6年前の日
夕飯を終え、イレアが今日の仕事を終わらせるとのことで、部屋に一人帰ってきた。
一人で寝るには大きすぎるベットに寝転び、ビジョンを開く。さっきから何度も開いた画面を眺める。
小さい頃から何度も読んだ、馴染みのある文字。
「どう連絡するかなぁ。」
電話?チャット?それとも直接行っちゃうとか?
直接は、はなから当てにしてない。どこにいるかわからないし。
じゃあ、電話?20時だからまだ寝てないと思うけど…。でも友達とか他の人といるかもしれないし…。
「あー…私全然奈月のことわからないな…。」
呟く言葉は誰に向かうわけでもなく、ただこの部屋に漂うだけだった。
6年も会ってなかったんだから、わからなくたって当たり前だ。6年、きっと奈月はいろんな人と出会って、仲良くなって、私のいない日常を手に入れたはず。奈月自身も変わってるはずで、今更当たり前のように、久しぶりー元気だったー?とか普通に言えるのかな…?
でも、奈月は私のこと忘れずにいてくれたんだよね…。
研究室をたびたび襲撃してたのは奈月らしい。正義感の強い奈月のことだから、きっと私が研究室へ入れられたのは自分のせいとか思ってるんだ。
そもそも私はフィジカルアビリティ保持者としてこの国に入国し、レベルアルファと判定された。
入国の際、フィジカルアビリティ保有者もメンタルアビリティ開発を一度は受ける。その時感じた違和感。いつもだと感じなかった粒子、元素、物質それが手に取るようにわかる。幼いながらにわかった、これはメンタルアビリティだと。
私はそれを隠した。
アリストタリアでは珍しいアビリティや高位能力者の一部はその者の専門機関の研究室が組まれ、成長のための特別教育や、そのもの自身の研究が行われる。
ただ、それは普通の学生生活と引き換えに行われる。それを故郷で聞いていた私たちはできるだけ目立たないように、楽しく二人で学生生活を送ろうと話していた。たくさん友達を作って、遊んだり、能力の練習したり、今まで通り一緒にふざけたかった。
そのために私はメンタルアビリティをないものとした。
親友の奈月にだけその存在をつたえて。
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小学校の寮、1日がおわり、他の子達が寝静まった頃、私は奈月のベットに潜り込んだ。
「奈月…起きてる…?」
「うー…どうしたのー…?」
奈月は眠気に勝てないみたいで、眉間に皺を寄せ、目が開いていない。それでも私の言葉に答えてくれた。
「あのさ…今日アビリティチェックがあったじゃん…。」
「うん。奈月メンタルアビリティだったよー…。」
「私はフィジカルアビリティだったんだけど…。」
「知ってるよー…小さい頃からそうだったじゃん…。」
今にも寝てしまいそうな奈月の手を掴んで覚醒させようとする。
「そうなんだけど…私、多分、メンタルアビリティも持ってるかも…」
「えー…?そんなわけないよ、どっちかだけってお父さんも言ってたし、みんな一つだけだったし…」
ゆっくりと目を開けてまだ眠いのか伏せ目がちに奈月は言う。
「そうだよね…。でも、あの音を聴いた後、水とか、物とか近くにあるみたいに感じるって言うか…、手とか足みたいに動かせるみたいな感じがするの…。」
「そうなの?奈月もあの音、聴いて火がどう言うのかわかるって言うか、おんなじみたいに動かせるきがした…。」
やっと覚醒してくれたのか、奈月は目をぱっちり開けて、私の目を見つめる。
「翠、ちょっとなにかやってみて…」
「何かって…?」
「水とか物が動かせる感じなんでしょ?」
