中二病も良いことしたい
ゴミ拾い当日の朝。早朝にも関わらず、校庭には全校生徒が勢ぞろいしていた。全員が軍手・ゴミ袋・火バサミを持っているのは、壮観ですらある。
全員私服なので、学校の行事とは思えない色鮮やかさだ。もちろん、生徒会の3人も私服を着ている。
光はホットパンツとレギンス、上は長めのTシャツにショートパーカーを重ねている。ポップなグリーンのスニーカーが、強烈な自己主張をしている。活動的な魅力を存分に出した格好だ。
撫子は、黒のスキニーと、タートルネックの白ニットを着ている。体のラインが出ていて、思春期男子には暴力的なルックスになっている。
ジーパンとハイネックパーカーを着たみのるは、極力2人を目にいれないようにしながら、照れを隠すように早口で報告する。
「出席確認しましたけど、欠席者はなしですね」
「欠席も遅刻もなしか。病欠くらいは出るかと思ったが、気候がいいのが幸いしたか」
「まあ、健康に気をつけるように、ちょくちょく告知してるからね。みんな手洗いうがい・早寝早起きしている、日本一健康的な高校だよ!」
健康はいいこと! と光が元気よく言った。
早寝早起きの習慣がいい方向に作用したのか、光が生徒会長に就任してから、この高校の偏差値は少しずつ上がっているらしい。
相変わらず、影響力の強すぎる信仰である。
「2・3年の生徒たちの様子を見て回ったが、取り立てて変わった態度の者はいなかったな」
ほぼ誰もゴミ拾いを面倒に思っていないせいか、楽しい行事ごととして、和気藹々といい雰囲気だ。
だが、みのるは名簿に並ぶ名前のひとつ「江原太」にボールペンで赤線を引いた。
「1年C組のこの生徒が、若干面倒くさそうに見えましたね」
「ふむ、確認してこよう」
さりげない様子で、3人は1年C組の生徒が並ぶ列を見やる。
前髪が長く、左目だけを出した男子生徒が、気だるそうにしている。
「ん……? 彼だけ軍手じゃないものつけてない?」
「指ぬきグローブですね」
魔方陣のようなものが白く染め抜かれた、黒色の指ぬきグローブを両手にはめているのだ。
「耳に白い紐がかかっているよね。イヤホンでもマスクでもないようだけど」
「おそらく、眼帯ですね」
「そしてこの時期に黒のロングコート。暑くないのか? いや、風邪で寒気がするのか」
「そこまで頑張るようなものじゃないのに……。帰らせて安静にしてもらわなきゃ!」
ひとりだけ変わった格好をした彼に駆け寄ろうとする光を、みのるは腕を引いて止めた。
「待ってください」
「どうしたのさ?」
「おそらく彼は怪我人でも病人でもありません」
「じゃあなぜ眼帯をしてロングコートを着ているんだ?」
撫子は不思議そうな顔をする。
「たぶんですけど彼はただの――――中二病です」
「ちゅう……に、びょう」
「聞いたことはあるけど、いまいちわからないんだよね、それ」
光と撫子にはしっくりこないようだ。
「小学生くらいまで、ヒーローになりきって遊んでいる男の子たちっていましたよね?」
2人は揃って頷いた。
「ああ、いたな。30センチの竹定規を振り回して危険だったから、箒の柄で払い落としてやった記憶がある」
「スタイリッシュすぎませんか? それを引きずったまま、思春期男子特有の妄想や、自己愛、憧れ、反抗心、ひねくれなんかが組み合わさって、痛々しい妄想を自分に重ねてしまう状態のことです」
多分な偏見を含んだみのるの解説を受け、光は「うわぁ」という顔をした。
「しかし、ヒーローごっこの延長なら、むしろ正義感に満ちていて良い状態な気もするが」
「それはそうなんですけどね。中二病の男子って、闇とか暗黒とか漆黒とかが大好きなんですよ」
「だから黒っぽい服装をしているのだな」
「おそらく、あの眼帯を外すと、封印されし闇の魔力が溢れ出す……とかいう妄想をしているはずです」
撫子まで「うわぁ」という顔をした。
――黒のロングコートって、何か既視感があるんだけど、なんだったっけな……。
みのるは引っかかりを覚えて、思い出そうと数秒頑張ってみたが、出てこない。
「まあ、面倒くさそうな態度が普段どおりなのか、それとも、信仰持ちなのかは微妙なところね。一応、要観察ってところな」
「では、ゴミ拾いの間は尾行してみようか」
「そうね」
ひそひそと話している3人のところに、生徒会の顧問の教師が声をかけにきた。
「真中さん。それじゃあ、挨拶をしてもらってもいいかな?」
「はい、大丈夫です」
光はメガホンを受け取り、全校生徒の前に置かれた、机の上に仁王立ちする。
「おはようございます! 生徒会長の真中光です。朝早くから集まってくれて、本当にありがとう! それじゃあ皆、この町からゴミを駆逐しよう! ひとつ残らず!」
「おおおおおお!」
「解散!」
演壇の代わりに使った机から、ひらりと飛び降りた光は、みのると撫子に素早く合流した。
3人が見据える先には、のそのそと動き出した、暑苦しい真っ黒な背中がある。
「それじゃあ、尾行開始!」
光がにやっと笑った。




