おやつは1000円以内
ゴミ拾いからしばらくの間、みのる達は勉強・体育祭の運営としての仕事・メールのチェックと情報の精査に勤しんでいた。
体育祭を前にして、太は生徒会に入った。彼もまた、みのる達が信用できるか見極めていたのだろう。
目撃情報があった場所に急行しても空振りだったことも多く、4人は徒労感を募らせていた。
そして、体育祭を終えた翌日。
「結局、情報が入ることは入るけど、全然捕まえられないね」
「でも行動範囲は見えてきましたね」
目撃地点を地図に入力していくと、少しずつヤツの行動範囲が広がっていることがわかる。
「2つ隣の町を中心にして、行動範囲を広げています。近日中に、この辺りにも出没するのではないかと。すぐに動けるようにしておけば、接触できるかもしれません」
「そのチャンスを逃さないように、ということだな」
「はい」
4人が生徒会室で顔を突き合わせていると、同時に4つの振動音がした。
「来たぞ」
「ワオキツネザル幼稚園の近くだ」
「よつばちゃんに接触しているかもしれない。急ごう!」
光が勢いよく立ち上がり、生徒会室から飛び出した。
「施錠は私がする。みのる君は江原君を連れて、光を追ってくれ」
誰よりも足が速い撫子を残し、みのると太も弾かれたように駆け出す。
「田中、四葉ちゃんっていうのは」
「僕らが仲良くしている幼稚園児だ! 信仰の素質がある!」
みのる達が会っていない間に、四葉が信仰に目覚めていたら。そして、それがヤツのお眼鏡にかなうような強力なものだったら。
ディクを止める、とかいう目的のために取り込まれたり連れ去られたりするかもしれない。
いきなり人に物を飛ばしてぶつけるような人間なのだ。危険がない、とは言い切れない。
玄関でみのると太は光に追いついた。そこに撫子も合流する。
「私と江原君で2人を背負ったほうが速い! 乗ってくれ!」
撫子がしゃがみ、その背中に光がおぶさった。太も見よう見真似でみのるを背負う。
「お、重……」
立ち上がる際によろめいた太だったが。
「あしゅなは俺が守る!」
キーワードを叫ぶと、重さなど感じない安定感ですっくと姿勢を正した。
「よし、付いてきてくれ」
撫子がアスファルトに靴底の跡が残るほどの速さで走り出す。
急な加速に光が悲鳴をあげる。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ」
ドップラー効果でやけに低音な悲鳴を追うようにして、太も走り出した。
ワオキツネザル幼稚園で起きている異常は、一目でわかった。誰もが空を見上げ、何かを探すようにきょろきょろと首を動かしているのだ。
「影響系の信仰持ちも来てる!」
撫子の背中で揺さぶられ続けてグロッキー気味な光の肩を、みのるが支え、幼稚園の中に入っていく。
4人の耳に、若い男性の声が飛び込んできた。
「あ、UFO!」
声がしたのは、以前にミサキが人を集めていた体育館だ。4人は一斉に飛び込む。見えたのは、天井に視線をさまよわせる園児たちと、怯えている四葉の姿。それと、若い男性の隣にいるヤツの姿だった。
「よつばちゃん!」
光の声に応じるように、撫子が動いた。素早く四葉を抱え上げ、みのる達の後ろに連れ帰る。
急に現れた、幼稚園にはそぐわない4人組みの高校生に、若い男性は目を細めた。その口から飛び出したのは、一瞬で緊張感に包まれた現場には、まったく似つかわしくないものだった。
「あ、UFO!」
それに反応する者はいない。
ヤツが口を開いた。
「……信仰持ち。あの前髪男は前に見つけた『失格者』」
「1人くらい『失格者』が混ざっていても構わないだろう。もう4人もいれば、1人くらい届くかもしれない。あるいは、全員なら」
「そう……だといいけど」
ヤツが左手を上にピンと伸ばす。
じゃらり、と不穏な音が鳴った。宙に浮かび上がった、無数の金色のきらめきに、みのる達の表情がこわばった。
数えるのも馬鹿馬鹿しいほどの数の画鋲が、その小さな針の切っ先を5人に向けた。
「あたしは不知火鈴……信仰は……『1000円分の念力』。どうか、どうか耐え切って欲しい……」
鈴は祈るように目を閉じ、天に向けていた左手を振り下ろした。




