39話 フィーアの気持ち
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神殿を出て家まで帰ってきて、時刻は丁度昼頃だ。武器もないためこのまま家でゴロゴロしていてもいいのだが、旅には先立つものも必要になるだろうということで、昼食後は依頼を受けることにする。
それを聞いたオルタが、いつものようにパンをちぎって食べつつ言う。
「お金ならあたしが持ってるんだけどね」
「いつまでもオルタに頼る訳にもいかないだろ」
オルタの貯金の多くは冒険者ギルドに預けられているらしく、そこで始めてギルドが銀行の代わりもやっていることを知った。
ギルドは冒険者証の情報をギルド間で共有しているらしく、どこで預けても冒険者ギルドのある場所ならばいつでも引き出せるらしい。あまりにも多額を一回に引き出すと、その冒険者ギルド内のお金をかっさらうことになってしまうため、ある程度の制限はかかるそうだが。
そこまで大きな買い物をしたいときには冒険者ギルドからの引き落としという形で交渉も可能らしい。その際はギルドの役員に話を通して、交渉の場に一緒に来て貰うのだとか。
「そうかい? あたしは構わないんだけどね。どうせ一生かかっても使い切らないだろうし」
「どれだけ貯めてるんだよ……。むしろ、そんなに溜めてると経済が回らなそうだが」
「金なんてあるところにはあるもんさ。気にするだけ無駄だよ」
金持ちの考えはわからない。何せ、今も昔も金持ちになったことなどないのだから。
金の心配がいらないというのは非常に助かるが、自分のことは自分でできるくらいには稼ぐ必要があるとも思う。
「でも、この人数のパーティだと依頼の報酬金が頭割りになって、さほど稼げないと思うけど?」
オルタが痛いところを突いてくる。
「低ランクのうちはそれが顕著だよな……」
そう、依頼はパーティ単位での受注になるため、一人でこなせるのならその方が個人の収入としては多くなるのだ。低ランクのうちは一人でもできる依頼が多いし、貰える金額も少ないために死活問題になってくる。
高ランクの依頼ならば報酬金が多くなってくるから頭割りしてもさほど気にならないし、依頼によってはメンバー全員に報酬が出るものもあるのだ。
冒険者が高ランクを目指す理由としては、そういったところが大きなウェイトを占めている。
そこに、ヴェルゼが一言漏らす。
「……私はお金いらないから、ヤチヨと共有でいい」
ヴェルゼが金を必要とする機会はそう多くない。というか、いつも俺にくっついて一緒に行動しているため、大体の場合俺が支払えば問題ないことがほとんどだ。そういった理由から、ヴェルゼは財布を俺と共有すると言っているのだろう。
共有と言っても実質は俺が握っていることになるのだが。
「妾も金はいらんのう。妾は主様のものじゃからな。ヴェルゼと同じく、主様に任せるのじゃ」
ヴェルゼの言葉を聞いたフィーアが、それに同調するように言う。相変わらず自分を俺の所有物だと主張するフィーアだが、ややその言動に俺が慣れ始めているのは問題かもしれない。
「そうか? 急に必要になったりってこともあると思うんだが」
「買い物を別々にする位ならば、その時に小遣いとして少し貰えればいいのじゃ。本当に緊急の事態になった時は、そもそも金なぞ機能しないことがほとんどじゃろうしの」
結局のところ、フィーアも基本は金の管理を俺に任せるとのことだった。彼女がそれでいいのなら、俺は金の使い方に気をつけるだけなのでいいのだが。
有事に備えて、自分の使える金額は所持金の四分の一と考えておけば問題ないだろう。
「じゃあ、基本はオルタと俺との二分割ってことでいいのか? ヴェルゼとフィーアは何かあれば俺が出すって形で」
「あたしも実質いらないけどね……。まあ、親しき仲にもって言うし、一応受け取っておこうかね。それと、二分割じゃなくてあたしは四分の一を……いや、五分の一だね。アイティルもメンバーに加わるんだろう?」
「ああ、そうだったな。じゃあ、五分の三を俺、残りを半分にしてオルタとアイティルにそれぞれでいいか?」
「ま、妥当だろうね」
そういうわけで、当面の報酬金の受け取り割合が決まった。実質的にはそれぞれが頭割りしているようなものだが。
アイティルだが、必要なものは持ち込んでこちらに移住すると言っていたから、今のうちに買っておかなければいけないものはないだろう。今の俺はそんなに金を持っているわけではないし、費用がかからないってのはいいことだ。
恩賞を受け取ってしまえば、いくらか余裕はできると思うのだが。
「そういえば、なんとなく流れで戻ってきてここで飯を食ってるけど、外で食べてもよかったな」
金がないとは言いつつも、外食をしたことがないので実は少し楽しみにしているのだ。神殿で飲んだお茶も美味しかったし、この辺ではよく飲まれていると言っていたからそれに付随する食事の方にも期待している。
別にいつも食べているパンとベーコンやら、シチューのような具の色々入ったスープやらも嫌いではないのだが、きちんとした食事処での料理を食べてみたいという気持ちがあるのだ。
「あー、ヤチヨはずっと籠もってたからね。仕方なかったとはいえ、外食したがるのも無理はないね」
「オルタの作ってくれる飯もうまいけどな。じゃなきゃ、半年も我慢できてない」
実際、今食べているパンは市販のものとしても、並んでいる他の料理はオルタが作ってくれている物だ。普段も肉が出るときは焼いた後に旨いソースに絡められていたり、スープは出汁がよく効いていて、それもまた旨い。
