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チートだったら神さまになれるって本当ですか?  作者: 上野史華
チートだったら生徒会長になれるって本当ですか?
10/33

マイ・フェルバークの入学初日。

入学式の朝、いつもより早い時間に起床する。

今日から高校に進学する。中等部とは違う制服を着て朝食をとる。

スクランブルエッグにサラダ、トーストが何もせずに出てくる。


「ありがとう。」


中年のメイドが人の良さそうに微笑み紅茶を入れる。

いつもと同じように全てを食べ終え、身だしなみを整える。入学式の準備の確認と中央生徒会長との挨拶があるためいつもより早く学園へ向かう。


学園につきホールに向かうとオルネラスの生徒会が入学式に向けて準備を行なっていた。

段取りよく準備を行なっている生徒会のメンバーに声をかける。

「おはよう。」

「おはようございます!マイさん!」

「準備はどこまで進んでいるの?」

「今会場の設営がおわって、簡単なリハーサルを終えれば準備終了です!」

「ずいぶん早いのね。」

「アルさんが早めにきて色々終わらせてたので…。」

アルが、ね。初めての生徒会長としての式だもの絶対失敗したくないのでしょうね。


「そのアルはどこにいるの?」

「今先生方と最終チェックをしているところです。」

「そう、じゃあ、よろしく言っておいて。」

「マイさん、もう行くんですか?」

「ここまで終わってれば手伝うこと何もないもの。下手に手伝ってアルに絡まれるのも面倒だから。」

それを聞いた面々は苦笑いをしていたけど、特に気にすることはなくホールをあとにした。


まだ約束の時間まで時間がある。先に教室に荷物を置きに向かう。クラス分けの表をみて、1-1だと確認する。それと、中央生徒会長、名前はスイ・アマミ。その名前も同じクラスにあることを確認した。同じクラスになる事は、事前にわかっていたことだった。それでも、その名前を見た時、胸の奥が冷たくなった。

今日からオルネラスの代表はその人になる。アリストタリア伝説の第一位、スイ・アマミ。

その事実がいつになっても受け入れることができないのだろう。胸の冷たさを感じながら、冷静になるよう分析をする。


荷物を置き、今日の流れを確認する。理事長室でスイ・アマミと挨拶をして、教室まで案内、入学式に移動し、生徒会挨拶を行う。ホームルームを終え、中央生徒会面々と顔合わせ。これで今日は終わりだ。中央生徒会の顔合わせまで時間があるのを確認し、生徒会長業務をスイ・アマミに教えることができると追加の予定を立てる。


時間を確認し、そろそろ理事長室へ向かう時間になっていた。


理事長室に向かっている間、中庭を通る。大木の足元を見る。3月。私がオルネラスでトップでなくなることを知った日、出会った少女を思い出す。


銀髪の柔らかく揺れる髪、エメラルドグリーンの瞳、日差しを知らないような白い肌。全てが神秘的な彼女。何故あの子はあの日、あの場所にいたのだろうか。この学園の生徒なのか。ただまた会えるのか、そればかり気になっていた。


そのようなことを考えている間に理事長室についた。時間を確認し、身だしなみを整える。


時間になりノックをする。


「失礼します。マイ・フェルバーグです。」

「入りなさい。」

「失礼します。」

理事長の声が中から聞こえる。もうこの部屋にはスイ・アマミがいる。


理事長の前に立っていたのはら先ほど思い出していた神秘的な彼女だった。


「えっ。」

彼女から驚きの声が漏れる。


この子が、スイ・アマミ…?自分の目がピクッと動く。それに気がつき、理事長の前だと冷静になる。


「おはようございます、理事長。」

「おはよう、フェルバーグくん。」

理事長に挨拶をする。3月の時の父の顔ではない理事長に。


「もしかして、二人はもう知り合いなのかな?」

理事長がさっきの私たちの反応を見て問いかける。

それに答えるのはスイ・アマミだった。

「ええ、以前、ご挨拶に伺った際に少しだけ。ただ名前は存じ上げなかったものですから、理事長の御息女様だとは知りませんでした。」

随分丁寧な話口調で彼女が説明する。

御息女様。その言葉は今の私には聞きたくない言葉だった。あなたによってこの学園のトップは私でなくなった。今、父と私を繋げてるのは学園の理事長と生徒というだけ。オルネラスを背負うフェルバーグ家の者としてではもうない。


