃ!?
「先生~、マジックアイテムを利用した通信授業とかもあるらしいけど~?」
「そ、そんなものは邪道です、面と向き合ってこそ正しい授業が行えるのです。通信授業など我が校は認めませんよ」
伝説の勇者が言った。何かと理由をつけて仕事から逃れようとする輩をサボリーマンと呼ばれていたと。
「何ですか皆さん、不審者を見るような眼差しは? これは皆さんを思っての措置なのですよ? 私だって苦しいのです、愛する生徒たちと引き離されるのが」オロオロ
なんという嘘臭さ。大根役者とはこの事だろう。これは制裁が必要だな。
「だそうだぞヴォルト、別れのハグをしてやってくれ」
「うむ、承知した」
「おや、どうしたのですかヴォルトくん、物騒な爪を身に付けて――ジュアッチィィィィィィ!?」
制裁完了っと。
しかしデファート教か。武装するなと言いながら乱暴な真似をするんだから警戒されて当然だよなぁ。どっか別の場所に行ってもらいたいもんだ。
★★★★★
時間は流れて学校帰りだ。昨日はギルドに寄るのを忘れてたのを思い出し、帰宅前に寄ることに決定。ギルドに到着し、いざ扉を開けた時だ。
「いい加減にしないか! お前たちの入会は2度と認めん!」
中から怒声が響いてきた。穏やかじゃないなぁと思いつつ中を見渡せば……
「あれ? セルドアさん!」
「ん? おお、バーストくんか」
怒声の主はあのセルドアさんだった。傍らでは若い男女がセルドアさんにしがみついており、いったい何が起こってるのかと首を傾げていると……
「この2人はモルツとカルーア。熱血の拳に所属していた冒険者だが、今はバッカニアに鞍替えした者たちだ」
何となく見たことあると思ったらそういう事か。タール火山で引き抜かれたのはこの2人なんだな。モーガンが死んでバッカニアの存続が危ういから戻りたいとか言い出したんだろう。都合のいい連中だな。
「お願いしますよセルドアさん、このままじゃまともにパーティが組めそうにないんですよ」
「右に同じですぅ、どうか許してくださ~い!」
「ダメなものはダメだ! 戦地で簡単に寝返るような奴らを信用できるか! さぁ、邪魔だからさっさと去れ!」
「「ヒィッ!」」
セルドアさんに一蹴されて退散していく2人。これは貴族の派閥にも当てはまり、風見鶏な奴らは信用されずに周囲から孤立してくんだ。やっぱダメだね、ああいう主体性のない連中は。
「見苦しいところをお見せして申し訳ない。クエストを受けにきたらちょうど鉢合わせてね」
「なんか大変そうですね」
「なに、ああいう手合いはどこへ行っても通用しない。そのうち諦めて故郷に帰るんじゃないかな。では失礼するよ」
故郷が帝都だった場合は行き場を失わないか? まぁ俺には関係ないか。
「あ、誰かと思えばバーストくんだ、久しぶり~」フリフリ
「ハレー姉ちゃんお久~」
「……エリーもいる」(←居たのか)
「は~い、エリーちゃんもお久しぶり~。今日も依頼を受けてく~? 今は異教徒関連のクエストが盛り沢山だよ~」
ハレー姉ちゃんが壁に貼られている依頼書を指差す。話し合いの場に同行、拠点の監視、路地裏の警邏、貴族や商人の護衛と、異教徒関連のものばかりだ。
「う~ん、討伐依頼が無いなぁ。いっそのことデファート教を壊滅させるクエストとかないもんかねぇ」
…………。
「ありり? いつもならギルマスがしゃしゃってきて面倒な依頼を押し付けてくのに、今日に限っては出てこないのか」
「ギルマスなら東支部に集まって緊急会議だって~。夜には帰ってくるよ~」
「それってやっぱり……」
「異教徒への対策だって~」
大きな問題になってるようだ。なら1つ治安維持も兼ねて依頼を受けるか。
「せっかくだしこの――」
「もし、そこの学生さんたち」
ん? 後ろから若々しい女性の声が……
「俺たちか?」
振り向けば色白で金髪セミロングの美女が微笑んでいた。
「そうです、貴方とそちらの彼女。南クラウンに通う学生さんですよね? 戦闘訓練も受けていて将来を有望視されてるという」
「将来有望?」
言うねぇ。うん、そりゃ有望に違いないよ。
「いや~お目が高いねお姉さん、将来が約束されたも同然な貴族少年バーストとは俺のことです。俺に出会えるなんて、とっても運が良いことで――イダッ!?」
エリーに脛を蹴られた!
