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チートだったら神さまになれるって本当ですか?  作者: 上野史華
チートだったら略奪できるって本当ですか?
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発足宣言

マイと作業をしているとドアがノックされ、イレアの言葉だけが室内に入ってくる。

「スイ、マイみんな集まったわ。」

「うん、わかった!そっち行くね!」

生徒会室にいくと、いつもの長机に人数分資料が設置されていた。定位置になりつつあるエルネストの隣に座ると、珍しく姿勢正しく座っているのに少し驚く。なにごとかとエルネストを見ると配られた資料を真剣に目で追いながら確認していた。その隣のマチルダも同様に資料のチェックをしており、その真剣さに気圧されてしまう。

「エンジェル!今日も今日とて美しいなぁ。」

そう言うフィルマンの目の前に置かれてる資料は綺麗に揃えられており、触れられてないことがすぐにわかった。

隣に座ったマイを見ると早速資料に目を通し始めていた。

しごでき女子たちのお仕事モードを目の当たりにして、現実逃避するように目線をフィルマンに戻す。ヘラっと笑った笑顔が眩しい。

フィルマン、君に凄く親近感が湧くよ。同族を慈しみの目で見つめる。

「フィルマン。おはよう。今日も元気だね。」

「おうよ!」

マリウスはマリウスで興味なさげに資料をペラペラめくっている。マリウスが平均的な高校生のそれに見える。

…この3人が異常なんだとそう思おうと思います。


「いいかしら?はじめるわよ。」

イレアがビジョンを拡大し、これから始まるであろう説明の画面を出す。

「うん、お願いします。」

私の言葉にしごでき3人娘がパッと顔を上げる。凄いよ。超一流企業の会議とかってこんなんだろうなぁ。あ、そう言えばエルネストとマチルダは超一流企業の方でしたっけ?なんか世界が違うなぁ。

そんなことを思っていたらイレアの説明が始まる。

「みんなお疲れ様。今日は明後日に迫った中央生徒会発足宣言とその後のレセプションについて説明と準備をしていくわ。手元に資料が4部あるか確認してちょうだい。」

その言葉に私とフィルマン、マリウスがやっと資料を確認し始める。

「みんなあるわね?まずは発足宣言の概要とプログラムについて説明していくわ。」

有無を言わさせないその勢いに元祖しごでき女子がここにいたことを思い出させる。元祖がビジョンをタンッとボタンを押し画面を切り替える。

「発足宣言は明後日、会場はアリストタリア国立競技場。ここに関してはスイ、マイが確認済みよ。」

「あ、うん。ちゃんと1ヶ月前に申請されてたみたいで。最終確認だけだけど確認したよ。」

「うお!エンジェルいつのまに!」

驚いたようにフィルマンがこちらを目を丸くしながら見つめる。ま、そうだよね。少し笑いながら答える。

「ほら、みんなが来る前にあっちの部屋で色々やってるの、そう言う確認とか、申請資料の作成とか承認をしてるんだよ。」

「へぇー、てっきり宿題とか…」

そうだよね、何やってたんだろうって感じだもんね。そう相槌を打とうとした時フィルマンの言葉が続く。

「いちゃいちゃしたりしてるのかと思った。」

「ブハッ!!」

フィルマンまで??あなたは昨日イレアに私との関係を探られてた側なんだよ?チラッとイレアを見ると私をじっと観察してるようだった。その目線にも焦らされ必死に否定する。

「してないよ!」

「えーほんとに?」

楽しそうに口元を上げ、目は疑うように細められていた。してないさ!そう言うとした時、初めて会長業務を教わった時の事を思い出した。

目の前にマイの瞳があってびっくりしてドキッとしたな…。でもあれは一方的に私がドキってしただけで、いちゃいちゃはお互いだと思いますので、ええ、違いますね!心の中で饒舌に否定しているとマイが口を開く。

「してないわ。くだらないことを言って止めないで。イレア続けてちょうだい。」

一刀両断。なんなら切り刻まれてるぐらいの勢いだった。なんでだろう、私まで傷つく。私も含めて切り刻んだよね?この子。

珍しく抵抗しないフィルマンを見るとお口に指でバッテンを作って、どこかで見たことあるキャラクターのようになっていた。こちらの目線に気がつくと、両手を合わせて謝罪をしてくる。どうやら他人から見ても私も一刀両断されてたらしい。それもそれで傷つくけど、大丈夫だよと微笑み返す。

「続けるわよ。」

イレアがため息混じりに再開させる。

「ここで中央生徒会の発足宣言をして全国にその存在を認知させるわ。活動していく上で認知度はそれだけで武器になるから。」

しごてき三人衆がペラっと同時に資料をめくった。説明が次の所に進むのだろう。

「発足宣言の内容について説明するわ。登壇して話すのは基本的にスイ、あなたがやるのよ。」

「あ、うん。そうだよね。」

会長だからね…。わかっていたけど、そのプレッシャーに頬が引き攣る。

「話す内容はこちらでもう作成済みよ。あとは話し方の練習が必要になるから、それは後でエルネストに練習を見てもらって。エルネストは会社で社外向けのプレゼンテーションもしているから。」

ちらっとエルネストを覗き見ると、その視線に気付いたのか資料から目線を移し、怪訝そうにこちらを見つめる。

「なによ?また想像できないとか言うんじゃないでしょうね?」

「いえ、めっそうもございません。人前で話すのに自信がなくて…。どうかよろしくお願いします。」

ぺこりと頭を下げると、頭上からクスッと笑い声が聞こえ、髪を触れられる。頭を上げると目を細め満足そうに微笑むエルネストがいた。

「よろしい。私がしっかり叩き込んでやるわ。」

「あ、えっと、お手柔らかに。」

「無理よ。」

「…。」

「エルネスト、よろしくお願いするわ。」

私の代わりにイレアがお願いして、ええ、とエルネストがしっかりと返事をする。

…大丈夫かな…もはや練習すら心配なんだけど…。そんな不安に駆られる私を差し置いてイレアが説明を続ける。

「プログラムは見た通り、司会とその他機器の操作はクルーズグループのイベント会社に依頼しているわ。」

「ええ、滞りなく。明日のリハーサルについても確認済みです。あとはリハーサルで出た問題点を修正していく程度でしょう。」

マチルダがサラサラと答えながら、ちゃんと愛想良く微笑む。さすがエルネストの秘書。さすがクルーズグループ次期幹部。

「ありがとう。警備に関しては執行部隊が周辺と会場内を見回ってくれるわ。」

「げっ。おっさんくんの?」

「ええ、もちろん。イヴァンさんは連隊長だから。」

うぇぇ。おっさんと絡むの疲れるし、めんどくさいんだよなぁ。そう言って悪態をついてるとさっきの言葉に違和感を感じた。ただ、それを今このしごでき4人衆の前に口に出すことはできなかった。

