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チートだったら神さまになれるって本当ですか?  作者: 上野史華
チートだったら生徒会長になれるって本当ですか?
5/33

入学の手引き

私とイレアはショッピングセンターから、次の目的地に向かっていた。助手席に座りながら窓の外を眺めていたら、イレアが話し始めた。

「でも、さっきの女の子、たしかに鑑識眼鋭いわね。」

「あー、ユーニスのこと?」

イレアの方を向き、その横顔に目をやる。運転中のためかこちらを向かず、冷静な眼差しでまっすぐ前を見つめ言葉を続ける。

「そうよ。だって遠くからあなたを見つけて、見どころがある!なんでしょ?」

「まぁ、そうだね。」

「ぜひ研究員になることをお勧めするわ。」

「えー、もっとアイドルプロデューサーとか夢のあるやつがいいと思うー。」

「悪かったわね、夢のない職業で。」

イレアが嫌味のように言葉を紡ぎそれをごめん、ごめんと軽い謝罪でなだめる。

再び車の外を眺める。3月、まだ冬が抜けきってないこの時期は、草木も肌寒そうに風の煽られている。今通ってる道は道路沿いに桜が植えてあり、春になると桜の花道ができるのだろう。きっと綺麗なんだろうなぁ、この道を通って通学するのか…近い未来の自分をその道に見て、なんだか他人事みたいに感じる。


イレアがこちらをチラッとみて、再び話し始める。

「久々の学校ね。」

ガラス越しにイレアを視界に入れながら、ハリのない声で緩慢に応える。

「そうだねぇ。これまた6年ぶりだからねぇ。」

「もしかして、また緊張してる?」

少しからかったようなその言葉は、私を感情的にさせるには力不足だった。

「んー。どうだろ?なんかまだ実感が湧かないかな?」

自分の感情を確認しようとも、何もない空間をすくうようでまだ何にも感じとれなかった。過ぎ去っていく木々をただただ眺める。

「そう。まぁ、入学はまだ1ヶ月後だから。近くになったら実感湧くわよ。」

「そう言うもんかぁ。」

なんだか、このまま淡々と始まってしまう気がするけど。小学校入学の時は、ワクワクで胸がいっぱいになってたなぁ。前日から指定の制服を着て、奈月とはしゃいで怒られたな…なんて懐かしいことを思い出して胸が奥からじわっと暖かくなるのを感じ、自然と口の端が上がっていた。奈月…。その子は私の1番の親友だった。彼女を思い出しポツリと呟く。

「…友達できるかなぁ。」

「もうできてたじゃない。」

イレアがなんとなしに応える。

「ん?」

「さっきの二人オルネラスなんでしょ?しかも男の子の方はあなたと学年が一緒じゃない。」

「あーそうだね!じゃあもうその心配はなしっと…」

よかったよかったと頷きながら安心していると、イレアが呆れたように口を開く。

「励ました私が言うのもアレだけど、2人しか知り合いいなくてよくそれだけ安心できるわね。」

「まぁ、持ち前のポジティブですよね!」

「羨ましいわ…」

イレアがため息まじに言葉を紡ぐ。呆れながらもその頬が薄く微笑んでいるのを見た。


…今かな?

ビジョンをもらってから、ずっとタイミングをみていた事があった。それをここ数日機会を伺っていた。イレアに正しく、驚かさないようにゆっくり言葉を紡ぐ。

「イレア、あのさ、奈月に連絡取ってもいい?」


何度も心の中で言ったフレーズ。やっと口から出てきてくれ、胸にあったおもりが抜けた感覚。

イレアはまっすぐ前を向いたまま、何事もなく、感情が動いてないように淡々と答える。

「もちろん。私の許可なんていらないわよ。そのためにビジョンに連絡先を移したんだから。」

「…そっか!ありがとう!」

イレアは上手く隠そうとしたけど、和らいでいたその頬に力が込められたのを見逃さなかった。感情を隠したまま紡いだ言葉に、イレアの怯えと優しさを感じた。そう言ってくれる強さを、優しさを問い詰めてもイレアを追い詰めるだけだ。その言葉に甘えるように感謝を伝える。



イレアが言うように、私が誰と会おうと勝手だ。だけど、奈月は特別だった。

奈月は生まれた国が同じく、気がつけば一緒にいて、アルスタリアへの入国も一緒にした。私が研究室に入るまでほぼ毎日一緒に過ごして、一緒に遊んで、一緒にいろんなことを知っていった。それが6年前突然奪われた私の日常であり、奈月の日常だった。


捕まった私は抵抗しなかった。

もちろん嫌だったし、すぐさま帰りたかった。

でも、多くの大人が私に注目し、私のわからない話を議論を白熱させていた。熱い視線を私に向け、検査結果を嬉々として分析している姿をみていた。それを見てしまったら、誰も私が日常に戻ることを望んでないと、私と言う生物を人類のために研究するのが1番だと世界に言われているようで、抵抗できなかった。


でも、奈月は違った。

私がどこの施設にいるのか、どこからか調べ上げては度々襲撃していた。それが成功することはなかった。きっと奈月は日常を理不尽に奪われたこと、それをした研究室の人間を許せないと思っている。奈月は小さい頃から優しくて、まっすぐだったから。私を救おうと、取り戻そうとしてくれていた。6年間ずっと。小さい頃から奈月は私の憧れのヒーローだった。


