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チートだったら神さまになれるって本当ですか?  作者: 上野史華
チートだったら生徒会長になれるって本当ですか?
16/33

襲撃

朝、いつもより早く家を出て、マイと待ち合わせをしているパン屋に向かう。マイとの約束より着くように出たつもりだったが、手前の木のそばに佇んでいるマイがいた。こちらに気づいた様子で一歩こちらに向かって踏み出し、待ってくれる。

「おはよう。」

「おはよう。こっちまで来てくれてありがとう。」

「良いの。私も購買行くよりここのパンを買った方が良いから。」

「だったら良いんだけど…。」

そう言いながら歩いているとパン屋に着く。小麦粉の焼けた甘く香ばしい香りが漂っていた。

「すっごい良い匂い!」

「本当ね。入りましょう。」

マイがドアを引き中に入る。後ろを追うように続くと先ほどの香りが濃くより芳醇に薫る。店内には多くのパンが並び、黄金色に焼けたそれは宝物のようだった。

「うっわー全部うまそう…。」

「そうね。」

淡々と言うとマイはトレーとトングをとり、陳列されたパンの方へ向かう。続けて自分の分のトレーとトングをとり、トングをカチカチ鳴らしながらパンを選ぶ。

「しょっぱい系と甘い系がいいよねぇ。」

そう独り言を言いながらウィンナーパンを挟む。もう一個しょっぱい系の食べたいけど…。何にしようか悩んでいるとマイがもうレジからこちらに向かってきた。

「え?もう決めたの?」

「ええ。」

「はやっ」

「そう?」

そんなこと気にしたことないかのように飄々と答える。待たせてしまっては悪いので若干焦りながらパンを見る。

「うっわ、絶対これだわ。」

目に入ったのは丸い形のパンだった。バッテンの切り込みが入れられそこにクリームチーズが入れられている。チーズパンと名付けられているそれを挟みトレーにのせる。

「あっとはー…。」

甘いの、甘いの。キョロキョロしているとマイがこちらをじっと見つめているのがわかった。早くしろやと言う圧だろうか。

「あ、ごめん、急ぐね。」

「別に急いでないから、大丈夫よ。」

「そう?すごく見てるから早く選ばないかなって見られてるのかと思って。」

「違うわ。楽しそうに選ぶのねと思って。」

マイってあまり表情に出ないからこう言うこと多い気がする。怒ってるのかな?って思って聞くとただ観察してるだけとか。カシアやアーリアレベルになるとそれすらもわかってしまうのだろうか。そんなことを考えながら甘いパンを選ぶ。

チョコチップパンを挟みトレーに乗せ、会計を済ます。入り口のところに立っていたマイに歩み寄る。

「待たせたね。」

「そんなことないわ。」

そう言ってドアを開け、パン屋を出て学校に向かっていった。


校門の前で爽やかな声と小走りの音が後ろから聞こえてきた。

「マイ、おはよう。」

アルバードが王子様スマイルで挨拶をする。こちらに気がつき愛想良く微笑む。

「アマミさんもおはよう。」

眩しい。朝からこの人はキラキラしてて眩しい。朝からこれってすごくない?この人寝起きとかもキラキラしてるのかなぁ。そんなしょうもない事を考えながらこちらも愛想良く微笑む。

「おはようございます、アルバードさん。」

「おはよう、アル。」

マイは相変わらず表情を変えず挨拶する。そんなマイにアルバードが疑問を投げかける。

「マイ、寮に戻ったのかい?」

そういえばマイは許婚のところに住んでるんだった。前にその話をしたら拒絶されたからもうふらないと決めた話題だった。

「…違うわ。アマミさんとル・エールに行ってたの。」

やはり温度なくこたえるマイにこの話題は禁句なのだと感じる。

「わざわざ?ヴェメール家からは反対だろ?」

ヴェメール家というのはマイの許婚の名前だろうか?私が触れていい話題でないように感じ、黙っておく。

「朝早く起きるのは得意なの。それに購買で買うのも大変と気づいたから。」

「それは知ってるよ。だったら早起きして弁当作れば良いのに。マイ、料理好きだろ?」

その言葉に今まで何気なく前を見ていた瞳が、意思を持った強い目線に変わっていた。

「悪いの?パンを買いに行っては?」

その言葉は拒絶を意味していた。その拒絶を物ともせずにアルバードは続ける。

「そんなこと言ってないさ。ただなんでわざわざ遠くのパン屋まで行くのかなって思っただけだよ。家を早く出たいか、アマミさんと仲良くパンを選びたいかどっちかかなって。」