「発足宣言の最後は演舞で終わりよ。スイ、マイ、マチルダ、マリウス、フィルマンで魔物の討伐とエルネストは5人のサポートをお願い。」

「イレア、20体だとすぐに終わってしまうことが予想されるから、攻撃の順番を決めておいた方が見る側も見やすいと思うわ。」

マイが資料を見ながら淡々と発言する。

「そうね。それに関しては執行部隊にも魔物を放つ順番を指示しておく必要があるわね。」

話しながらイレアが何か打ち込む。修正点をまとめているのだろう。

「順番は…最初にエルネストがサポートのメンタルアビリティをかけて、マリウス、フィルマンが演舞スタート。次にマチルダとマイ。最後にスイがまとめてで良いかしら?」

「そうね。マチルダ、後でどうやるか相談させて。」

「ええ。よろしくお願いします。」

マイがマチルダに淡々とお願いして、マチルダが愛想良く答える。その二人のやり取りをパチクリと見ていたのはフィルマンだった。

「え?何を相談する感じ?」

「同じ順番でやるならある程度段取りを決めておかないと、演舞にならないわ。だから、どうやってアビリティを使うか相談させてもらうのよ。」

マイが資料から目を離さずに淡々と答える。その言葉にフィルマンが、あぁ!と手を打ち納得する。

「俺らは…いつも通りでいっか。」

「あぁ。」

いつも通り、先日の事件で二人の連携を初めて見た。この二人は阿吽の呼吸でバッタバッタと魔物を倒していった。確かにあの感じであればわざわざ打ち合わせる必要はないだろう。

「二人は息ぴったりだもんね。」

「お、エンジェル!良くわかってるなぁ!俺らこう見えてベストパートナーなわけよ!」

なっ!と弾ける笑顔でマリウスに肩に手を回す。マリウスは死んだ目で一言。

「勘弁してくれ。」

と呆れるように呟く。

「なんでだよ!俺らナイスコンビネーションだろ!?」

「それはいい。ただベストパートナーとか言われると。…勘弁してくれ。」

「なんでだよ!!」

マリウス。なんとなくわからなくもないよ。わからなくも、ない。同情でマリウスを見つめる目が生暖かくなる。

「エンジェル??なんでそんな目をしているのかな?」

「…勘弁してあげて。」

「エンジェルまで!?」

悲鳴に近いツッコミが誰に拾われることもなく宙に浮かぶ。何事もなかったかのようにイレアが続ける。

「以上が発足宣言よ。次がレセプションね。」

「え、ちょ、イレアさ…。」

「イレア、資料はこれよね?」

異議を唱えようとするフィルマンを、わざとらしくエルネストが遮りイレアも同調する。

「ええ。じゃあ、それを開いて。」

「わかったわ。」

さっきまで何も言わずとも資料を追ってたエルネストがしっかり指示に従う。二人してフィルマンに無言の圧力をかけ黙らせる。二人の猛攻にフィルマンはグスンといたいけな瞳で何かを訴えていたけど、誰もそれに触れようとしなかった。

…今度フィルマンにチョコレートでもあげよう。ふと、そんなことを思った。

「レセプションは別会場に移るわ。国立競技場の近くの迎賓館で行う予定よ。流れはプログラムを見てちょうだい。ここではマイが挨拶をして、スイが乾杯の音頭をとる。マイ、練習いるかしら?」

「明日リハーサルができれば問題ないわ。」

「わかったわ。その後は各自歓談してもらうわ。マイ、エルネスト、マチルダは問題ないとして…。」

イレアの目線が私、フィルマン、マリウスに向けられる。

「フィルマン、マリウスは言葉遣いと簡単な時勢のことをこの後マチルダに教えてもらって。スイは入学前に言葉遣いを散々叩き込んだから大丈夫だと思うけど、エルネストにスピーチの仕方を教わりながら手解きを受けて。スイの場合、色々な人があなたに質問してくるから自分から話題を振る必要もないと思うわ。」

社交界未経験組が顔を強張らせてコクリと頷く。

その様子にイレアが今日初めての笑顔を見せる。

「3人ともそんなに緊張しなくて大丈夫よ。高校生に過剰な期待をしている来賓は来ないと思うわ。」

その言葉に3人して安堵のため息をつく。

「そうだよね…。でも、来賓って言われると緊張しちゃうし…。どんな人が来るかわからないからさ。」

安堵から頬が緩まり、ニヘラと笑いながら伝える。その言葉にイレアの表情が少し固まる。

「…それは最後のページに書いてあるわ。」

言われるがまま最後のページを見る。上から順にアリストタリア管理局局長や国と繋がりの強い大企業社長など名だたる著名人が名前を連ねる。凄い人たちが集まるんだなぁ。そう思いながら辿っていると一つの名前に目が止まる。

「いや、とんでもない名前ばかり並んでますけど?そんな人たちとご歓談できる自信ないですけど?」

フィルマンが頬を引き攣らせながら言う。それにマチルダが同意する。

「本当ですね。普通に生活していたら会えない方ばかりです。」

「マティ?これはチャンスよ。ターゲットを決めて確実に交流するわよ。」

エルネストが真剣な表情で真っ直ぐにマチルダに伝える。その瞳は芯のある輝きを放っていた。その表情にマチルダが嬉しそうに頷く。

「ええ。エル。怯んでいてはいけないですね。」

そんな勇ましいやり取りは水の中にいるように、ぼやけながら耳を振るわせる。私は一人その名前から目を離せなかった。

「…スイ。」

イレアがそっと私の手に触れる。その感触にハッと顔をあげる。

「スイさん?大丈夫ですか?顔色が良くないようですけれど…。」

マチルダがエルネスト越しに心配してきてくれる。慌ててマチルダの方を向いて笑顔を取り繕う。

「大丈夫!ごめんね、ちょっと知ってる名前があって。」

「知ってる名前?こん中に?すごい知り合いがいるもんだなぁ。」

フィルマンが感心しながらその紙を眺める。

そう、そこには研究局局長、リヒル・パトルシオの名前が黒のインクではっきりと書かれていた。

あの研究室室長の彼はこの国の研究のトップ。研究機関、研究局局長だった。

あの人が、来るんだ…。

自然と指先が冷たくなっていく。触れているイレアの手がそっと力が込められるのを感じ、イレアの方を見る。そこにはもどかしそうな顔をしたイレアがいた。

「まだ、この人が来るかは決まってないの。研究の調整次第。だけど…。」

イレアは苦しそうに言い淀む。わかっている。その言葉の続きは彼を知ってるものなら容易に想像がつく。背筋を逆撫でされるかのような寒気を感じながらその言葉の続きを紡ぐ。