レパートリーは若干少ないかも知れないが、それでも十分美味しいので半年間あまり気になるようなことはなかった。
「そ、そうかい? ありがとう……」
料理を褒められたのがよほど嬉しかったのか、オルタは顔を赤くしている。
最近オルタはこういう反応が増えたような気がすると思うのだが、俺の気のせいだろうか。少し前までのオルタは、あまり照れたり恥ずかしがったりということがなかったような気がするのだ。
「主様は女たらしじゃの。まあ、妾もその毒牙にかかっておるわけじゃが――あたっ」
「何言ってんだ」
フィーアがそんなことをぬかしていたので、デコピンで黙らせる。丁度俺もフィーアも食べ終えたところで、構ってもらって嬉しかったのか、ベタベタとくっついてくる。
「主様はいけずなのじゃ。ヴェルゼとは致す癖に、妾とは駄目じゃと言う。この世界では、強い者が女の一人や二人囲うのは普通じゃぞ?」
後ろから抱きつき、耳元でそんなことを言うフィーア。左腕にくっついているヴェルゼはこくこくと頷いていた。
「いや、頷くなよ。俺はヴェルゼ一筋だし、そもそも強い訳でもないからな」
「そんな、妾とはお遊びじゃったのか……!?」
俺の言葉にフィーアが過剰なリアクションを取るが、そもそもフィーアと遊んだ記憶すらない。
強いて言えば吸血の際に謎の液体を口移しされはしたが、あれは必要だったからしたまでであって、特別な意味はないだろう。
一筋と言われたヴェルゼは嬉しそうに抱いている俺の腕をさらに抱きしめていた。柔らかな感触が心地いい。
そんなことを考えつつ、思ったことをそのままフィーアに言う。
「遊びも何も、俺はお前に手を出してないだろ」
「む、妾の唇を奪っておいてそんなことを言うのかの?」
「あれは必要だったからしたまでだろ」
「いや、感覚を麻痺させるだけなら噛みついたところから注入すればいいだけなのじゃ。その方が即効性もあるしの。口移ししたのは、妾の親愛の気持ちを込めてじゃぞ?」
「はあ?」
つまり、口移しする必要はなかったがフィーアがしたかったからしたということになるのか? 会った瞬間から好感度が高い感じはしていたが、流石にそこまで好かれているとは思わなかった。
「あーあー。乙女のハジメテを奪っておいて、主様は意地悪なのじゃ」
「いや、半ば強引に唇を奪われたのは俺だろ……」
言いつつも、初めてのキスというのに少し驚いた。姫だったのだし、婚約者とかはいなかったのだろうか。
一応言っておくが、フィーアの過去の男が気になっているわけではない。断じて違う。
「それでもハジメテはハジメテなのじゃ。責任とってほしいのじゃーー」
「子供か……」
とうとう駄々をこね始めるフィーア。美少女が台無しではあるのだが、これはこれで可愛いかもしれないと思うのはいけないことだろうか。
そういうことを考えていると今までは大体ヴェルゼが怒り出していたのだが、なぜかフィーアに対してはヴェルゼはあまり反応しない。
出会ってすぐ位の時は反応していたと思うのだが、その後の短い時間で何があったのだろうか。
「フィーアは、二番目なら、いい」
俺の心を読んだようにヴェルゼが言う。この場合の二番目というのは、ナニを致す順番ではなくて正妻と側室との関係のようなものだろう。
「会ってそんなに経ってないけど、なんでそこまでフィーアを信頼してるんだ?」
別に俺がフィーアを信頼していないとか言うわけではなく、純粋な疑問だ。
「フィーアの気持ちは本物。私が保証する」
「そういうわけじゃ。妾は主様を愛しておるのじゃぞ?」
ヴェルゼの言葉に便乗してフィーアが言う。小っ恥ずかしいことを堂々と言う辺り、フィーアの性格が窺えるというものだ。
「そう言われるのは嬉しいけど、まだ会ってそんなに経ってないからな……」
気持ちは嬉しいが、こちらも同じかと言われればそうではないだろう。ヴェルゼへの気持ちを整理するのも半年くらいかかったし、俺はそんなにすぐすぐ誰でも好きになるような男ではないのである。
「むうう……。主様の好感度が上がらないのじゃ」
この世界にも好感度と言う言葉はあるらしい。そこに驚きだ。……いや、これは照れ隠しだ。
多分だが、俺がフィーアを受け入れてしまうのにそんなに時間はかからないと思う。フィーアはヴェルゼにも劣らない位可愛いし、それでいて俺を純粋に好いてくれている。ヴェルゼとの時は最初ということもあって時間がかかったのだが、人を好きになる気持ちをなんとなくでも理解した今の俺は、今後フィーアを受け入れることになる展開が予想できていた。
それ故に、フィーアに意地悪したくなってしまうというところがあるのだと思う。好きな子に意地悪してしまう小学生の心理と言ってしまえばそれまでなのだが、可愛い少女を軽くいじるのはなんとも言えない楽しさがある。
フィーアのマゾっ気に当てられて、俺のサド精神が燻りだしているのかもしれない。
「まぁ、そういうのは追い追いな。焦ることもないだろ」
「妾はすぐにでも襲われていいと思っておるのじゃが、主様がそう言うのなら仕方ないの」
あまり押しすぎも良くないのじゃ、と呟きつつ、フィーアはおとなしくなった。
依然後ろから抱きつかれたままではあるのだったが。
そして、途中からしゃべらなくなっていたオルタはと言えば――
「初めて……いや、アレはノーカンだろう……でも……」
――またしても一人であわあわと呟いているのだった。
全然話が進みません。
テンポの悪さがこのところ目立つような気がします。
中だるみしないように気を引き締めて続きを考えなくては……。