マイの表情が変わらない。もはや怖いほどだった。表情から温度が抜け落ち、無機質になってしまったかのようだった。

「…どっちでもないわ。ル・エールが好きなだけよ。」

まってぇ、ちょっと傷つく。さりげなく巻き込まれてたけど、ちょっと傷つくわぁ。そんなことをつゆ知らず、マイはスタスタ歩いて行く。

「ふーん。」

聞いた本人はつまらなそうに返答する。アルバードさん?こっち巻き込まれてますけど?そう訴えかけても何か考えるようにマイを見つめているだけだった。

なんだかこの空気がいたたまれなく、話題を変えようと話し出す。

「アルバードさん、あの後何か進展ありましたか?」

アルバードがこちらを向き、王子スマイルを取り戻して話す。

「あのあと管理局の執行部隊が来ていろんな説明を求められたよ。そのあと管理局が中庭一帯を調べたみたいだけど、何にもなかったみたいだよ?」

やれやれと肩をすくませて伝えてくる。

「何もなかった…。」

そんなことあるのだろうか。突然街中で、それも校内で魔物が現れたと言うのに何もないなんて…。そんなことを考えているとアルバードがただ、と続ける。

「これを拾ったんだ。」

アルバードの手のひらには何やら破られた球体の鉄の殻?ようなものが置かれていた。

「これは?」

今まで黙っていたマイがポツリと言う。

「魔物捕獲用の縮小ボールね。」

「あぁ、アビリティチェックの時に言ってた。」

確か、アビリティチェックの魔物を運搬する用で使われてるものだったはず。

「このこと管理局には?」

マイの問いかけにアルバードがすぐさま応える。

「もちろん言ったさ。で、回収された。」

「隠し持っていたのね。」

ん?文脈が飛びすぎてなんのことだか…二人を難しそうに見ているとそれに気がつきマイが補足してくれる。

「アルが回収されたのと別に、内緒でもう一つ拾っていたのよ。それを隠して今、教えてくれてるのよ。」

「なるほど!よくわかるねぇ。」

感心しているとアルバードが微笑みながら話す。

「本当に小さい頃から一緒だからね。」

その笑顔は王子様スマイルより幼く感じ、言葉は温もりをはらんでいた。なんとなくその言葉がアルバードにとって大切な事なんだと思った。

「それイレアに渡して調べてもらうわ。」

「あぁ、じゃあ頼むよ。」

マイは相変わらず淡々と話し、それにアルバードが答える。

校舎につき、学年の違うアルバードは下の階で別れた。

「マイとアルバードさんって仲良しだね。」

「仲良しかわからないけれど、親同士が友人で小さい頃から知ってるから。他の人よりは関係は深いわね。」

「へー。アルバードさんといるとマイ、素って感じだもんね。」

「そうかしら?」

「そうそう。」

そんなことを話していると教室につく。また、今日も一日が始まる。


昼休みになり、マイ、カシア、アーリアと昼ごはんを食べる。

「そう言えば、二人はル・エールで買ってきたの?」

アーリアがお弁当をバックから出しながら、思い出すように聞いてくる。

「そうだよ!どれも美味しそうで迷っちゃったよ。」

小麦の焼けた香りを思い出し、次はどれにしようか、今からワクワクしてしまう。カシアが楽しそうに聞いてくる。

「買ったの見せて見せて!」

「私は、ウィンナーパンと、チーズパンと、チョコチップ!」

「おぉう、スィッチ細い割に結構食べるよね。」

「そう?これでもちょっと少ないぐらいだけど。」

本当は4〜5つぐらい食べたいのだけれど、時間的に食べきれなそうだから3つにした。4〜5つ食べることになったら昼休み話さずにフードファイターすることになるだろうし。

