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55話 トランスファー

感想をいただきました。返信が遅れて申し訳ありません。

お詫びと言ってはなんですが、急遽執筆して更新です。

 最後の階へと繋がる階段は緩く左にカーブしながら降りているようだ。また今までのような土の階段と違い、何処か機械的・無機質的な印象を受ける。素材は大広間の時のように何かの石を使っているらしく、降りるたびにコツコツと靴音を反響させていた。


 しばらく降りると、部屋に繋がっているのが確認できたため足を止める。階段の残りは数段といったところだ。

 部屋に光源となる魔道具は設置されていないらしく、奥がどうなっているのかはここからでは確認できなかった。部屋の入口だけがぽっかりと口を開けている状態だ。


「……あの先が件の部屋みたいだな。ヴェルゼ、何かわかるか?」


「迷宮に入ってきた時と変わらない」


「……そうか。女神は?」


「はい。確実にエルフの作った生物兵器が奥にあります。どんな仕掛けかはわかりませんが、事実として存在します」


 ヴェルゼに尋ねた後、女神にも問いかける。しかし新たな情報はなく、この先がどうなっているのかを想像することしかできない。


「ここまで近づいてもなんのアクションもないってことは、やっぱ動いてないのか……?」


「しっ!何か聞こえる――」


 生物兵器は動いていないのだろうか、そう呟いた時、何かを聞きつけたオルタが注意を促した。

 それに従い耳を澄ますと、微かに人間の話し声のような物が聞こえる。


「定期――、魔力充――、―9.998――セント、再起――で、残り120秒」


 微かに聞き取れたそれは、明らかに起動までの時間を示唆した内容だった。


「っ!マジかよ……!!」


 創造神をして世界にとって危険と言わしめるような兵器が再起動しようとしている。それも残り2分というわずかな時間を残してだ。

 逆に言えばあと2分は動かないと考えられる。故に、そいつが起動する前に部屋に飛び込んだ。

 意を汲んだかのように傍らのヴェルゼもついてくる。たった2分で何ができるかは分からないが、何かしら準備ができるかもしれないのなら、有効活用すべきだろう。


 暗闇に飛び込んだ瞬間、封印の扉の時と同じ光が部屋を照らした。先程は目を眩ましてしまったが、二度は同じ手を食わない。白く染め上がった視界に目を細めつつも、明らかとなった部屋の全貌の確認を急ぐ。


 ――部屋自体はさほど広くない。むしろかなり窮屈に感じる。真っ白な光が天井だけでなく壁や床からも発されているため部屋の輪郭がわかりづらいが、10メートル四方といったところか。