イレアから連絡先の話をされた時、本当はすぐさま連絡したかった。


でも、奈月は研究室の人間を許せない。それはイレアも例外じゃないと思う。だから、会うんだったらイレアに言ってから、そう考えた。

ちゃんとイレアのこと説明しないと。私はどっちとも大切にしたいと。そのためには奈月にイレアが悪い人じゃないと伝えないと…。

高校入学よりこっちの方が緊張するなぁ。差し詰めお父さんに彼氏と結婚の許しをもらいに行く娘ってところだろう。今から緊張するよ…。

「…はぁ。」

「ため息?」

「いや、なんだか緊張しちゃって。」

「学校に?」

「いや、頑固親父と無愛想な彼氏をどう仲良くさせるか?的な?」

イレアはその言葉の意味を考えるように黙り、それが上手く咀嚼できなかったようで不思議そうに言葉を放つ。

「…スイ、彼氏いたの?」

「どっちもいないけどさ、そんな感じなのよ…」

「…意味不明ね。」

サラっと失礼なことを言う。全くほんとに無愛想なんだから。また溜息が漏れる。イレアは聞こえていないかのように真っ直ぐ前を見てる。


自分だってわかってるくせに…。

イレアは襲撃犯が奈月ということも知っている。むしろ、研究室にいた頃、奈月がこの研究室を襲撃してると教えてくれたのはイレアだった。奈月がどの熱量で研究室を襲ったのか、その研究員をどう思っているか、きっと私より知ってるはずだ。


ねぇ、イレア、だから、さっき奈月と会うことを聞いた時、表情を隠したんでしょ?自分があの施設の研究員だと知った奈月がどうするのか、どう思われるのか、その想像が良い方に転がらず恐れを隠したんじゃない?

私は奈月にイレアを傷つけてほしくない。好きな人が好きな人を傷つける、そんなのさせたくない。奈月にちゃんと伝えないと。

あー余計に緊張してきた…。

ってあれ?ずいぶん移動してる気がするけどまだつかないもんかね?疑問を投げかける。

「ねぇ、学校ってまだつかないの?」

「…一回通り過ぎちゃったのよ。」

「え?珍しい凡ミス。」

「悪かったわね…」

「あ、や、責めてるわけじゃなくて、珍しいなって。」

もしかして、奈月のことを言ったから…?私が思ったよりもイレアは奈月を気にしてるのか。イレアの表情を探るように、その整った横顔を見つめる。

「…イレア、奈月と会いたくないなら極力会わせないようにするからね。」

「…あなたはそんなこと考えなくていいの。好きな人とあって好きなように過ごしていいの。他の人は考えないで。」

表情探るように見つめる私を視界に入れないようにただまっすぐ淡々と答える。

「でも…」

「いいの。」

ピシャリと言われた言葉に反論の余地は無かった。ついどうして良いかわからなくなり自分の手を握った。

イレアはゆっくりと呟くように言葉を紡ぐ。

「…きっと、彼女は私が思ってることを言葉にして、私にぶつけてくる。でも、それは、私がしてきた事の正しい責めなのよ。私はそれから逃げてはいけないの。それから逃げたら、本当に私はあの研究室の奴らと一緒になるから。」

「イレア…」

懺悔のような言葉はきっと私に向かって放たれてない。イレアがずっと自分に向けてきた言葉だった。イレアはきっとこの6年間自分を責め続けてきた。研究の話になるといつも辛そうに、憎むように振る舞ってきた。それは私を拘束してる研究室のメンバーにだけではなく、それから私を解放できない自分にも向けられていた。


イレアは自分の力を、影響力を知っている。

どこまで自分ができるのか見誤らない。だからこそ、研究室でイレアが排除されることもなく、ずっと隣にいてくれた。支えてくれた。

それがイレアができる精一杯だったんだと思う。私はそんなイレアがいてくれたから、今ここにいれる。だから、本当は自分を責めないでほしいんだけど、そんなこと言ってもイレアは否定する。どれだけ自分が悪いかその口から言葉にして自分を責める。

そんなことはさせたくないから、責めないでなんて言えないわけで…。

通り過ぎる景色を、近づく厳かな校門を眺めてそんなことを思っていた。


…って、ちょっと!


「イレア!校門ここじゃない?!」

それに反応したのは車だった。見えない力で体が前に引っ張られる。慌ててイレアがブレーキを踏んたのだった。

「…そうよ?」

さもわかってました風にイレアが答える。

「通り過ぎようとしてたよね!?」

「…そんなことないわ。」

「びっくりしてブレーキ踏んでたじゃん!」

「校門地味なのよ。」


そうかな??大きさも、煌びやかさもアルストタリア1の学園に相応しい校門だけど??


一旦この話はやめておこう。一生学校に入れなくなる。

イレアはしらーっと学園の中に入りいくつかある駐車場の1番奥に向かい、停めた。

車から降りるとイレアは来校の手続きとアポイントを確認してくると言って真ん中の塔に向かって行った。私はやることもないので近くの中庭を散策することにした。


噴水や庭園を見て回っていたら、大きな木があった。

「こりゃまた、大きな」

大木に近づき、手を触れる。ひんやりした表面をしばらく触っていると自分の体温と同じぐらいになった気がする。それが大木の生きてることの証のようで、ふと顔を見るように大木を見上げる。

まだ、葉っぱを付けきってないそれは無愛想で、風に吹かれると辛そうに揺れる。なんだかそれがさっきのイレアみたいでギュッと胸を掴まれたようだった。


「私だってイレアの事大切に思ってるんだけどなぁ…」

私はイレアに大切にされてばっかりだな…嬉しいんだけど、そればっかりでは嫌だった。

そんなことを思いながら大木にもたれかかって、風を浴びていた。この気持ちをどこか吹き飛ばしてくれるような、優しく撫でてくれるようなそんな冬と春の間の風だった。朝日がいつのまにか夕日に変わっており、オレンジになった光が優しく頬を照らしてくれる。


