大物少女と不憫な少年との出会い
引っ越しに必要な面倒な手続きを終え、イレアと家に足りないものを買い揃えにモール型ショッピングセンターに来ていた。
「おっ買い物♪おっ買い物♪楽しいなっ♪」
「…ずいぶん定番なはしゃぎ方するじゃない。」
「えーートリッキーなはしゃぎ方の方が良い?」
「やってみなさいよ。ほら。トリッキーなはしゃぎ方。」
「…ごめんて。」
もう、イレアは冗談が通じないなぁ。怒られないように心の中で悪態をついた。久々の買い物にテンションは上がっていてこれから回るモールをぐるっと見回す。やってきたショッピングセンターは大型で見回しても奥まで見渡せなかった。
「でも、大きなところだねぇ。ここならなんでも揃っちゃうねぇ。」
しみじみ館内を見渡しながら呟くと、イレアは慣れた様子でスタスタ横を歩いて行ってしまう。置いていかれないように慌ててイレアの横に並ぶ。
「駅前のところでもよかったのだけど、やっぱり郊外の方が沢山お店が入ってるし、生活用品も多いのよね。」
「へーそうなんだ!イレアは結構お買い物しにくるの?」
「まぁ、そこそこね。研究とかで行き詰まったら服を買って憂さ晴らしする程度よ。」
なんとなしに呟くイレアの言葉に納得する。
「あーだからかぁ」
「なに?」
「行き詰まってるときイレア顔すっごい怖いのに、お洋服は綺麗だったり、おしゃれだったりするから。チグハグだなぁって見てたんだ。」
「…そんなところ見てるんじゃないわよ。」
気づいていたのかと怪訝そうにイレアは眉間に皺をつくる。
ふふふっと笑いがこぼれる。常に冷静で完璧なイレアだってまだ24歳だ。イレアの年相応な所をみれると、完璧な仮面の下を覗きみれたようで嬉しい。
「ほら、いくわよ。最初は何をさがすの?」
イレアが話題を切り替えるように、聞いてくる。
それもなんだかおかしくって、楽しかった。あーやっぱり外はいいなぁ。
「えっとね!まずは…」
あらかた必要なものを買い揃え、お茶をする事にした。カフェの前でイレアが呟く。
「一回、荷物車に置いてこようかしら。邪魔になっちゃうし。」
「そう?じゃあ私注文して待っておくよ?駐車場そんなに遠くないでしょ?」
「そうね、じゃあコーヒーをお願い。」
「かしこまりましたよ!」
元気よく承るとイレアがじゃあ、と車へ向かった。
店に入り、席につくと注文をとってもらった。
飲み物が運ばれてくるのを待ってる間、ショッピングセンターを観察していた。
アルスタリアは学生と研究員の国なので、日中ショッピングセンターを歩いている人は学生がほとんどだ。世間ではまだギリギリ学校があったりなかったりらしく、この時間歩いてる人は多くない。ただ今日は小学校の遠足なのか、小さい子たちが先生に引率されてテクテク楽しそうに歩いてる姿を見かけた。
あれで人口密度上がってるなぁなんてぼーっと考えていたら目の前にひょこっと金色の球体が現れた。
「何見てるん??」
その金色の球体はどうやら子供の頭だったらしく手すりの下から顔を覗かせていた。
「びっくりしたぁ。何にも見てないよ、みんな何してるのかなぁって思ってただけ。」
「そうなん?てっきりちびっこ大好き変態さんかと思ったん。」
「違うよ。みんなちゃんと着いて行っててえらいなぁって見てたの。」
子供に変態かと思われるのはちょっと傷つく。見るのもさりげなくしないと変態かと思われるのか、今度からは横目で見よう。…いや、そっちの方が変態チックか。
私の苦悩を知らずに、その少女は続けて話しかけてくる。
「一人でお買い物なん?寂しいくないん?」
「一人じゃないよ、荷物置きに行ってるだけだから。」
「じゃあ、今は一人なんね。」
ほうほうと小さな手で拳をつくり顎のところへ持っていく。大袈裟な仕草で理解してる素振りを見せる。この子はなんだろう。不思議な子だなぁ。
「まぁ、そうだね。あなたは?誰かと来たの?」
「ユーニスなん。」