「何がなんでもくるだろうね。私に会いに。」

観念したように紡いだ言葉は、自分自身を怯えさせるのに充分だった。冷たくなった指先に力がこもり、スカートに皺を作る。

イレアが眉間の皺を深くさせ、顔を強張らせる。


いけない、空気が重くなってしまった。なんのこっちゃ状態だよね。説明しないと。曖昧な笑顔を貼り付けみんなに重くならないように説明する。

「ごめん、変な感じになったね。このリヒル・パトルシオ…」

明るくしようと笑顔で声を張り、説明しようとしても、彼の名前を読んだ途端胸の奥から冷たく重い感情が溢れでた。その感情に声を振るわせ、言葉を詰まらせる。いつのまにか、頬を汗が伝う。体の底に染み付けられた恐怖が私を捉えて逃さない。

イレアの手が強く握られた。イレアが口を開き私の言葉の続きを話す。

「リヒル・パトルシオはここに書いてある通り、研究局局長で、スイの研究室室長でもあったの。」

「…なるほど。だからエンジェルはその人のことを知ってるわけか。」

フィルマンが珍しく真剣に言葉を受け止める。なんだかみんなの顔が見れなくて握ってくれるイレアの手を見つめる。

「そう。彼がスイの才能に狂酔しているのは彼を知っている人なら周知の事実よ。」

「だから、何がなんでもくる。スイに会いに。」

エルネストがどこか熱をはらみながら言葉を紡ぐ。らしくないその声についエルネストを見る。


エルネストはここにはいないその人を強く憎んでいるようだった。その積み重ねられたような憎しみの目線に見覚えがあった。昔、私はこの顔を見た気がする。その思いに先ほどまでの恐怖を少し忘れることができた。


「その人がスイを研究室に閉じ込めたトップ。スイの研究を率先して行なった人物よ。」

イレアが苦々しく伝える。イレアに言わせてしまった。力の込められたイレアの手を開いている手でそっと包み込み、安心させるように力を込める。先ほど彼女がやってくれたように。

「イレア、ありがとう。大丈夫だよ。」

安心させるように微笑み、みんなを見つめる。

「ごめんね。もし来ても慌てないように心の準備をしておくから!心配しないで!」

「アマミさん、無理しなくて良いわ。」

マイがこちらをじっと見つめる。まっすぐ向けられるその目線に笑顔で応える。

「大丈夫、突然来られるとまだ慌てちゃうけど、こうやってわかってれば対策できるし!研究室の時なんて毎日見てたわけだし、心配しないで!」

マイがこちらを伺うように目線を逸らさない。その目線に困っていた時フィルマンが言葉を発する。

「ちなみにその人の写真とかないの?もしエンジェルに近づこうとしてたら俺らがその人に話しかければいいんじゃね?」

フィルマンは私が困ってる時にさりげなく助け舟を出してくれる。さすが、実はできる男。もしかしたらモテ男。

「そうだな。俺もその人を知らないから、写真を見せてくれると助かる。」

マリウスが続く。さすがナイスコンビネーション。ベストパートナー。

二人の提案にイレアが首を振って答える。

「ないのよ…。彼は表に出ることを嫌っているし、写真も映らない。だから、彼に会ったことがないと彼のことは見れないの。」

「えーー秘密主義者なわけ?」

フィルマンが野次るように質問する。

「そうね。でも、この国の重鎮だから周りにたくさんの取り巻きがいるはずよ。説明されなくてもなんとなく彼だとわかるはず。」

「なるほど。大御所ぽい人に気をつければ良いだな!」

フィルマンが明るく答え、私に笑顔を向ける。

「エンジェル。心配しなくて大丈夫!大御所っぽい人には俺が片っ端から話しかけるから!その隙にイレアさんのところに行けばいいさ!」

ニカッと親しみやすい明るい笑顔をこちらに向けて、安心させようとしてくれる。本当にこの人は優しいなぁ。素直にその優しさを受け止めて頬を緩める。

「フィルマン…ありがと。」

「で、全然違う人に話しかけてたりしてな。」

マリウスが珍しく笑いながら揶揄う。それにフィルマンも面白そうに応える。

「それ、やるんだよなぁ。俺。」

そのやりとりに、私とマチルダがクスクス笑い、エルネストが呆れたようにため息をつく。イレアとマイは何やら真剣にこちらを見ていたがイレアに関してはきっとまた、変なことを勘繰っているんだろう。


「じゃあ、各自さっき伝えたことをお願い。フィルマンとマリウスはマチルダに社交界について教えてもらって。スイはエルネストにスピーチと簡単な交流のマナーを。マイは悪いけど私の手伝いをお願いできる?」

「ええ。」

マイが淡々と返事をして、一旦全員での話し合いは解散になった。

私とエルネストは生徒会長室で練習しようと、隣の部屋に移る。扉を開こうと手を伸ばした時に何やら視線を感じてそちらを向くとマイとばっちり目があった。あまりにバッチリ合うもので少しびっくりした。

「マイ?どうしたの?」

「…なんでもないわ。」

そういうとビジョンをつけてイレアに何やら質問をし始めた。まだ心配していたのかな?首を傾げてマイを見ていると、後ろからトンと背中を叩かれた。

「早く行くわよ。」

「あ、うん。」

エルネストが後ろから急かしてきていた。その言葉に扉を開き、生徒会長室に移動する。


いつもの長椅子に座るとエルネストが生徒会長室をぐるりと観察するように見渡す。

「ふーん、こんなふうになってたのね。」

「あ、そっか、エルネストはここ入るの初めてか。」

「ええ、いつもあの第4位様と出てくるじゃない。」

第4位様。マイのことだろう。皮肉るように話すそれに少し引っかかる。

「なんで、エルネストはマイのことそんなに突っかかるの?」

こちらをチラッとみて気だるそうに言葉を紡ぐ。

「突っかかってなんてないわぁ。ただ、生まれた家に縛られてるあの子が私より順位が上なのが腹立つのよ。」

「それはつまり、気に食わないから突っかかってるのでは…?」

その言葉にエルネストが私の足を蹴る。スネに痛みが走ると思いきや案外痛くなかった。この人、体にどう力を入れていいかわからないタイプの人だ。なんとなく運動ができないことを理解した。