「よく食べて大きくなるんだよ、スイちゃん。」

アーリアがおっとりおばあちゃんみたいなことを言ってくる。少しおかしくてクスッと笑い答える。

「うん。ありがとう。」

「マイは?」

カシアが聞くとマイは一つだけ出して答える。

「塩パン。」

「…塩パン。」

その答えを噛み締めるようにカシアが復唱する。

「美味しいんだけど、思ったよりもシンプルなのきてびっくりしたよ。昼ごはんっていうか朝ごはんって感じっていうか、シンプルだね。」

シンプルの表現がしっくり来ているのかカシアがうんうん自分の言葉に頷く。

「マイ、あそこの塩パン好きなの?」

確か即決だった気がする。もうお目当てだったらあの速さも頷ける。

「いえ?目の前に置かれてたから。」

「…。シンプルだね。」

カシアと同様に自分の表現にうんうんと頷く。

「マイは食にあまり関心ないもんねぇ。」

アーリアがしみじみ呟く。

「そうなの?料理好きなんじゃないの?」

素朴な疑問にマイがサラッと答える。

「作るのが好きなの。過程とか、作業の短縮の仕方とか考えながら美味しいものができると嬉しいの。」

「あ、そうなんだ。そんなこと思ったことないなぁ。」

そんなことを話しながら、1番気になっていたチーズパンを一口かじる。思ったより柔らかい生地に、表面はしょっぱいチーズで中は甘酸っぱいクリームチーズだった。クリームチーズが柔らかなパンによく馴染んですごく美味しかった。好みの味だった。

「うんっま!!」

運命の出会いに目を輝かせてパンを見つめる。

「こんな美味しいパンは初めて!!」

「わかる!あそこのチーズパン美味しいよね!」

カシアが激しく同意してくれ、それに強く頷く。

「これは毎日レギュラー獲得です!!」

「おめでとう!!」

カシアが手を出して握手を求める。それに勢いよく応え、バシッと手を握る。

「ありがとう!!」

謎の興奮を分かち合い、カシアと熱く見つめ合う。その様子をアーリアが微笑ましく見て、マイが気にせずに黙々と塩パンを食べていた。

そんな様子で3つのパンをパクパク食べ昼休みが終わった。


学校が終了し、若干日常化してきてる生徒会活動へマイと向かう。校舎を歩いているとマイがぽつりつぶやく。

「そんなに美味しかったの?」

「へ?」

「チーズパン。」

「あぁ、うん!美味しかったよ。私ああいうの好きなんだぁ。」

思い出すだけで頬が緩む。おいしかったぁ。明日は休みだから来週もあれ買お。すでに来週の昼ごはんが楽しみになる。

「そう。私も買ってみようかしら。」

マイが呟く。マイってどんなのが好きなんだろ。こんだけハードル上げといてあんまりだったら申し訳ない。

「来週一口あげるよ!どうせ買うつもりだったし、マイが好きな味じゃないかも知れないからさ。」

何気なく言った言葉にマイが沈黙する。

あれ…?変なこと言った…?

「そう。じゃあお言葉に甘えて、一口もらおうかしら。」

不安に駆られていたらマイが遅い回答をする。なんだったんだ今の間は…。それを聞く勇気は持ち合わせてなかった。そんなことを話していたら昨日の事件が起こった中庭についていた。

「…昨日のこと、何もないなんてことあるのかな?」

「アマミさんは変だと思っているの?」

「変っていうか、こんな都会でしかも校内で魔物が出たんだよ?何もないで普通帰れる?」

「…そうね、私だったら証拠を見つけるまで帰れないわ。」

マイが中庭を見つめて足を止め、言う。つられて中庭を眺める。バタバタして忘れてたけど、私ここで誰かに見られてるようで気味悪がっていたんだ。…確かあの時。

「あの時、アマミさん、球がなんとかっていってたわよね?」

マイも同じことを思い出したのか、聞いてくる。

「そう。いくつか球があったんだ。多分数は5個ぐらい円を描くように配置されてて、変だなって…」

「それが、もしかしたら、これだったかも知れない。」

そう言ってマイが朝アルバードに渡された破れた鉄の球体を手に乗せている。それにコクリと頷く。それが意味することをお互い理解しながら。

「イレアにそれを見せよう。何かわかるかも知れない。」

「そうね。」

マイと目線でお互いの予想が同じであることを感じとり、生徒会室へ向かう。


エレベーターが生徒会室に着き、部屋に入ると、イレアだけではなく最近よく会う顔がこちらをみた。

「よう、才女。今日もちゃんとお勉強してきたか?」

「…おっさん、暇なの?」

そこにはおっさんとジルと呼ばれていた部下がいた。

「おいおーいおっさんこう見えてご多忙よ?お忙しい中オルネラスに来てんのよ?」

「…どうだか?」

「…才女、おっさんのこと馬鹿にしてるでしょ?」

「してないって言ったら嘘になるかな?」

「こんの…才女め!!」

全然貶されてない一言をもらい、呆れているとイレアが諌めるように名前を呼ぶ。

「スイ。」

「…わかってるよ。」

あんまり失礼するなって事でしょ。不貞腐れたように目を逸らす。

「失礼しました。報告をまとめると、昨日の魔物は確かに東の森のものだった。それが、どうやってここまできたのかは調査中と言う事ですね。」

イレアがまとめて淡々と確認する。それにおっさんが難しそうに頷く。

「誠に不甲斐ないけどね。この件に関しては手がかりが少なすぎてさ。」

手がかりが少ない…?どうやってここまできたか調査中?昨日アルバードさんが捕獲用の割れた鉄球を渡したはずなのに…?同じような反応をしたのはマイだった。訝しげに呟く。

