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DQNとはつまり不良のこと

 黒衣の少年、ふとしはフラフラと寄り道をしながら、駅の方向に進んでいた。

 人気のない踏み切りまで歩みを進めた彼は、そこで立ち止まった。


「……奴の情報によれば、ここで間違いない」


 腰を落とし、油断のない仕草でゆっくりと周囲を窺う。尾行していた3人は素早く電柱に隠れた。


「バレたか?」

「いや、大丈夫。気付いてないみたい」


 ひそひそとかすれた無声音で会話する。


「『奴』とは誰なんだ? ここで何が起きるのだ」

「さあ。ただの妄想かもしれませんし、もしかすると、本当に何か起きるのかも……」


 じっと見守っていると、耳障りなカンカンカンカンという音を立てながら、踏切が降りた。やってきた電車が風を巻き上げながら、轟音とともに通り過ぎていく。

 吹き上げられる前髪を片手で押さえながら、太は悔しげに呟いた。


「くっ、逃げられたか。だが、いつまでも逃げられると思うなよ……俺の『眼』は全てを追い詰める」


 ばっと手を払い、彼は開いた踏み切りの先を睨みつけてから、また歩き出す。

 なお、足元に落ちているタバコの吸殻はほったらかしだ。左手に握られているゴミ袋と火バサミが、なんとも所在なさげだ。


「何も起きなかったね」

「何が起きる設定だったんでしょうね」


 踏み切りの先をしばらく進むと、風俗店やキャバクラなどが並ぶ、こじんまりとした歓楽街にさしかかる。まだ日が高く、夜の住人たちの姿はない。

 静まり返った雑居ビルの群れを見上げ、太は囁くように何かを言った。


「声が小さすぎて聞こえなかったんですけど、撫子先輩は聞こえました?」

「ああ。『風が、哀しみを歌ってやがる』と言っていたな」

「ぐはっ」


 みのるは自分のことではないのに、今すぐ駆け出したいような、むず痒い羞恥心しゅうちしんに身悶えした。

 その間に、太の背中はビルの間の路地裏に入り込んでいく。


「追うよ」

「あ、はい」


 なぜか骨の折れた傘が何本も突き刺さっているスタンド灰皿を撫子が抱えて、カモフラージュしながらコソコソと路地裏に入る。


「なんだ……?」


 太が振り返った。とっさに、みのると光は両手をあげて折れた傘の物まねをする。


「……ただの傘立てか」


 太は気付かなかった。3人は胸を撫で下ろす。

 路地の角を曲がった太を、より慎重に抜き足差し足で追うと、しゃがんでいる後姿が見えた。

 太はチャオチュ○ルという、猫が大喜びでとびつくチューブ状の餌を、子猫に与えている。


「腹、減ってたんだろう? ふっ……お前もひとりぼっちだもんな。俺も飢えて仕方ないぜ……戦いにな」


 撫子が首をかしげた。


「猫相手に、何を言っているんだ。あいつは」

「真顔で言うのやめてください」

「それよりこの姿勢、腰痛いんだけど」

「光先輩は我慢してください」


 ずっと中腰の姿勢に、光が弱音を吐く。

 子猫はチャオ○ュールを食べ終わると、撫でようと伸ばした太の手を引っ掻いてから、軽い身のこなしでビルの配管を伝ってどこかへ消えていった。


「馴れ合いは好まない……か。どこか、似ているな。俺たちは」


 また何か言いたそうに振り返る撫子の口に、みのるは塩飴を放り込んで黙らせた。




 夜の繁華街が「大人たちのたまり場」だとするならば。皮肉だが、昼間の繁華街は、「大人の言うことを聞きたくない、子どもたちのたまり場」だ。

 たった1人で、しかも変な服装でフラフラしている太は、夜と暴力に憧れる少年達から見れば、恰好のカモだろう。

 迷い込んだ異質な羊を、持て余した暴力のはけ口にしようと、5人ほどの少年の集団が取り囲んだ。


「おい、なんだテメェ。変なカッコでふらふらしやがって。さっきから目障りなんだよ」


 金髪をツンツンに逆立てた少年は、いかにも人を傷つけることに慣れた空気感を出している。太が逃げないように取り囲んだ少年達も同様だ。下卑た笑みを浮かべ、指の骨を鳴らしたりしている。


「そのダセェコートがカッコいいとでも思ってんのか?」


 光が顔をしかめた。


「季節感さえあればカッコいいとは思うけど」

「光先輩は、ああいうのが好きなんですか?」


 みのるは愕然がくぜんとした。


「まんまアレはいやだよ」


 光は太のファッションを切り捨てた。


「それにしても、止めた方がいいんじゃないか?」


 撫子の言葉に視線をやると、太が胸倉を掴まれて宙吊りにされていた。金髪の少年が拳を振り上げる。


「まずいね」

「行きますか」


 3人が動こうとしたときだった。

 急に、太を囲んでいた少年たちがバタバタと倒れる。そして、彼らがいる場所にだけ、あからさまに絵の具っぽい赤色の液体が、どこからか降ってきた。

 倒れた少年達は、チープな赤色の液体によって、血まみれ風になる。


「うっ……くっ。また、まただ……」


 太は眼帯を押さえながら、よろめく。


「DQNに囲まれたと思ったら、記憶がなくなっていて、いつの間にか周りに人が血まみれで倒れている……ちなみに彼女はあしゅなに似てる……」


 今度こそ、撫子は言い放った。


「何を言っているんだ、あいつは」

誤字報告を頂きました。

名前の表示がなく、直接お礼を述べることが叶わなかったので、ここでお礼させていただきます。

ありがとうございました。

連載が順調にできているのは、皆様のご支援と、カフェインのおかげです。

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