奈月がバックから水筒を出してきた。
ただその水筒は寮に戻った際に洗いに出さないといけないものだけど…。
「奈月だし忘れたの…?寮母さんに怒られるよ…?」
「いいの…!だって、すぐ遊びたかったんだもん…!それより、まだ水残ってるから、動かせそう…?」
「ちょっとやってみる…。」
奈月がフタをキュッと音を立てて開け、私は中の水を感じれるように両手を水筒の前にかざした。
若干残っていた水を認識して、それをまとめて持ち上げる感覚。
水筒から水がゆらつきながら円錐状で出てくる。
視界に奈月のお気に入りの鳥のキーホルダーが入ってきた。なんとなくその形を作ってみる。
水の鳥は羽ばたき私たちの周りを楽しそうに飛ぶ。奈月が目を大きくキラキラさせながらそれを見つめていた。
奈月の手に飛びつかれたように留まり、奈月の手をつたい、ぴょんぴょんと水筒の上に登らせ、飲み口の近くに行くとジャンプをして水に戻した。
「…凄いよ!翠!」
奈月は興奮して、少し声がはってしまった。それを慌てて制止する。
「シーっ!みんな起きちゃうよ…!」
「…ごめん…。でも、ほんとにメンタルアビリティも使えるなんて天才だよ…!」
「…そうなのかな…?」
「そうだよ…!やっぱり翠って凄い!」
奈月は目を爛々とさせて言っていた。
「でもさ、これバレたら“研究室”に入れられるのかな…?二つもアビリティがある人なんて聞いたことないよね…?」
「…!…そうだね…そしたらバラバラになっちゃう…。」
「それはやだ…。」
「奈月もやだ…。」
二人で黙り込む。この時、初めてその決心をした。この能力を隠し抜くという決心。
「この事誰にも言ってないんだ…。だから、奈月も一緒に隠してくれない…?」
「もちろん…!ずっと一緒にいようって約束したもん…。」
私の親友は二つ返事で、その誘いに乗ってくれた。
「うん…ずっと一緒にいたい…。だからこのことは私と奈月だけの秘密ね…。」
「うん…絶対に内緒にしよう…。」
「ありがとう…。」
話が終わると興奮やら安心やらが眠気となって襲ってきて、そのまま奈月のベッドで一緒に寝てしまった。
そこからは奈月の協力もあり、なんとかバレることなく3年生に進級することができ、楽しい小学生ライフを満喫していた。
私達の日常が奪われたのは、楽しい夏休みが終わり、学期初めのアビリティチェックを行う日だった。
メンタルアビリティとフィジカルアビリティは別れて計測しており、フィジカルアビリティはメンタルアビリティの後だった。
教室に戻ると何やら騒がしかった。
「あんたね!アビリティチェックがうまくいかなかったからって、人にあたってんじゃないわよ!」
この真っ直ぐ響く声は、奈月だ。
慌てて教室に入ると奈月と男子が揉めてた。
「うるせぇ!!俺がこいつよりランクが低いわけないだろ!こいつがズルしたんだよ!!」
「どこにその証拠があんのよ!!」
どうやら男子が奈月の後ろに隠れてる女の子にランクを超されたことに怒ってるらしい。
きっと見かねた?我慢できなかった?奈月が女の子をかばってるんだろう。
「証拠なんていらねぇよ!こいつ今までゼータだったのに急にデルタになるかよ!!」
「有希ちゃん、夏休み中に凄い練習してたんだよ!!それ見てないくせに言いがかりつけんじゃないわよ!」
後ろに隠れてる、有希ちゃんはすっかり怯えてしまってる。
確かに有希ちゃんは夏休み学校に来ては練習していた。その結果が出てレベルデルタになったんだろうな。それは凄い事だ。どれだけ練習しても1年間でレベルが上がらないことなんてザラにある。この子、奏多くんははきっとそちら側なんだろうな…。自分は全然上がらないのに、有希ちゃんはは2つも上がって悔しくて怒ってるんだ。