「ユーニスさんときたの?」
「うんにゃ、ユーニスはうちの名前なんね。」
「うん?そうなんだ、よろしくユーニス。」
「よろしくなん。ところで銀髪さんは何てお名前なん?」
ユーニスは手すりの下を潜ってお店の中に入ってきた。ずいぶん人懐っこい子だなぁ。なんだかペースを崩されながら答える。
「私はスイって言うの。よろしく。」
「スイって言いやすい名前なんね。良い名前なん。」
「ありがとう。ユーニスも素敵な名前だね。」
「当たり前なん。母上と父上はセンスが抜群なん。ウチもハイセンスおしゃれさんなん。」
ユーニスは自信たっぷりに両手を広げて一回転してみせる。確かにユーニスが来るワンピースは細かにデザインが入っていたり、プリーツが絶妙な大きさでかかっていて良い意味で子供服らしくない。なんだか可愛くってついつい微笑んでしまう。
「本当だね、そのワンピースも凄く素敵。」
「ウチの一張羅なん!これの素晴らしさがわかるなんてスイもなかなかのセンスなんね!」
ユーニスは満足そうに頷きながら私の向かいに座った。そのタイミングで頼んでいた飲み物が2つが届いた。
「確かにスイのつけてるブレスレットもなかなかの逸品なんね。シンプルだけど味わいがある。まるでスルメなん!!」
「スルメ??褒めてる??」
「当たり前なん、うちはスルメが大好きなんね!」
「そうなの??ありがとう。」
本当におかしな子だなぁ。所々笑いが溢れる。
あれ?そういえば最初の質問に答えてもらってないな。
「ユーニスは誰ときたの?一人?」
「こんなところ子供一人で来るようなところじゃないん。」
何言ってるのかというように、呆れながら話される。こっちがおかしいみたいになってるけど…。その仕草に苦笑いで出てくる。
「そうだよね…誰ときたの?」
「さっきスイがぼーっと眺めてたちびっこ行列あったん。覚えてるん?」
「覚えてるよ。てくてくみんなで並んで歩いてた子達だよね?」
「そうなん、うちあれと一緒に来たん。」
「あ、そうなんだー」
「そうなんなーー」
「………え?はぐれてない?」
「…そうなんな!!いつのまにかはぐれてしまったんな!!」
「いつのまにかって、明確にはぐれてきたじゃん!明確な意思を持ってはぐれてきたよ!あの子達全然こっちきてなかったもん!」
「スイを見かけて話しかけたくて、いつのまにかはぐれてたんな!!」
「なんにそれ。まったく…。」
ほんとにおかしな子だなぁ。やっぱりちょっと笑えてくる。
ユーニスはどうしたものか頭を抱えていた。その仕草が何だか可愛らしかった。その可愛らしさについ頬が緩み、眉尻が下がる。
「連れが来たら探すの手伝うよ。」
「おぉ!!スイは優しい奴なんな!!」
「いやなんか、責任感じるし…。」
「そんな気にしなくていいんね!でも、好意はしっかり受けとるタイプなん!よろしくお願いしますなん!」
「はいはい…」
まったく、この子は大物になるってやつじゃない?そろそろイレアが戻ってくるころかななんて思っていたら、慌てた様子でオレンジのツンツンヘアーの男の子が走ってくる。
「ユーニス!ほんとお前居なくなるの得意だね!?」
「おーぅ!セスト!大慌てでどうしたん!?」
いや、どう考えてもユーニスを探してたんでしょ。オレンジのツンツンヘアーの子は呆れたようにため息をつき、吐いた以上の息を吸った。
「お!ま!え!を!さ!が!し!て!た!の!」
「おおぉ!良かったん!みつかったなん!」
彼はげんなりして項垂れた。まぁ、そりゃそうだよね。探してた本人がこの調子だもん。
「お前なぁ、すぐどこか行く癖なおせよ。探すこっちのみにもなってくれ。」
「大丈夫なん!セストは絶対見つけてくれるん!!それにスイが一緒にみんなを探してくれるって言ってたん!」
「ちょっとは反省してくれよ…ユーニス、この人が探してくれるって言ってたのか?」