心地よい風と光に包まれてうとうとしてしまった。


ガサッ

乾いた足跡と人の気配に目を開ける。


「イレア…?」

寝かかっていた、重い瞼をゆっくり開け、目の前に立っている人を見る。

立っていたのは、女の子だった。

背中まで伸びる髪は艶やかな黒髪で風にサラサラと揺れていた。見下ろしている瞳の濃いラベンダー色は、陶器のような肌に綺麗に咲き誇っていた。

その美しさに息を呑む。


「…うわ、綺麗な子だなぁ…」


思わず、口から言葉が落ちるように出てた。その子はその言葉に目だけピクッと反応した。


「ここで何を?」

透き通る声に聞き入ってしまいそうになる。


「んー、人を待ってるの、ちょっと待っててって言われたから。風に当たって土と木と夕暮れを感じてたの。」

「夕暮れを?」

淡々と聞き返すその声はスッと耳の中に入ってくる。心地よい風に頬を撫でられながら答える。

「そう、朝とは違う、オレンジの光と風が持ってきてくれる香りと、温度。綺麗だなぁ、気持ちいいなぁって。これはちょっと寒いのかな?とか、外にいるだけでいろんな刺激をもらえて楽しいなぁって。」

「外にいるだけでそんなに感じれるなんて凄いわね。」

彼女は淡々と感想を言う。

「そう?楽しいよ?一緒に座る?」

この子と話をしてみたかった。なんだか、不安そうで、折れてしまいそうだけど、それでも力強く両足で立っている。儚いけど、目に強い意志を感じ取れるようなそんなチグハグな子だった。

「…遠慮しておくわ。早くお迎え来てくれると良いわね。」

「そっか、ありがとう。」

残念、フラれてしまった。

そんな不思議な子が歩き去るのを見ていたら、イレアがやってきた。


「お待たせ。もう向かっていいそうだから行くわよ。」

「ほーい。」

あの子、入学したら会えるかな?ちょっと入学が楽しみになった気がした。


私はイレアに連れられて学園の中心にある背の低い塔にいた。これからお世話になる学園の理事長に研究室から出た報告とこれからの挨拶に向かう。


「でもまぁ、たくさん建物があるところだね。」

ここに着くまでの道のりで見た建物を思い出し、しみじみイレアに話しかける。

「そうね、小中高大まで付いてる学園だもの。アルスタリア1はダテじゃないってことね。」

「きっと今見たよりももっと建物がある感じだよね?」

「そうね、ここが管理棟、他に図書館、体育館、測定棟、学生棟、社交場、フィジカルトレーニングルーム、メンタルトレーニングルームとか何かにつけて建物を持ってるわね。」

「さすがアルスタリア1の学園だぁ。小学生の時に通ってた学校とは大違いだわ。」

驚きを通り越して感心してしまう。はぁーっと歩いている廊下や壁、天井を見てもその歴史の長さを感じる。

「スイのいた学校は、普通の国立小だったわね。」

イレアが思い出すように言う。そう、私は本当にごく普通の国立学校に通っていた。

小学校3年生まで。

その記憶にしばらく忘れていた痛みがチクリと胸をつつく。そんな痛みぐらいだともう反応しなくなってしまった表情に寂しさを感じながらイレアに応える。

「そうそう、体育館とプールとトラック兼測定場がある、普通の学校。」

アルスタリアの国立学校は各加盟国の支援によって作られてるところが多く、私と奈月が行っていたのは故郷アザント国が支援した学校だった。アザントはいわゆる中規模国家だ。規模としては大きくないが特に貧困国でもなくいわゆる普通の学校を作ることはできる国家だった。

国の経済力で学校の設備も変わるため学校についてはセンシティブな話になったりする。聞く話によれば貧困国の学校は施設も教師もひどいらしい。どう酷いのかは知らないのだけど…。

このオルネラスみたいな私立の名門校とかになると出身国関係ないのだけど、入学が相当難しかったりする。

なんにせよアルスタリアで学校の話になると若干ピリついたり、問題になったりする。だから、自然と学校間での交流は控えられたりしてる。らしい。

イレアのトラブル回避術初級講座でならっただけなんだけどね。


そんなこと話している間に、大きな木の扉の前についた。

「ここが理事長室?」

「そうよ。これからお世話になる人に挨拶するから、ちゃんとしなさいよ。」

「うん?いつもちゃんとしてるよ?」

「…自覚無しが一番怖いのよ。」

イレアがため息をつきながら、ジト目でみてくる。

え?私いつもそんなにちゃんとしてないかな??普段の行動を振り返っていると、イレアが頭に手を伸ばしてきた。イレアの細く長い指が私の髪の毛に触れ優しく撫でるように髪の毛を流してくれた。

「…良いわね。」

優しく聞くイレアに少し照れてしまい、笑って誤魔化す。

「…うん、ありがとう。」


イレアがドアをノックし声をかける。

「失礼します。私、16時よりお時間を頂戴しておりましたイレア・ユーリアルと申します。スイ・アマミと入学のご挨拶に参りました。」

かしこまってるイレアは一段と凛々しいなぁ。そんな風に眺めていると木の扉から返事があった。

「今開けます。」

椅子を引いた音だろうかスーっと音がした後に、鈍い足音が聞こえる。ガチャっと音がして木の扉が一人でに開いた。

ドアを開けたのは精悍な顔つきのグレーヘアのダンディなおじさまだった。オールバックにした髪の毛とスーツにシワひとつ無い感じ、まさに仕事のできる男を体現したような人だった。


