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チートだったら神さまになれるって本当ですか?  作者: 上野史華
チートだったら生徒会長になれるって本当ですか?
9/33

入学式

軽快な電子音によって意識が呼び戻される。リンリリンという軽快なリズムに不快な気持ちを抱きながら音の元を手探りで探す。やっとボタンを押し、静寂が取り戻される。


まだ重い瞼をゆっくりと持ち上げ、部屋を見渡す。カーテンの隙間から漏れる白い光を確認して、今日も天気が良いことに気がつく。

「うぬぅーーーー」

肺からたっぷりの空気とうめき声を出して、まだ目覚めてきれてない体をゆっくり動かす。

ここに引っ越してきてから約1ヶ月が経ち、自然と起きれていた朝もいつのまにかこの電子音がなければ起きることができなくなっていた。


ドアの外から2回ノック音が聞こえ、ドアが開く。

「スイ、起きなさい。」

イレアが起こしに来てくれた。

「おはようー。いれあ。」

重い体を持ち上げ、目を擦りながら挨拶をする。

「おはよう、スイ、朝ご飯できてるわよ。」

「ありがとう、今行くー。」

いつも通りジャージに着替え、顔を洗ってリビングに行く。


テーブルにはトーストとバター、ジャム、コーヒーが乗っていた。焼けたパンとコーヒーの香りが鼻から頭に回り朝を知らせるようだった。

「今日もいい香りだぁ。」

「いいから食べちゃいなさい、遅れるわよ。」

「そうか、今日から学校だもんねぇ。」

今日の予定を確認するように、なんとなしに言葉を発する。

「…なんだか、入学式って感じじゃないわね。」

その様子にイレアが怪訝そうにジトーと見つめてくる。ふぁーと欠伸をしながら応える。

「そう?」

「入学式なら、こう緊張で早く目覚めたり、ソワソワしたりするもんじゃないかしら。」

「あーそうだね、確かに。1ヶ月前の久々の外は結構早起きだったかも。」

つい1ヶ月前のことを思い出し、確かあの時は胸がずっとザワザワしていたなぁなんて懐かしくなりかけの記憶を辿る。その様子をみてイレアが呆れたように呟く。

「…すごく普通に眠そうじゃない。」

「うーん、この1ヶ月で緊張すること、楽しみなこと沢山あったからかなぁ。慣れちゃったかも。」

「入学式で慣れを発揮できるのあなたぐらいよ…」

はぁと呆れたように呟くイレアに、照れ笑いのようにえへへと笑い返す。

「褒めてないわよ。まぁ、いいから早く食べちゃいなさい。メディカルチェックとトレーニング済ませるわよ。」

「はーい。」

起きる時間に合わせて焼いてくれたのかかじりついたトーストはまだ温かく小麦のいい香りが広がった。




メディカルチェックとトレーニングを終え、シャワーから戻り下着姿で寝室に行く。

数日前からそこに飾ってあったものがやっと本来の用途として使われる。アイボリーのブレザーは左胸の所に大きな勲章が付けられているおり、その枠はグリーンに縁取られている。それに合わせてスカート、ネクタイもグリーンが基調となっている。

聞いた話では学年によって基調となる色は変わるらしい。

パリッとしたシャツに袖を通し、ボタンを留める。まだ一度も着ていないシャツは生地が硬くボタンを留めるのに多少の力が必要だった。

スカートを履き、シャツが綺麗に入るように手でスカート中に引っ張り、整える。ウエストのホックを止め、チャックをあげる。襟を立て、ネクタイを通し、何度か練習したそれを思い出しながら結ぶ。まだ結び慣れていないため不恰好だった。最後にブレザーを羽織り鏡の前に立つ。


そこには、まだ、制服が馴染んでいない高校生が立っていた。


6年ぶりの学校。初めての制服。胸の奥がザワザワする感覚。やっと実感が湧いてきて、ついつい頬が持ち上がりそれが少し恥ずかしくて口元を抑える。


「本当に、高校生になれたんだぁ…。」


口からこぼれ落ちた言葉はその空間を漂う。

準備を終え、リビングに行くとドアの開く音に反応してイレアがこちらに視線を向ける。


「…よく似合ってるわ。」

イレアの瞳が暖かく細められ、口元を綻ばせながら言葉を紡ぐ。その反応に、素直に頬が緩む。

「ありがとう。」

今日が始まりの日なのにすでに達成感に近い満足感でいっぱいになる。そう思わせるほどに、ここまで来るのに多くの困難と歳月を割いてきた。


イレアがソファに座るように言う。言われた通り座ると、イレアが後ろから手を回しネクタイを解く。不格好になってしまったネクタイを結び直してくれるらしい。耳元でイレアの優しい声が響く。

「今日から高校生ね。」

「うん。…友達できるかな?」

「どうかしら?」

「そこはできるよって言って欲しいんだけど…。」

「できなくても私とソメヤさんがいるじゃない。」

「そうだけど、新しい友達もできれば嬉しいなって。」

「あら、私とソメヤさんだけじゃダメなの?」

「ダメじゃないけどさぁ。」

「悲しいわ。」

これ、意地悪して遊んでるな…首を後ろに倒しイレアの肩に頭をのっけて抗議の目線をおくる。


「意地悪しないでよ。」


「冗談よ。スイらしく居れば自然とできるわよ。」

肩が細かく揺れイレアの綺麗な横顔が楽しそうに笑っている。その間もイレアの指が器用にネクタイを縛り、キュッと首元に結び目を絞める。

「できたわよ。」

「ありがとう。」

鏡を見ると不格好だったネクタイは綺麗に整えられていた。形の良くなったネクタイは品を纏い私に自信をくれる。

「そろそろ行かないと。」

「そうね」

玄関先までイレアが見送ってくれる。

「スイ。」

ローファーを履いているとイレアに呼ばれ、首だけ振り返る。

「ん?」

「入学おめでとう。」

イレアは目を細め、頬を持ち上げる。その瞳の奥が静かに喜びに震えていた。

今まで見たことない顔だった。イレアも一緒なんだ。今日という日に達成感と言い表せない高揚感を感じている。そんな人がそばにいる。これ以上ない幸せだと思う。

なんだかその表情をみたら目頭が熱くなり、視界がぼやけた。


ここは泣くところじゃない。


体ごと向き直り、ちゃんとイレアを見る。鼻がツーンとなるのを我慢して、精一杯笑顔を作る。

「私、学校に行けるの本当に嬉しいんだ。イレア、ありがとう。」

「私もあなたが高校生になれたこと心から嬉しいと思っているわ。」

胸の中がじわっと熱くなってくる。ダメだこれ以上イレア見てたら学校どころじゃなくなる。精一杯の笑顔を作ってありがとうと伝える。

「じゃあ、行くね。」

「ええ、いってらっしゃい。」

「いってきます!」

玄関を開けて一歩踏み出す。気持ちは晴れやかだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


いつか見た桜並木の道を通り、オルネラス学園へ向かう。

入学式の案内と別に届いていた冊子を確認する。

入学式に新入生代表として挨拶するらしく、理事長室に早めに来てくれとのことだった。


「理事長室って管理棟だっけ?」

分かりやすく校内図が書いてあり、おそらくそうだとわかる。


校門を通り、まだ早い時間のため、生徒が来ていない学園は静かだった。

管理棟に向かう道の途中、中庭を通った。あの大きな木で出会った儚げな女の子を思い出す。艶やかな長い黒髪にラベンダー色の瞳、凛とした佇まいなのに今にも折れてしまいそうな不思議な子。

入学したら会えるかな?友達になれるだろうか?彼女の纏う不思議な雰囲気の理由を知ることができるのか?