「てか、お前に関係ないだろ!!俺はそいつに話してんだよ!!」
「関係あるわ!!有希ちゃん友達だし!!」
これは、誰か止めないとエスカレートするな…。先生はまだ来なそうだし…、こうなった奈月を止められるのは…。私だよね…。
「奈月、落ち落ち着こう?奏多くんも大きな声出さないで。」
「翠!でもこいつ言いがかりつけてダサいんだもん!!」
「は?!ズルしてる方がダサいだろ!!」
「大体アビリティチェックでどうズルすんのよ!!」
「二人とも、みんなびっくりしてるから!先生来たら怒られるよ。」
興奮してる二人を落ち着かせようと、諫めると矛先がこちらに向かってきた。
私の言葉にくってかかるように奏多くんが言い放つ。
「そうだよな!入学当初からアルファのお前はこんなこと馬鹿らしいよな!努力しなくてお気楽で羨ましいよ!!」
その言葉に奈月がさらに目尻をつり上げ、怒りを増す。
「あんたね!翠のこと馬鹿にするなら本当に許さないわよ!!」
「だって本当のことだろ!!特に頑張らなくてもアルファなんて、ずるいだろ!!俺の方が頑張ってるのに!!」
「翠のことよく知らないくせに!!」
言い争いがヒートアップし、どんどん激しさを増していく。流石に止めないとお互い何をしてしまうかわからない。奈月ならきっと我慢してくれると思うけど…。
「奈月!!大丈夫だから!!」
奈月の腕を掴み、その茶色の瞳にまっすぐ伝える。それに奈月が言葉をグッと飲み込み眉間に皺を寄せてもどかしそうにする。
「翠…だって…!」
「ありがとう。気にしてないよ。」
心配かけないように笑顔を作る。
「奏多くんは頑張ってるもん。それが結果に出なかったら悲しいよね。」
奏多くんは眉間に皺を寄せて床を睨みつけてる。握られた手は硬く、痛々しい。
「同情かよ…本当にバカにしやがって…!!!」
「そう言うつもりじゃないんだけど…傷つけてたらごめん。」
どうしたって彼にとって私は目障りなんだろう。幼心にそう理解し、胸がズキンと傷んだ。
「翠、謝ることないよ。こいつ、ただ当たり散らしたいだけだから。」
奈月が軽蔑するかのように奏多くんを冷ややかに見つめる。
「違う…!!俺は…がんばってるのに…!!」
「頑張ってるってなら一度でも私のランク超えてから言いなさいよ。」
その言葉はあまりにも残酷で、傷ついている奏多くんには鋭すぎる刃だった。
「奈月!!」
諌めるように奈月の名前を呼ぶ。プイっと私の制止も聞こえないというふうにアピールする。
奈月は努力家だ。自分の中で乗り越える目標を決めて、なんとしても自分で乗り越える。乗り越えられないのは努力が足りないから。
奈月は他人のせいにしない。だからこそ、結果が出ないで有希ちゃんや私に当たり散らしてる奏多くんが許せないんだ。
「行こう、翠、有希ちゃん。」
奈月が相手をしてられないと言うようにその場を離れようと歩き始める。
「…あぁ…わかったよ…!なめやがって…!!」
奏多くんが呟き両手を奈月のほうに構える。寒気がした。
「奈月っ!」
呼ぶ声は一歩遅く、奏多くんの両手から小さな龍が勢いよく飛び出してきた。勢いを弱めることなく龍は奈月に衝突し、奈月の体を吹き飛ばす。
その方向は…!!
寒気が悪寒に変わる。
奈月の体が窓から半分以上出ていた。
咄嗟に床を強く蹴り上げて、奈月に手を伸ばす。
手が空気を掴む。
「…っ!!」
ここは2階だ。落ちたらただでは済まない。想像したくない事が思い浮かぶ。
嫌だ!!
