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チートだったら神さまになれるって本当ですか?  作者: 上野史華
チートだったら生徒会長になれるって本当ですか?
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入学祝い

私、天海翠【スイ・アマミ】が生活しているこの国、アリストタリアは、唯一の研究共有国として国全体が研究施設になっている。

人類の進化を探るこの国の研究施設の半数は、教育機関としての側面も色濃く、施設だけではなく人口の半分も学生だ。加盟国の子供たちは6歳になるとアリストタリアに入国、各学校へ入学することになっている。

なぜ研究共有国がわざわざ他の国の子供まで教育しているかというと、「教育の中で人類の成長を促す」という大義名分があるそうだ。それに賛同した加盟国が自国の子供達をアリストタリアに入学させている。

アリストタリアの教育機関はそれぞれ小学校、中学校、高等学校、大学と分かれており、大学まで義務化されている。

学校の形態は様々で、各々学校を選んで毎回受験をする人もいれば、学園の中でエスカレーター式に上がっていく人もいる。


かく言う私は小学校3年で専門機関の研究室に入れられて中学校は通えなかったんだけどね。だからなんとしても高校は普通に過ごしたい。

そんな意気込みのなか新居へ引っ越し中である。

「引っ越しって言っても荷物もほとんどないんだけどねぇ。」

頬杖をつき助手席で流れていく景色を眺めながらつぶやく。暗い場所を通るとエメラルドグリーンの瞳と銀髪が反射し、少しギョッとする。

「あなたの場合全部国が用意してくれてるものね。」

隣で返答してくれるのはイレア・ユーリアル。私がいた研究室の研究員の一人で、24歳ながら研究局のお偉いさん大注目のエリート研究員とのこと。正直研究されてる方からしたらわからないんだけども。

イレアは綺麗な桜色の長い髪の毛に、整った顔立ちをしていて、研究室で目立っていた。研究室でなくともおそらく目立つんだろうなぁこの美人は。

「おーう、お上のお心遣い感謝致しますぅ」

「思ってないでしょ。」

「思ってる、思ってるよぉ。」

おどけながら、イレアの横顔に目を向ける。トンネルに入り、オレンジの光がイレアの綺麗な肌を撫でる。今日も今日とてビジュアルがお強いこと。

「なに?何かついてる?」

目線に気がついたのかイレアがチラッとミラー越しにこちらを見る。素直に伝えるのがなんだか恥ずかしくて別のことを言う。

「いやぁ、車の運転なんてできるんだなあって」

「できるわよ、この国だと大体高校のうちにできるようになるわよ。」

「えー私できるかなぁ」

「あんたは大抵のことさっさとできるようになるじゃない。心配いらないわ。」

「あ、なんかありがとう」


イレアとは9歳からの付き合いでかれこれ6年の仲になる。研究室で話相手になってくれたり、勉強に付き合ったくれたり、とにかく一緒にいてくれた。久々に外に出た時も隣にいてくれたのはイレアだった。

姉のような、母のような、とりあえず私の圧倒的保護者だった。

私が6年ぶりに研究室の外に住むことになって、日々のメディカルチェックや活動報告など担当する研究員が必要と言われた。その時はもう必死に、どうか圧倒的保護者イレアになってくれとずっとお祈りしていた。神様ありがとう。