そんなことを考えながら管理棟に着く。

確か理事長室は1番奥だった。


厳かなドアの前に立つ。

そうそうここ、ここ。あの時はイレアが直してくれたけど、今日は姿見をみて身だしなみを整えないと。髪もはねてない、ネクタイも曲がってない、変な皺もついてない。身だしなみは、大丈夫。あとは言葉遣い。イレアからこの1ヶ月間仕込まれた言葉遣いを思い出す。うん、怖かったな…。イレアの冷たい目線、声色、思い出しただけで身震いする。大丈夫、あんだけしごかれたんだから。

そう思い、重厚なドアをノックをする。

「失礼します。スイ・アマミです。」

「どうぞ。」

「失礼します。」

重い扉を開き、中にいるこの部屋の主に頭を下げて挨拶をする。


「お久しぶりです。リーアス理事長。」


顔をあげ、彼をみる。オールバックのシルバーヘアに、まだ鍛えてるのがわかる体つき、神経質なぐらいシワのないスーツは初めて会った時とまた違うものだった。

「早くにありがとう、アマミくん。今日というめでたい日が無事やってくることができて嬉しく思うよ。」

爽やかビジネスイケオジスマイルが発動される。

それに負けじとこちらも笑顔をつくり御礼を言う。

「ありがとうございます。こちらこそ、オルネラス学園の一員になれる今日を楽しみにしておりました。」

「それはよかった。」

リーアス理事長は目元の皺をさらに濃くして微笑む。さて、と話を続ける。

「今日早くきてもらったのは、入学式の挨拶を君にお願いしたいのと、紹介しておきたい学生がいるためなんだ。」

「はい。」

前に言ってた御息女様かな?確か名前はマイ・フェルバークだったっけ?

「彼女にはもうしばらくしてから来るよう伝えているため、先に挨拶の事を伝える。」

「はい。」

「今回の入学式で中央生徒会の設立を発表、宣言をする。その後に中央生徒会、生徒会長として君に挨拶をしてもらいたい。内容はこちらであらかじめ作っているのでそれを読んでくれればいい。できそうかな?」

「読むだけなら、大丈夫だと思います。」

「そうか、では、これが挨拶の文章だ。」

細長く折りたたまれたそれを受け取る。

「拝見してもよろしいでしょうか?」

「ぜひお願いしたい。一度目を通しておいてくれ。その間にその生徒も来るだろう。」

たたまれたそれを広げ、目を通す。内容は、簡単な挨拶、自己紹介、中央生徒会設立にあたって、生徒会長としての所信表明そんな流れだった。なるほどねぇ、こんな感じで挨拶になるのかぁ。ふんふんと感心しているとノックが聞こえた。

「失礼します。マイ・フェルバーグです。」

その声に胸が高まる。これから活動を共にする人がこの扉の前に居る。緊張と好奇心で鼓動が速くなる。

「入りなさい。」

「失礼します。」

透き通る声がドアの外から聞こえる。

挨拶文から目を離し、開きかけてるドアに目線をやる。


「えっ」

思わず声がでる。この子が理事長の御息女様だったのか。

入ってきたのは先ほど思い出していた不思議な雰囲気の子だった。流石に入学前に再会できるとは思っていなかった。

その子も少し驚いたように綺麗なラベンダー色の瞳を大きく見開く。

しかしその驚きもすぐに消え、父であるリーアス・フェルバーグに挨拶をする。


「おはようございます、理事長。」

「おはよう、フェルバーグくん。」

なんだか、親子とは思えない温度感だった。本当にただ、生徒と理事長という感じだった。

「もしかして、二人はもう知り合いなのかな?」

リーアス理事長がさっきの私たちの反応を見て聞いてくる。

「ええ、以前、ご挨拶に伺った際に少しだけ。ただ名前は存じ上げなかったものですから、理事長の御息女様だとは知りませんでした。」

御息女というフレーズに彼女の表情が冷たくなるのを見た。

「そうだったのか。では紹介しよう。彼女がマイ・フェルバーグくん。この学園の生徒会長を務めていて、これからは中央生徒会、副会長として君を支えていく生徒になる。彼女はアリストタリア第4位のメンタルアビリティ保持者でもあるため、中央生徒会の活動でも君のペアになる予定だ。」

「初めまして。マイ・フェルバーグです。副会長としてこれからあなたの活動を支えて参りたいと思います。これからよろしくお願いします。」

同い年にするには礼儀正し過ぎる美しいお辞儀をするもんなので、つられて不恰好なお辞儀をしてしまった。

「…ええ、よろしくお願いします。」

少しびっくりして言葉だけ遅れてしまった。

その様子を見つめリーアス理事長は話を続ける。

「フェルバーグくんにも紹介しよう。彼女がスイ・アマミくん。このアリストタリア第1位のアビリティ保持者だ。これから中央生徒会の会長として活動していくことになる。彼女はこのような活動事態初めてなのでしっかりサポートするように。」

「はい。」

マイさんは淡々と温度のない返事をする。

「スイ・アマミです。学園生活も慣れないことも多くあるためたくさん頼ってしまうかもしれませんが、よろしくお願いします。」

笑顔で挨拶をするが彼女の表情は変わらない。

「はい、これからよろしくお願いします。」

「では、そろそろ生徒が教室に集まる頃だ。君たちも教室に向かいなさい。フェルバーグくんアマミくんを案内してあげなさい。」

「はい。それでは失礼します。」

「失礼します。」

二人で理事長室を後にする。

「私たちは1-1にクラス分けされてるわ。教室、案内するわ。」

マイさんはくるりと扉に背を向けてながら、淡々とやるべきことをこなすように話す。

「あ、うん、お願いします。」

その業務感につい敬語になる。

スタスタ進むマイさんにおいてかれないように、早足で歩く。必要ない事は話さないのか、私に興味ないのかマイさんは口を開く様子がない。その空気があまりにもいたたまれなく、会話を探す。

「マイさんはずっと生徒会長をやってきたんだよね?」

「ええ、ずっとと言っても12歳の頃からだけど。」

マイさんは表情ひとつ変えずに応える。イレアが卒業した3年前からって言ってたもんね。でも中学生で学園の生徒会長ってやっぱり優秀なんだなぁ。さすが理事長の娘。

「凄いね!私はそういうのやってこなかったから、マイさんにたくさん頼っちゃうかもしれないけど…」

「別に、それが私の役目だから、構わないわ。」

整った横顔はこちらを一切向かず淡々と応える。

…もしかして、私、嫌われてる?