青年はため息混じりにユーニスをジトーと見つめ、気を取り直したように私を見つめる。溌剌としたオレンジの瞳と目が合いお互い挨拶がわりに愛想良く微笑む。
「そうなんな!スイっていうん!なかなか見どころのある若者なんね!」
「誰目線だよ!こら!ユーニスさん謝りなさい!」
「大丈夫ですよ。褒めてくれてありがとう。」
慌てて注意する青年にくすくす笑いながら答える。この人も大変だなぁ。
「ほんとにすみませんでした!コイツ失礼な事言ってませんか?」
「いや、楽しくおしゃべりできてよかったです。」
あまりにも申し訳なさそうな彼が不憫で、気にしないように微笑む。
「うちも面白かったん!やっぱりうちの目は正しいんね!見どころがあるのが遠くから見てもわかったん!」
「あ、そうなの?凄い鑑識眼だね。」
見所があるって…。こんな小さな子供に言われるとやはりおかしくって笑ってしまう。
「そうなんな!なかなか見所がある人は輝いて見えるん!」
輝いて見えるって…なんか将来は大物プロデューサーとかになってそうだなぁ。やっぱり、この子と話してると自然と笑いが溢れる。
「いやーこいつのそれ中々凄いんですよね。ふざけたやつなんですけど、それは冗談じゃないっていうか…」
冗談のようなことを彼はかすかに疑問をはらみながら真剣な顔で肯定する。さしづめ難問に挑む探偵のようだった。
「誰がふざけたやつなんね!!」
「ふざけたやつだろ!!毎度毎度探させやがって!!」
「毎度毎度目を離すセストが悪いん!!」
仲良しだなぁ。髪色的には兄弟じゃないんだろうけど。なんだかこのデコボココンビに興味が湧いてきた。
「二人はどう言う関係なんでしょう?」
「あぁ、すみません、騒がしくして…オルネラス学園っていう小中高大まで一貫の学校の生徒なんです俺ら。俺が今、中3でユーニスが今小6なんです。小6の特別遠足に引率でついてきてる感じですね。」
オルネラス学園か…最近よくこの名前をきくなぁ運命ってやつなのかな?
「そうなんですね、すごく仲がいいから兄妹かと思いました。」
「こんな圧倒的に美少女の兄がこんなんなわけないん!」
「おい!!ユーニスさん!!さすがに泣くぞ!!」
確かにユーニスは目も綺麗なパッチリ二重で大きな瞳をしていて鼻筋もスッと通っている。確かに将来美人になるんだろうなって顔をしてるから、セストくん?もこんなに否定されたら傷つくよね…
「でも、えっとセストくんっていうのかな?も身長も高く、ガッチリしていてかっこいいと思うよ!多分!」
「…多分?」
「あ…」
「思ってないのがバレたんね。」
…慌ててフォローしてみたら墓穴を掘ったらしい。
「あ、違くて!なんて言うか!私男の人のかっこいいとかあんまりわからなくて!!塩顔とか?ソース顔とか?みんなそれぞれかっこいいって言う人ちがったりするじゃん!?」
「そもそも、スイは顔がかっこいいなんて言ってなかったんね。」
「…えっと…」
この子はなんでこうも鋭いの…。自分が掘った墓穴に逃げ場所を奪われてしまい言葉がうまく出てこない。
「…ありがとう。精一杯の優しさ感じれたよ。」
もうセストくんは涙目だ。でもこれ以上何かあったらほんとに泣いてしまうきがする…セストくんはハァーと大きなため息をつくと気を取り直したように言葉を続ける。
「あと、俺セストでいいから、君付けされるのなんかむず痒くって。」
「あ、うん、セストね。よろしく!」
「スイだったよな?こちらこそよろしく!また、ユーニスが遠くから見つけて話しかけに行くかもしれないから、見つけたら教えてくれ。」
「うちの千里眼はすごいんね!」
「それは良いけど離れる時は声をかけてくれ…」
疲労の色が見えるセストに同情し、何か手伝ってあげたくなった。
「ははは…教えるって連絡先を交換した方がいいのかな?」
「あ、良いのか?こいつビジョン持ってるのにわざわざ外して家に置いてくるんだよ。だから毎回探すの大変で…」
「柄が気になるん!うちはウサギさん柄よりお馬さん柄がよかったん!」