「ようこそお越しくださいました。ユーリアル様、アマミ様。」

その精悍な顔つきを和げ、笑顔を作りながら、丁寧に歓迎してくれる。営業スマイルなんだろうな、自分の力で表情を作ってるのがわかった。年齢によるシワもあるが目がキリッとしていて鼻筋も綺麗に通っており、中々のイケメンだった。いや、イケおじか。この営業スマイルに何人の人がやられてきたのだろう…


イレアが失礼しますと部屋に入ったのを見て、私もならうように挨拶をして一歩踏み入れる。


「どうぞこちらへ。」

応接用のソファにかけるように案内され、私は失礼のないように、ただイレアの行動をコピーしてた。

「この度はお時間をいただきありがとうございます。」

イレアがお辞儀をしたので、私もさもわかってたようにお辞儀をする。

「いえ、こちらこそご足労いただき、ありがとうございます。…ユーリアルさん、お久しぶりですね。」

「覚えていただいておりましたか。お久しぶりです。リーアス理事長。」

「もちろんです。あなたは特に優秀な生徒でしたから。」

お互いが懐かしむように挨拶を交わしていた。自然とお互いの表情は柔らかいものになっていった。

イレアってオルネラス出身だったの?知らなかったな、ちょっとびっくり。

でも、通ってた学校の校門何度も通り過ぎてたんだって事実の方がもっとびっくりだよ?イレア?

「そんなあなたが、今回研究員として我が門をくぐったこと感慨深く感じると共に誇らしくおもいますよ。」

「もったいないお言葉です。」

本当だよ?その門くぐる前に通り過ぎて、挙げ句の果てに地味って言い放ってるからね?この人。

「ユーリアルさん、こちらが?」

「ええ、ご紹介いたします。現在アルスタリア第一位スイ・アマミでございます。」

こちらに話題が移り、敵意のない笑顔を作る。

私の番か。優等生モードに切り替えて、感じのいい笑顔を作る。

「はじめまして。スイ・アマミです。4月からこちらのオルネラス学園に入学できること誇りに思います。これからお世話になります。よろしくお願いいたします。」

いつもは使わない言葉を自分の言葉として話すのはなかなか難しいもんだなぁ。どこか他人事のように考えていた。

「こちらこそよろしくお願いします。理事長のリーアス・フェルバークです。私としても、アルスタリア建国以来の才女アマミさんに我が学園に入学いただけて嬉しく思いますよ。」

大袈裟すぎる褒め言葉をサラッと言っちゃうあたり、しごできおじさまなんだなぁ。できる男、そしてモテる男なんだろう。そんなふざけたこと一ミリも思ってないように優等生の笑顔を貼り付ける。

「ありがとうございます。アルスタリア1の学舎で勉学に励みたいと思います。」

「はい、ぜひ沢山の事を学んでください。あなたの入学は我が学園の生徒にも良い刺激になるでしょう。期待しています。」

ありがとうございますと返し、どうよ?イレア?ちゃんとしてるでしょ?とチラッとイレアの方を見ると笑顔のイレアがこちらを見ている。

…いや、顔は笑ってるけど目が笑ってない。気を抜くなと目で訴えてきている。

その気迫に若干笑顔が引き攣る。

「アマミさん、中央生徒会についてはどなたかから説明は受けていますか?」

「はい、表向きはアルスタリアの行事を開催する生徒の組織。本当の目的は魔物の退治や、テロ行為の制圧でしたね。」

「そうです。あなたはその中央生徒会の生徒会長として代表となってもらいます。ですが、あなたは研究室の暮らしが長く、表向きの活動が不慣れだとユーリアルさんから聞いてます。」

お、そうそう。不慣れどころかやったことないからね。そこが1番不安なんだなぁ。

「はい、正直誰かと一緒に何かをやるなんて小学生、それも2年生が最後だったかとおもいます。恥ずかしながら、表向きの活動に自信がありません。」

照れたように微笑む。過剰に振る舞う、これも優等生の演技。イレアが胡散臭そうな目で見てくるけど、ふざけるよりは良いでしょ?

「恥ずかしがることはありません。環境から考えると仕方のないことでしょう。このことも考慮し、副会長には我が学園の生徒会長が着任する予定です。」

リーアス理事長が優しい微笑みで安心させるように伝える。

良かったぁ、正直生徒会長とか何するかわからなくて不安だったんだよねぇ。どっちかと言うと魔物退治とかテロの制圧の方が具体的でわかりやすいし。

「お気遣いありがとうございます。でも良いのでしょうか?オルネラスの生徒会長がいなくなってしまうのでは?」

「構いません。別のものがリーダーを担うチャンスができたと思えば、教育機関としては良いことです。」

すらすらと紡ぐ言葉は、彼が常に教育について考えているのを垣間見えるような発言だった。あぁ、この人はちゃんと教育者なんだな。少し安心する。

「そうですか、そうであれば良かったです。」

「なので、入学し不明な点などあればその生徒に聞いてください。名前はマイ・ファルバークといいます。」

「やはり、マイさんでしたか。現在のオルネラスの生徒会長といえば御息女さまかと思っておりましたが。」

さっきまで私たちの会話を黙って聞いていたイレアが会話に入ってきた。イレアも知ってる子なのかな?