自然と身体が動いていた。
窓枠に手をかけて、飛び出す。地面を正面に捉える。地面を認識。地面を盛り上げ、落下距離をなくすように奈月に近づける。奈月が怪我をしないように地面が奈月を包み込み、受け止める。
私も着地し、奈月にかけよる。
「奈月っ!!大丈夫!?奈月!!」
「びっくりしたぁ…。大丈夫だよ翠。凄いねこんなこともできるんだ。」
「良かった…。」
自然と口が緩み笑顔がでてくる。足は緊張が解け、力が抜ける。ヘタリとそこに座り込む。
「今のは…?」
背後から信じられないと言う声が聞こえた。
奈月が目を見開いて、ひゅぅと息を吸う。
奈月のその表情に体が固まる。まずいことが起きたと胸が大きく鼓動する。固まった体を無理やりひねり背後に立っている人を見上げた。
まるであり得ないものを見たかのように、私を凝視している校長が立っていた。その表情を見た時、最初に抱いた感情は感じたことのない恐怖だった。
「天海翠さん。これはあなたが…?」
「ぁ…。」
「あなたはフィジカルアビリティでしたね…?まさかメンタルアビリティも保有しているのですか…?」
「いや…その…。」
バレた。震えが止まらない。怖い。
どんどん手の先が冷たくなり、それとは逆に額からは汗が滲む。鼓動で他の音が聞こえなくなりそうだった。
「違います!これは翠じゃなくて…!」
慌てて奈月が隠そうとする。
「黙りなさい!!なぜ隠していたのですか!!」
大人の怒鳴り声。
まだ9歳の私たちを固まらせるには充分だった。それ以上私たちは何も言えず、ただ校長を怯えて見ることしかできなかった。
「…立ちなさい。」
「はい…」
「研究局に連絡します。」
「っ…!」
体が重い。恐怖でスムーズに行動ができない。
見かねた校長が乱暴に私の手を引く。
あぁ、終わってしまった。奈月と約束した日常が。普通の学生生活が。
感情なく手を引かれるまま着いて行こうとした時、反対の手を触れ慣れた手が掴んだ。
奈月が大きな瞳にいっぱいの涙を溜めて、私の手を握っていた。
「ずっと一緒にいるって約束したよ…?」
「奈月…。」
胸が見えない紐で締め付けられた。私だってまだまだ奈月と一緒にいたい。たくさん遊んで、一緒に勉強して、困ったら助け合って…。
…行きたくない。
それが言葉にならず、表情で現れる。息がうまくできない。目の奥が熱くなり、眉尻をさげ情けない表情をするしかできなかった。
「…ー先生はアリストタリア研究局に連絡。他の先生は児童を落ち着かせるのと、緘口令を敷きます。我が校始まって以来の快挙かもしれません。」
校長は手を引っ張っても付いてこない私に目をやり、その手の先を見る。
「染谷さん?手を離してください。」
奈月は私の顔をじっと見て。何かを決めたように涙を袖で拭う。
「いやです。」
「わがままを言うものではありません。離しなさい。」
「いやだ!!」
奈月の手から火の球が放たれる。校長が咄嗟に避けて私の手を離す。
「翠!!逃げるよ!!」
奈月が私の手を強く握り走り出す。手を引かれるように私も奈月のあとを駆けていく。
あぁ、いつもそうだ。奈月はいつも私の手を引っ張ってくれる。私はそんな奈月の背中が大好きだった。二人だったらどこにでも行ける。そんな確信が湧いてきた。
私も覚悟を決めよう。この親友と一緒に逃げる覚悟を。
「奈月、つかまって!飛ぶよ!!」
「うん!」
奈月を抱き上げて、地面を強く蹴り上げる。校門を飛び越えるように大きくジャンプする。
連絡があったのか守衛さんが電流捕獲ネットを私たちに向けて打ってくる。それを奈月が火の玉で撃ち落とす。20メートル程先に着地し、森の方に駆け出す。
「どこにいく?!」
腕の中にいる奈月に問いかける。
「とりあえず、この国から出ないと!!」
「じゃあ1番近い塀のところだね!」
近くの塀まで普通は走っても20分ほどかかる。でも、私なら5分、いや3分でついてみせる。
夢中で走ってるとある事に気がついた。
「誰も来ない…」
「翠が早すぎて追いつかないんだよ!」