「昨日の件ですが、中庭に…」

突然胸がぞくりと震えた。嫌な予感がする。そして何より、あの目線を感じる。咄嗟にマイの手首を掴み、言葉を遮る。マイが何事かとこちらを見つめる。

「中庭に?」

おっさんがマイの言葉の続きを求めるが、私が代わりに言葉を紡ぐ。

「中庭に突然魔物が現れた所を見た子は地面から生えたみたいだったとか言ってたけど…。ちゃんとアビリティチェックの捕獲した魔物は管理できてんの?一昨日の忘れて帰ったんじゃないの?」

「おいおい、才女、流石に馬鹿にしすぎよ?アビリティチェック前と後は必ず数量、その種類まで確認してちゃんと持ち帰ってますぅ。何人もチェックするし、保管庫に入ってるのも一応今日朝確認してきたんだから。な?ジルくん?」

ソファーに座らず後ろに立っているジルを見るように首を回す。

「はい。管理は私も担当しておりますし、昨日の現場検証に当たった際も特にその連絡は来ておりません。」

そう断言したジルの目は正義感の強い眼差しでまっすぐ前を向いていた。

「現場検証はおっさんもいたの?」

私の問いかけに力無く手を振り否定する。

「んにゃ、実は本当におっさん忙しいから予定外のことはなかなか現場に行けないのよな。だから、リーダーはジルくんにお任せしたわけよ。」

「へぇ、本当に暇じゃないんだ。」

「才女…。おっさん、本当に暇だと思ってたのね。」

ジト目でこちらを見てきたが、気づかないふりをする。

「そんなご多忙なおっさんについて回ってるってことはジルさんは偉い人なの?」

おっさんとは正反対のザ・軍人の佇まいをしている彼に目を向ける。こちらに目線を向け、生真面目そうに答える。

「自分は中佐ですので、連隊長のイヴァン隊長の補佐を行っています。」

「中佐というと?」

普段聞きなれない言葉に疑問符がつく。それに対しておっさんがやる気なさそうに応える。

「中佐はね、おっさんの一個下の位なのよ。この年で中佐なんて超絶エリートよ?」

その言葉にジルが少し照れたように先程まで張り詰めていた頬を緩める。

「イヴァン連隊長にそのような事おっしゃっていただけるなんて、光栄です。」

フィルマンの時も思ったけど、おっさんは青年の心を掴むのが上手いみたいだ。彼もおっさんに酔狂しているようだった。

「じゃあ、久々に会ったあの日もジルさんはあそこにいたの?」

「はい。あの場にはいましたが、東の森の様子を確認しておきたかったのでお二人が手合わせしている所は見ることができませんでした。惜しいことをしました。」

「…手合わせっていうより、才女の奇襲よね。」

「奇襲ではないけど、手合わせでもないかな?」

二人に否定されてもなおジルは残念がっていた。おっさんと二人で呆れた目線を送ってみたが、何も気づいてない様子だった。

「…まぁ、昨日の件はとりあえず調査中なわけよ。お互いわかった事があれば情報共有しましょ。」

おっさんがゆっくりと立ち上がりながら話す。

「はい、何かわかればすぐお伝えします。」

イレアがおっさんにそう伝え、二人が帰るのを見届ける。イレアが生徒会室に帰ってきて私の手に目線を止めて呟く。

「…いつまで繋いでいるの?」

「ん?」

「手よ。」

イレアの目線の先を見ると、マイの細く白い手首を私の手が掴んだままだった。

「あぁ、ごめん!忘れてた。」

マイは気にしてないように表情を変えずにこちらを見つめていた。

「それは大丈夫。アマミさん、さっきの話。」

マイのまっすぐな目線を受け止めて、同意するように頷く。

「おかし過ぎるよね。」

「ええ。」

「おかし過ぎる?」

イレアがなんのことかと首を傾げる。それに応えるようにマイが先ほどの割れた鉄球をイレアに見せる。イレアがそれを手に取り不思議そうに見つめる。

「これが昨日事件後、中庭に落ちていたってアルが教えてくれたの。」

「この事、アルは執行部に伝えなかったの?」

イレアが状況を掴んできたのかマイに確認する。

「したみたい。でも。」

「無かったことになっていた。」

