影響系のプライド
「それで、接触してきたその女の子が、ヤツってことでいいの?」
若干不機嫌ながら、話の軌道修正を図った光。それに太は頷いた。
「合ってる。今日エサをあげた子猫なんだが、初めて会ったとき、何をどうしたんだか金属の下水溝のフタの隙間に、脚がハマって動けなくなってたんだ。外そうとしたんだが、どうにもならなくて。ええと……信仰? を使って、フタに切り込みを入れて曲げて助けてやったんだよ」
「偉いじゃないか」
偉いことは偉い、と素直に褒める撫子に、太はちょっとだけ照れた。
「その直後に、ヤツに襲われたんだ。大量のうんまいぜ棒が飛んできて、粉まみれ油まみれにされた俺に、『この程度じゃあ、ディクの眼中にもないのも納得ね。彼を止めるのは無理、か』とか言い放って、いなくなったんだ」
「ずいぶんと思わせぶりなセリフだな」
「ああ。それ以来、ヤツとディクを探すようにしているんだが、何の手がかりも得られていない」
ヤツは実在の人物のようだが、踏み切りで言っていたことの大半は、妄想の産物だったらしい。
うんまい棒とは、10円くらいの安価な駄菓子で、コーンで作られたサクサクの麩菓子に似たものだ。15センチ程度の筒状に作られていて、様々な種類の味がある。
「うんまい棒を飛ばす信仰……とは考えられないから、何かを飛ばすことができるのかな? ちょっと詳細はわからないけど」
「『物』に作用するタイプの信仰か。初耳だな」
「江原の信仰と同類なんじゃないですかね? 『イキリクリト』というキャラクターのように、いわば概念を自分に重ねあわせるタイプの信仰であれば、物に作用するのも不可能ではない、んじゃないかと思いますけど」
江原太の信仰では、剣士のキャラクターを自分に重ね合わせることで、その剣術やタフネスを多少は再現できるようになる。
ということであれば、超能力者や魔法使いになりきることだって、絶対に不可能とは言い切れない。
「新しいタイプの信仰、ねえ。厄介だね」
「ですね。ただ、それ以上に厄介そうなのがディクって存在なんですけども」
みのるの言葉に、光は片方だけ眉を上げた。
「江原が言われたことから察するに、ヤツはディクを止めたいんですよね。でも、そんな厄介そうな能力を持っているヤツでさえ、ディクを止めることができない。そう考えると、ディクはどれだけ厄介な信仰を持っているんだって感じです」
撫子は深くため息をついた。
「しち面倒なことになってきたな。何はともあれ、まずヤツを見つけて情報を得るところからか」
「ディクってのが何をしようとしているのかわからないまま、っていうのも怖いしね」
そう言ってから、光は自分の信仰について太に説明した。そして、光の信仰で協力者を集めることで、ヤツとディクの情報を広く募っていくことを提案した。全員が光の提案に賛成する。
「それじゃあ、情報を集めるために、専用のメールアドレス用意しますね。この4人でパスワードを共有すれば、目撃情報なんかを共有できるかと思います」
みのるはスマホを取り出し、Gのマークのフリーメールアカウントを新たに作った。同時に複数端末でログインできるので、便利なのだ。
全員にスマホを出してもらい、それらで同じアカウントにログインする。
「自動ログイン機能をONにしました。これで、開くときには勝手にパスワードを入力してくれます。ただし、パスワードを見ることが出来るのは僕だけになるので、パスワードの変更やアカウント削除ができるのも、僕だけになります」
この中の誰か――特に、信用をまだ得ていない太――がパスワードを変更して、情報を共有できなくなるのを避けるための対策だ。
「よし、ありがとう。それじゃあ、ヤツやディクの目撃情報が入って現場に向かうときは、必ずチームで行くこと。撫子・みのる君・江原君のうち2人以上がいるメンバーで行けば、多少は安心だと思うし」
「そうだな。特に相手の手の内がわからないうちは、単独で動くのは避けるべきだろう。みのる君も、十分に気をつけてくれ」
「はい」
方針が定まり、4人は喫茶店を出た。
あしゅなのフィギュアを買って昼食を済ませたら繁華街に戻り、散らかした傘のゴミや火バサミの残骸を拾う。ついでに通行人に光がどんどん声をかけていき、協力者を増やしながら、メールアドレスを教えて回った。
数百人の協力者を得た頃には、いい時間になっていたので、学校に戻る。
校庭には戻ってきた生徒達の姿がちらほらと見えた。ゴミ袋は各学級の列の前に積んであり、大きな山になっている。ゴミ拾いイベントについては市役所に連絡済であり、明日の朝には収集車が直接きて、ゴミを回収してくれる予定だ。
光が閉会の挨拶をし、長いゴミ拾いの一日は終わりを迎えた。