確かに、私はランクアルファだから、そうそう追いつける人はいないんだけど…
そんなことを思いながら走り続けると塀が近づいてきていた。
「あとちょっと!」
森を抜け、ひらけた所にでた。目の前には大きな塀がそびえたっていた。その前には100人ほどの大人が何やら黒い服を見に纏って規則正しく並んでいた。
「打て。」
その言葉を合図に一斉に捕獲銃を撃ってくる。さっきのものとは速さもネットの形も違った。奈月の炎では防ぎきれない。
咄嗟に地面を盾のように操りネットを防いだ。
「翠!後ろ!!」
奈月が炎を出して、防ごうとするが、構わず黒い服の男は突っ込んでくる。思いっきり背中を蹴られて前に倒れる。
「…ったぁ…」
奈月は!?腕の中にいた親友がどこに行ったのか探す。
目に入ったのは倒れた奈月に殴りかかろうとしている黒服の男だった。
立ち上がると同時に地面を駆けて男を蹴る。
私の蹴りが当たり、思わず苦しそうな声を上げるが、男は構わず拳を繰り出してくる。繰り出される拳を避けながら周りを確認する。
奈月が起き上がり男に狙いを定めてるのに気づく。咄嗟に後ろに飛び、距離を空ける。突然の行動に男はついてこない。
奈月が手から炎の一閃を繰り出す。男に直撃し、吹き飛ぶ。
「「よしっ!」」
奈月の方に振り返ったら、違う黒い服の男がが奈月のすぐそばに立っていた。叫ぼうと口を開けようとした時には男の足が奈月の身体を跳ねさせていた。
「奈月!!!」
すぐさま奈月のもとへ走り出した。
地面を転がった奈月は至る所が擦り切れており、頭から血を流していた。
反応がない。
息はしてる。
死んでない。
気絶してるだけ。
必死に奈月の状態を確認する。
胸が、心臓が、紐で引っ張られてるように上ずる。
大丈夫、奈月は目を覚ます。絶対大丈夫。
自分を落ち着かせるために言い聞かせる。
「弱い方から狙う。これ、戦闘の鉄則ね。」
男はまるで会話をしているかのように平然と話す。
「早く投降した方がいいわ。」
塀の近くから女が降りてきた。
「いやだ。」
「怪我しないで捕まるか、ボロボロになって捕まるかのどちらかよ?」
「抵抗するなら弱い方を狙う。気絶してる子供を傷つけるのは気がひけるが、鉄則だからな。」
男が再び気を失っている奈月を見つめる。
こいつまだ奈月を…!
「これ以上奈月を傷つけさせない…!」
「奈月?あぁ、その子ね。だから、別に私たちははその子を傷つけるために来たんじゃないわ。でもまぁ、邪魔するなら殺すしかないけど。」
「何をタラタラ話しているのですか!!とっととそれを捕獲しなさい!!それは人類の夢なのですよ!そこのチビなんてどうでもいいんです!!」
塀の中腹から細長い男が喚いてる。
「わかってるよ。うっさいなぁ。」
男がめんどくさそうに呟く。
こいつらはここでやらないと。
意識を集中させる。私が理解できるのは何?動かせるのは?
細かに原子を認識できる。1番効果的なのは…
大きく地面が揺れる。音を立てながら、地面が割れ、隆起する。
「うわぁぁぁ!!」
動く足場に黒い服の奴らはバランスが取れず続々と落ちていく。何人かは耐えてるようだけど…、まだだ。
地脈から水を引き上げる。耐えてる奴らを水で叩き落とす。
「素晴らしい!!メンタルアビリティまでこのランクとは!!」
「あのおっさん本当うるさいわね!」
「怒ってる場合じゃないぜぇ。早めに捕まえるよ。」
先ほどの男と女が揺れる地面の中、確実に近づいてくる。
狙われないように奈月をおぶり、近づいてくる二人の行動を観察する。
女の方が早いな。駆けるたび砂埃が上がっている。
地面を蹴ってる反動ではない砂の動きだ。まるで何かがそこで破裂してるような…。
女は距離を詰め蹴りを繰り出してくる。それをギリギリのところで避ける。スピードを女に合わせる。攻撃の区切りを見つけた…!
はたき落とそうと水のムチで叩いた。あたった!…感触だけだった。確かに何かに当たったのだが、女の手前でムチが弾かれてしまった。
なんだ…?