原因がわからないけど、なんか、やなことしたのか…?原因がわからない以上自分から突っ込むのはやめておこっ。心の中でひっそりと決意する。


「…今のアリストタリア第1位の話はほぼ都市伝説としてしか聞いたことないの。」

突然マイさん口を開き、言葉を発する。脈絡のない話に少し戸惑いを感じながら聞き返す。

「都市伝説…?」

「入学当初からランクアルファだとか、アビリティを2つ持ってるだとかそういうくだらないの。」

「はぁ…」

「それなのに、突然現実としてオルネラスに入学してきて、生徒会長ですって理解が追いつかないわ。」

あぁ、突然出てきて私が生徒会長になったのが気になってるのか。まぁ、そうだよね、ずっと生徒会長やってたのに急に何処の馬の骨かもわからんやつに奪われて、支えてやってくれって無理だよね。

「ごめん、急に出てきて、なんなんだよお前って感じだよね…」

マイさんはこちらをチラッとみて口を開く。

「…違うわ。そういうつもりじゃなくて、あなたがどういう人なのか、知りたいの。」

その横顔は先ほどより温度を感じさせる表情だった。張り付いた冷たい仮面の下を少し覗けた気がした。

「どういうって?」

お前なに入学してきてんだよってことじゃなくて?

「どういう能力を持っていて、今まで何してきたのか、知りたいの。」

あぁ、そういうこと。最初からそう言ってくれればいいのに…入学する前から嫌われたかと思ってヒヤヒヤしたよ…

「そういうことかぁ。」

安堵で言葉が吐息と一緒にでてくる。気を取り直して自己紹介を始める。

「詳しい自己紹介がまだだったね。私さっきも言ったけど名前はスイ・アマミ。スイって呼んでくれると嬉しいな。能力は物質のメンタルアビリティと瞬発のフィジカルアビリティを持っていて…」

「待って」

怪訝そうな顔でマイさんがこちらを見てくる。綺麗なラベンダーの瞳が疑惑色に染まる。

「メンタルアビリティとフィジカルアビリティを持っているっていった?」

「あ、うん。」

久々に自分のアビィリティのことを話したけど、二つ持ってますっていうと確かに信じられないか…

「そんな人、都市伝説でしか聞いたことないけれど?」

「あ、うん、私が初めて見たい…」

綺麗な瞳はこちらをじっと捉えて離さない。

嘘をついてないか観察しているんだろうけど、ほんとなんだよなぁ…。

疑惑の眼差しのままマイさんは話を進めようと言葉を紡ぐ。

「わかったわ、で、どっちがランクアルファなの?」

「あ、両方とも…」

「…。」

さらに疑わしいという顔になっている。わかるよ、我ながらまだびっくりだもん。

「もしかして、入学当初から?」

「いや、フィジカルアビリティだけ。」

マイさんの顔から少し疑いの色が薄くなったように感じた。少しご納得いただけたようだ。少し安心する。それも束の間、マイさんはさらに深掘りしてくる。

「メンタルアビリティは最初レベル何だったの?」

「それはわからない…」

「わからない?」

「小学3年生まで隠してたから…」

「どうして?」

「普通の学生として過ごしたかったから…」

怪訝そうな顔が通り越して、不愉快、軽蔑、そんな表情に変わった。

「そう、じゃあ、あなたは最初から才能があったけど隠してたのね。」

あ、まって、この感じ…。この展開、身に覚えがあるな。

「羨ましい限りね。能力を出し惜しみできるなんて。」

うん、結局嫌われちゃったじゃん…。

ごめんって言うのは違うし、出し惜しみしてたって言われるとそうなるから、なんも言えないな…とりあえず苦笑いでその場を過ごす。


ふと、6年前の少年を思い出す。彼も同じようなことを言っていた。自分は努力を惜しまないで頑張ってるのに、私は何もしないでランクアルファ。悔しくて、憎らしくて、やるせない。そんな表情をしていた。きっと彼女もそうなのだろう。私の存在が腹立たしい。


…それはそうだろう。私の存在は彼らの努力を嘲笑う存在なのだから。

きっとこの国には彼等のような人たちが沢山いる。私を認めたくない人達。でも、悲しいけど彼らは健全だと思う。

思い出されるのは、私の力を全て肯定する人達。私の事を崇め奉って神の贈り物だとか称賛を贈る人々によって行われてきた事。あまりにも忘れることができない事の数々に自然と苦痛に顔が歪む。


こんな能力、持っていたくなかった。


他の人には言えない、私だけの本音。きっとほとんどの人たちにわかってもらえない。奈月とイレアに聞かせたら悲しませる言葉。だからこれは私だけに聞かせる言葉。これを聞かせることができる人ができたら私は…。


「…ごめんなさい。今のは完全に負け惜しみだったわ。」


突然紡がれる言葉に、うまく反応ができなかった。

後ろから声が聞こえた。マイさんが立ち止まり、何歩か前に進んでしまっていた私に言葉を放ったらしい。

「あ…。いいよ!別に!」

気づいて振り返り、咄嗟に笑顔を作る。

「…でも、凄く辛そうな顔をしていたから、傷つけてしまったかと。これからあなたの生活を支える役目なのに、子供みたいな事をしてしまったわ。ごめんなさい。」

「あ、いや、あれはちょっと違うこと思い出してて…本当に気にしないで!」

この子は偉いなぁ。きっと私に対して好ましくない感情があるはずなのに…。役割のために謝れるんだ、大人だなぁ。でも、ちょっと、大人すぎるって思うけど。

「そう。なら良かった。」

淡々とそういう彼女は本当に役割に支障がないかそれだけの確認をしていたようだった。

「うん。」

心配ないよと笑顔で答える。

「そうしたら入学式の流れを確認するわね。」

そういう彼女はそれが目的だったかのようにスラスラ説明をしはじめた。

それを聞きながら歩いていると、大きな建物が4つ現れた。全ての説明を終えた彼女は次に…と再び話し始める。

「ここがオルネラス初等部、中等部、高等部の校舎よ。大学は少し離れているところにあるわ。そしてこの中心の塔が学生棟。主に部活やクラブ活動、委員会などはこの棟で活動するわ。私たち中央生徒会の部屋は最上階。ベランダが付いているところよ。」

「へぇ、あそこが…それにしてもほんとに大きな学園だね。」

「もちろん。オルネラスはアリストタリア1の学園だから。」

当たり前だと言うように彼女は言う。そこに初めて熱を感じたようだった。

確か理事長言ってたな。彼女はフェルバークとオルネラスに執着してるって。この子にとってこの学園は大切なものなのか。

中央生徒会の部屋だという所を見上げて彼女は言う。

「あなたがこの学園に来てくれて、中央生徒会がオルネラスに設置されたわ。このことはオルネラスにとってプラスになる。私からもお礼を言うわ。ありがとう。」

突然のお礼に戸惑ってしまう。

「いや、こちらこそこんな凄い学園に入学できてうれしく思うよ!これからよろしく!」

「ええ、よろしく。」

きっと彼女に感じる凛とした立ち居振る舞いはこの学園への想いの表れなんだろう。…でもそこには同時にはかないような、危ういような、そんな雰囲気を彼女はまとっている。それを感じとり、初めて会った時と同じ疑問を抱いた。この子の雰囲気はなんなんだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

高等部校舎につき、教室まで案内してもらう。

校内は新入生でざわついており、みんなどこかそわそわして浮き足立っているようだった。

「ここが1-1の教室よ。」

そういうと教室のドアを開けて中に入る。


「マイーー!!」

突然マイさんへ抱きつく生徒がいた。


「マイ!同じクラスになれて嬉しいよ!!」

「カシア。苦しいわ。離れて。」

マイさんが淡々と引き剥がす。カシアと呼ばれた少女はオレンジの髪に濃い赤い目をしていた。背が小さく瞳の大きい彼女は可愛らしい子犬のようだった。


二人の様子を見て、近寄ってくる赤髪の少女。子犬のような少女と比べると15センチほど身長が違うように見える。私より若干背が高いだろうか。私も163センチぐらいあるので割と高い方なんだけどなぁ。でもマイさんも私よりちょっと低いぐらいだし、イレアなんて170近くある。この学校の生徒は成長著しいのか…?