「そうだったのか。では紹介する。彼女がマイ・フェルバーグくん。この学園の生徒会長を務めていて、これからは中央生徒会、副会長として君を支えていく生徒になる。彼女はアルストタリア第4位のメンタルアビリティ保持者でもあるため、中央生徒会の活動でも君のペアになる予定だ。」

「初めまして。マイ・フェルバーグです。副会長としてこれからあなたの活動を支えて参りたいと思います。これからよろしくお願いします。」

この気持ちを悟らせないために、礼儀をまといそれを隠す。

「…ええ、よろしくお願いします。」

何か違和感を感じたのか反応が遅いように感じた。

「では、フェルバーグくんにも紹介しよう。彼女がスイ・アマミくん。このアルストタリア第1位のアビリティ保持者だ。これから中央生徒会の会長として活動していくことになる。彼女はこのような活動事態初めてなのでしっかりサポートするように。」

「はい。」

アルストタリア第1位…。噂でしか聞いたことのない存在。ランクアルファ合同アビリティチェックにも参加しない存在。それがこの子なのか…。

「スイ・アマミです。学園生活も慣れないことも多くあるためたくさん頼ってしまうかもしれませんが、よろしくお願いします。」

笑顔で挨拶をしてくる。なぜこの人は人のご機嫌をとるように笑うのだろう。そんな事しなくても彼女はかまわないはずなのに。何もしなくても彼女の存在価値はゆるぎないものなのに。

「はい、これからよろしくお願いします。」

「では、そろそろ生徒が教室に集まる頃だ。君たちも教室に向かいなさい。フェルバーグくんアマミくんを案内してあげなさい。」

「はい。それでは失礼します。」

「失礼します。」


二人で理事長室を後にする。


まずは彼女をクラスまで案内する。

「私たちは1-1にクラス分けされてるわ。教室、案内するわ。」

「あ、うん、お願いします。」

あっけに取られたような返事をしてきた。

彼女が何か話しかけてきたけれど、特に内容が無い話だった。

彼女が、伝説のアリストタリア第1位だとしたら何故、今更この学園に入学してきたのだろうか…。そもそも第1位のアビリティや人となりは不明だ。変な伝説ばかり噂になり、そんな都市伝説みたいな存在が今ここにいる。


考えれば考えるほど隣を歩く神秘的な彼女がさらにわからない存在に感じた。


「…アルスタリア第1位の話はほぼ都市伝説としてしか聞いたことないの。」

「都市伝説…?」

「入学当初からランクアルファだとか、アビリティを2つ持ってるだとかそういうくだらないの。」

「はぁ…」

「それなのに、突然オルネラスに入学してきて、生徒会長ですって理解が追いつかないわ。」

純粋な思いだった。わからないことだらけの都市伝説が突然生徒会長になり、私はそれを支える。教えてほしいことがたくさんあった。


「ごめん、急に出てきて、なんなんだよお前って感じだよね…。」

何かを勘繰ったのか、申し訳なさそうにスイ・アマミは言う。

「…違うわ。そういうつもりじゃなくて、あなたがどういう人なのか、知りたいの。」

「どういうって?」

「どういう能力を持っていて、今まで何してきたのか、知りたいの。」

意表をつかれたような顔をしていたが、質問の意図が伝わったのか少し安心しているように見えた。

「そういうことね。」

彼女が話し始める。

「詳しい自己紹介がまだだったよね。私さっきも言ったけど名前はスイ・アマミ。スイって呼んで。能力は物質のメンタルアビリティと瞬発のフィジカルアビリティを持っていて…」


「は?」

 

考えるより先に声に出ていた。

この人は、今、なんて言ったの?