疑問に思ってると横から声がした。
「忘れてくれるなよ。」
男がいつのまにかこの距離にいたのか…気配が全くしなかった…!咄嗟に土の壁を作るが男の拳が最も簡単に砕く。男の拳が当たる瞬間、後ろに飛び衝撃を軽くする。
飛んだ先には女が居た。誘導された…っ
背中にいる奈月を庇うよう体を捻る。
女の脚が私の脇腹を捉える。当たる直前、水の盾を作る。女の蹴りであれば防げる…っ!!!
思惑がハズレ、女の蹴りがクリーンヒットした。水の盾は破裂するように何かに吹き飛ばされ、女の足が私の脇腹にめり込む。
衝撃が脇腹から広がり、足の力が抜ける。畳み掛けるように男の拳が上から降ってくる。
咄嗟に地面を隆起させ、自分を横に吹き飛ばす。
転がるように地面に着地する。
「ッーはぁはぁっ」
砂と埃でドロドロになり、皮膚も石やら砂やらで傷が無数にできていた。どこからどうみても、劣勢だった。
男の方が腕を後ろに組み、感心するように口を開く。
「いやー良くそれ担いで避けれるよな。一応俺らもプロなんだけど。」
「子供とはいえレベルアルファよ。それに元々はフィジカルアビリティのみの登録だったはず。」
「おー!それがこんなにメンタルアビリティも使えちゃうのかぁ。」
「でもレベルアルファの割にフィジカルアビリティは大したことないのね。」
「いやほら、あれ担いでるからじゃないか?それに今日不運にもアビリティチェックだったらしいぞ。」
「あら、神様に嫌われたものね。」
なんだよ…あっちは余裕そうだな…もうこっちは体が重いんだけど…。このままだとダメだ…捕まるのも時間の問題かなぁ…。諦めの中、背中に感じているその温もりに目をやる。無数の擦り傷と頭から流れる血。私のせいでこんなにボロボロにしてしまった。罪悪感の中思い出させるのは先ほどの会話。
『ずっと一緒にいるって約束したよ…?』
さっきの奈月の言葉が、表情が脳裏に焼き付いて離れない。
そうだ…捕まるわけにはいかない…。
もっと、もっと戦えるように…!
目を閉じて意識を世界に。
空気中の水を感じる。浮遊してる細かな水の粒子を集める。
「お、なんだ?降参じゃ、ないよな?」
「…早くとらえるわよ!」
女が駆け出してくる。女の動きに合わせて風が舞う。
風によって水の粒子が動くのがわかる。
自然の流れがわかる。
集めたものの動きを完全に止める。
できた。
頭上には大量の氷柱ができていた。
それを二人に繰り出す。
「流石にやっかいだな…!!」
男の方が避けれず、拳で叩き割って防ぐが、防ぎきれておらず傷を負っていく。
女は避けていくが、次第にスピードが落ちてきた。
このまま…!
そう思い再び意識を集中させ、氷柱を発生させた時、何かが垂れてる音がした。
ボタボタ。
氷柱が固まり切ってないのか…?状況を見ようと上を向こうとした時視界がグニャリと歪んだ。
立っていられず、奈月ごと倒れ込む。
なんだ…?
また何かされたのか…?
視界が歪み、強い吐き気を感じる。口を押さえるとぬめっと手が滑った。ぼやける目で手を見ると赤く染まっていた。どうやら鼻血が出ているみたいだ。さっきの垂れる音は自分の鼻血だったのか…。
『オーバースキルを起こしてる!!医療班!!』
さっきまで戦ってた大男が慌てている。
奈月は…?