「マイ、おはよう。私も同じクラスだよ。」

「おはよう、アーリア。」

「あれ?その子は?」

アーリアと呼ばれていた少女が私の存在に気がつく。

「彼女は今年からオルネラス学園に入学してきたスイ・アマミさんよ。」

マイさんが紹介してくれる。

自分からと挨拶をしようと口を開こうとした時、カシアと言われていた子が先に話し始めた。

「めっっっちゃ可愛いー!綺麗な銀髪!!真っ白な肌!!!それに宝石みたいな瞳!!!!天使みたいー!!!!!」

下から至近距離で大きな目を輝かせて言う。

こんなにベタ褒めされるのは恥ずかしい通り越してびっくりしてしまう。

「こらこら、カシア、びっくりしてるよ。」

キラキラしているカシアさんの目を両手で塞ぎながらアーリアさんは言う。

「初めまして、私アーリア・ギルランダ。マイとは初等部から友達で、幼馴染なの。これからクラスメイトとしてよろしくね。」

「アーリア!私も自己紹介するから!手どけて!」

「はいはい。」

「初めまして!カシア・マドンっていうの!私も幼稚園からこの学園なんだ!スイちゃん、高等部から入学なんて相当エリートなんだね!!」

カシアさんは興味津々で聞いてくる。そのキラキラした瞳を見ていると、もう少しで尻尾が見えてきそうだ。

「いやそんな事ないと思うけど…。」

「だって高等部の入学試験って超難関って聞くよ??それを合格しちゃうなんてエリートだよ!!」

「いや、えっと…。」

「今までどこの学校通ってたの?どんな能力もってるの??」

もう完全に尻尾が見えてる。怒涛の勢いの質問の波に飲まれてしまっている。

「えっと学校は、小学校は普通の国立で、中学校は…。」

行ってないなんて言うと変な空気になるかな?そう考えて目線を泳がしながらベストな発言をして考える。

カシアさんが私の言葉を目をキラキラさせながら待ってる。

「そろそろ時間よ。席につかないと。」

マイさんが話を遮る。助かったぁと心の中で大きく安堵する。

「えぇ、もっとスイちゃんとお話ししたいー。」

「カシア、同じクラスなんだからまた今度ゆっくり話せるよ。」

拗ねてるカシアさんにアーリアさんが優しくなだめる。

アーリアさんがカシアさんをほらほらと席の方までおしていく。


「アマミさん、こっちよ。」

マイさんが席に案内してくれる。

…スイでいいって言ったんだけどなぁ。

まぁ、いいかと思い、さっきの感謝を伝える。

「マイさん、さっきはありがとう。」

「なんだか困ってたみたいだから。」

「ちょっとね…」

つい苦笑いをしてしまう。

「ここよ。」

教室の1番後ろ窓側の席だった。

「え、特等席じゃん。」

「そうなの?黒板が遠くて見にくくないかしら?」

「大丈夫!私目、良いから!」

自信満々に言うとそれもそうかと頷く。

「フィジカルアビリティもあるんですもんね、他の人より身体能力も高いのよね。」

「まぁ、それはそうだけど、黒板ぐらいだったらアビリティ関係ないかな…?」

「…そう。」

「え、ごめん、なんか期待させた?」

「…いえ、別に。」

いや、絶対なんか期待してたでしょ…。なんか、ごめん…。


ホームルームが始まり、初日恒例の自己紹介が始まる。

ただ、高等部からの編入は多くなく、みんな大体が顔見知りみたいだけど。割と誰が話してもみんなそこまで関心を持たずにヘラヘラしてる。私はというと1人1分もない自己紹介でクラスメイトの顔と名前を覚えようと必死だった。


マイさんの番になった。良かった彼女の名前は覚えているし少し休憩しよう…。

そう思い彼女の方を見る。さっきまでヘラヘラしてたクラスメイト達が彼女の番になると静かになる。え?なに?この感じ?


「…あれがマイ・フェルバーク…近くで見るとめっちゃ美人だな…。」

「…凄い髪綺麗…。」

「…あれで成績優秀、ランクアルファで生徒会長とかみんな惚れるだろ…。」

「…無理だぜ、間違っても狙おうとするなよ…?」

「…馬鹿やろう、崇めるのに必死だわ…。」


なるほど。


マイさん大人気ってことか。まぁ、確かに美人でこれまで生徒会長もやってて、しかも成績優秀なんだ。もう、完璧じゃん。

そう思っていたら脳裏にもう一人浮かぶ人がいた。

…なるほどね、イレアも学生時代こんな感じだったんだろうな。この学校の生徒会長はそういうすごい人が選ばれるのかぁ。


他人事のように思っていたら自分の番になっていた。

ハッと慌てて立ち上がり、周りを見渡す。


私の番も静かになり、無数の目がこちらに向けられる。胸が大きく鳴る。

突然入ってきた編入生にみんな興味津々なわけか。カシアちゃんも凄い勢いで食いついてきてたし。鼓動を抑えるように息を吸い、声を出す。

「初めまして、スイ・アマミと言います。高等部からこのオルネラス学園に入学することになりました。まだ、学園のことわからないことがたくさんあると思うので、皆さんに聞くことも多いかと思います。よろしくお願いします。」

ビジネススマイルを繰り出す。なんなもんでよかっただろうか…。

「もちろん!!なんでも聞いてね!!」

カシアさんが大きな声で応えてくれる。こういうのに返答とかあるんだ。少しおかしくて笑ってしまう。

「いや、俺の方が詳しいから俺に聞いた方が良いよ!!」

カシアさんと同じぐらいか少し大きいぐらいの男の子が手を上げる。

「ちょっと!!ベオ!!邪魔しないで!!」

そうだ彼はベオ・ハルツェンさっき自己紹介で中等部からいたとか言ってたな…。

「お前、小さいからからいる割にこの学校のこと知らねーじゃん!」

「生活に困らないレベルで知ってればいいでしょ!!」

なんだか威勢のいい感じが小さい頃の奈月を見てるようで微笑ましい。

「こらこら、カシア。まだ、ホームルーム中だよ。」

アーリアさんがなだめる。

「ベオも落ち着けって。」

そういうベオくんに比べてずいぶん背の大きい彼は確かスタイン・ヘッティンガーと言ってたはず。


なんだかあのペア似てるな。そんなことを思ってぼーっとしていると先生が話し始める。

「ギルランダさん、ヘッティンガーくん、ありがとう。アマミさんも着席していいですよ。」

そう言われ、着席する。この学校は極力教師が出てこようとしないみたいだ。小学校の時は大体先生が止めてた気がするけど、自主性を高める?とかいう方針のせいなのかな?