「ええ、彼女はあなたが生徒会長を退任した3年前から、この学園の生徒会長でしたから。」

「え?生徒会長だったのイレア?似合わ…」

驚いて素の自分が出てきてしまった。それをイレアが遮る。

「どうしました?アマミさん?」

「なんでもないです…ユーリアルさん…」

イレアは笑顔で圧をかけ、柔らかな微笑みとは真逆で目の気迫が凄い。ちゃんとしてないと、このあとどうなるかわかっているのよね?って目だ。

そんなやりとりを見てリーアス理事長はフッと笑った。初めてちゃんと笑ったのをみた。

「すみません…。」

イレアが照れたように謝罪する。うちの子がすみませんぐらいの勢いだった。

「いいえ、大丈夫ですよ。ユーリアルさんは優秀で、他の生徒からも支持がありましたから、名実ともに生徒会長にふさわしい方でしたよ。」

どうやら、似合わない発言までしっかり耳にしていたらしい。優しく微笑みながら、リーアス理事長がイレアの学生時代を褒め称える。その発言にイレアが口を開く。

「リーアス理事長、それは買い被りすぎです。」

イレアがちょっと照れたように目線を下げ、サラッと落ちた髪の毛を耳にかけ直す。

その耳が少し赤いことに気がついた。イレアのそんな顔、6年間で見たことなかったな。

…なんだか一瞬、胸にモヤがかかった。なんだコレ?胸をそっと手で押さえる。


「スイ?どうしたの?」

イレアが心配そうに覗きに込んでいた。その黄色い瞳に心配そうに見つめられると反射的になんでもないと否定したくなる。ハッとして急いで心配ないと言葉を発する。

「いや、大丈夫!すみません、話を逸らしてしまって…」

イレアが本当かと探るように見つめてくる。大丈夫だって、柔らかく笑って心配ないとアピールする。

「かまいませんよ。」

優しく微笑みリーアス理事長は話を戻す。

「マイ・フェルバークはアルスタリア第4位のメンタルアビリティを保有しており、生徒会長の実績もある生徒です。きっとあなたの助けになると思いますよ。」

なんだか娘の話っていうより、優秀な生徒を話してるみたい。いや、優秀な娘であり生徒でもあるんだから合ってるんだけど…。なんとなく違和感を抱えながら会話を続ける。

「優秀な御息女様なんですね。」

御息女というフレーズにリーアスは考えるように目を落とす。

「そうですね…優秀すぎるぐらいです。」

眼鏡を外し、眉間を揉む姿はさっきの完璧な姿から、より親しみやすいように感じた。

「すぎる?」

「彼女はこのフェルバーク家とオルネラスに異常な執着を持っているのです。きっとそこからフェルバーク家としてあるべき姿を作り出し、それになるために自分を律し、努力を惜しまない。その姿があまりに完璧すぎて父としては誇らしくもあり、心配なのですよ。」

困ったように笑う姿は娘の様子にどうして良いかわからないただの父親だった。しごできのあの笑顔より、この笑顔の方が親しみやすい。リーアス理事長は困ったように言葉を続ける。

「なので、アマミさんには是非マイと仲良くしてほしいと思っております。ぜひ彼女の世界を広げてあげてください。」

「そんな、私は外の事まだ疎いですし、むしろ彼女に引っ張ってもらう気がします…」

「いえ、あなたはもう、マイをオルネラスから一歩踏み出させてくれてますよ。あなたを中心に作り上げた中央生徒会によって、マイをアリストタリアの生徒会と言う大きな組織に連れ出してくれてるのですから。」

そう言うリーアスの笑顔は自然と出たものだった。この人は良い父親なんだ。娘の事を思い、家のことより娘の世界を大切に思っている。この学園に来れて良かった、まだ始まってないのになんだか確信をもてた。そんな彼に安心してもらうためにはっきり応えないと。


「娘さん。私が大切にします。」


バシーンッ。頭に衝撃が走った。


「いだい…。」

「すみません、つい。」

イレアが右手をさすりながら、リーアス理事長に謝る。

頭を抑えて、涙目をイレアに向ける。気に留めないようにこちらには一切振り向かない。

謝る相手こっちじゃない??めっちゃ振り切ったでしょ?痛いって言うかおもっきしすぎて爽やかな痛みだよ?


珍しいモノを見たかのように、リーアス理事長が目を見開き、笑った。

「ユーリアルさん、変わりましたね。学生時代、突発的に何かをするあなたの姿は見たことなかったのですが…学校を卒業してもあなたの世界は変わり続けてると言うことですね。」