「フェルバーグに生まれたからって、それに縛られて。それ以外はつまらなそうにして。気に食わないのよ。」

確かにそれは、マイのお父さんも言っていた。あの子はフェルバーグにこだわりすぎていると。でもそれは、大企業の次期社長も一緒なんじゃないのかな。

「…エルネストは違うの?」

その言葉に、その柔らかなピンクの瞳が何か伝えるようにこちらをじっと見つめる。その潤っている薄い唇はゆっくりと開かれる。

「私は、権力が欲しい。誰もが従うような。そのために1番利用しやすいのはクルーズグループなのよ。だからクルーズに生まれたからじゃない。私は私の意思でこの家を利用するの。」

権力が欲しい。なんだかエルネストとかけ離れている気がした。少ししか彼女のことを知らないけれど、部下を思いやり、誰かが怯えていたら安心させるように声をかけて、傷ついている人がいれば迷わず治しにいく。普段は気だるそうに皮肉をたくさん言うけれど、誰かが傷ついていたら手を伸ばしてしまう。そんな人だと思う。だからマチルダがあんなに信頼して、敬愛している。

「権力かぁ。」

ボソッと呟く。私の知っている権力は恐ろしいものでしかなかった。私と奈月の日常を簡単に奪い去り、あの研究を正当化させる。エルネストみたいな人が権力を持ったらもっと良くなるのかな?

「エルネストが権力を持ったらみんな幸せもね。」

その呟きにエルネストは苦しそうに目を細める。それを隠すように髪をかきあげ、溢れんばかりの自信を口元に宿し言葉を紡ぐ。

「当たり前でしょ?私を誰だと思ってんのよ?」

その言葉にクスッと笑いが溢れる。

「そうだね。エルネストだもんね。」

「ええ。私が権力を握ったらまず最初にこの部屋を取り壊すわ。」

「…?は?なんで?」

突然の生徒会長部屋解体の危機。文脈がわからなくてクエッションマークが溢れかえる。

「だってこんなイチャイチャするだけの部屋でしょ?」

「…ん??」

「だから、マイ・フェルバーグとあんたがイチャイチャするだけの部屋なんてもったいないじゃない。だったら…。」

「ちょ!!!ちょっと待って??」

頬が急速に熱を帯びるのを感じる。この人まで!

「なによ?」

太々しく聞き返すエルネストに必死になって否定してしまう。

「いや!イチャイチャなんてしてないよ!なんでフィルマンと同じこと言うの!?」

「あら?違うの?」

その口角は揶揄うように楽しそうに持ち上げられていた。

「違うよ!ちゃんと生徒会長業務してます!それをマイが教えてくれてるだけだから!」

「そう?あなたはそう思ってるだけかもしれないけど、あっちはそうじゃないかもしれないわよ?」

意味ありげに目を細め、口角は相変わらず楽しそうに持ち上げられている。

「え?いや、そんなことないよ!」

「なんでわかるのよ?」

「わかるって言うか、逆にそんなことマイが思ってるわけ…。」

「ないことないと思うわよ?」

ゆったりとエルネストが否定する。

「だってさっきの目見た?私とあんたがこの部屋に入ろうとした時、マイ・フェルバーク何か言いたげだったじゃない。」

さっきの目。確かにこの部屋に入る前、マイがこちらをじっと見ていた。あの目がなんだって…。エルネストがゆっくり意地悪そうに言葉を紡ぐ。

「私との愛の巣に違う女を連れ込んで…って目でしょ?」

「ーっ!!」

頬の熱が耳まで広がり、顔が赤くなってる事が鏡見なくてもわかる。あの目がそんな意味なわけ…!

私の様子をニヤニヤ楽しそうに見つめてるエルネストにどんどん不満を抱く。このニヤついている次期社長に仕返ししてやろう。冷静になれ。この恥ずかしめをお返ししてやる。

「へぇ、だとしたら、エルネストはこの愛の巣で私とイチャイチャしてくれるの?」

「は?」

エルネストの綺麗に流れる金髪に手を触れる。その柔らかい髪を彼女の耳にかける。隣の部屋に間違っても聞こえないようにエルネストの耳元で囁く。

「この部屋で今はエルネストが相手してくれるの?」

「ーーっ!!」

エルネストの柔らかな耳が熱をはらみピンク色に染まっていく。エルネストがこちらを睨み、その薄い唇をパクパクさせながら言葉を発する。

「やっぱり!そう言うことっ!!」

「どう言う事?」

ピシャリと言葉を遮り聞き返す。その言葉に薄いピンク色の瞳がまんまるになり、やがて何かいいたげにこちらを睨みつける。

よし。こちらが優勢になっているんだろう。それをいい気にエルネストにさらに近づく。エルネストが背もたれづたえに逃げようとしている。それを遮るように背もたれに腕をつく。

このチャンスを逃すものか!覆うようにエルネストを捉え耳元に囁く。

「エルネスト?」

「ーっ!!あんたいい加減に!!」

エルネストが私をドンと突き放す。その強くも弱くもない力にバランスを崩してしまう。

「ちょ、うわ!!」

「え?!」

バランスを崩した私をエルネストが支えれるわけもなく二人して長椅子に倒れ込む。

「エルネスト!ごめん!ふざけすぎた…。」

「あんたね…。」

エルネストは綺麗な金髪を長椅子に惜しげもなく広げ、その上に仰向けに倒れ込んだ。目を逸らし、呆れたように頬を赤ながら呟くエルネストはなんかちょっと色っぽかった。

「スイ?ちゃんと練習してるの?」

「エンジェル?大きな音聞こえたけど大丈夫?」

生徒会長室の扉がおもむろに開かれ、イレアが様子を見に入ってきた。その横にヒョイとフィルマンが顔を覗かせる。


「…。」

「…。」

「…。」

「きゃっ!」

私とエルネストはこの状況をどう説明するか黙り込み、イレアはこの状況をどう理解すればいいのかこちらを観察していた。あ、ちなみに最後の乙女チックな悲鳴はフィルマンによるものです。