その後、学級委員を決めその学生が進行を務めた。選ばれたのは先ほど、ちびっ子2名をなだめていた長身コンビだった。

なんとなくマイさんが選ばれると思っていたけど、誰も推薦しなかったし、マイさんも我関せずっていう感じだった。生徒会やってる人はやらないとかいうやつなのか?

この学園独特の雰囲気がまだ掴めずにいた。


ホームルームが終わり、学級委員がホールにクラスメイトを先導する。

私とマイさんは入り口のところで先生に呼ばれ、別の所で待機をする。生徒会挨拶があるためだ。


全校生徒が集まるホールは学校のものというより、ライブ会場に近かった。初等部、中等部、高等部があつまれる規模となるとこのぐらい大きくなるのか。


全校生徒が入るのを待っていると男子生徒が近づいてきた。

金髪で碧眼のザ・美少年だった。金髪がアイボリーの制服によく合っていてさながら王子様だ。

「マイ、入学おめでとう。」

「ありがとう、アル。」

マイさんと親しげに挨拶をして、横に並ぶ。

彼の制服の勲章はターコイズ色で縁取られており、ネクタイとパンツも基調としているのがターコイズだった。

学年が違うのか。そう思っていると彼に話しかけられた。


「はじめまして。僕はアルバード・ブラッツ。高等部2年で生徒会副会長をやっているんだ。」

人の良さそうな微笑みを向け手を差し出す。

王子様のような彼の風貌だとその仕草さえなんだか特別なものに感じる。

「はじめまして。私はスイ・アマミです。本日入学しました高等部1年です。」

その手を掴みながら自分も挨拶をする。

アルバートさんは、ニコッと微笑むと手を離す。

「マイ、この子が?」

「ええ、そうよ。中央生徒会、生徒会長になるわ。」

「やっぱり、そんな人に挨拶できて光栄だよ。スイさん、これからよろしく。」

そこまで仰々しく言われると揶揄われてるのかなと思うのはわたしだけ?

彼の目が含みを帯びてないことを見るに私の考えすぎかもしれないけど…。

「いえ、こちらこそよろしくお願いします。」

「マイ、最初何考えてるかわからなくて怖いでしょ?」

突然アルバートさんはふざけたように話す。その目は先ほどと違い、しっかりからかいを含んでいた。

「アル。黙りなさい。」

「ほら、それだよ、マイ。怒ってるみたいだよ。ただでさえ表情がわかりずらいのに、話し口調も淡々としてるから怖がらせちゃうよ?」

まったくもうという口調でアルバートがマイに指摘する。

「これは怒っているのよ。余計なこと言わないで。」

アルバートが大袈裟に驚いたように話す。

「これは、これは失礼しました。生徒会長殿。」

「もうあなたが生徒会長でしょ。」

「マイの後釜なんて、僕には荷が重すぎだよ。」

その言葉はきっと本心なんだろう。言葉の中に諦めに似た何かが蠢いていた。

そうか、マイさんが中央生徒会に移動したら、このオルネラスの生徒会長は彼になるのか。

そういえば、理事長室から移動してくる時にマイさんが言ってたな。元生徒会長のマイさんが挨拶をした後、これから生徒会長になる人が挨拶して、その後に私の挨拶になるって。だからこの人はここにいるのか。


「スイさん、マイ無愛想のぶっきらぼうだけど仲良くしてあげてね。これでも我が校の誇りなんだから。」

我が校の誇り。そう言われた彼女を見るが、その言葉に不自然なほど反応をしていなかった。違和感を覚えながらアルバードさんに応える。

「それはもちろん、逆にさっきから案内してもらったり気を遣ってもらったりで助けてもらってます。」

「へぇ、マイが気を遣ったりねぇ。」

ニヤつくアルバートさんのことをマイさんがギロリと睨む。

「本当に黙りなさい。」

そろそろ本気で怒られると思ったのかアルバートがごめんごめんと謝る。

「スイさん、これから困ったことがあったり、マイのことで何かあったらなんでも言ってね、協力するよ。」

もうマイさんは無視を決め込んでる。

「はい、困ったことがあったら頼るかもしれません。よろしくお願いします。」

「うん。よろしくね。」

王子の見た目に反して気さくな人だなぁ。マイさんに対してもふざけたり、いじったり。二人は仲がいいんだ。

そんなことを思っていたら、全校生徒が集まったらしく、式を始めるアナウンスが流れた。

開会宣言をオルネラス理事の一人が務め、オルネラス学園理事長の挨拶にうつる。

「みなさん、入学、そして進級おめでとう。この春のよき日にみなさんの新たな一歩を祝うことができ、大変嬉しく思います。それぞれの学舎で多くの学びを得て、自分の糧にできるよう学友と共に成長してほしい思う。」

ちらっとマイさんの方をみる。真剣に理事長の話を聞いている。いや、父親を、将来の自分を見ているのかもしれない。そんな事を思いながら理事長に目線を戻す。


「今年度からオルネラスは新たな体制を敷くことになった事、皆さんにこの場でお伝えしたい。アリストタリア統括の生徒会を発足し、他国への広報活動、アリストタリア教育連合合同の行事運営を行なっていく。アリストタリアを挙げてのプロジェクトである中央生徒会、その拠点がこのオルネラス学園になる。メンバーは学校問わず優秀な生徒集められ、中央生徒会としての活動を行う。今年度は生徒会長、副会長ともに我が校の生徒が選ばれたこと報告する。」


会場がざわつく。

「生徒会長、副会長と言ったらマイ様とアル様よね…?」

「え、そしたら、うちの生徒会どうなんの?」

「どっちもやるんじゃない…?」

「いや無理でしょ…。」


…気まずい。非常に気まずい。こんにちはー私が生徒会長だぞって出ていっても…え?誰こいつ?ってなる未来しか見えない。きつい、思った以上にきついぞ、入学式…。


「この中央生徒会設立にあたり、本校の生徒会メンバーの入れ替えも発生している。これについては後ほど本人たちより挨拶と報告を行なってもらう。この場を持って中央生徒会設立の報告と宣言をして、挨拶に代えさせてもらう。」


リーアス理事長が堂々と設立の宣言を行い、理事長挨拶が終わった。


進行より生徒会長挨拶がアナウンスされる。

マイさんがスッと立ちあがり登壇する。その最中、マイさんに向けて惚れ惚れしている声が、吐息が会場から漏れ出ていた。そんなことも気づかないように背筋が綺麗に伸び、歩き姿まで凛としたオーラを纏ったマイさんが舞台上に立つ。マイがマイクの前に立つだけでより一層会場の空気はピンと張り詰めたようになり、彼女へ熱い視線が注がれる。


「皆さん、こんにちは。生徒会長のマイ・フェルバーグです。」

彼女の透き通った声がマイクを通して会場へ風のように伝わる。入学の挨拶なのだが、その声があまりにも透き通っており心地よく聴き入ってしまう。


「私はこれまで3年間、本学園の生徒会長を務めさせていただきましたが、先ほど理事長よりお話がありました中央生徒会の方に籍を移すことになりましたことみなさまへご報告いたします。」

マイはこれまでやってきたことや全校生徒への感謝を伝えているが、会場はそれどころではなく、各々自分の思ったことを話し合っている。


「やっぱり、マイ様が会長よね。」

「でも、学校問わず選ばれるならルミリア学園の第二位があるじゃない。」

「でもあの子、そういうのには非協力的らしいから断ったんじゃない?」


ルミリアって確かお嬢様学校だったよね?あそこに第二位がいるんだ。

きっとお淑やかで綺麗な能力使うんだろうなぁ。そーいえば奈月も誘われたって言ってたけど断ったって言ってたっけ?そうなると結構断った人がいるんじゃない?これから活動していく事のに、ちょっとテンション下がるなぁ。

もう生徒会長にまつわる雑談はシャットアウトすることに決めた。考えれば考えるほど事故しか思い浮かばない。


「これからは中央生徒会副会長として、会長を支えていく所存です。本校の生徒会長は副会長として今まで私を支えてくれたアルバート・ブラッツにお願いしたいと思います。」


会場に更なる衝撃が走る。


「え?マイ様が会長じゃないの?」

「てかアル様は残るんだ。」

「えー私あの二人のツーショット好きだったのにー。」

「わかる美男美女すぎてね。尊いよね。」


シャットアウト!!シャットアウト!!!