「…学生の頃の方が制御が効いたと言うことでしょうか?」

イレアが心配そうに眉間に皺を寄せ聞き返す。

「いえ、心のままに行動できるようになったと言うことだと思いますよ。」

「心のまま…そうですね、それは実感してます。」

ええ、私も痛いほど実感してますよ。恨めしそうにイレアを睨んでいたら、イレアがこちらを慈しむような目で見てきた。

あまりにも優しい目だったので目を逸らしてしまった。耳に熱が籠るのを感じる。

…この人は、本当に、ズルい。


そんなこんなで挨拶がおわり、退室しようとしたらリーアス理事長が最後にと呼び止めた。

「中央生徒会、本当の目的には危険を伴うものがほとんどです。第一位のあなたに言うのはおこがましいですが、どうか無理のないよう気をつけてください。」

「はい。ありがとうございます。マイさんも私が守りますので安心してください。」

この優しい父親を安心させるように、できるだけ優しく微笑む。リーアス理事長はその言葉に頬を緩め、満足そうに言葉を放つ。

「…ありがとうございます。4月からは我が校の生徒として接します。入学楽しみにしてますよ。」

「はい!よろしくお願いします!」

挨拶をして、理事長室を後にする。


理事長室を出てまた長い廊下を歩く。その廊下や壁になんとなく行きより親しみを覚えていた。

「良い人だったね、理事長。」

「そうね、まぁ、入学したらまた違うけど。」

懐かしむように、遠くを見つめるその目は少し死んでた。

え、だいたい暖かい感じだったりするんじゃないの?そういう時。

「あ、そうなの?」

「そうよ、普段は人を寄せ付けないような人だから。それに何かあると理詰めで問い詰めてくるし。」

「へぇ、理詰めで問い詰められたんだ、イレア。」

「もちろん理詰めで言い返したわよ。」

「うわ、やな生徒。」

イレアの理詰めほど怖いものはない。私は大体負けるのがわかってるので早めに謝るようにしてる。


「そういえば、さっき、胸、大丈夫なの?」

「え?」

「話の途中で抑えてたじゃない。」

イレアがこちらをまっすぐ捉えて聞いてくる。その目にはまだ、心配の色がチロチロ揺れていた。

「あー、なんだったんだろう、痛いとかじゃないから大丈夫だと思うけど。」

「本当でしょうね?」

イレアは疑うように見つめてくる。確かになんだったんだろう…。眉間に皺がよる。

イレアの疑いの目が強くなる。わからないからとりあえずさっき起こったことをイレアに伝える。

「いや、なんか、理事長に褒められて照れてるイレアをみてなんか、胸がモヤァって、痛くないんだけどなんか、違和感があってさすってたんだ。でもほんとに今はなんでもないから大丈夫だよ!」

記憶を辿るようにつらつらと言葉を紡ぐ。確かそんな感じだったはず。話終わりイレアをみる。

ってあれ?イレア?なんでびっくりしてるの?いつも大きな目がさらに大きく見開かれているし、それに…。

「顔、赤いよ?」

イレアはハッとして、温度を測るように頬を手の裏で抑える。

「ッ…なんでもないわ…。」

「大丈夫?」

珍しい様子に覗き込む。イレアの綺麗な黄色の瞳は若干潤んでるようにみえた。


「ーッ!なんでもないわ…!」

突然、怒られて思わずのけぞる。


「…えぇ。どうしたのさ…」


早足で車に向かうイレアを慌てて追いかける。なんかぶつくさ言ってるけどよく聞き取れない。

えぇ、なんかした?自分の行動を振り返ったら割と心当たりがあって困った。結構叩かれたり睨まれたりしたな今日。

今日はもう、大人しくしておこ…


ぶつくさ言ってるイレアをそっとしながら、帰路につく。運転中もボソボソ言ってるのがちょくちょく耳に入る。永遠と一人で会話を続けるイレアを横目で眺めていた。

「意外と独占欲が強い…?独占欲とは違うのかしら…」

「大体親に向かってまだ知らない子を大切にしますだの…守りますだの…」

「これは再教育が必要なのかしら…」

不審な言葉に反応してしまう。

…ちょっと不審な方向に話が進んでる気がする。イレアをこちらの世界に引き戻さないと。

「イレア!夜ご飯どうする?」

無駄に明るく聞いてみる。ほらほらこっちに戻ってきて。

「…学校生活が始まって、この調子だと多くの被害者を…」

…。元気が足りなかったかな??きっとそうだね?さらに大きな声でイレアを呼ぶ。

「イーレーアー!夜ご飯何にする?」

「私でこの衝撃だったら、ほかの人はもっと…」

「イレアさん!?きいてる!?戻ってきて!?」

「…なによ?どうしたの?」

うるさいわねと言わんばかりに怪訝そうにこちらを横目で見る。

いやいやいや、うるさくしないと自分の世界に行ったっきりだったでしょ?

ため息混じりに言葉を返す。

「どうしたのじゃないよ、一人で遠くの世界に入っちゃってたじゃん。」

「いや、あなたのこれからについて考えを改める必要があるかと思って。」

マズイ。再教育という名の理詰め地獄がはじまる。なんとしても阻止ししたいところだ。

「改める必要ないない!大丈夫!イレアの教育は完璧だから!」

「いえ、さっきのやりとりも含めて、発言の危うさが目立っていたわ。あなたはただでさえ、見た目がそれなのに、発言までたぶらかすような事を言ったら周りが大変になるわよ。」

「へ?たぶらかす?どこが?」

「随所にあったじゃない…。娘さんを大切にするだとか…。その胸のモヤつきがとかいって…。」

イレアが歯切れ悪く黙り込む。黙り込んだイレアを不思議に思い見つめる。その目線を感じているのか、目線から逃げるように若干顔をそらす。

なぜその行動をとっているのか理解できず、眉間のシワを濃くし、さらに怪訝な顔で見つめる。形のいいイレアの耳が髪と同じように桜色になっていることに気がつく。

「はぁ…」

疲れたように呆れたようにイレアが吐息をため息に変え吐き出す。そんなにあなたを気に揉むほどのことをしたのでしょうか…?胸の奥からオズオスと罪悪感が顔を出す。

「…私、何をしたんでしょうか…?」

「…自覚なしなのね…。」

やっとマンションにつく。イレアがサイドブレーキをかけ、ふぅと息を吐いた。こちらをチラッと見つめ私の疑問に溢れる瞳を確認して、イレアはハンドルに手を組むようにもたれかかる。顔埋めて呆れたように、心底疲れたようにまた大きく息を吐く。