イレアが結論を代弁し、マイが頷く。各々思考を巡らせ沈黙が訪れた。イレアがゆっくりと口を開き、提案をする。

「一旦、みんなを待ちましょうか。そこで今のことを話して意見を聞きましょう。」

その提案に私たちは頷き、生徒会長業務をしようと生徒会長室へ向かう。扉の締まり際、イレアは割れた鉄球を何やら機械にのせていた。


全員が揃ったとイレアに呼ばれ、席に着く。イレアが面々を見渡し生徒会の活動を開始する。

「みんな、お疲れ様。あれから何点かわかったことがあったから共有するわ。」

「お!進展ありな感じ?」

気の抜けたような言い方をするフィルマンをチラッとみて真剣な面持ちで頷く。その姿にフィルマンが何か察したように姿勢を正す。

「朝、マイが現オルネラス生徒会長のアルバードからこれを受け取ったわ。」

イレアが机に置かれた破れた鉄の玉を見せる。

「これなんだっての?」

フィルマンの疑問にマリウスが答える。

「魔物捕獲用の縮小ボール…。」

「破けてるってことは、捕獲して、リリースされたものね。」

エルネストが補足を伝える。

二人の言葉にイレアが頷き解説を進める。

「これは時間のあった中庭に落ちていたそうよ。調べてみたら内部に東の森の魔物の毛がついていたわ。」

「では、その縮小ボールによって魔物は運ばれてきたのですね。」

マチルダが状況証拠からイレアに確認する。

「おそらく。ただ、重要なのはここから。」

イレアの次の言葉をみんなが待ち構える。

「それを執行部隊が知らないと言うこと。」

「プリンスが言ってないってこと?」

「アルは最初に見つけた時ちゃんと報告したみたいよ。」

フィルマンの疑問にマイが答える。

「え?それじゃあ…」

フィルマンが眉間に皺を作り、可能性を探っている。それに応えるように言葉を紡ぐ。


「執行部隊の誰かがその事実を無かったことにしてる。」


沈黙が訪れ、その意味を各々咀嚼している。

フィルマンが信じられないと言うように必死に言葉を紡ぐ。

「エンジェル、もしかして執行部隊が犯人かも知れないって言ってる?」

フィルマンをまっすぐ見つめ、言葉なく肯定する。その様子にフィルマンが冗談を言われたように否定する。

「ないだろー!流石に!考えすぎだよ!あの人たちはこの国の治安維持部隊だぜ?給料もたいして高くなくて、危ない仕事も多いけど、アリストタリアを守ってるっていう誇りがある仕事なんだよ?それに入ろうって人がこんな犯罪まがいなことするわけないだろ?」

怒涛の勢いで紡ぐ言葉はその内容とは裏腹に、自分の中の確信を否定してるかのようだった。

「報告された重要な証拠がトップに報告されておらず、揉み消されているのも事実よ。」

マイが淡々と答える。その言葉にフィルマンが言葉を詰まらせる。

「それが執行部隊全体としての意志かはわからない。」

マリウスがまっすぐ力強い目で訴えてくる。イレアがそれを受け入れるように頷く。

「もちろん。むしろ全体としての意志とは考えにくいわ。フィルマンの言う通り、執行部隊はもともとは崇高な理念に感化して入隊するところよ。全体として犯罪行為を行なっているとは思えないわ。」

その言葉にフィルマンが表情を明るくし、エルネストが静かに呟く。

「でも、任務だったら幼いソメヤさんをボロボロにして、スイをオーバースキルまで追い込こむ。それが執行部隊よね?」

その言葉に全員が深刻な顔をして黙り込む。


「まぁ、あれは人類初の発見が逃げようとしちゃったからね。」

ふにゃりと笑顔を作り、おどけてみる。その場が和めば良いと思ったけど…まぁ、無理よね。張り詰めた空気に私のふざけた言葉が浮遊していた。助けてイレア先生。すがるようにイレアを見ると呆れたようにため息をつく。

「確かに任務遂行に対する意志は異常な時もあるわ。でも、それのおかげでこの国は治安維持されてるのも事実よ。それに今回は国からの正式な依頼。執行部隊も協力体制をとっているし組織ぐるみって言う線は薄いはずよ。」