どんどん霞んでいく視界で奈月を探す。すぐ隣に見慣れた横顔があった。女が奈月を抱えていた。もう攻撃する意志はないようで、奈月の様子を探っている。
『この子の方は大丈夫よ。目標の方が不味いわね。こんなになるまで能力を使って…。』
奈月は大丈夫なんだ…良かった…
再び吐き気が強くなり、我慢することもできず戻してしまった。鉄の味がする。
『ずっと一緒にいるって約束したよ…?』
遠のく意識の中で、世界で一番の友人の言葉を思い出す。
鉛になってしまったかのような手を伸ばし、触り慣れた手を掴む。
「…なつき…ごめん…」
届かないであろう言葉は宙に佇むだけだった。
次に目を覚まして映ったのは見覚えのない無機質な鉄の天井だった。
あぁ、捕まったんだな。
それだけが理解できた。
体がだるい。ベットから起きあがろうとしたとき、手錠をされてるのに気がついた。
まぁ、大暴れだったもんね。
「気がついた?」
いたんだ。この人気配ないよね。
私はゆっくりと男の方を見る。
「体調は?」
「すこぶるダルいし、頭も痛い。」
「まぁ、あれだけ無理するとな。気分は?」
「最悪。」
「ははっ!そうだろう、そうだろう!」
男が愉快そうに笑う。
…なんだこいつ。
男が気を取り直したように、真剣な眼差しで私を見つめる。
「んで、まともに能力を使ったのあれが初めてかい?」
「…そう。ずっと隠してたから。」
「なーんで隠してたのよ。」
「研究室に入れられるから。」
「いいじゃん、超特別扱いだよ?」
「よくない。奈月と一緒に学校行きたい。」
巻き込んでしまった親友の名前を言うと胸が痛む。聞いてきた本人である男は驚いたように目を丸めていた。そのあと、言葉を咀嚼するかのように目をとじていた。
「…あー。なるほど。友達と一緒にいたいねぇ。おじさんにはもうよくわからない感覚かなぁ。」
「…。」
「そもそもフィジカルアビリティがレベルアルファなら特別扱いは慣れっこなのか。」
なるほど、なるほどと頷く男に、気になっていたことを投げかける。
「…奈月は?あんたに蹴られて傷だらけになってだけど…」
「あーあの子ね。悪いことしたなぁ。あまりに本気で抵抗するから本気で蹴り飛ばしちゃったよ。君たち9歳って聞いてゾッとしたわぁ」
コイツ…本気で蹴り飛ばしたのか…あのタイミングで本気じゃないわけないけど…本気で蹴りやがって…
気がついたら、このおっさんをおもっきり睨みつけていた。
「ごめん、ごめん。あの子ね、君が必死に庇ったおかげで全然君より軽傷!君が掴んだ時についた血を見てびっくりしてたけど。君の血だって伝えたら、血がついた手を握りしめて辛そうににしてたかなぁ」
記憶を辿るように男が語っていた。
このおっさんに聞いても仕方ないと思いながら、認めたくない事実を確認する。
「奈月にはもう会えないの…?」
「そうだね、君はこの国始まって以来の才女だから。全てはこの国の管理下に置かれるとおもうよ。だから今までの生活には戻らないだろうし、これまで関わってきた人達には会えないだろうな。」
おっさんはサラッと恐れていた答えを言う。
「…っ」
「正直、お友達と一緒にいたいなら、君が能力を隠してたのは正解だと思うね。なんでバレちゃったの?」
「奈月が…男子と喧嘩して…窓から落ちちゃって…咄嗟に使っちゃった…」
「何最近の子は過激な喧嘩するもんなの?だからかーあの子私のせいだってずっと泣いてたもん。」
「…っ!奈月のせいじゃない!!」
「まぁ、君がそう言っても、あの子は自分のことを責め続けるだろうよ。実際、それでバレちゃってんだから。」
全く寄り添おうとせずに、事実だけをこのおっさんは言い続ける。
…きっとそうなんだ。私がなんと言おうと、奈月は自分を責め続けるんだろう。
「…でもっ!そうしたら私は奈月を巻き込んで怪我させて…。」
「そう。あの時俺らから逃げ切れてたら、あの子も責任感じなくても良かったんだけど、俺ら捕まえちゃったから。」
…こいつ…!!