「メンタルアビリティとフィジカルアビリティを持っているっていった?」

「あ、うん。」

さも、当たり前かのように言う彼女は、私の反応を見えあぁそうかという顔をしていた。

「そんな人、都市伝説でしか聞いたことないけど…?」

「あ、うん、私が初めて見たい…。」

本当なのだろうか…。

気まずそうにしている彼女を見る。続く言葉が無く、本当のことを言っているみたいだが、信じがたい。


でも、問題は彼女のランクアルファの能力だ。どちらかがたとえランクベータであっても、アルファとベータでは格が違う。総合的な能力値で判断されたとしてもアルファの能力がずば抜けて無ければ1位になり得ない。


「わかったわ、で、どっちがランクアルファなの?」

「あ、両方とも…」

「…。」

ここまで来るとほんとに疑わしい。ランクアルファなんて900万人いるこの国で現在 人しかいない。一つの能力をランクアルファにできる者とできない者がいる。できる者でさえ相当な知識と練習が必要になるのに。


ここまで来ると都市伝説は都市伝説ではなく、事実があまりにも自分達と乖離しすぎていて事実が都市伝説扱いになってしまったのかもしれない…。


「もしかして、入学当初から?」

「いや、フィジカルアビリティだけ。」

それでもフィジカルアビリティはランクアルファでの入学。確かに、フィジカルアビリティに関しては特別な訓練を受けずとも高位ランクになる可能性がある。そう考えるとまだ、現実的だろう。


だとすると彼女はメンタルアビリティの扱いに専念して練習していたのか。そう考えると両アビリティが高ランクなのも頷ける。


「メンタルアビリティは最初ランク何だったの?」

「それはわからない…。」

「わからない?」

また、スイ・アマミは気まずそうに話す。アビリティ保持者のアビリティチェックは毎年必ず行われる。わからないなんてことは起きえないはず…。


「小学3年生まで隠してたから…。」

「どうして?」

確かに、本人が隠していたら、一つのアビリティだけチェックになるだろう。まさか2つ持っているなんて思わないだろう。アビリティチェックを逃れた方法はわかったが、意味がわからない。そんな唯一無二の存在であるのに、それを隠してしまうなんて。


「普通の学生として過ごしたかったから…。」


言葉の意味がわからなかった。

普通の学生でありたい?ここにいる学生は皆ランクアルファを目指して勉学に励んでいる。誰もが特別になるために。それは私も例外ではない。

それなのに、それを彼女は拒んだの?ただ、学生生活を送りたいがために?学生生活なんて、将来までの過程に過ぎない。何故そんなことに。


そうか、ランクアルファのフィジカルアビリティがあって、メンタルアビリティはあってもなくてもすでに特別になっているのだものね。


努力しなくても、すでに生まれた時から特別なのね。居場所も、価値も生まれた時からあって、わざわざ望まなくてもいい。


私はフェルバーグに早く相応しくなりたくて、早くフェルバークとして生きたくて自分なりに努力してランクアルファを手に入れた。でも、今日、私はあなたにオルネラスの顔としての立場を取られる。生まれた時から持っていたあなたの才能で。


そう思うとお腹の底、何かが不完全燃焼をしているようにプスプスと熱があがってきた。

「そう、じゃあ、あなたは最初から才能があったけど隠してたわけね。羨ましい限りだわ。能力を出し惜しみできるなんて。」


私は、彼女に腹が立っているのか。彼女が悪いわけではないのはわかっている。彼女に溢れるばかりの才能があって、私にそれがなかった。努力してやっと手に入れた才能も、彼女の半分でしかなかった。自分があまりにも惨めで、やらせなかった。


私の言葉を最後に、彼女からは何も発せられなくなった。


自分が間違っているのはわかっていた。彼女は別に能力の自慢をしていない。私が聞いたから答えただけ。それも気まずそうに。自分の話が人を傷つけるかもしれないと分かっていて、でも嘘をつくには難しくて答えるしかなかった。