「神様っているんだなぁ」

しみじみ呟いてみた。

「とうとう、そう言うことを信じるようになったのね。」

「え、馬鹿にしてる?だめなんだよ。バチ当たるよ。」

「研究大国で非科学的な神様なんて言う方がバチ当たりよ。」

「自分たちだって散々言ってたじゃん。私を進化の可能性だとか、人類の宝だとか、挙げ句の果てに神にするとか。」

「それをバチ当たりだって言ってんのよ。」

イレアは感情なく淡々と答える。

研究室での実験を思い出しているんだろう、イレアの横顔が少し強張っている気がした。それに親しみと虚しさを感じる。

「…そうだね、イレアの正解、さすがエリート研究員。」

「馬鹿にしてるでしょ?バチ当てるわよ。」

「ごめんて。」

思わず笑いがこぼれる。イレアのこの態度が好きだった。サッパリというかサバサバと言うか。

そんなくだらない会話をしてたら、車の速度が落ちていく。新居に着いたみたいだ。


「おお!綺麗なところだね!」

車を降りると目の前に20階程の高さのあるマンションが立っていた。

見るからに新しいじゃん。新築なのかな、良いところ探してくれたなぁ。

新居をみてこれから迎える新生活に心が躍り、ついついニヤついてしまう。

そんな私を横目にイレアが口を開く。

「当たり前じゃない。あなたのために建てたんだから。」

イレアがマンションを興味なさげに見つめながら、しれっと言った。


…ん?

「…え?」

「国からの入学祝いってところよ。」

「いや、え?」

「不満?」

イレアはマンションから目を離さずに、眉毛を上げて少し驚いたように呟く。

意外と欲しがりなのねぐらいの顔してますけど?

そこじゃないのよ?この人、わたしのために建てたっていった?わたしのために?これを?建てた?


「いや、いや!いや!!国!過保護がすぎるわ!もはや怖いよ!」

「安心して。」

「え?」

「あなたの居住範囲は上5階だけだから。全部じゃないわ。最上階の引っ込んでるのがあなたの部屋。その隣が私の部屋兼研究室。その下19階と18階がメディカルチェック専用フロアで、17階がジムとプールのフロア。で、16階に専用ロビーよ。」

大したことないと言うふうに呟くイレアをパチクリと目を丸めながら見つめる。

安心して?うん?どうしてなの?この人何をもって安心させようとしたの?わたし15歳でこんな都会のマンションの最上階にすむの?

いや、覇者の生活。

何もかも手に入れたやつの生活なのよ。

「いや、えっと、なんか、教育に悪いよ?イレアも止めなかった?ちょっとやりすぎですよとかなかったの?」

これはいくらなんでもやりすぎだよね?加盟国の支援をたんまり受けてるからってやりすぎだよ国?クエッションマークが止まらないよ?


「やりすぎじゃないわ。」

「いやぁ…」

どう考えても…と続けようとしたが、イレアの温度の抜け落ちた表情を見て、言葉が喉で詰まってしまった。

「6年間。あなたは6年間あの施設に監禁されてきたのよ。しかも色んな事を外から得れる多感な時期に。逆にこれで済まそうとしてるなら私が取り立てるわよ。」

「イレア…」

イレアはこの話になるといつも、苦しそうで、誰かを責めるような目をしてる。

その顔が私は嫌だった。イレアにそんな顔をして欲しくない。

「イレア、気に…」

「それに、私の新居でもあるしね。」

「…。」

…うん、よかった、気にしないでって言い切らないで。なんなら、「気に」を返して欲しいぐらいだ。


「入りましょう。」

「…うん。そうだね。」


オートロック解除してエントランスに入ると4つエレベーターがあった。3つは1階から15階まで。1つは16階まで直通みたいだ。

「私たちが使うのはこの専用エレベーター。キーがないとエレベーター降りてこないから注意しなさい。」

「ここまで至れり尽くせりだともう、何の感情もないよね。」

イレアが腕のリングをかざしてエレベーターを呼ぶ。どうやらそれがキーみたいだ。


専用ロビーとやらにつくと黒く重厚な扉が待っていた。

「ここで網膜認証と静脈認証をするわ。」

「おーう、セキュリティガッチガチ。」

イレアに言われるがまま扉脇に手をつけ、顔を近づけると自動で扉がサッとスライドした。いかつい割にスムーズな開閉になっててちょっと違和感を感じる。

ロビーでエレベーターを乗り換え、やっと自分の部屋があるフロアに到着した。


「ちなみに、外から入ってくる時もバルコニーで網膜認証、静脈認証が必要だから。」

「うっひゃー。安心安全の都会ライフなわけね。泥棒も怖くないねぇ。」

「泥棒レベルだったらこんなにしないわよ。」

「わかってるよぉ、ちょっと凄すぎてふざけたくなったんだよぉ」

イレアがわかってるのか?と攻めるようにジッと睨みつけてくる。

その目線に耐えられず、自分の部屋を探す。

「あはは、で、どっちが私の部屋?」

「左よ。」

「こっちか!開けて開けて!」

「待って、キーを渡すわ。」

イレアがバックから取り出したのは、さっきエレベーター呼んだ時のリングと同じものだった。

「手を出して。」

イレアが左手にリングをつけてくれる。

「キツくない?」

「ん、大丈夫。」

イレア、リングぐらい私一人でつけれるよ?多分。なんだか、こう言うところが少し過保護だなって思うんだよイレア?