顔を赤らめ、長椅子に横たわるエルネスト。それを覆い被さるように見つめる私。とてもじゃないけどスピーチの練習には見えないだろう。

3人の死んだ目が交差する。

「エル?どうしたんです?」

奥からマチルダの疑問の声が聞こえる。

「マチィ!!大丈夫だから!エルネストはちょっと今最高にいい感じになってるだけだから!!」

フィルマンがこの光景を見せないようにマチルダを遠ざける。

「え!?エル!?なんですか!?最高にいい感じとは!?」

マチルダが興奮気味に聞いている。見えないけど、多分爛々と目を輝かせているんだろう。

「マチィ!まだ君には早すぎる!!これは16禁です!!」

なんだよ16禁て。それにマチィって。優しき変態同士いつの間に仲良くなってたの。

「フィルマン!自分だけズルいです!!」

謎の抗議が聞こえるその手前でイレアが私を観察するように見つめる。

「スイ?これは?」

「あ、えっと、その…。」

なんて言えば…。下にいるミス正論を見ると自業自得だと言うように目を逸らされる。…そうですよね。

「ちょっとその、お互いからかいすぎてしまって…。」

「そう。」

その一言が何故か辛い。グッと唾を飲む。

イレアの目線が仕事モードに切り替わった。

「私はなんて言ったか覚えている?」

「…はい。スピーチの仕方をおそわれと…。」

「ええ。おそえとは言ってないのよ?」

誰が上手いこと言えと?そんなこと明らかにお怒りモードの彼女に言えるはずもなくすみませんと一言呟く。黙ってこちらを見るイレアに怯えながらエルネストに手を差し出す。

「ごめんね。」

「…私もからかいすぎたわ。」

お互い反省を述べて、向き直る。イレアの方を向いて頭を下げる。

「すみませんでした。ちゃんとやります。」

「…ちゃんとしなさい。」

「はい。」

こちらをじっと見つめて、扉を閉めようとした時、イレアが一言。

「ちゃんとするのよ?」

念押しをしてきた。

「はい。すみませんでした。」

扉がパタンと閉まり、気まずい沈黙が二人を包む。


「エルネスト、ごめんね?」

ふざけすぎてしまった彼女に謝罪を伝える。

「いいわよ。私もからかいすぎた自覚はあるもの。」

目を逸らし、まだ引いていない赤みを頬に宿しながらつぶやくように答える。

「…あんた、アレ、他の人にやるのやめなさいよ?」

「え?」

「さっきの、アレ…。」

「さっきの耳かけたやつ?」

「…それと耳元で話すのとか。」

珍しく言い淀みながら伝えるエルネストに今更申し訳なさを感じながら言葉を紡ぐ。

「やらないよ。エルネストが初めてだし。」

「…!そう言うのも含めてよ!」

エルネストの大きな声にしーっと指を立てる。エルネストが不服そうに口をつぐむ。

「…なんかよくわからないけど、わかったよ。てか、そんな揶揄い方してくるのエルネストだけだし…。」

拗ねるように答えると、目を少し見開きやっといつもの余裕の笑みを浮かべる。

「悪かったわね。」

「いいよ。スピーチの練習しよ?」

「そうね、その前に。」

まだ何かあるの?そういおうとした時、左手の袖を捲られた。呆れるようにエルネストが呟く。

「どうしたらこんなに跡がつくのよ?」

さっきマイが握っていた所。よくわかったなぁと感心しながらエルネストを見ると、感情が顔に出ていたのがクスッと笑いながら口を開く。

「あんたが背もたれに腕をついた時に見えたのよ。心配してたのにあんたが悪ふざけを続けて。」

「それは、ごめん。」

楽しそうに微笑みながらエルネストが左手をそっと包み、緑の光が優しく手首を照らす。

「いいわよ。あとあんたまだ疲れ抜けてないでしょ?」

「え?よくわかったね?」

「当たり前でしょ?誰だと思ってんのよ?」

「さすがぁ。」

感嘆を挙げて、目の前の緑の光を見つめる。やっぱりこの光、昔も見たことある気がする。

「あのさ、私前に、エルネストと会ったことある?」

その問いかけにエルネストの緑の光が少し揺れた気がした。

「…なんで?」

「いや、なんか、この光、昔に見たことある気がしたんだよね…。」

「そう。」

エルネストの顔を覗き込むと、その緑の光に照らされて眩しそうに目を細めていた。眩しいのかな…?この綺麗な優しい光を見て目に刺激を与えられた覚えはなかった。

「勘違いだと思うわ。」

そういうと私の手首から光が消え、手を離す。赤くなっていたあの跡はもうすっかりなくなっていた。

「そう?それにしてもエルネストのアビリティはやっぱりすごいね!こんなに綺麗に治るなんて!」

「あんたもやろうと思えばできるでしょ?」

「でも無痛じゃないよ?私のはどちらかというと欠損した場所を作り出すって感じだからさ。」

「…知ってるわ。」

「ん?」

エルネストの言葉が急に小さくなり、聞き取れなかった。

「次、目を閉じて。疲労回復させるわよ。」

「あ、うん、ありがとう。」

言われるがまま目を閉じてエルネストの光を感じる。やっぱり勘違いじゃないと思うけど…。でも、エルネストがそう言うならそうなんだろう。

「いいわよ。」

その言葉に目をあけて、立ち上がると先ほどまでと体の重さが違っていた。肩を回し、感心しながら伝える。

「すごいなぁ!全然重さが違うよ!」

「…なんか、おじさんみたいな反応ね。」

…。ちょっといやだ。頭の中であのおっさんが笑顔で通り過ぎていった。そう言うつもりで言ったわけじゃないんだろうけど。嫌だった。すごく嫌だった。

「エルネスト。練習しよ?」

「…ええ。」


時間になったのか、イレアがノックをして部屋に入ってくる。こちらをじっと見つめてつぶやく。

「ちゃんとやってたみたいね。」

「…はい。」

今日のイレアには逆らわないようにしよう。

「終わりにするから集まってちょうだい。」

その言葉にエルネストと一緒に生徒会室に移動する。いつもの長椅子にすでにマイが座っていて変な感じがした。

いつもの位置に座るとマチルダが我慢できないようにエルネストにコソコソと質問をしていた。

「エル!さっきのはなんだったんです?16禁って…。」