わかっているのだけど、あまりにも理不尽に感じてしまい、責めずには入れられなかった…。


負け惜しみをいうなよと怒っているのだろうか、突っかかってくるなよとめんどくさがっているのだろうか。


私の役割はもうオルネラスの顔として振る舞うことではなく、この才能に溢れている彼女を支えることだと、やっと思い出し自分を納得させる。今はせめて、役割を全うしないと。


謝ろう。


そう思い、彼女の顔を見たら、あまりにも辛そうな顔をしていて、息を呑んだ。

その顔は手当てもされてないような深い傷をおったかのような、その痛みを思い出してしまったかのようなそんな顔だった。


謝らなければ。


傷つけてしまったのか。その表情に胸を強く鷲掴みにされたような大きな罪悪感を素直に感じさせた。


「ごめんなさい。あなたに負け惜しみをしたの。」


驚いたように振り返る彼女を見つめる。


「あ…。いいよ!別に!」

さっきの表情を笑顔で隠すように話す。

「…でも、凄く辛そうな顔をしていたから、傷つけてしまったかと。これからあなたの生活を支える役目なのに、子供みたいな事をしてしまったわ。ごめんなさい。」

「あ、いや、あれはちょっと違うこと思い出してて…本当に気にしないで!」

必死に平常を振る舞う彼女を見ると、自分の罪悪感の居場所がなくなってしまったかのようだった。


「そう。なら良かった。」

「うん。」

「そうしたら入学式の流れを確認するわね。」

この罪悪感をどうしていいのかわからなくなり、とりあえず自分の役割を果たそうと話を進める。


校内の説明を終えると彼女はそれにしても…と続ける


「ほんとに大きな学園だね。」

「もちろん。オルネラスはアリストタリア1の学園だから。」

そうここは、フェルバーグ家が守ってきた誇りであり、一族が生きた証。私も早くこの学園を守れるようになりたい。


そのためには、今できる役割を全うしなければ。


「あなたがこの学園に来てくれて、中央生徒会がオルネラスに設置されたわ。このことはオルネラスにとってプラスになる。私からもお礼を言うわ。ありがとう。」

彼女の存在はオルネラスのためになる。副会長としてこの才能を支える。それがフェルバーグ家として生きる一歩になるはずだから。


「いや、こちらこそこんな凄い学園に入学できてうれしく思うよ!これからよろしく!」

「ええ、よろしく。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ここが1-1の教室よ。」

教室につきドアを開けて入る

「マイーー!!」

カシアが勢いよく抱きついてくる。


「マイ!同じクラスになれて嬉しいよ!!」

「カシア。苦しいわ。離れて。」

本当にこの子は元気ね。そう思っているとカシアの飼い主がゆっくり近づいてきた。


「マイ、おはよう。私も同じクラスよ。」

「おはよう、アーリア。」

「あれ?その子は?」

アーリアがスイ・アマミの存在に気がつく。

「彼女は今年からオルネラス学園に入学してきたスイ・アマミさんよ。」

スイ・アマミが挨拶をしようとした時、カシアが凄い勢いで遮った。

「めっっっちゃ美人!!!!綺麗な銀髪!!!!真っ白な肌!!!!それに宝石みたいな瞳!!!!天使みたいー!!」

初めて会った時、私も神秘的な人だと思った。みな、彼女を見るとそういう一歩外れた存在のように感じるのだろう。


「こらこら、カシア、びっくりしてるわよ。」

「初めまして、私アーリア・ギルランダ。マイとは初等部から友達で、幼馴染なの。これからクラスメイトとしてよろしくね。」

「アーリア!私も自己紹介するから!手どけて!」

「はいはい。」

「初めまして!カシア・マドンっていうの!私も初等部からこの学園なんだ!スイちゃん、高等部から入学なんて相当エリートなんだね!!」

「いやそんな事ないと思うけど…。」


アリストタリア第1位がエリートじゃなければ誰がエリートになるのだろうか。

彼女の謙遜につい意地悪なことを思ってしまった。