エルネストがその言葉を受け止め、先ほどの言葉とは打って変わって同調する。

「ま、そうよね。だったらそもそも依頼してこないわよね。」

ただ…とエルネストがちらっとフィルマンとマリウスの方を見て続ける。

「あまりにも執行部隊に肩入れしすぎて、真相が見えなくなりそうだったから。」

「いや!肩入れっていうか…!」

フィルマンが慌てて否定をしようとするが、すぐに勢いがなくなり、言い淀む。それを見てマリウスが代わりに言葉を続ける。

「俺らにとってあそこは憧れの人がいる場所なんだ。疑われて否定したい気持ちが前に出てしまった。すまない。」

憧れの人か…。あのおっさん、そんなに憧れる感じなんだ…。男の子ってわからんなぁ。

まっすぐ謝るマリウスにフィルマンも続けて謝罪する。

「俺も、ごめん!正直肩入れしてた。そんなはずないって思いたがって、違う方向にもってこうとしてた。本当にごめん。」

この二人は素直な人なんだなぁ。ちゃんとすぐに悪いところを謝れて。そんな二人がかっこよくて、気持ちよくて爽やかな気持ちになる。

「大丈夫だよ。またブレそうになったらエルネストが止めてくれるよ。」

ね、とエルネストをみると、めんどくさそうに目を逸らしため息混じりに話す。

「なによそれ。まぁ、気になったら言うわよ。」

「さすが次期社長。」

「しばくわよ?」

エルネストがギロリとこちらを睨む。少し茶化しただけでそんなに怒んなくてもいいじゃない。

エルネストの目線に怯えてるとマイが何事もなかったかのように話しかける。

「アマミさん。昨日の目線のことも言った方がいいわ。」

「そうだね。」

マイの言葉に頷きみんなを見ると、目線がこっちに集まっていた。

「昨日、昼廊下を歩いてたら誰か私のことを観察するように見てる気がして、探したんだけど見つけられなくて…。その時におっさんとその部下のジルさんが来たんだよね。」

みんなの目が次の言葉を待っているのを感じ、説明を続ける。

「その後、ここに来るまで、昨日事件のあった中庭を通ったらまた、目線を感じて見渡しても見つけられなかった。マイが不安ならしっかり探そうって言ってくれて、その結果、5つの小さな球が不自然に置かれてるのに気がついたんだ。」

「それが捕獲用の縮小ボールだったかもしれないのね。」

イレアの言葉に頷く。

「それ、調べたのよね?」

エルネストが聞いてきたが、その言葉には首を横にふる。

「確認しようとした時、ジルさんが走ってこちらに寄ってきたの。何かありましたか?って。で、まぁ、その、色々あって急いで生徒会室にむかったから調べてなかったんだ。」

「色々?」

うん、エルネストって言い淀むの許さないよね。さすが次期社長。エルネストの言葉にどう返そうか考えているとマイが口を開く。

「アマミさん、イレアとイヴァン連隊長が2人っきりって聞いて大慌てで邪魔しにいったのよ。」

マイ??ちょっと言い方考えよう??マイが淡々と伝え、全員が黙る。見渡すとみんなから少し引き気味の目線を頂いておりました。イレアだけは笑いを堪えてるようだったけど。弁明をしなければ。辿るように話し始める。

「エンジェルもなかなか、嫉妬深いところあんのね。」

フィルマンがふむふむと納得している。フィルマンにそうされるのはなんだか解せない。

「いや、ちがうんだよ?昼におっさんと会った時にイレアがどうこう言ってたから、危ないなぁって思ってて…。で、走ってくるジルにそう言われちゃぁ急いで行くしかないかなって…。」

エルネストがおもっきりどうでもいいと言う目をしていて弁明失敗を理解した。この件については諦めて話を続ける。

「…で、事件が起きて、今日の朝マイと歩いている時にアルバードさんからその話を聞いて、イレアにその話しないとってなったんだ。今日も学校終わりここに来たらまた、おっさんとジルさんがいたんだけど、マイがこの捕獲ボールの話をしようとした時にまたあの目線を感じたんだ。」

その言葉にマイが反応する。

「だからあの時言葉を遮ったのね。」

そうそうとその言葉を肯定するように笑顔を作り、咄嗟の行動を謝る。

「ごめんね?急に手を掴んで。でも、昨日の目線よりより濃くて、悪意を感じたんだ。咄嗟にまずいって思って。」

「構わないわ。何となくアマミさんがイヴァン連隊長やジル中佐に質問している意味がわかったから。」

さっすがぁ。マイの勘の良さに感心していると、フィルマンが純粋な質問を投げかけてくる。

「エンジェルのアビリティって目線まで感じられんの?」

その言葉にイレアもマイもどう答えようか考え、二人の顔が強張った。私が答えるから大丈夫なのに、二人とも優しいなぁ。できるだけ重くならないように笑顔を見せて答える。

「ううん。研究室に入ってる時に、いろんな実験をされてさぁ。実験の前は大体私を観察してどう言うのをやるとか、どこまでだったらできるとか相談するんだ。その目が向けられると実験が始まるって思って警戒しちゃうんだよね。だから、そう言う目線には敏感になっちゃったんだよねぇ。」