イレアの耳が先ほどの色よりさらに深い赤みがかった色になっている。

もうイレアの体から酸素という酸素が抜けきってしまうのではないかと思うぐらい息を吐き終えて、腕に顔を埋めたままこちらをいじらしく睨む。なんだかその表情にドキリとした。

イレアがボソボソと言葉を紡ぐ。


「あなたが、理事長と私に嫉妬したって…。それも、どんなふうに嫉妬したかまで解説付きで言ってきたからよ。」

「へ?嫉妬…?」

「そうよ。」

「ん?嫉妬?」

「そう。」

「え??してないよ??」

「…ほんとに、あなたは…」

呆れるように睨みつけるイレアを見て言葉の意味を考える。


…うぇええええ!?嫉妬ってジェラシーのこと?jealousyのことよね??

びっくりして目を見開き、口まで開いてしまった。

「やっぱり…自覚なしなのね…」

「え?え?いつ?いつ?」

言わせるの?

そんな感じでイレアは睨んできたが、だって本当に気づいてなかったから…!

その抗議の目線に負けないように見つめ返し、再びため息をつきながらイレアが答えてくれる。

「…胸が変だったって…褒められて照れてる私をみて、モヤってしたって…」

「あー!あれがジェラシー!!」

初めの感情の名前を教えてもらって恥ずかしさより嬉しさがまさった。あっけらかんと初めての感情の名前を呼びイレアに確認する。

「私理事長に嫉妬してのか!自分以外の人がイレアの見たことない表情をさせてて嫌だったのか!!」

「ちょっと…っ」

イレアが感情を外に出さないように息を飲み、また、腕に埋めて息を吐き出す。

「あんまり、そう言う感情は、表に出さないものよ…」

ゆっくり顔を上げたイレアは、心底疲れたように、呆れたように制す。顔を埋めた反動かいつも綺麗に纏まってる髪の毛が軽く乱れており、頬も軽く色づいていた。

イレアの見たことない表情に、さっきの胸のモヤは完全になくなっていた。

満足そうに胸を撫で下ろす私を見て、イレアはジト目で睨みつけてくる。

「なんで満足そうなのよ。」

「だってイレアが…」

「いや、いいわ、言わなくて、もう、つかれたわ。」

私の反応で照れたり、いっぱいいっぱいになってるから、嬉しくて、そう続けようとしたらイレアに食い気味で中断させられた。


なんだか今日のイレアは可愛いなぁ。

ため息をつきながら車を降りたイレアは、今日買った荷物を下ろしている。

「持つよ!」

「…ありがとう。」

上機嫌な私に対して、警戒心丸出しのイレアが余計なコミュニケーションをとらないようにこちらの様子を観察している。


エレベーターに乗ってるあたりで、馬鹿馬鹿しくなったのかいつのもの様子に戻り話しかけてきた。

「夜ご飯何食べたいの?」

「えーなんだろう、イレアの食べたい物でいいよ?」

「スイの食べたいものにしましょう、今日はやっと外に出れたお祝いなんだから。」

「いいの?んーーそうだなぁ、じゃあ、お寿司がいいかなぁ。」

「お寿司?」

「うん、小さい頃から、お祝い事といったらお寿司だったからさ。イレアが良ければだけど!」

「あなたの国の地方はそうだったわね。良いわ、デリバリーを頼みましょう。」

「いやったー!楽しみ!」

「ご飯の前にメディカルチェックとトレーニングを済ませるわよ。」

「うん!!さっさと済ませちゃおう!」

慣れたメディカルチェックとトレーニングも場所が変わると新鮮だなぁそんな事を思っていたが、結局やることは一緒なので割とスムーズに夕食になった。

トレーニングで汗をかいたので先にシャワーを浴び、出たらイレアがもう準備を終わらせ待っていてくれた。

「うっわぁ、久々にお寿司だぁ!うまそーー!」

イレアは先程とったメディカルチェックの数値を確認しているのか、中型のビジョンで何か打ち込んでいる。ちらっとこちらをみてすぐに、画面に目を戻す。

「どんな格好で出てきてるのよ。」

上下、下着姿で首にタオルを巻いて出てきた私を諌めるようにイレアが話す。

「運動して、シャワー浴びて暑いからさぁ。言っても、スポブラとボクサーパンツだから恥ずかしがるような可愛い下着じゃないよ?」

「だからって下着で出てくるんじゃないわよ。」

「えぇ、別に減るもんじゃないからいいじゃないの。」

「あなたのモラルが低下していくのよ。いつか恥かくわよ。」

「へいへい。」

渋々部屋着を着るが、できるだけ大きめのティシャツと短パンをチョイスし身体の熱を放出する。

イレアは横目で服を着たことを確認してまた、ビジョンに目線を戻す。

「早く髪の毛乾かしてきなさい。」

「…なんだか、イレアできる女って感じ。」

仕事しながら私のお世話をしたり、さすがエリート研究員だなぁ。

「はぁ?できる女って感じじゃなくて、できる女なのよ。」

「あぁ、そうでした。」

自信満々というよりも、何当たり前のことを言ってるのかという否定だった。さすが。

失礼しましたとヘラヘラ謝罪して髪の毛を乾かしに行った。

やっと全てを終えてリビングに戻ったら、イレアがスマビを閉じて、しまってるところだった。

「じゃあ、食べましょうか。」

「うん!」

なんやかんやでイレアとご飯食べるの初めてじゃない?そんなことを思いながらソファに腰掛ける。