「だって高等部の入学試験って超難関って聞くよ??それを合格しちゃうなんてエリートだよ!!」

「いや、その…」

「今までどこの学校通ってたの?どんな能力もってるの??」

「えっと学校は、小学校は普通の国立で、中学校は…」

カシアの質問攻めに言葉を詰まらせた。事情があるのか中学校についてなんと言おうか悩んでいるようだった。

カシアの期待に耐えかねるのをみて、助け舟を出す。


「そろそろ時間よ。席につかないと。」

「えぇ、もっとスイちゃんとお話ししたいー。」

「カシア、同じクラスなんだからまた今度ゆっくり話ましょう?」

アーリアが意図をくみとりカシアを優しくなだめる。


「アマミさん、こっちよ。」

私の言葉にすこし戸惑っている。

きっと、スイでいいと言われたのにそう呼んでないからだろうな。正直まだ、彼女に親しみを持てない。


きっとこれは私の汚い部分。才能に溢れすぎている彼女への少しの抵抗。


「マイさん、さっきはありがとう。」

彼女はあまりそれを気にせず、先ほどのお礼を言ってきた。

「なんだか困ってたみたいだから。」

「ちょっとね…。」

カシアの勢いを思い出したのか苦笑いになる。


「ここよ。」

「え、特等席じゃん。」

「そうなの?黒板が遠くて見にくくないかしら?」

「大丈夫!私目、良いから!」

自信満々に言う彼女を見て納得する。

「フィジカルアビリティもあるんですもんね、他の人より身体能力も高いのよね。」

「まぁ、それはそうだけど、目は普通にいい程度だよ?」

「…そう。」

…、それは違うのね。才能に溢れすぎてるから余計な期待までしてしまった。


「え、ごめん、なんか期待させた?」

「…いえ、別に。」



ホームルームが終わり、ホールに移動した。

私とスイ・アマミは生徒会挨拶があるため別場所で待機している。


アルが近づいてきた。彼とは幼い頃から一緒で、生徒会になってからはほぼ毎日顔を合わせていた。きっと親しい友人の分類に入るのだろう。

「マイ、入学おめでとう。」

「ありがとう、アル。」

彼も挨拶があるためここで待機することになっている。アルがスイ・アマミをみて挨拶をする。


「はじめまして。僕はアルバード・ブラッツ。高等部2年で生徒会副会長をやっているんだ。」

「はじめまして。私はスイ・アマミです。本日入学しました高等部1年生です。」

彼は見た目がよく、挨拶をするだけで赤面し騒ぎ立てる生徒もいるのだが、スイ・アマミは特に表情の変化もなく、どちらかというと感心してるような感じだった。


「マイ、この子が?」

「ええ、そうよ。中央生徒会、生徒会長になるわ。」

「やっぱり、そんな人に挨拶できて光栄だよ。スイさん、これからよろしく。」

「いえ、こちらこそよろしくお願いします。」

「マイ、最初何考えてるかわからなくて怖いでしょ?」

「アル。黙りなさい。」

アルは突然私をからかい、相手の反応を楽しむところがある。

スイ・アマミはこれまた特に反応は無く、私たちのやりとりを見ているだけだった。


「ほら、それだよ、マイ。怒ってるみたいだよ。ただでさえ表情がわかりずらいのに、話し口調も淡々としてるから怖がらせちゃうよ?」

「これは怒っているのよ。余計なこと言わないで。」

その変な手段が、なにを意図しているのかわからず、何に付き合わされているのか全く持って意味不明だった。


「これは、これは失礼しました。生徒会長殿。」

「もうあなたが生徒会長でしょ。」

「マイの後釜なんて、僕には荷が重すぎだよ。」

彼は人望もあり判断力もある。そんなに謙遜する必要はないのだけど、口調は本音を話している時と同じだった。


「スイさん、マイ無愛想のぶっきらぼうだけど仲良くしてあげてね。これでも我が校の誇りなんだから。」

また余計なことを話し始めた。

「それはもちろん、逆にさっきから案内してもらったり気を遣ってもらったりで助けてもらってます。」

「へぇ、マイが気を遣ったりねぇ。」

「本当に黙りなさい。」

さすがに今回は長い。正直めんどくさく感じ、無視を貫こうと決めた。