 部屋の中央にはソフトボール大の水晶のような玉が埋められた台座と、その隣に目を閉じて佇む女が在った。


 クリーム色の髪はふわりとしたボブカットで、肌は血流を感じさせないほどの白さ。

 体型は標準という言葉がぴったりと当てはまりそうだ。身長はヴェルゼと同じくらいだろう。


「……一応訊くが、女の方が兵器だよな?」


 遅れて部屋に入ってきた女神に尋ねる。


「その通りです。この型は見たことがありませんが……そんなっ!?」


 冷静に答えた女神の表情が唐突に驚愕へと変わる。


「どうした!?」


 この兵器について一番詳しいであろう女神が驚くということは、何か良くないことが発生してしまっているということだ。早急に対処しなければならないことかもしれない。


 慌てて尋ねると、驚愕を顔に貼り付けたまま女神が説明する。


「水晶が守護方陣についての記録を媒介しているものなのですが、記録が全て兵器の方に移し替えられています……」


「記録は無事だったんじゃなかったのか?」


「わ、私にも何が何だか……」


 この女神が頼りにならないのは今に始まったことではないのだが、守護方陣についての記録すら無事でなかったとなると、いよいよもって事が大きくなってくる。


 どうなっているにせよ、今は情報が足りなすぎる――。


 そんなことを考えているうちにも時は流れる。与えられた2分という時間は、状況を整理するには短すぎた。


 神をも警戒させる兵器が、目を覚ます。





「定期確認。魔力充填率――100%。再起動(Reboot)」


 静かに告げられたそれは全くの感情を感じさせず、この場にいる全ての者の耳に届けられた。

 無機質な声は続けて言葉を紡ぐ。


 -CODE:TRANSFER――起動(Boot)します。

 -機体の強制休止の履歴(Log)を確認。休止時のバックアップデータを参照します。

 -機体損傷状況確認。――損傷ゼロ(Clear)。

 -自律行動システム起動(Boot)。正常作動を確認(Clear)。

 -強制休止時の履歴(Log)を適用。――システムの異常動作を検知(Error)。

 -異常(Error)を確認します。――空間跳躍時座標特定機体(Receiver)を確認できません(Lost)。

 -空間跳躍時座標特定機体(Receiver)を検索(Search)します。――空間跳躍時座標特定機体(Receiver)を確認できません(Lost)。

 -空間跳躍時座標特定機体(Receiver)を再検索(Research)します。――空間跳躍時座標特定機体(Receiver)を確認できません(Lost)。

 -空間跳躍時座標特定機体(Receiver)を再検索(Research)します。――空間跳躍時座標特定機体(Receiver)を確認できません(Lost)。

 -空間跳躍時座標特定機体(Receiver)を再検索(Research)します。――空間跳躍時座標特定機体(Receiver)を確認できません(Lost)。

 ―――――

 ―――

 ――

 ―



 壊れた玩具のように同じ言葉を繰り返すようになった女を遠目に眺めつつ、女神に尋ねる。


「これ、どうなってんだ?」


「恐らくですが、この型は守護方陣のデータを取得・移送するのが役目……だったのではないかと思います」


「どういう事だ?」


「少し込み入った話になりますが、大丈夫ですか?」


「アレがループしてるうちは大丈夫だろ。頼む」


「分かりました」


 そう言うと女神は一つ咳払いをして話し始めた。


「エルフは独自の技術によって、自らの種族の手でこの世界を破滅から守ろうとしていました。そのために生み出されたのがアレを含めた生物兵器です」


「生物兵器なんて言うから生きてる物を兵器にしてるのかと思ってたが、アレは生物に近い兵器だよな?」


「そうですね。八千代さんの世界の言葉を借りるならば、ロボットと言うのが近しいかもしれません」


「自立行動型のロボットね……。そこだけ随分と文明が進んでるように見えるな」


「はい。エルフは高度な知能と長い寿命によって独自の文明を持っています。しかしアレらはこの世界において些か進み過ぎてしまっていまして……」


「それが何か問題なのか?」


「アレが作られてからというもの、世界に貯まるバグの量を許容できないレベルで増やし続けたのです」


「エルフはそれを知らなかった……か。で、お前が慌てて世界から消滅させた、と」


「概ねその通りです。アレの言葉の中に空間跳躍時、という言葉があるのは気づきましたか?」


「ああ。オルタの使う転移みたいなものか?」


「ほぼ同じと考えていただいて問題ありません。推測ばかりになってしまいますが、エルフは守護方陣を生物兵器に使わせようとしていたのかもしれません」


「だが守護方陣はここでしか手に入れられないから、盗みに来たと」


「はい。転移してくることのできないこの部屋にどうやって転移してきたのかはわかりませんが……」


「そう考えると脱出も無理なんじゃないのか?」


「いえ、お恥ずかしい話ですが入られなければ出るものもいないだろうということで、ここに転移してくるのは妨害されるのですが……その……」


「まさか、ここから別の場所に転移するのは自由だって言うんじゃないよな?」


「一応、別空間という扱いになっていますので転移先を指定できない筈なのですが、アレのしていたように転移先があらかじめ決まっているとなると……」


「できちゃうわけだな」


「はい……」


 なんでそんなずさんな管理にしてるんだと問えば、女神は「リソースの関係で……」と俯くばかりだった。


 そんな会話をしていると、ループを続けていた生物兵器に変化があった。


「-システムの繰返し(Loop)を検知。強制停止して命令待機(Standby)に移行します」


 という言葉以降、目を閉じたままうんともすんとも言わなくなったのである。


「……どう思う?」


「きっと魔力消費を抑えるための行動でしょう……。見たところアレに戦闘能力はなさそうですので、まずは守護方陣の記録をどうやって取り戻すかですね……」


「見ただけでわかるのか」


「戦闘能力のある型も見てますし、何より神ですからね」


「……そうかよ。それより、守護方陣を新しく作ったりはできないのか?」


「それよりって……。ええと、守護方陣には莫大なリソースを割きましたからね……。現状では難しいと言わざるを得ませんね」


「じゃあアレから取り戻すしかないのか……」


「転移先になる型の方は既にありませんので、ここで何とかすることになりますね」


「と言われてもな……。触ったことのない機械を使いこなすのは俺には無理だぞ」


「私にも……。とりあえず、ちょっと観察してみましょうか」


 危険がないことがわかったので、動かなくなった生物兵器――危険がないのに兵器という名称が当てはまるのか疑問だが――を観察するべく近寄った。


 すると生物兵器は今までずっと目を閉じていたのに、ゆっくりと目を開いた。


 髪と同じクリーム色の双眸と、自分の視線とが交叉する。


「うおっ!?」


「-定数以上の魔力総量を検知。所有者(Owner)と認識」


「は?」


「――何なりとお申し付けを。我が主」


「ええ?」


 今までの感情のなさが嘘のようにふわりと微笑むと、表情とは対照的に無機質な声で彼女・・はそう言うのだった。



いろいろとすっ飛ばしてますが、一応後から解説していきます。なぜトランスファーちゃんは部屋に取り残されることになったのか、とか、守護方陣無事だって言ってたじゃん!とか……。

大体女神がポンコツなのが悪いんですけどね。


感想・質問などいつでもお待ちしております。

今回のように気軽に質問して頂ければ、なるべくわかりやすいようにお答えしていきたいと思いますです。

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