ダメダメ!!聞こえない!!聞こえないよ!!!


目線を感じて横を向くとアルバートさんが同情の目で見つめていた。やめて、それ。1番傷つくから。今私必死に聞こえてないふりしてるから。


ジトーっとした目線を送ると少しびっくりしたように、眉毛を持ち上げ、面白そうに笑っていた。


「以上で、私の挨拶を終わります。」


進行により、新生徒会長挨拶がアナウンスされアルバートが登壇する。


マイさんの時と比べ注目されるというよりも黄色い声の方が大きかった。まぁ、あの見た目だとアイドル的存在だよね。マイさんはどちらかというと崇拝されてるって感じだけど。


ついため息が出る。


登壇して誰だこいつという雰囲気の中、なんだこいつと思われながら話すのか。あまりにも二人が生徒に支持されすぎてアウェイがすごい。


「緊張しているの?」


透き通る声がこちらに向かってスッと入ってくる。隣を見るとラベンダー色の瞳がまっすぐこちらを見ていた。

「緊張というより、敵意を感じてるかな…」

ため息混じりに言葉を紡ぐ。息を吐き出しても憂鬱さが抜けてくれない。

「敵意?」

なんのことか、眉間に皺を寄せて聞き返してくる。あぁ、この人は周囲の反応を本当にわかっていないんだな。

「二人がみんなに愛されすぎてて、新参者には厳しい雰囲気だなぁって。」

言葉にするとアウェイすぎて笑えてきた。乾いた笑いが漏れる。マイは少し考えるように眉間に皺を寄せた。

「ごめんなさい、ちょっとわからないわ…。」

「そっかぁ、そうだよねぇ。」

こんなに愛されてる自覚なしかぁ。小悪魔だなぁこの子。あそこの王子様は自覚ありって感じだけど。舞台上でキラキラ輝きを放っている王子様をジト目で見つめる。せめて何かアドバイスが欲しい、マイさんに話しかける。

「マイさんはこういうの緊張しないの?」

「緊張するわ。」

「え、全然そんな風に見えなかったけど。」

「そう?なら良かった。」

「なんかコツでもあるの?」

藁をも縋る思いでマイさんに聞く。

「そうね…。やらないといけないからやるの。」

思ったよりシンプルかつどストレートのアドバイスきたな。

「やらないといけないから?」

「そう。やらないとその場に立てなくなってしまうから。それを放棄すれば、この学園の生徒会長でいられなくなってしまうから。今だと中央生徒会。それに引き換えると人前で話すことは大したことでなくなるのよ。」

その場にいられなくなってしまうから。

…そうか、これをやるのも私が外にいれるための一つか。この生活を続けるために必要な過程。確かにそう考えると、アウェイの中話すことなんて大したことじゃない。

「…そうか。私もこの生活を譲れない。そう考えると全部大したことじゃなくなる。」

マイさんが不思議そうに見つめてくる。

「ありがとう!いいアドバイスもらったよ!」

胸の中で渦巻いていた憂鬱が、霧のように晴れスッキリした気持ちになった。自然と頬も持ち上がる。その姿にマイさんが曖昧な返事をする。

「…そう、それなら良かったわ。」


ちょうどアルバートさんが黄色い声を浴びながら帰ってきた。

私の顔をみておっ、と目を大きく開き少し驚いたようなそぶりを見せる。

「あれ?なんか、すっきりした?」

「はい。マイさんにいい助言貰っちゃったんで。」

アルバートさんは少し目を見開き、マイさんの方をからかうように意味ありげに見るがまだ、マイさんは無視を継続している。

進行により、中央生徒会生徒会長挨拶がアナウンスされる。


先ほどの緊張はなくなり、胸を張って登壇する。

会場がザワつくのがわかる。

お辞儀をしてマイクにむかう。無数の目が私を捉える。この目線には耐えられる。ただ私という存在を見つめるだけの目。あの施設の人たちとは違う目線だった。ヒソヒソ聞こえる声も気にならない。マイさんにアドバイスをもらっていてよかった。