「スイさん、これから困ったことがあったり、マイのことで何かあったらなんでも言ってね、協力するよ。」

「はい、困ったことがあったら頼るかもしれません。よろしくお願いします。」

「うん。よろしくね。」

全校生徒が集まったらしく、

式を始めるアナウンスが流れる。

開会宣言をオルネラス理事の一人が務め、オルネラス学園理事長の挨拶にうつる。

「みなさん、ご入学、そして進級おめでとう。この春のよき日にみなさんの新たな一歩を祝うことができ、大変嬉しく思います。それぞれの学舎で多くの学びを得て、自分の糧にできるよう学友と共に成長してほしい思う。」

そう話している、現理事長の父はその立場としても、実力としてもオルネラスに必要不可欠な存在だ。私はいつあのようになれるのだろうか…。そう思いながら挨拶を見つめる。


リーアス理事長が中央生徒会の説明と設立宣言を行い、挨拶が終わった。


進行より生徒会長挨拶がアナウンスされ、最後の生徒会長挨拶に向かう。


「皆さん、こんにちは。生徒会長のマイ・フェルバーグです。ー…。」

最後の生徒会長挨拶を終えて、スイ・アマミたちがいる席に戻る。


進行により、新生徒会長挨拶がアナウンスされアルが登壇する。


隣からため息が聞こえる。


緊張しているのだろうか?

確か生徒会とかそういう活動は今までしてこなかったといってた。


「緊張しているの?」

「緊張というより、敵意を感じてるかな…」

「敵意?」

「二人がみんなに愛されすぎてて、新参者には厳しい雰囲気だなぁって」

思いっきり苦笑いをする彼女の言ってることを理解しようとしたが、難しかった。

「ごめんなさい、ちょっとわからないわ…。」

「そっかぁ、そうだよねぇ。」

ふたたびため息をついた彼女は、藁にもすがるかのように質問してきた。


「マイさんはこういうの緊張しないの?」

私も最初はすごく緊張した。なんなら今もしている。

「緊張するわよ。」

「え、全然そんな風に見えなかったけど。」

「そう?なら良かったわ。」

「なんかコツでもあるの?」

「そうね…。やらないといけないからやるの。」

「やらないといけないから?」

「そう。やらないとその場に立てなくなってしまうから。それを放棄すれば、この学園の生徒会長でいられなくなってしまうから。今だと中央生徒会。それに引き換えると人前で話すことは大したことでなくなるのよ。」

私が私の居場所を守るために必要なことだから。ただそれだけだった。


「…そうか。私もこの生活を譲れない。そう考えると全部大したことじゃなくなるな。」


納得したように彼女はつぶやく。この生活を譲れない?あなたはその才能で欲しい居場所をどこでも手にいられるでしょう?


「ありがとう!いいアドバイスもらった!」

「…そう、それなら良かったわ。」

すっきりしたような彼女にはそんな質問は投げかけられなかった。

アルバートが戻ってきて、彼女に話しかける。

「あれ?なんか、すっきりした?」

「はい。マイさんにいい助言貰っちゃったんで。」

アルバートは少し目を見開き、私の方を見てくる。今日は無視を貫くと決めた。


進行により、中央生徒会生徒会長挨拶がアナウンスされる。


彼女が登壇しら話始めようとすると会場から大きな声が上がった。

「スイーーーー!!」

「ちょっ!!ユーニスさん!!!」

「久しぶりなんねーー!!!同じ学校だったんね!!」

「こら!静かにしなさい!!」


なぜか高校生の列にいる初等部の学生が高等部の学生になだめなれながら大声で話している。すみません、すみませんと言いながら高等部の学生が必死に黙らせようとしている。


彼女の知り合いだろうか?ふと彼女を見ると、引き込まれてしまった。


心から笑っているあの笑顔が眩しくて、初めて会った時の気持ちを思い出させる。


この世のものではないような、そんな儚い存在。手を掴んでないとどこかに消えてしまうのではないかと不安にさせて、ついどこにも行かないように捕まえていたくなるような、そんな笑顔。