「……バースト、鼻の下延びてる」
「ち、違うぞ、俺はもともと鼻の下が長いんだ。よくメイドに「坊ちゃまのお顔は馬並みですね~」とか言われてた気がするし」
「……メイドがそんな無礼なこと言わない。バーストの記憶違い。というかお馬さんに謝って」
はいはい、悪ぅ御座んしたね。
「あの~……」
「おっと失礼、連れは漫才が大好きなもんで――って、イデェッ!」
「……漫才はやってない」
「そ、そうなんか? てっきりボケるのを待ってるのかと――イデェッてだから!」
「…………」スゥ~
「は・な・し・聞・け・や・ガキ共……」
「「ひっ!?」」
なんかメッチャ怖い顔してた。青筋浮かべて口も引き吊ってんのに目だけがニコニコしてんの。第二形態とか出てきそうだし、おふざけはここまでにしよう。
「……コホン。それでですね、戦闘経験が豊富な貴方たちにわたくしの護衛をお願いしたいのです。」
「護衛ですか? 帝都を出るなら申し訳ないけど――」
「あ、いえいえ、帝都の中心地です。そこに用が御座いまして」
「あ~中心地ですか。そりゃ構いませんけども……」
身なりは庶民的、言動は上品そのもの、貴族が身分を偽ると出やすいギャップだ。そう、この美女は貴族であると俺の勘が告げている。恐らくお忍びでの外出だろう。
だからどうしたって? そこなんだよ、別に問題はないんだ。ないんだが、どうにも違和感を感じるんだよなぁ。それが何なのかまでは分かんないけど。
「何か?」
「い、いや、何でも。護衛くらいなら引き受けますよ。どうせ帰り道だし、エリーもいいよな?」
「……問題ない」
「ありがとう御座います。わたくし商人の娘でミネルバと申します。道中よろしくお願いしますね」
ギルドを出るとだいぶ日が落ちており、酒場が盛り上がる時間帯に近付いていた。いつもなら冒険帰りのパーティやら商隊やら買い物客らが多く見られるのだが、前日から黒いローブ姿があちらこちらで散見されるようになってからは鳴りを潜めている。今も2人組の黒ローブがすれ違い様にチラチラと視線を向けてきて、あまりいい気はしない。
「……アイツらの視線、気持ち悪い。ミネルバは大丈夫?」
「大丈夫ですよエリーさん。1人だと心細かったですけれど、お2人がいるお陰でとても安心です」
「そりゃ良かった。アイツら誘拐まがいな事までしてるって噂があるんで、次に外出する時は護衛を伴うべきかと」
「誘拐……ですか? そのような教えはデファート教には無かったはず。何かの間違いでは?」
う~ん、どうなんだろ? 誇張されてる可能性はあれど強引なのは間違いないんだよな、だから騒ぎになってるわけで。
「女神デファートは世の中の争いを無くす方向へ導いてくれる素晴らしい神です。そんな女神を崇拝するデファート教が悪いという認識は改めるべきですよ」
「そう言われてもなぁ……」
「そうですか、ならいっそのこと入信してみるのは如何でしょう? きっと世の中の見方が変わるはずです」
「ええ!?」
グイグイ来るなぁ。けどいくら美女の誘いだからって、怪しげな教団とは関わりたくはない。それに……
「なんだってまたデファート教の肩を持つんです? 何やら随分と詳しそうだし……」
「え? いえ、別に詳しいわけでは……」
「それに宗教と言えば伝説の勇者が広めた神道というものがありますよ」
勇者の地元に根付いてたと言われてる神道。あらゆるものに神が宿ってるという考えで、例えば自分が装備している剣にも神様がいるという一風変わった考え方だ。それがまたユニークだと好評で、こちらも信者が増えてるそうな。でも特定の神を指さないという理由から教団のようなものは存在しない。
「神道……ですか? それこそ女神デファートへの冒涜です!」
「ええ……」
「忌々しい……実に忌々しい。神道なんてものは滅んでしまえば――」
「あの~、ミネルバさん?」
「――ハッ!? す、すみません、つい熱が入りすぎて。オホ、オホホホホホ」
やっぱり強引な人だ。さっきからデファート教への拘りが凄いし、もしかして……
「ミネルバさん、まさかとは思うけど、デファート教の――」
「んん~……あら? あのお店は!」
「あ、ミネルバさん?」
話の途中なのに走って行っちゃったよ。な~んか誤魔化そうとしてる? てか店まで結構距離があるのによく見えたな。それにこの先の店って確か……
「あ、バーストくんにエリーちゃん。買い物に来てくれたのん? どうぞじっくりバッチリ見てってほしいのん!」
はい、来ましたパルソン商会本店。看板娘のリスティがお出迎えだぜってか?