さっきより殺意を込めて睨みつける。
「ごめん、ごめんて!君に恨まれるなんて世界で1番恐ろしいんだから!!」
慌てて謝罪連呼する。ごめんを2回言うやつは思ってないって先生言ってた。
変わらず睨みつける私におっさんは困り顔になる。
「ごめんて…俺らも仕事なのよ。だから、許してってことじゃないけど…。何かメッセージあれば伝えるよ?助けてとか、どこどこにいるよ!とかは無理だけど、手紙とかさ!」
そう言ってメモ用紙とペンを渡してくる。
手紙か…。大好きな親友に送る最後の言葉。なんだろう。一緒に学校行けなくなって悲しいとか?ずっと一緒にいたかったよとか?
ペンをもって動かない私におっさんが痺れを切らして話す。
「1番伝えたいことを書けばいいんだよ。」
1番伝えたいこと…それは決まってる。
長くない文章だったけど、書くのに時間がかかってしまった。その言葉に今までの想いとこれからの事が詰まってる。一文字一文字書くごとに涙が溢れて、文字を滲ませ、メモを歪ませる。
「うん、必ず届けるよ。」
「お願いします…。」
さっきまでヘラヘラしてたおっさんが真面目な顔で手紙を受け取る。おっさんに最後の言葉を託した。
"今までありがとう、ごめんね。"
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懐かしいことを思い出したな…。
あの時はほんとにもう一生会えないと思ってた。
本当に嬉しい。でも同じぐらい不安だ。私は外部の刺激がないまま6年間過ごしてきた。でも奈月は違う。6年間学校生活を送ってきていた。もうあってもあの頃とは違うんだろう…。
だからって会わないの?臆病な自分を奮い立たせる。それはない。ってことは連絡を取らないと。
一人で不安な気持ちを説得させながら、スマビを操作する。チャットを開いてなんで送るか悩んだが、すぐに打ち始めた。1番伝えたいこと…おっさんいいこと言うじゃん。回想のおっさんを褒めてみる。
『奈月、研究室でれたよ。会いたい。』
送信する。
心臓がバクバク言う。送った内容を確認して、間違ってないかチェックする。
思ったよりすぐ既読になった。
が、返信が来ない。
やっぱり、6年も離れてたら親友ではないかぁ…ちょっときついなぁ…大きく息をはき、目の奥が熱くなってくる。
突然スマビが振動した。手がこそばゆくてびっくりした。
【着信:奈月】
その画面が写す文字があまりにも嬉しくて、ついつい見つめてしまった。嬉しさと不安で震えてる手で応対を押す。
「…っ!翠…?」
奈月の声だ。あぁ、奈月だ…。
心なしか声が震えてるように聞こえた。
「…奈月?久しぶり。」
「久しぶりじゃないわよ…!!!…っ、…!」
「奈月?泣いてるの?」
「うっさい!!!」
あぁ、変わらない。奈月のまんまだ。
嬉しくて喉が熱くなる。普通に話したいのに声が震える。
「奈月…会いたいなぁ…」
「…会うわよ。絶対。いつでも会いに行くわよ。」
「じゃあ、今すぐきてよ。」
奈月のその言葉が嬉しくてついつい揶揄ってしまう。本当にこの人は私を待ってくれていたんだ。その事実が震えるほど嬉しい。
「…いいわよ。」
「嘘だよ、嘘。明日、明日奈月予定なかったら会おう?」
やってやろうじゃんぐらいの勢いで返事をする奈月がおかしくてつい喉がコロコロ鳴る。
「明日ね、いつでもどこでも大丈夫。」
「じゃあ、12時にハーシス駅は?」
「わかったわ。12時ね。」
「奈月変わってたらわからないかも。めちゃめちゃ違う感じだったらわからないから、話しかけてね。」
「そんなに変わってないわよ!翠こそ、ハンカチ忘れんじゃないわよ。号泣してもかさないわよ。」
「あー意地悪ぅ、泣いてる人にハンカチ差し出す優しさ持ってよう?」
「うっさい!じゃあ明日ハーシス駅ね」
「うん、明日ね。」
電話をきる。
奈月とふざけ合える。奈月と明日の約束ができる。それだけのことが嬉しい。もう、二度とこの生活を手放したくないな…。
そう思いながら、心地いい胸の高鳴りの中、意識を手放した。