初等部の学生に静かにと伝えるためと人差し指たててポーズをする。その姿につい息をするのを忘れてしまう。胸の鼓動が大きく聞こえ、それに合わせ胸の奥に甘酸っぱい何かが広がる感覚。


彼女は会場が静まり返ったのを確認して話始めた。

「皆さん、初めまして。この度中央生徒会、生徒会長に任命されました、スイ・アマミです。この度はー…。」

この胸の感覚がわからなくて、でも、これが愛おしくて、彼女の挨拶を聞いている間その余韻を感じていた。


彼女が戻ってくるとアルが笑顔で迎える。

軽く会話をすると隣に戻ってくる。

「お疲れ様。堂々としていて良かったわ。」

初めての挨拶のねぎらいをする。

「ありがとう。アドバイスのおかげだよ。」

「…そんなことないわ。」

何故だか、先ほどの感覚を気づかせない方がいいと、会話を切り上げた。



入学式を終えて、教室に帰ろうとしたら彼女に突撃する何かを横目で見た。


「スイー!!また会えて嬉しいなん!!」

「ユーニス!久しぶり!」

「ちょ、おまえ、ほんと、早すぎ…」

先ほどの初等部と高等部の学生だった。


楽しそうに会話をしている彼女を見ていた。

さっきから私に向ける笑顔とは違う、きっと本当の笑顔。

たくさんの表情。それを見ていると甘酸っぱい感覚からギュッと握られる感覚に変わる。


突然彼女が慌てたように振り返り私の方を振り返った。しっかりと目が合ってしまった。

「…!」

突然、その瞳に自分がうつり動揺してしまった。


彼女もびっくりしたように話し始める。

「…っ!ごめん!待たせちゃって…!」

「…いや、構わないわ。まだ、私たちのクラスは移動してないもの。」

「あ、そうなの?」

彼らとは長い付き合いなのだろうか?だからあんなに自然に表情が出てくるのだろうか。私も長く付き合えば、あんな表情を向けられるのだろうか?