なんだか胸がくすぐられるようにこそばゆくなる。

「なにニヤついてるのよ?」

「いやーなんか、イレアってずるいなって」

「何言ってるのかわからないわ。」

「なんでもないってこと!」

変な子を見るような目線をイレアから感じたけど、気にしないんだから。

つけ終えるとイレアが口を開く。

「これで開けるだけよ。リングに反応してドアノブに手をかけたら自動的に鍵が外れるから。」

「そうなの?じゃあ開けてみます!」

ノブに手をかけたら、何の抵抗もなくすんなり開いた。


「おぉ!!広いね!!」

私の部屋は一人暮らしには大きめの部屋だった。1LDKってやつだと思う。家具は全部置かれていて、ただ住民が来るのを待っていたようだった。

「ここが新居かぁ。」

「どう?ご満足いただけた?」

「もちろん!でも、私には大きくって寂しくなるかも。」

「いままでが狭すぎたのよ。」

「あれはあれで良かったよ?」

6年間過ごしたベットと机だけの無機質な部屋を思い出す。狭いから一人でもそんなに気にならなかった。イレアが来てくれるだけでいっぱいになるあの部屋だったから、寂しくならなかった。


「そう…。でもこの部屋にもきっとすぐ慣れるわよ。」

「そうだね。イレアの部屋も同じような作り?」

「少し違うわね。」

「あ、そうなの?もしかして、イレアの部屋の方が小さい?」

この国は私に過保護なところあるから、イレアの部屋は普通の一人暮らしサイズの可能性もある。いわゆる1Rとか1Kとか。


「もし狭かったらこの部屋で…」

「3LDKよ。」

「ん?」

「3LDK」

「え?」

「残念だったわね。」

「…。」

え、このマンション国から私への入学祝いじゃなかった?本当にイレアの新築じゃないの。そりゃ、止めないわ。15歳に最上階プレゼントするの止めないわ。

そんなことを思ってイレアを見たらニマァと笑ってた。勝ち誇ってる。この人15歳に勝ち誇ってるよ?


抗議の目線をイレアに送りつつ、ソファに座る。

テーブルを見るとシールが置いてあった。

「なにこれ?」

「それも国からの入学祝いよ。」

「このシールが?間取りの一件で入学祝いの信用無くなってるよ?」

「シールじゃないわ、それビジョンシートよ。」

「これが?何にも見えないよ?」

「貸して。」

イレアがシールを剥がし、私の右手をとる。手の甲にシールを貼り付けたら肌に馴染むようにシールの枠が肌に溶けていった。

「うお!なにこれ!」

「手のひらを広げてみて。」

言われた通りにすると手の前に画面が出てきた。

「うわ!ほんとにビジョンだ!」

「そうよ。これに関してはもう結構流通してるわよ。」

私の知ってるビジョンシート、略してビジョンはシートを使い画像をを映し出し、それを操作して検索したり友達とやりとりをしていた。そのシートの大きさで値段が変わっていったのだが、6年間でこんなに小さくしかも肌に馴染むように進化してるとは…