できるだけラフに話したけど、フィルマンが慌てて謝罪する。

「あ…ごめん!無神経なこと聞いた!」

「大丈夫だよ。当たり前の疑問だと思ったし。気にしないで。」

気を遣ってくれるこの人を責めないよう優しく返答する。

「あのおっさんたちにした質問ってなによ?」

エルネストが話を戻す。この人もさすがだよね。絶対疑問を見落とさない。エルネストをまっすぐ捉えながら返答する。

「現場検証は誰がやったのか、東の森に行った時ジルさんがどこにいたのか、だね。」

「ジル中佐を疑ってるのか?」

マリウスがまっすぐ疑問を投げかけてくる。

「そうだね。私はジルさんが怪しいと思ってるよ。」

その目を逸らさずに言葉を返す。その返答にマリウスが黙って続きを待っている。

「まず、東の森に初めて行った時、私たちの前にジルさんが入って行ったらしい。その後に私たちは魔物の襲撃を受けた。おそらくあの時も捕獲用のボールを使ったから私もマリウスも気がつかなかったんだと思う。昨日も目線を感じる度にジルさんがいた。中庭でもベランダから私たちを見ていたようだし。何より、捕獲用のボールは私たちが生徒会室に行く前に設置されていたし、その存在に気づいた途端駆け寄ってくるのは不自然かなって。それに、あの現場検証のリーダーはジルさんだった。」

マリウスがじっと考えるように目線を下に向ける。

「正直状況証拠しかないけど、逆に状況証拠だけでもこれだけ集まってる。ここから考えられる可能性は2つだと思う。」

私の言葉を待つように、全員の目線がこちらに集まる。

「ジルさんが犯人。もしくはジルさんを嵌めようとしてる人がいる。そのどちらかだと思う。」

再び沈黙が訪れ、私の考えを各々が咀嚼しているのがわかる。


「どちらにせよ、ジル中佐に注意してみていれば犯人がわかると言う事でしょうか?」

マチルダが真剣な眼差しでこちらに問いかけてくる。

「そうだね。どちらにせよジルさんを監視するのは効果的かな。あとは…」

「アルに昨日誰にその捕獲用のボールを渡したのか確認した方がいいわね。」

マイが代弁するように話し、頷き肯定する。

「アルバードさん、まだ学校いるかな?」

「今日は金曜だからアル、家の用事で実家まで帰るはず。大体この時間にはもう下校してるわ。」

「あちゃーもっと早く言えばよかったぁ。」

やっちまったと片手で頭をくしゃくしゃ掻き乱す。イレアがすぐさま次の提案をする。

「イヴァン連隊長にここまでのことを共有してみる?補佐役でついてるならイヴァン連隊長が1番監査役に向いてると思うわ。」

「…そうだね。一応、ジルさんが今どこにいるかとかも聞いた上で言ってみようか。」

「そうね。」

そういうとイレアがビジョンを開いておっさんに電話をかけ始める。リズミカルな電子音のあとおっさんのやる気ない声が聞こえる。

「はーい、おっさんですよーー。なにーイレアちゃん、おっさんの声聞きたくなっちゃったー?」

このおっさんは…。思わず目がピクッと反応する。イレアが話し出すより先に言葉を発する。

「違います。」

「この声…。」

「おっさん、次会った時覚悟しておいて。」

「…才女。イレアちゃん好きだからってあんまり干渉しすぎは良くないと思うの。人のビジョン覗き見たり、しかもそれ使って誰かに連絡とっちゃダメよ?」

「イレアは好きだけど、ビジョンを覗き見たわけじゃないし、私がおっさんに電話かけたわけじゃないから。」

「およよ?」

このおっさんふざけてるな…。再び目がピクッと反応したのを見たイレアが肩に手を乗せ制止する。

「お疲れ様です。イヴァン連隊長。お伺いしたいことがあるのですが、今お時間大丈夫でしょうか?」

「んーいーよー。」

おっさんがハリがない返事をする。本当にこのおっさん凄い人なの?ふとフィルマンとマリウスを見るとビジョンを食い入るように見つめていた。きっとおっさんの一挙手一投足が気になるんだろう。ますますわからなくなる。そんなことを考えていたら話が進んでいく。