「マティ。そこのバカにバカをうつされるのやめなさい。」

エルネストが冷ややかに伝える。馬鹿にされてもフィルマンは余裕綽々に言葉を紡ぐ。

「マチィ、エルネストが恥ずかしがってるからやめてやりなさい。」

「まぁ!エル!そんな恥ずかしいことだったのですか!?」

やっぱり、マチルダさん、爛々としてらっしゃる。苦笑いでエルネストを見ると、呆れたように手をを額に当てため息をつく。

「違うわよ。イレア、締めるんじゃなかったの?」

強制終了させようとイレアに話を振る。

「…そうね。エルネストとスイがイチャイチャしてたのは一旦忘れて締めましょうか。」

「やっぱり!」

マチルダがそれはもう嬉しそうに両手を合わせていた。

「エル!どんなふうにしたか教えてくださいね!」

なんかとんでもないお願いしてない?この人?なんやかんやこの人が1番危ない気がする。

エルネストがマチルダを呆れるように睨み、私がイレアに抗議するようにジト目で見つめる。自分たちがいけないんでしょと言わんばかりにイレアが見つめ返してくる。

その瞳にすぐに降参し目を逸らすと、マイと目が合った。そのラベンダー色の瞳がこちらをまっすぐ映す。感情が読み取れず首を傾げ微笑むとイレアの方にスッと向き直っていた。なんかちょっと傷ついた。

イレアがまとめるように言葉を紡ぐ。

「明日は発足宣言のリハーサルになるわ。まずはここに集まって、車で移動する予定だから。各自いつも通りここにきてちょうだい。以上よ。」

その言葉で締め括られ活動が終了した。



家に帰り、メディカルチェックとトレーニングを終えてイレアとご飯を食べていた。なんとなく予測していた質問がイレアから紡がれた。

「で?エルネストの事…。」

「違うから。」

ため息混じりに否定する。やっぱり聞いてくると思った。

「そうなの?押し倒しておいて?」

押し倒す。そのワードに少し頬が熱くなる。気づかせないように言葉を続ける。

「あれは事故と言いますか。」

「エルネストの顔、赤かったけれど?」

「あれは…。」

「あれは?」

その言葉にどう続ければいいのか思案していると、イレアがじっと見つめてくる。

「スイ、事実を言いなさい。」

もう尋問だよね?でもまぁ、事実を言えば事故だと伝わるとは思う。

「…最初エルネストがからかってきたんだよ。」

「なんて?」

「…生徒会長室が私とマイの…その…。」

思い出すとやはり頬が熱くなる。て言うかみんなほんとにこの手の話題好きだよね?

「スイとマイの?」

その言葉の続きを求めるようにイレアが繰り返す。

「…愛の巣だって。」

「ふーん。それだけ?」

なんだよ。こっちが恥ずかしいのを我慢して言ってるのに。

「マイが私とエルネストが生徒会室に入ろうとしたのを見てて。エルネストが愛の巣に他の女を連れ込んでって顔してたってふざけだして…。」

「さすが、エルネスト。」

何が流石なのさ。抗議しようと思ったけどきっとまた返り討ちにされるから黙っておく。

「それになんだか、ムカッてして…。」

「押し倒したの?」

「あ、いや、あれはほんとに事故で。」

「そうなの?」

イレアが少し驚いたようにこちらをチラッと見つめ、今日の夜ご飯チキンステーキをつまむ。

「うん、まぁ…。その。散々揶揄われて、悔しかったから仕返ししたんだけど…。」

「へぇ、仕返し?」

珍しいと言うように眉を上げる。ただ手と口は休まずにご飯を食べ進める。

「うん…。そんな愛の巣に来たってことはエルネストがイチャイチャしてくれるの?ってふざけたんだ。みんなに聞こえると勘違いされるから、耳元で小声で。」

その言葉にイレアがパッと顔を上げてこちらを見つめる。目をぱちくりさせて、その黄色の瞳で驚いたようにこちらを見つめる。何も言ってこないので話を続けて、終わらせてしまいたかった。

「流石にびっくりしたみたいで、逃げようとするから腕で逃げ場を塞いで。そしたらエルネストが私を突き放すように両手で押すからバランス崩しちゃって…。押し倒すみたいな感じで二人で倒れ込んで、イレアとフィルマンに見られたって感じかな。」

相変わらず目をぱちくりさせ、こちらを見つめていた。その目がなんだか居心地悪く、ご飯をパクパク食べ進める。

イレアが箸をおいて、大きなため息をつく。

「やっぱり、あの時、ちゃんと理解してなかったのね。」

「なんの話?」

「スイ、あんたね、相手がエルネストだったからよかったけど…。」

イレアが自分の言葉に何か悩むように考え込む。

「…良くないわね。」

何故か一人で納得して話を進める。

「スイ、あなたは自分を客観的に見れてなさすぎなのよ。」

「そんなことないと思うけど…。」

「そんなことあるわ。」

ピシャリと否定され、ウッと言葉を飲み込む。

「あなたみたいなのに迫られたら男女問わずドギマギしちゃうわよ。最悪、その悪ふざけであなたのことを好きになってみなさいよ。あなたはそんなつもりなくても、相手はその気になって辛い思いさせるだけよ?」

「いや、いや、私そんな…」

「エルネストでさえ赤くなってたじゃない。」

…。思い出されるのは長椅子に横たわり、頬を赤く染めたエルネストだった。…なんもいえねぇ。

「これに懲りたら、そんな慣れないことしないの。」

「…はい。」

ちゃんとした説教にしゅんとなる。私なんかに迫られてドキドキするかね?わからんなぁ…。一人でぶつくさひとりごちる。

「私は今日の活動でフィルマンも悪くないかなと思ったわよ?」

また、その手の話か…。もう疲れて反応すら鈍くなる。吐き出される言葉がため息と一緒に出てきてしまう。

「なんでまた急に。フィルマン反対派だったじゃん。」

「あなたを安心させようとしてたし、自分が時間を作ってあなたを私のところに行くよう言ってたから。」

「なんでそれが?フィルマンはいつだって優しいよ?」

「自分本位の人はくっついて欲しさに、俺が助けるよ、俺のそばにとか言うんだけどフィルマンは私のところに行けって言ったのよ?あなたが安心するのは自分の近くじゃないって理解してるし、あなたのことを思ってるって感じたのよ。」