「で、ここから私からの入学祝いよ。」

イレアがなんとなしに呟く。イレアからのプレゼント。その言葉に胸が躍る。

「えっ!なに、なに!」

「まず、さっき渡したリングね。」

「リング?ここの鍵の?」

「そうよ。」

…鍵がプレゼントってことは、大抵の場合それで開くものがプレゼントだよね?よく車の大きな鍵をもらって喜んでる人いるし。

「実はこのマンション私が建てました的な?」

「違うわよ。どんな大金持ちよ。」

「じゃあ手作りだ。ハンドメイドマンションだ。」

「施工業者じゃないわよ。いやでしょう、研究員ハンドメイドマンション。怖くて眠れもしないでしょ。」

「…じゃあリング自体を作ってくれたの?」

「まぁ、そうね」

うんうん。なるほど、そうだよね。そりゃそうだよね。

「…ありがとう!!」

「やめなさいよその感じ。他の人にやったら失礼よ。」

「いや、ごめん、なんか、もらった時に聞いてたら心の底からありがとうなんだけど、貰ってからそれプレゼントです、だと勢いが追いつかないというか。」

「まだ説明の途中なんだけど。」

イレアが呆れた顔をして説明を続ける。

「そのリングは私とあなた分で対になってるの。電波を通さず通信ができたり、リアルタイムでの中継、お互いの位置の把握や健康状態まで確認できるわ。だから、なにか電波障害が起きても連絡を取れるし、あなたの状態変化に気づける。」

淡々と説明しながらリングを操作して試しに見せてくれる。体力値と出血の有無、酸素濃度が表示と色々表示されていた。イレアはリングに目をやりながら説明を続ける。

「だから、外に出かける時は必ずつけて。いくらランクアルファの能力を2つ保持してても何が起きるかわからないわ。」


そう言うイレアの目は少し苦しそうだった。

きっとこれからのこと、私より心配してくれてるのだろう。

わかりにくいけど、隠そうとするけど、イレアは本当に優しい。本当に私の事を思って、考えて、自分にできることをやってくれる。

でも、それを優しさとして押し付けない。それがイレアの優しさ。その優しさに私は何度も支えられて、救われて、もどかしい気持ちになった。


気を取り直したようにイレアは続けた。


「あと、もう一つ、ビジョンの中をみて。」

「ん?」

「連絡先引き継いでおいたから」

え?連絡先…?

それを聞いて慌てて連絡先を開く。そこには大切な人たちの名前が載っていた。多くはないけど、ずっと私を忘れないでいてくれた親友、育ててくれた親代わりの恩人、小学校時代仲良くしてた友達。その名前と連絡先が載っていた。


わからなかった。

胸が高鳴って、奥の方が震える。これがなんの感情なのか知らなかった。

「6年前…他の人との関わりのあるものは全部処分したって…」

「処分なんてしきれないわよ。一度関わったことがあるなら完全に消し去ることはできないわ。」

「…っ。」

言葉が出なかった。喉が詰まって吸った息が思うように吐けない。


6年前、私は研究室に入ることになった。

その時に奪われたのは私の日常、自由、大切な人たちとのつながり。いともあっさり奪われた。

人類の進歩のためにと言う名目で私の世界は崩壊した。話したい人に話せない。会いたい人に会えない。それが普通になるまで時間がかかった。


もう、話せないと思ってた、会えないと思ってた。

そう思った方が辛くなかった。それが当たり前だったら胸が痛くなかった。

「…会っていいの…?」

「ええ。」

「…話していいの…?」

「もちろん。」

イレアは優しく返事をしてくれる。

胸が痛い。無くしていた痛みが帰ってきた。でもあの時とは違う。ただ重く貫かれた痛みではなく、キュッと締め付けられるような痛み。甘い痛みが瞳から溢れ出てくる。

イレアの手が頬を撫でる。親指で優しく涙を拭いてくれる。イレアは優しく慈しむような表情をしていた。


「6年間、よく頑張ったわね。」


イレアは私の頭を抱き寄せて背中を撫でてくれる。

私は6年間頑張っていない。どう痛みから逃げるか、現実をどう捉えて生きていくかそんな事ばかり考えていた。痛みから、現実から逃れられなかったときイレアがいてくれた。今みたいに優しく抱きしめてくれた。撫でてくれた。支えたくれた。イレアがいなかったら私は痛みと現実に潰されて壊れていた。


「イレア…っありがとう…。」

もっともっと伝えたい事がある。でも、今は声が震えて上手く喋れない。


「スイ、入学おめでとう。」


そう言うイレアの表情は、本当に美しくて、これが傷つかないように大切に大切にしたいと思った。6年間辛いことばかりだったあの研究室で見つけた私の宝物。

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