そんなことを考えていたら、彼女の顔を凝視していたらしい。

「…えっと、何か、私にある…?」

戸惑いながら聞いてくる彼女に、先ほどの疑問をぶつける。

「…あの二人と知り合いなの?」

「あぁ、前に一度会ったことがあって…それで顔見知りって感じかな?」

「一度だけであんなに仲良くなれるのね。」

私とそんなに変わらない。先ほどの胸の痛みが返ってきた。


「…うん?仲良さそうに見えたなら良かったけど…?」

「ええ、それに、なんだか、とても…普通だったわ。」

「え?私変な人だと思われてるの?」

「そうではないけど…。」

私には向かない笑顔があったから…そういうこともできず、取り繕う。

「なんだか、とても普通だったから…。」


「もっと、人を馬鹿にしてたり、高飛車なのかと思ったんだろ?」

アルが後ろから話しかけてくる。いつもいいタイミングで助け舟を出してくれる。

が、今日は無視を貫くときめている。


「…。」


「待ってまだ、無視継続中なの?」

「もっと、私が人を馬鹿にしたり、高飛車な感じだと思ったの?」

アルのセリフを彼女が言い直す。

「そうね…そう思っていたわ。能力を隠してたとか聞いてたから。」

「…。」

「…。」


二人に沈黙が走る。


「マイ、本当にごめんなさい。もう余計なことは言いませんので、無視はもう終わりにしていただけませんかね…?」

「マイさん?アルバートさんが哀れだよ。」

「哀れに見える?」

「うん。」

「なら良かった。」

ちゃんと嫌だと伝わればね。


「こうなったマイは長いからな…。今日は諦めるよ。俺のクラスもう行っちゃったから、もう行くよ。スイちゃん、マイをよろしくね。」

そう言って、アルは走り去っていった。


「マイさん、私たちも帰った方が良さそうだね。」

「…。」  

スイ・アマミと先ほどの二人との会話を思い出す。


『ユーニス!』

『セストも大変だね』


「マイさん?」

「マイでいいわ。」

「え?」

「呼び方、さんはいらないわ。」

「あ、うん、えっと…マイ。教室帰ろう?」


「…ええ。」


こんな事を気にするのは私らしくない。でも、どうしても気になってしまったのだ。


教室に戻るとクラスメイトはすでに教室に揃っており、みんな席に着いていた。


「二人ともお疲れ様でした。ホームルームを始めます。席についてください。」

担任が教壇に立ち私たちに指示を出す。

それぞれ自分の席に向かう。


席についてホームルームの話を聞いていると隣のクラスメイトが震えてることに気がついた。

スイ・アマミの表情が朝のそれと同じものになっていた。


大きな傷を負っているような、あまりにも辛そうな表情。手も強く握られおり、震えている。


ホームルームが終わる頃彼女は、ハッとして、少し平常に戻る。


私の目線に気がついて、笑顔をつくる。どうしたのかというように首を傾ける。


また、この笑顔。あの子たちに向けてたものとは違う。

なんだか、少し腹が立ってなんでもないかのように前を向いた。


ホームルームが終わり、カシアが興奮してスイ・アマミに戯れていた。それとない会話をしてカシアが聞いてきた。

「みんなはもう帰るの?」

「私とアマミさんは中央生徒会があるから帰らないわ。」

「ええぇ、今日初日だよぉ?ストイックすぎない?」

カシアが不満を垂れる。


そのカシアに向かって、スイ・アマミが笑顔を向ける。

「んんん?スイッチ何がおかしいんだい??」

「いや、カシアちゃん犬みたいで可愛いなって…。てかスイッチって何?」

「スイッチはスイッチだよ?」

「スイさん、わかりますか?このカシアの子犬感…可愛いですよねぇ」

「ちょ、アーリアやーめーてーよー」

カシアとアーリアのいつもの戯れだった。


カシアはさっき彼女と知り合ったばかりのはず。もうあの笑顔を引き出している。彼女は人懐っこいところがあるが…謎の焦燥感を感じた。


「そろそろ向かうわよ。」

スイ・アマミを急かす。

「あ、うん!じゃあカシアちゃんアーリアちゃん、また明日!」

「ええ、また明日。」

「うん!じゃーねー!」



学生棟に着き、エレベーターホールで、立ち止まる。

この時間は一斉にホームルームが終わり混雑していた。


周りを気にしてなのか、スイ・アマミが静かになる。


エレベーターが来てそれに乗り込む。スイ・アマミが奥に乗り込む。つられて近くに立つ。


ギュッという微かな合皮の悲鳴が聞こえた。彼女のカバンを持つ手が強く握られ、反対の手はネクタイの結目を握っていた。

顔を見ると目が閉じられていた。


階をあがるごとに顔は苦痛に歪み、汗も滲んでいるようだった。明らかな異常だった。


生徒がいなくなり話しかける。

「どうしたの?」


ハッと目を開け周りを確認する。私が見ているのに気がつき慌てて取り繕う。

「…っ。えっと…なんでもない!ちょっと考えごと!」

「それにしては、汗がすごいわ。」

「私汗っかきなんだ!」

「そう。大変ね。」

笑顔で必死に取り繕う姿をみて、深入りしない方がいいのかと会話を打ち切る。

扉が開き24階につく。


生徒会室の説明中も彼女の手は震えていた。返答の少なさから、平静を取り戻せていないのがわかった。何があったのだろう。


生徒会長室を見ていたら背後から声がした。


「スイ?ずいぶん早いわね?」


この声は、確か、前生徒会長の。彼女も中央生徒会補佐でメンバーに入っていた。


私が振り返った時には、隣にいた少女はまだ汚れのないスクールバッグを落とし、その声の主に駆け寄っていた。


「…っ!…はっ、はっ…はぁっ。」

首元に強く抱きつくと、ずっと息ができてなかったかのように呼吸を乱す。


「…スイ…?」

抱きつかれた彼女は戸惑ったように名前を呼ぶ。


何が起きているのか、起こっていたのかそれを理解するにはヒントが少なすぎた。

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