なるほど。イレアの人を見る目はなかなかのものなのかもしれない。ふーんと感心しているとイレアが怪訝そうな目でこちらを見つめる。

「あなたの話をしているのだけど?」

「それはわかってるんだけどさぁ。」

「何よ?」

「私、みんなをみんなそんな目で見れないよ?」

ご飯をパクパク食べ進める。ここ最近思ってた事を言葉にする。

「正直さ、誰か一人を特別に思う事ってあるのかな?奈月は友達の中でも特別。小さい頃から一緒だし、お互い大体のことは知ってる。イレアだって特別。研究室で私を守ってくれた唯一の人だし、大切に想ってくれるし、私も想ってる。みんなは知り合ったばかりだけど、エルネストは不器用だけど困ってる人ほっとけないところが好き。フィルマンは変態だけど気遣いができて雰囲気を明るくしてくれるところが好き。だからさ、わからないんだよね。」

「わからない?」

「好きかどうか言われたらみんな好き。でも一人だけ特別に想うとかは違うんだよなぁ。奈月もイレアも特別。きっと生徒会メンバーだって特別になってくる。イレアの言う好きに誰か一人当てはまるかって言われたら全然わからないし、これからわかる日がくるかも謎。」

イレアがその言葉に思案するように指を下唇に添わす。その様子をチラリと見ながらご飯を食べ続ける。

「…スイは誰かに取られたくない人っているの?」

考えた末にイレアが問いかけてくる。

「誰かに取られたくない?」

「例えば、この人に触れないで欲しいとか、誰かに笑いかけてる姿を見てムカッとするとか、誰かと仲良くしている姿に焦るとか。」

「えー…?」

また難しい質問をしてくるなぁ。この人に触れないで欲しい…?ムカッとか焦りかぁ…。そう言えば、今日イレアに感じた違和感を思い出す。

あの時イレアはおっさんのことをイヴァン"さん"って呼んでた。ちょっと前までイヴァン隊長だったはず…。いつの間に呼び方が変わったのだろうか。まさかもうご飯に…?

そう思うと胸の奥がザワザワと何かに急かされるような感覚になる。

…流石にこの疑問をしごできモード4人衆の前に送り出す事はできなかったから後で聞こうと思っていたんだ。


「イレアかな?」

「はっ?!」

イレアから上擦った声が上がった。その声の主に目を向けると、驚いたように目を見開き掴んでいたチキンを白米の上に落とす。あまりにも驚いている顔にどうしたのか尋ねる。

「え、なに?大丈夫?」

「…なんで私なのよ?」

「なんでってそう思ったから?」

難問の答えを出題者に回答し、合ってるかどうかの確認をしないまま、ご飯を食べ終えて、お皿を片付ける。イレアを見るとまだ食べてる途中みたいだったから自分のだけ流しに持っていく。

食後の紅茶を淹れようと、お湯を沸かす。一応二人分。

後ろからイレアが小さい声で、そう、と呟いたのが聞こえた。


イレアも食べ終えたらしく、流しに食器を持ってきて水に浸ける。

「イレアも紅茶飲むでしょ?」

「…ええ。」

「おっけー。」

ポットとマグカップを用意している私の隣でイレアが洗い物を始めた。イレアの長い指が泡まみれになりながら食器を掴み、汚れを包んでいく。

お湯が沸いた音を聞いて紅茶を淹れていく。お湯に触れられ茶葉が香り立つ。アールグレイの華やかな香りが鼻腔を優しく満たす。2分ほど蒸らす間にミルクを温める。なんとなくこの時間が好きだった。いい香りに包まれながら準備する。その時間が紅茶の醍醐味な気がする。

ミルクが温まり、紅茶の茶葉を捨てる。ソファの前のテーブルに置いて砂糖やらクッキーやらを持っていく。

ちょうどいい頃合いでカップに紅茶を注ぐ。先ほどより紅茶の香りが強く感じられる。

「イレア、入ったよ。」

ちょうど洗い物が終わったらしく、手を拭いているイレアに声をかける。

「ええ。」

そういうとイレアは私の隣に腰掛け、紅茶を見る。

「相変わらず丁寧に入れるのね。」

「うん、まぁね。ミルクとお砂糖はお好きにどうぞ。」

そう伝えるとイレアはミルクだけ入れて、口元にマグカップを持って火傷しないようにゆっくり口をつける。

「美味しい?」

「ええ。美味しいわ。」

「そう、よかった。」

その言葉についつい頬が持ち上がる。イレアが何故か照れたように目を背ける。その違和感を感じつつ、生徒会中のあの違和感の答えを聞こうと試みる。

「イレアさ、おっさんとご飯行ったの?」

「…っ!…なんでよ?」

何故かイレアが戸惑いながら質問に質問で返される。そんなに慌てられると変なことを勘繰ってしまう。イレアにとっておっさんって特別な人なの…?よりにもよっておっさんなの…?イレアの人を見る目は信頼できそうだし、みんなにも散々私が心配することじゃないって言われてるけどさぁ…。胸の奥がチリッと痛む。

「いや、今日、生徒会中にさ、イレア、おっさんのことイヴァンさんって。今までイヴァン隊長っていってたからさ。何かあったのかなぁ?って」

なんとなく焦りを隠すように紅茶を飲み込む。イレアがまたこちらを見てパチクリと目を見開く。

「よくそんなこと気がついたわね。」

「まぁ、ね。なんとなくあれ?って思ったんだ。」

そう、とまた呟くイレアを横目で見ると、その耳が少し色づいていることに気が付いた。あぁ、なるほど。やっぱりおっさんなのか。

昨日ぶりの寂しさが蘇る。なんとなくイレアの中で私が一番優先されることに慣れてしまっていた。なんと贅沢な慣れをしてしまったんだろう。

『大丈夫、あなたを蔑ろにはしないわ。』

あの時のイレアの言葉が思い出される。蔑ろにはしないだろうけど、私じゃなくておっさんが1番になるのか。いやもうなってるのかもしれない。なんだかその事実に胸が締め付けられた。きっとここで変な顔したらまたイレアを縛り付けてしまう。その罪悪感から私達はまたすれ違ってしまう。ここは大人になれよ天海翠。