話始めようとすると会場から大きな声が上がった。

「スイーーーー!!」

「ちょっ!!ユーニスさん!!!」

「久しぶりなんねーー!!!同じ学校だったんね!!」

「こら!静かにしなさい!!」


突然の出来事に驚いてそちらを見つめる。

なぜか高校生の列にいるユーニスがこちらに手を振りながら大声で話している。隣ではセストがすみません、すみませんと言いながら必死に静かにさせようとしている。

どうせまた列から逸れちゃったんだろうな。

そう思うとつい口元が綻ぶ。笑った口元を手で隠す。

セストが可哀想になってきて、ユーニスを静かにさせるため、人差し指たててシーっと口を閉ざすポーズをする。


それに気がついたユーニスが口を両手で押さえて喋らないポーズをする。そのポーズがあまりにも愛らしく周りからクスッとした笑い声が上がる。


静まり返ったのを確認して話始める。

「皆さん、初めまして。この度中央生徒会、生徒会長に任命されました、スイ・アマミです。この度はー…。」

用意してもらった台本を読み終え、お辞儀をして降壇する。


席に戻るとアルバートさんが笑顔で迎えてくれた。

「初挨拶、お疲れ様。」

「ありがとうございます。」

ホッとして安堵から頬が緩む。

「それにしても、愉快な友達だね。」

「ええ、すみません。面白い子ではあるんですけど、ちょっと周りが見えないみたいで…。」

というか周りを見ないんだけどね。

「でも、おかげさまで生徒たちは君の虜になったみたいだよ。」

「え?なんで?」

「さっきのなだめる仕草が大好評みたいだよ。」

アルバートさんは肩をすくませ、会場に目線をやる。それに釣られて会場をみてざわつきに耳を傾ける。


「待って…会長推せる…!」

「何あのビジュカッコいいと可愛いの中間…欲張りフェイスか…!」

「…俺もあれされてぇ…シーってこっち見られてぇ…!」

「マイ様とアル様はお互いに自立って感じで良かったけど…スイ様の優しい雰囲気でマイ様に話しかけるの想像するだけで…尊い…!」


「あーあ、マイをあっという間に取られちゃったなぁ」

冷やかすようにアルバートさんが言ってくる。

「いやいや、挨拶しただけですから…。」

降壇したのに目線を感じる。なんだかむず痒い。

逃げるようにマイさんの隣に座る。

「お疲れ様。堂々としていて良かったわ。」

マイさんには周りの声が届いていないのだろう。純粋な感想を言ってくれる。

「ありがとう。アドバイスのおかげだよ。」

「…そんなことないわ。」

そういうと、マイさんは再び舞台へ目を向け、会話は終わりだと言ってるようだった。



入学式を終えて、教室にマイさんと帰っている時、背中から衝撃を受けた。

振り返ると小さな体が私に抱きついていた。金色の頭がこちらを見上げ嬉しそうに口を開く。

「スイー!!また会えて嬉しいなん!!」

「ユーニス!久しぶり!」

ユーニスは初等部の制服を着ていてとっても可愛らしかった。

初等部の制服は白い短い丈のジャケットにターコイズ色のチェックのワンピースだった。

「ちょ、おまえ、ほんと、早すぎ…」

セストがクタクタになって向かってくる。


「セスト、久しぶり。相変わらずだね…」

セストはいつも疲れてるなぁ。本当にいつも振り回されててちょっと悪いけど面白い。

「おい、なんで笑ってるんだよ。」

「ごめん、ごめん。つい。」

ジトーと睨まれて平謝りする。

そんなことも気にせずユーニスは大きな瞳を輝かせながら話し出す。

「スイ!オルネラスだったんな!!」

「そうそう、今日からオルネラスに入学することになって。」

「なら、スイと話し放題、遊び放題なん!!」

両手を挙げて万歳のポーズをする。その頬は興奮しているのかうっすらと赤くなっていて、余計にユーニスを可愛く彩っていた。可愛くってついつい頭を撫でる。

「おい、生徒会長捕まえて遊び放題は無理だぞ。」

セストが呆れたように注意する。

「ていうか、やっぱりあんた凄い人だったんだな。ユーニスが目をつけるだけのことはあるか。」

「そう!スイはキラキラしてるんね!」

「本当にこいつ人を見る目だけはあるんだよな…。」

「見る目だけってなんなん!!!」

ユーニスが挙げていた両手を爪を立てて威嚇する。その仕草も可愛くて、まぁまぁとなだめながら撫で続ける。ちらっと会場を見ると小さい子たちがちょこちょこと移動しているのが見えた。

「まぁまぁ、そろそろ戻らないとまたはぐれちゃうよ?初等部違う建物でしょ?」

「そうなんな!!!!セストいそぐん!!」

「なんで俺もなんだよ!!」

そう言いつつもユーニスを担ぎ初等部の列まで急いで戻ってあげるあたりセストは面倒見がいい。


二人を微笑ましく思いながら見送る。

あれ?何してたんだっけ?

そして、やっとマイさんのことを思い出した。

待たせてしまった?いや、気づかず置いて行かれたかも…!

慌てて振り返りマイさんの方を見た。あちらもこっちを見ていたのかバッチリ目が合ってしまった。

「…!」

突然私が振り返りびっくりしたのか大きな目がさらに見開かれた。

「…っ!ごめん!待たせちゃって…!」

「…いや、構わないわ。まだ、私たちのクラスは移動してないもの。」

「よかったぁ。」

大きく開かれた目が冷静さを取り戻し淡々と応えてくれる。それでも、マイさんのラベンダー色の瞳がまじまじとまだこちらを見つめていた。

そんなにみられるとドギマギしてしまう。

「…えっと、何か、私にある…?」

「…あの二人と知り合いなの?」

何かを探るように問いかけてくるが、その質問の意図はよく読み取れない。

「あぁ、前に一度会ったことがあって…知り合いといえば知り合いかな?」

「一度だけであんなに親しげになれるのね。」

「…うん?仲良さそうに見えたなら良かったけど…?」

「ええ、それに、なんだか、とても…普通だったわ。」

言葉を探すように話すマイさんに疑問を抱く。

えっと…?どういうことかな…?まって?私もしかして?

「え、私、変な人だと思われてるの?」

「そうではないけど、ランクアルファでしかも、能力も特殊でってなると、普通の人とは違うのかと。」

能力が特殊…?ダブルアビリティのこと?能力2つ持ってるから変なやつだと思われてるってこと…?

「自分が特別な人間だって人を馬鹿にしたり、高飛車に構えたりしてると思ったんだろ?」

どうやら途中から聞いていたのかアルバードさんが後ろから話しかけてくる。ファンの子の囲み取材は終わったらしい。

「…。」

アルバードさんの言葉にマイさんが反応しない。笑顔が張り付いたままアルバードさんは動揺したように口を開く。

「待って、まだ、無視継続中なの?」

それも無視を決める。

「もっと、私が人を馬鹿にしたり、高飛車な感じだと思ったの?」

試しにアルバードさんのセリフを私が言い直す。

「そうね、そう思っていたわ。能力を隠してたとか聞いてたから。」

「…。」

「…。」

私とアルバードさんが黙り込む。

本気だ。本気で無視してるこの人。

その様子にアルバードさんが折れて、綺麗なお辞儀をして謝罪の意を示す。

「マイ、本当にごめんなさい。もう余計なことは言いませんので、無視はもう終わりにしていただけませんか…?」

ちょっとかわいそうになってきた。

「マイさん?アルバードさんが哀れだよ。」

「哀れに見える?」

マイさんが確認してくる。

「うん。」

「なら良かった。」

マイさんはその言葉を満足そうに聞き、整った口元の端をあげ微笑む。悪魔だ。悪魔がいる。

顔を上げ苦笑いを浮かべながらアルバードさんは諦めたように呟く。

「こうなったマイは長いからな…。今日は諦めるよ。俺のクラスもう行っちゃったから、もう行くよ。スイちゃん、マイをよろしくね。」

そう言って哀れな王子様はさわやかに走り去った行きましたとさ。

「マイさん、私たちも帰った方が良さそうだね。」

ほとんどのクラスが移動してるのを確認して、提案する。

「…。」

マイさんが立ち止まって動かない。何か考えているように目線を地に這わす。

え、私にも無視が?なんか変なこと言った?

何事かとマイさんの様子を恐る恐る伺う。

「あの…マイさん?」

「マイでいいわ。」

「へ?」

「呼び方、さんはいらないわ。」

「あ、うん、えっと…マイ。教室帰ろう?」

なんだか改めて呼び捨てにすると恥ずかしくて耳に熱を感じる。

「…ええ。」

当の本人はなんでもないかのように教室に向かう。

この子…無自覚小悪魔なんだ…。

教室に戻るとクラスメイトはすでに教室に揃っており、みんな席に着いていた。

「二人ともお疲れ様でした。ホームルームを始めます。席についてください。」

担任が教壇に立ち私たちに指示を出す。

それぞれ自分の席に向かう。クラスメイトからの視線が自己紹介の時とは違うことに気がついた。


入学式を終え、私が生徒会長だとわかるとその視線は色を変えた。

どんな人間なのか私の中身をそのそぶりから知ろうという観察されてるような目線だった。

正直私はこの目線が苦手だ。多くの研究者がその目線で私を見てきた。その目線は見えないも見せろと多くの研究で私を解明してきた。それを思い出す目線。


つい、表情が歪み、手に力が入る。いつも守ってきてくれたあの人に縋るようにネクタイの結び目を握る。


「…今日は以上になります。明日はアビリティチェックを行いますので早めに帰って体調を整えてください。」


その言葉にハッとして、その頃にはもう誰も私をそんな目で見ていないことに気がついた。そうか、ここは学校で研究室じゃない。無理矢理私の中身を見ようとする人はいないんだ。