「この指輪……これは相当なレア物ね、それが2個も売られてるなんて」
さっそく目についた解放のカラフルリング。パルソン商会に40個、マルハゲ商会に40個を卸したんだ。残り2個ってことは38個をすでに捌いたってことだ。やり手だねぇパルソン商会。
「その指輪なら殆どが売れちゃって、残り2個しか残ってますん」
「はい?」
「2個しか残ってますん」
「え~と……」
「2個しか残ってないのん」
「始めからそう言ってちょうだい……」
丁寧語だと謎に聞き取れないリスティの語尾。もう慣れたけどな。
「でもでも、この指輪はそこのバーストくんが作ったものなのん。欲しいなら――」
「ええっ、嘘、冗談でしょ!?」
冗談じゃないんだなこれが。てか微妙に失礼な驚き方だと思われるが……。
「コレを……彼が……」
「あの~、ミネルバさん? のんびりしてると日が暮れちゃうよ?」
「……ハッ!?」
俺が一声かけると俯いてた顔をガバッと上げて……
「邪魔したわね。そのうちまた来るわ」
「あれ、買わないんですか?」
「ええ、それどころじゃなくなったの」
それどころじゃない? 謎めいた言葉を発したかと思えば俺の手を掴んで強引に走り出した。向かった先は路地裏の更に先で、かつて浮浪者の溜まり場として有名だった廃屋と化した集合住宅だった。
「まさかとは思うけど、ここに住んでる――とかじゃないですよね?」
「フッ、まさか。ここの浮浪者は殆ど退去させられて、残り粒くらいしか取り込めなかったもの。だからその後は信者たちの隠れアジトとして利用してたのよ」
「信者……たち? ――って事は!」
「フフ、もう気付いてるでしょう? わたくしがデファート教の関係者だと」
やっぱりか。やたらとデファート教に肩入れするからおかしいとは思ったんだよな。
「でもアジトをバラしてよかったんです?」
「ええもちろん。お前たちを加入させれば問題は解消される。さぁ、わたくしの命に従い、デファート教への忠誠を誓いなさい」
ザ……ザザザ……ザザザザ……
「な、何だ?」
「……頭が……変……」
妙な生き物が頭の中を動き回ってるかのようでメッチャ気持ち悪い。
「フフ、貴方も運が無いわねぇ? わたくしに捕まるなんて。でも貴方が持つ潜在的な魔力がいけないのよ?」
「何……?」
「これほどの魔力を垂れ流す存在、手駒としてご利用下さいって言ってるようなものだもの、利用しない手はないわ。お連れの娘は言及点ってとこね。ま、せいぜい使い潰してあげるわ」
そうか、俺の魔力を感知して近付いてきたのか。
「言っとくけど抵抗しても無駄よ? 勇者たちをも恐れ戦かせたわたくしの悪夢。何の対策も無しには打ち破れは――」
バシュゥゥゥ!
「おお、ようやく効いてきた。ふぃ~、危なかったぁ!」
「――んなっ!? バ、バカな、わたくしの術が通じないだと!?」
解消のカラフルリングのお陰だ。1度食らわないと効果が出ないのは難点だけどな。
「……バーストのお陰。ありがと」チュッ♪
「なぁに、任せとけって」
「グヌヌヌヌ、わたくしの前でイチャつくとは生意気な!」
「……バースト、この人怖い。きっと私たちに嫉妬してる非リア充に違いない」
「ああ、美人だけど強引さが仇となって男に逃げられるパターンだよな」
「うるさいうるさ~~~い! 生意気な上に無礼なことを! こうなったら――我が下僕たち、出てきなさい!」
シュバババババッ!
俺たちを囲むように廃屋から現れたのは……
「コイツら黒ローブの!」
「わたくしの可愛い信者たちよ。それもすでに洗脳済みのね」
「洗脳だと? お前はいったい……」
「フフ、自己紹介が遅れたわね。わたくしは魔王軍四天王のミネルバ・ナイトメア。次期魔王はこのわたくしに決まってますの」
次期魔王? そうか、魔王を倒してから数10年、次の魔王となるため四天王が動いてるのか!
「さぁわたくしにひれ伏しなさい、そして忠実な下僕となるのです!」
登場人物の紹介
名前:モルツ
性別:男
年齢:25歳
種族:人間
備考:南支部を拠点とする冒険者クラン【バッカニア】所属の冒険者。新設されたクランだったがリーダーのモーガンが早くも殉職してしまい、以前所属していた【熱血の拳】に戻ろうとするもリーダーのセルドアに一蹴された。以後もカルーアと共に帝都を彷徨っているようだが……
名前:カルーア
性別:女
年齢:23歳
種族:人間
備考:経緯はモルツと同じ。モルツとは兄妹であり、共に冒険者をやっている。兄に似て優柔不断な性格らしい。
名前:ミネルバ・ナイトメア
性別:女
年齢:?
種族:魔族
備考:かつて魔王の元で四天王をしていた者の1人。深淵悪夢という2つ名を持ち、伝説の勇者たちを苦しめた過去がある。今は架空の女神デファートを祭り上げ、入信した者を洗脳して手駒として利用している。