「まぁ、良いんだけどさ。おっさんとご飯行っても。ただ心の準備だけ欲しいなぁって。」

さも普通にしているようにまた紅茶を啜る。

「…心の準備?」

イレアが呟くように問いかける。

「うん。イレアの中で優先順位が変わるよって教えておいて欲しいかな。もう少しで私じゃなくておっさんが優先されるよーって。」

ふざけるように言葉を紡ぐ。ふざけてないと私の汚い部分がイレアに伝わってしまう。

「順位が変わる自体はいいの?」

その言葉が耳を掠める。そんな核心をつく質問をされてもなぁ。

「仕方ないよ。イレアには好きな人と幸せになって欲しいもん。」

それ以外の回答はないでしょ?イレアに困ったように笑いかける。イレアが静かに問いかける。

「さっき、スイは触れないで欲しいとか、他の人と仲良くなって焦る人いるかって聞いたら私だって言ったじゃない…?あれは?」

「あれは…そうだなぁ…おっさんがイレアと親密になっていくのに焦ったんだよ。やっぱ、イレアが私のことを大切にしてくれてるってわかってたから。なんとなくそれが取られちゃうようで。」

恥ずかしいなぁと頬をかくとその軽い刺激に、胸の締め付けが分散されるようだった。

「はぁー。」

その言葉にイレアが今日1番の大きなため息を吐く。あまりに大きなため息で少し驚いてしまう。

「え?なに?」

「スイ、本当に、あなたは…。」

再びため息混じりにつぶやく。疲れたようにイレアが私に寄りかかり、肩に頭を乗せる。突然の行動についていけない。クエッションマークが乱立する。

「スイ、私にドキッとした事は?」

「え、イレアに?なんで?」

「いいからあるの?」

「んー…。」

思い出したら一度だけ、お風呂上がりに髪が濡れたまま出てきた時はあったけど6年間でそのくらいかな?

「一回だけ、前、ケンカ?した日にイレアがお風呂上がり髪乾かさないで出てきたでしょ?あの時はドキってしたかな?」

「…あ、そう。」

「でもあれは、みんなドキってすると思うよ?イレアナチュラル美人だし、薄着だったし、髪濡れててなんかエロかったし。」

「…。」

「いでででで!」

イレアが思いっきり二の腕をつねってきた。ここ一番いたいところだよね?涙目になりながらつねられたところをさする。

「全く、あなたは本当に、びっくりさせるんだから。」

「何がだよぉ。」

もう全然わからない。イレア心理解できない。

「ちなみに最初の質問、イヴァンさんとご飯は行ってないわ。て言うか昨日も今日も一緒に食べてるのにどんな質問よ?」

「…確かに。」

そう言えばそうだった。じゃあなんで呼び方変わったの?その質問をする前にイレアから回答が返ってきた。

「昼、あなたたちが授業受けてる間、発足宣言の警備のことで連絡してたの。そしたら隊長とか硬いからイヴァンさんにしてくれって。ただそれだけよ。」

それでもおっさんがイレアと距離を縮めてることは確かじゃないの…。でも、確かに、私が思ってた事よりは全然"それだけ"だった。

「それに前も言ったけど、私、今十分幸せなの。あなたが私の中で一番でいてくれて幸せなのよ。」

その言葉に胸がじわぁっと温められる。その温かさにそれでいいのかと小さな疑問が生まれる。

「でも、そのうちそうじゃなくなるかもしれないでしょ…?その時は心の準備が必要だからさ…言って欲しいなぁって。」

「必要ないわよ。そんな日来ないんだから。」

あまりにストレートな宣言につい口元が緩みそうになり、グッと噛んで押さえつける。

「そんなのわからないじゃん…。」

「わかるわよ。冷静に考えて?私今までの人生で誰かを自分より大切に思ったことないのよ?それが唯一初めて感じたのがあなたで、こんなにも大切に、愛しく思っているのをそうそう超える人なんて出てこないわよ。」

ちょっと今日のイレアさん、ストレートすぎませんか?完全に緩んだ顔を見られたくなくて両手で顔を隠す。

「どうしたの?」

なんなのこの人?わざとやってるの?熱が頬をつたい、耳まで赤くなっていることを感じる。

「イレア、ストレートすぎ…。なんか、恥ずかしいよ。」

イレアがコロコロと喉を鳴らす。とても愉快そうに細かく揺れていた。

「今日のエルネストと私の気持ちがわかったみたいでよかったわ。」

エルネストは…そうだね。私、からかいすぎたね。でも…。

「なんで?イレアにそんな事した?」

「…さすが無自覚。天然鈍感タラシ。」

「ちょっと?」

抗議の声を上げる。随分な言い方するじゃん。

「さっき触れないで欲しいとか聞いたのは、嫉妬する人はいるのか?って事なのよ。そしたらスイ、私って答えたから、びっくりしたわよ。でも、まぁ、それはそう言うんじゃなくて、私と同じような感情よね。」

あぁ、だからあの時、変な声出してたんだ。納得してなるほどなぁとひとりごちる。

「スイが誰かと楽しそうにしていると嬉しいし、距離を縮めてくれるのは安心する。でも、どこか離れていってしまうようで寂しい。きっとスイも同じでしょ?私の中でスイの居場所が変わるかもしれない。それが寂しく感じたんでしょ?」

多分イレアの言う通り。イレアにはイレアが大切に思う人と心から幸せになって欲しい。でも、イレアの中で私の立ち位置が、扱いが変わってしまうのが怖いんだ。

「…うん。」

呟くように返事をする。それにイレアがふっと笑う。

「大丈夫よ。きっと私に恋人ができても、あなたの存在を大切にしてくれる人だと思うから。」

「なんか、いいのかな。」

イレアの頭に寄りかかるように、頬を当てる。イレアのシャンプーの香りがする。イレアがフッと息を吐く。きっと笑ったんだと思う。

「いいのよ。それにしてもスイって、ずいぶん自信家よね。」

「ん?」

「だってさっきの不安も自分が私の中で1番って疑ってないんじゃない?」

「…。違うの?」

そう言われるととんでもなく恥ずかしいことを言ったと自覚する。今更それひっくり返してくるのやめてよ。

「違わないけど。」

また愉快そうに小刻みに揺れ、喉をコロコロと鳴らす。

「なんだよぉ。」

「まぁ、そう考えるとイヴァンさんはいい相手なのよね。」

「…え?」

「だってあなたの事情も知ってて、前回あなたをおぶって帰ってきてくれたし。」

条件は当てはまるわねと真剣につぶやく。

「いや、待ってイレア。そんな、ほら、まだね?イレア自身もちゃんと好きにならないと。」

「私、イヴァンさん嫌いじゃないのよ?」

「…。ちょぉーと考えてみた方がいいと思うなぁ!」

その言葉にイレアがまた楽しそうに笑う。イレアが楽しそうでなんだか嬉しかった。

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