「わざわざ最新機種買ってもらっといて贅沢言うなよ!」
「ほんと仲良いなぁ。そしたら連絡先教えて。」
懲りずに何度も言い合いをする二人を呆れたように微笑み、手を開いてビジョンを出す。
「うぉ、あんたも最新機種か…ブルジョワなんだな…」
「いや、そう言うわけじゃないんだけど…もらったばっかりでどう交換すれば良いのかわからないんだけど、わかる?」
「これをこうしてこうなん!」
ユーニスの小さい手が私の手を掴んで操作してくれた。ユーニスの体温が柔らかな皮膚をつたい移ってくる。いつのまにか私の連絡先がセストのビジョンに登録させていた。
「おぉ、さすが現代っ子。」
「いやいや、わかるだろ…もしかして、スイもちょっと変わってる?」
「え、いや、普通だと思うけど?」
突然失礼なこと言うじゃない。ビジョンが使えないだけでそんなに?少し不安になり首を傾げなが答える。
「いや、輝きが違うん!」
「そーいや、そうだった。ユーニスに目をつけられたぐらいだもんな…変な人なんだな…」
ユーニスが自信満々に告げ、セストは残念そうにため息をついている。うん、失礼だね?
「ちょっと」
セストをジトーと睨みつけ抗議の声を上げる。それに気がついたセストが苦笑いで答える。
「悪い。ユーニスがいう輝いてるってやつ、確かに凄いやつが多いんだけど、変なやつも多いんだ…それに結構振り回されたりしててさ…」
どうやらセストは人に振り回される運命みたいだ。慌てて走ってきたセストを思い出すとちょっと同情する。不憫な人だな。そう思うとその失礼さを許そうと…いや、関係ないな。
「セスト、うちを出しに使って美人と連絡先交換できたんね。」
「ちょっと変なこと言わないでもらえますか!?ユーニスさん!そもそもあなたがいなくならなったらすむんですけど!?」
目を見開き、慌てて否定する。こちらとしてもそんなこと言われるとなかなかに気まずさを感じる。
「そろそろ行かないとまた学校までおんぶで帰る気がするんね」
「お前な…。」
セストが恨めしげにユーニスを睨む。ほんとセストは振り回される運命なんだなぁ。またってことは前もおんぶで帰ってあげたんだ。優しい青年じゃないの。失礼だけど。そんな彼がまた不憫な目にあわないように急かす。
「じゃあ、急いだ方が良さそうだね。また、あったら声かけてよユーニス。」
「もちろんなんね!!ばいばいなんね!!」
「うるさくしてごめんな!また、なんかあったら教えてくれ!」
「うん!じゃあね!」
ユーニスを抱き抱えてセストが走っていく。嵐のような二人だったなぁ。もう冷めてしまったカフェラテに口をつけた。
そういえば、イレア遅いな。
「随分楽しそうだったわね。」
隣の席から突然聞き慣れた声が聞こえた。
「イレア!びっくりした!いつからいたの??」
「男の子がお!ま!え!を!って話始めたあたりかしら?」
「結構長い間隣にいたんだね…」
「スイ、人をフォローするの劇的に下手ね。」
「やめてよ。私だって驚いてるんだから。」
ちょっとむくれるように、口を尖らせる。イレアが嬉しそうに笑ってる。
「そんなに笑うことないじゃん。」
「いや、スイの新しい一面を知れて嬉しいのよ。」
イレアが、コロコロ喉を鳴らしながらそんなこと言うもんだからなんだか顔があつくなった。6年間一緒にいて知らないことなんてほとんどないと思ってたけど、一緒にお出かけするだけでお互いの知らない部分が出てくる。イレアのチグハグな表情と格好のこともそうだし。それがまだ私たちは仲良くなれると思えるようでなんだか嬉しかった。
照れ隠しに言葉を放つ。
「もう!そろそろ時間でしょ!学校行かないと!」
「そうね。そろそろ向かおうかしら。」
イレアがお会計をしてくれてる間、なんとなくスマビの連絡先を開いてみた。新しく1件追加されており、私の新しい生活が確実に始まっていっているように思えた。