「ありがとうございます。ちなみに今、ジル中佐はどちらにいらっしゃいますか?」

イレアの質問にメンバーの雰囲気が張り詰める。

「ん?ジルくん?ジルくんだったら昨日の事件の調査で学校に残ったはずだけど?」

まだ、ここにいる…?咄嗟に昨日のようにベランダにでて中庭を覗く。そこには人影がなく、もちろんジルの姿も見えなかった。マイが隣に来て同じように中庭を覗き、つぶやく。

「いないみたいね。」

「うん…。」

何故だろう、胸の鼓動が不自然に大きく聞こえる。不安が背中にこびりついてるように焦燥感に駆られる。頭の片隅で声がする。もし、アルバードさんが鉄球を渡したのがジルさんだったら…?


ドクン


背中についていた不安が体を覆う。マイの腕を掴み焦りに舌を纏らせる。

「ーっ!マイ!アルバードさんの連絡先わかる!?」

「え?ええ。わかるわよ?」

「急いで電話かけて!!」

慌ててる私に戸惑いながらも、ビジョンで電話をかけてくれる。

電子音が規則正しく鳴り、持ち主の反応を待っている。お願い早く出て…!

「…マイ?どうしたんだい?」

アルバードの声がした。安堵に息が漏れる。マイを掴む腕の力が抜けていく。よかったぁ。流石に考えすぎかぁ。先程まで感じていた不安が霧のように去っていった。

「アル?えっと今どこにいるの?」

マイがこちらを見ながらとりあえず話を繋げてくれる。

「今?実家に帰るためにミーア駅にいるけど?何か用があったのかな?」

「用ってほどじゃないのだけれど。昨日破れた鉄球を渡した人ってどんな人だったのか知りたくって。」

「あぁその人なら今ちょうど一緒にいるよ。」

予想外の言葉に息を呑む。

「校門出たところで待っていたみたいでさ。昨日の話をもう一度詳しくって言われたんだけど、電車の時間もあったから歩きながら話してたんだ。」

アルバードが鉄球を渡した人と一緒にいる…。つまり、重要な事実を報告しなかった人。きっとこの一連の犯人。マイの腕を握る力が強くなる。霧散した霧があっという間に濃霧になり私たちを囲った。

「マイ・フェルバーグさんですか?思ったよりも早いですね。辿り着くのが。」

ジルの声だ。その言葉の意味を悟り、急いでアルバードに危険を伝える。

「そいつから離れて!アルバードさん!!」

「え?アマミさん?」

アルバードの不思議がる声と共に何かが崩れる音がした。ビジョンが、つまりアルバードの手が何かの衝撃を受け、固い何かに打ち付けられる音がする。マイが焦ったように名前を呼ぶ。

「アル!!」

「ギャァオォォォ!!」

返事をしたのは魔物の鳴き声だった。それが全ての答えだ。イレアに向かって叫ぶ。

「やっぱりジルが犯人だった!!アルバードさんがミーア駅で襲われた!きっと魔物を放ったんだ!!」

「ミーア駅って…!あの駅にはたくさんの人が集まってるはず…」

イレアは眉間に皺を寄せて、事態の深刻さを表情に表す。イレアに近づきながらどうすればいいのか考える。

「…多くの人が巻き込まれてるかもしれない。イレアはおっさんに状況説明をお願い。私はここから直接向かうよ。」

「わかったわ。みんなもスイに着いて行って。怪我してる人もいるかもしれない、スイはエルネストを、マイはマチルダとフィルマンを。マリウスはスイの作った氷の床を辿っていける?」

イレアが面々に指示を出し、マリウスが頷く。

「いけます。」

「おーけー!じゃあ、滑った床は残しておくよ!」

再びベランダに行くとすでにエルネストが側に来ており、珍しく真剣な顔でこちらを見てくる。

「早く行くわよ。」

「うん!」

そう言うと、エルネストの背中と足を掬い上げ、抱き抱えてベランダの手すりに登る。足を曲げて手すりを蹴りあげる。宙に浮いた足元に氷の板を作り上げて、空気中の水分を氷の橋に姿をかけさせる。その橋を勢いよく滑っていく。

スピードが出ているせいか、エルネストが縮こまり、私の胸の部分の制服を強く握るのがわかる。安心させるように腕の力をつよくする。

「ごめん、エルネスト。すぐ着くから。」

「…別になんともないわよ。」

「そっか!」

優しい強がりについ表情が崩れてしまう。今は、一刻も早く駅へ…!

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