「いただきまーす!」

「いただきます。」

久々の寿司を器用に箸でつまみ、口に運ぶ。口に醤油の塩味と魚のあっさりとした旨み、酢飯のほのかな甘さが広がる。

「…うんま!!」

「美味しいわね。」

「久々に食べたけどやっぱりこれだわぁ」

思わず頬が緩まる。故郷にいた時、誰かの誕生日やお祝いのときは必ずお寿司が出てきていた。

だからこれはお祝いの味。食べると条件反射のように気持ちが上がり、美味しさと嬉しさで笑顔になってしまう。

「美味しそうに食べるわね。」

「いやーだってなんだか、久々に美味しいもの食べてる!って感じするもん!研究室のご飯不味くないけど、美味しいと思えなかったからさぁ」

「そう?私は嫌いじゃなかったけど。」

「んー不味くはなかったんだけどね。」

研究室のご飯は栄養バランスも良く、味も悪くなかった。けどなんだか味気なかったんだよなぁ。

「てか、イレアがご飯食べてるのなんやかんやで初めて見る。」

「ま、確かに、一緒に食事を取ることはなかったものね。」

「そうそう、いっつもあの部屋で一人で食べさせられてたから。つまんなかったー。イレアは食堂とかで食べてたわけ?」

「そうね、でも、研究に集中してると忘れて食べないことも多かったわね。」

「さすが、エリート研究員。言うことが違いますね。」

「うるさいわね。」

クスクス笑いながら次のネタに手を伸ばす。

楽しいな、人とご飯食べるのも6年ぶりだったかな?いや、一回一緒に食べた気がするけど、誰とだったっけ…?

忘れちゃったけど、その時もすごくご飯が美味しかったのを覚えている。

「…きっとイレアと食べてるからもっと美味しく感じるんだなぁ。」

「何しみじみしてんのよ。」

「いや、誰かと食べるご飯って久々だし、美味しいから。」

「まぁ、でも、そうね。私も一人で食べるより美味しい気がするわ。」

「気がするって感じ、イレアってツンデレだよね。」

「はたくわよ。」

「ごめんて」

目がガチだったよね。怖いこのツンデレおねぇさん。

でもまぁ、明日から夜ご飯楽しみだなぁ。

「イレアは普段自炊とかしてるの?」

「ほとんどしないわね。食事なんてとれればいいから。」

「そうなの?一人暮らし長かったんじゃなかった?」

「そうよ。」

「え?夜何食べてたの?」

「スーパーで買った惣菜とか、めんどくさい時は栄養クッキーとかかしら。」

「…え?もしかして明日からそれになる感じ…?」

「あ、だめだったかしら?」

「ダメじゃないけど…勝手にイレアの手料理楽しみにしてたから…」

イレアってどんな料理作るんだろうとは思っていた。すごく凝ってるか、全然できないかの2択だとは思っていたけど…。

「できないわよ。料理に関しては、残念ながら才能がなかったみたい。」

どうやら後者だったみたい。本人はなんの悔しげもなく、さらっと認めてるけど…。

「めっちゃ諦めてる…。」

確かにイレアは研究で毎日忙しそうだし、そんな暇もなかったか…。明日から楽しい惣菜パーティが始まる予感だなぁ。

「まぁ、イレアと食べれるならなんでもいいか。」

「あ、それもだけど、研究とか資料集め、生徒会任務の準備とかで私忙しくなる予定だから、食べない日もあると思うわ。」

「あ、そうなの…?」

「食べる頃には遅い時間かもしれないし、基本気にしないでくれていいわ。」

「あ、うん、わかった。無理しないようにね。」

そうだよね、今までいろんな人がやってたことイレアが一人でやらないといけないんだから。外に出れただけでも、イレアが一緒にいてくれるだけでも幸運なんだから、わがまま言ってられないもんね。自分を慰めるように言葉をかけ、頑張ってくれるイレアに心配かけないように笑顔を作る。


何かに気付いたのか、イレアは箸を止めて私を観察してる。隠そうとしてるのにすぐ見破るじゃん!!

「…はやく終わらせられる日は一緒に食べるわよ。できるだけ一緒に食べれるようにするから。」

「大丈夫だよ?一人で準備できるし、なんならイレアの分も買っておくからさ。頑張ってくれてるんだから、気使わないで。」

心配させないように柔らかく微笑む。

そんな私の態度が気に入らないようで、イレアは目を細めジトーとこちらを見つめる。

「なによ。一緒に食べたくないの?」

「あ…いや、そう言うことじゃなくて、一人で色々仕事しなきゃいけないのに、そんなことで迷惑かけたくないっていうか…」

「私が一緒に食べたいの。だから、可能な限り一緒に食べるわよ。毎日とはいかないけど。」

イレアはこちらを向くことなく、淡々と言う。そんな照れ隠しが愛おしくって嬉しくって頬が自然とゆるまる。

「…ありがとう。嬉しい!」

その言葉にイレアがこちらを見つめ、同じように頬を緩める。

「食べれる日は連絡するわ。明日から早速バタバタすると思うけど。」

「うん!そしたら私が準備するから!!」

「頼むわね。」

そう言ってイレアは優しく微笑む。あーあ、結局気を遣わせてしまったなぁ。そう思ったけど、気にかけてくれることが嬉しくて笑顔になってしまう。

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