フッと息を吐き、胸を撫で下ろす。


ふと隣を見ると、綺麗なラベンダー色の瞳がこちらを向いていた。見られてしまったかもしれない。


笑顔でどうしたのというように首を傾げる。

その瞳は特に反応を返さず前を向いた。

気がつくと握りしめていた手にはベッタリと汗が絡みついていた。



「スイちゃん!エリートどころじゃないじゃん!!中央生徒会長なんて!!スーパーウルトラエリートだよ!!」

ホームルームが終わってカシアちゃんが一目散に私の席に走ってきた。

「いやぁ、エリートって感じではないんだけどね…。」

「なーに言ってんのさぁ!!」

カシアちゃんは興奮気味ではあったけど、嫌な目線じゃなかった。彼女からは悪意と欲望を感じず無理に見ようとしてないのが伝わる。


「マイも中央生徒会副会長になったのね。おめでとう。」

アーリアちゃんが優しく微笑む。

「ありがとう。」

「いやぁ!マイも世界レベルまで羽ばたいてしまったかぁ」

カシアちゃんは感慨深そうにうん、うん、と頷いている。

「カシア、マイはランクアルファなんだからもう既に世界レベルだったよ?」

アーリアちゃんが変わらない笑顔で指摘する。

「あ、そうだったか!!」

元気にてへ!!っととぼける。元気な子だなぁ。初めて会ったけどこの子はピュアな子だというのは充分伝わってくる。

「みんなはもう帰るの?」

カシアが尻尾をブンブン振りながら聞いてくる。遊んでくれるよね?って全力の期待を感じる表情をしていた。まるで飼い主にボール遊びをねだる小型犬のようで愛らしい。

「私とアマミさんは中央生徒会があるから帰らないわ。」

マイがその期待を一刀両断する。

ん?アマミさん?頑なにスイって呼ばない気かな?なぜ?自分はマイって呼ばせたのに?

その理由を気安く聞く事は、まだ難しかった。

「ええぇ、今日初日だよぉ?ストイックすぎない?」

全力の不満を垂れる。

この子は表現が全て全力だなぁ、ほんとに犬みたい。クスッと笑ってしまう。

「んんん?スイッチ何がおかしいんだい??」

「いや、カシアちゃん犬みたいで可愛いなって…。てかスイッチって何?」

「スイッチはスイッチだよ?」

私のことを指さして何言ってるの?という風に首を傾げる。あぁ、スイだからスイッチね。別物になってるけど。

あははと苦笑いをしているとアーリアちゃんがカシアちゃんの頭を撫でてうっとりしている。

「スイちゃん、わかりますか?このカシアの子犬感…可愛いですよねぇ。」

撫でてる手がカシアのほっぺに移動してわしゃわしゃしている。それ本当の犬にやるやつだけど…

「ちょ、アーリア、やーめーてーよー」

わしゃわしゃされてるカシアはされるがままだった。その様子にアーリアちゃんがさらに微笑みながら手を止めようとしない。

「そろそろ向かうわよ。」

すでにマイがカバンを持ち移動しようとしている。

「あ、うん!じゃあカシアちゃんアーリアちゃん、また明日!」

置いてかれると生徒会室にたどり着ける自信がない。慌てて自分のバックを持つ。

「ええ、また明日。」

「うん!じゃーねー!」

二人に挨拶して教室を後にする。



「えっとこの後は、生徒会のメンバーの顔合わせだよね?」

「そうよ。各校から来るからそんなに早く来れないと思うけど。」

マイがスタスタ歩きながら答える。校舎を出て、中庭を歩きながらマイに聞き返す。

「そうなの?じゃあ先についても時間持て余しちゃうね。」

「その時間で簡単なルーティン作業を教えてしまいたいの。だから、時間は余らないわ。」

出た。できる女の時短術。少しでも時間があったらタスクを片付けるの巻ね。よくイレアがやってますとも。

「あ、うん、ありがとう!」

正直ゆっくりしたかったなんて言えない。この歩くスピードの人には言えない。とりあえず、教えてくれるというのだから素直に教わろうと思った。


さっき、教えてくれた学生棟に着く。最上階24階に中央生徒会室があるためエレベーターに乗る。エレベーターホールにつき、あの視線を感じる。好奇と世俗にまみれた探るようなあの視線。


「あれ、中央生徒会長と副会長じゃない?」

「ほんとだ24階が確か中央生徒会室になったみたいだよ?」

「マイ・フェルバーグはわかるけど、あのスイって子はどんな能力持ってるの?」

「それが誰も知らないみたいなんだよね…出身中学もわからないみたい。」


いろんなことを囁かれてる。それは構わないんだけど、その目線はやめてほしい。わかってる、ここには無理やり秘密を探ろうとする人はいない。でも、知らない誰かにベタベタ触られてるようで、気分が悪くなる。


エレベーターが来てそれに乗り込む。奥に乗り込み、できるだけ目線から遠ざかる。

マイが近くに立つ。私たち二人は今注目の的なのか、二人セットだとさらに見られていると感じる。体を這うような目線。


気持ち悪い。


ネクタイの結び目をぎゅっと握り、情報を得ないように目を閉じる。何度かエレベーターが止まりまた動き出す。


「どうしたの?」


透き通る声に思わず目を開けた。


もうエレベーターの中には私とマイしかいなかった。

マイが眉をひそめてこちらを見てくる。その瞳は私の様子を心配しているような不思議がってるような、ちょうどその間の目線だった。

「…っ。えっと…なんでもない!ちょっと考えごとしてて…。」

「それにしては、汗がすごいわ。」

「私汗っかきなんだよねぇ。」

「そうなの。大変ね。」

深掘りしてこないマイに安心しながら誤魔化すようにえへへと笑う。

少ししてエレベーターが止まる。扉が開き24階のエレベーターホールが私たちを向かい入れる。

「この階が中央生徒会室があるところよ。右に行くとトイレ、まっすぐ行くと中央生徒会室。」

「そうなんだ。」

まだ震えが止まらない。マイの説明が耳に入ってきているのに脳まで伝わらない。なんともないように返事するのが精一杯だった。


マイが生徒会室の扉を開き中に入る。

生徒会室は広く、立派な木製のデスクが4つに横長で3人は座れそうなソファ2つ向かい合うように置かれており、真ん中には背の低いテーブルが置いてある。

全体的に高級感が溢れる作りになっている。

「ここが生徒会室。一応奥は生徒会長室になってるわ。」

奥に続く扉があり、それをマイが開けて案内してくれる。

生徒会長室は1番奥に大きな木製のテーブル。手前に生徒会室にも置いてあったソファ2台とと背の低いが置かれている。


生徒会長室を見ていたら背後から声がした。


「スイ?ずいぶん早いわね?」


聞き慣れた声。今1番聞きたかった声。6年間あの研究室で私を守ってくれていた声だった。

振り返るとイレアがいた。


気がつけば荷物を落とし、イレアに縋るように抱きついていた。


「…っ!…はっ、はっ…はぁっ。」


「…スイ…?」


安心する匂い。あの目線から私を守ってくれる匂い。必死にこの匂いを自分の中に取り込もうと息をする。

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