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灰皿と黒衣の双剣士

「誰だ!?」


 太が鋭く誰何すいかした。

 みのるたちはアイコンタクトをとり、傘立てのようになったスタンド灰皿から姿を現した。


「生徒会だよ、江原君」

「せ、生徒会!? まさか、裏で学校を支配する生徒会が、俺の『眼』を狙っているとでもいうのか……」


 大げさに驚いたリアクションをとった太は、後半はボソボソと小声で呟いた。が、撫子の聴覚は当然聞き逃さない。


「いや、そもそも君の能力は『眼』じゃないだろう?」

「なぜ知っている!?」

「たった今、能力を使うところを見ていたしな」


 太は沈黙した。

 一見、正論で論破しているように見える。しかし、実は「裏で学校を支配している」という部分は身に覚えがあったので、話をそらしただけだった。


「わたし達は、君が持っているような特殊な力を『信仰』って呼んでる。君の能力の正体は掴めないけれど……人に危害を加えることができるもの、というのはわかるよ」


 光は地面に転がっている不良少年たちを、ちらりと見やった。


「こ、これはだな。その、闇の波動が暴走した結果であって」

「うん。暴走したっていうことは、制御できていないんだよね?」

「そ、そもそも俺のことを殴ろうとしたから、こうなったんだ」


 横たわる少年達を指さしながら、太は鼻息荒く言った。


「うん。わかるよ。君がしたことそのものを、悪いことだとは言ってない。ただ、君は力を持っている以上、それをどう使っていくのかを、慎重に考えるべきだと思うんだ。わたしの『正義』感の押し付けかもしれないけどさ」


 太はぐっと詰まった言葉を、大きく息を吸い込んでから、はき捨てた。


「俺の力だ。どう使おうが、俺の勝手だろ」


「君はそう思うんだね。でも、わたしは、少なくとも君の力は、ゴミ拾いをサボって歓楽街に行って喧嘩するために使っていいとは思わない」


「う、うるさい。折角、手に入れた力なんだ。俺は、特別だったんだ。空しい気持ちで自分に言い聞かせていたものが、現実逃避でしかなかった妄想が現実になったんだ。浮かれて何が悪い!? 好きに使って何が悪いんだ!」


 太は薬局で売っている医療用の白い眼帯をむしり取った。それを、ちゃんとゴミ拾い用の袋に入れながら叫ぶ。

 頭を振り乱したことで、前髪に隠れていた彼の目があらわになった。

 語気荒く叫んでいるというのに。

 怯えが浮かんでいた。


「辛いことでもあったのか?」


 すっと。言葉と言葉の合間の呼吸に重ねるように、撫子の言葉が滑り込んだ。


「苦しかったのか?」


 太が後ずさった。


「追い詰められていたのか?」


 その分、撫子が歩み寄る。


「その力が、君にとっての救いだったのか」


 近づくな、とばかりに太は火バサミを振った。


「わ、わかったようなことを言うな……。そんな、恵まれた人間のくせに、優しいフリなんてするな……! 3次元の女なんて、信用できないんだよ!」


 太は火バサミを大きく開いて閉じてを繰り返し、真ん中から二つに折った。それを両手に構え、高らかに叫ぶ。


「あしゅなは俺が守る!」


 太を中心に風がざあぁと吹いた。

 それに対峙する撫子は。


「みのる君。さっきから思っているんだが、あしゅなとは何だ?」


 思いっきりよそ見をして、みのるに質問していた。

 みのるは太をちらちらと見ながら、気まずそうに説明をする。


「えーと、大ヒットした小説やアニメなどの作品に登場した、ヒロインの名前です。予想ですけど、太の能力はわかりました」


「教えてくれ」


「イキリクリトですね。クリトというのは、あしゅなが出てくる作品のヒーローで、栗ヶくりがや優斗ゆうとの略みたいなもんです。それになりきって、ネット上でイキリ散らす人のことをイキリクリトと呼びます」


 ネット上では強い姿でありたかった。匿名性に守られた、そんなささやかな願いは。

 現実でのコミュニケーションが極端に少ない環境で、ネット上のみでの会話が繰り返されたことで刷り込まれ。それと、信仰の素質が奇跡的に噛み合い、太にリアルな力をもたらした。


「クリトは二刀流で、人間離れした技を使います。注意してください」

「わかった。助かる」


 太は様式美を大事にするタイプだったのか、会話が終わるまできちんと待っていた。

 撫子は改めて太と向き合い、柔らかな声音で話しかけた。


「君の素性だけはっきりしている、というのも不公平だろう。私は生徒会副会長、門倉かどくら撫子なでしこだ。信仰は『最高峰』。トップアスリートに比肩する身体能力とでも思ってくれ」


 撫子は手をにぎにぎして、体の調子を確認するような仕草をした。


「言葉だけではわかりあえないのなら、まずは力比べで語るしかないのだろうな」


 そして。


「よっと」


 スタンド灰皿を片手で持ち上げて、野球のピッチャーのように振りかぶった。


「君が剣なら、私はこれを使おうか。怪我しないでくれよ?」

「ええええええええええ」


 ドン引きする声が3人分響いた。

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