35話 神殿へ
「え、ええと、私の話、ちゃんと聞いてました?」
「ああ。半日使い続けると死ぬんだろ?」
「ならばなぜそんな物を欲しがるんです……」
俺がこの死神の外套を欲しがる理由がわからないのだろう、目をぐるぐると回しながらミシュレイは疑問を口にしている。このままだと熱が再発しかねないので、フォローしておくか。
「あー、俺にとってこれは都合がいい装備なんだ。あんまり理由は言えないんだが、まぁそういうものなんだと思ってくれ」
重要なところを濁しているので、普通に考えれば全く説得力がない。が、「俺不死身でさー」とも言えるはずがなく、どうしたものかと思ってしまう。
「死んじゃいますよ……」
「半日着続けなければ大丈夫なんだろ?」
「それは、そうなんですけどね」
半日というのは、長いようでいて実は短い。簡単な討伐依頼くらいなら日帰りで帰ってこれるのだが、中型の魔物以上と戦うとなると、戦闘がひっきりなしに続いて半日くらいはすぐに経ってしまう。
半日ずっと戦い続ける訳ではなく、数分から数十分に一度魔物が現れて戦闘になるため、休み休みだが長くは休めない状態での戦闘が続くのである。
そういったことを考えれば、ミシュレイの懸念はあってしかるべきものだ。
「あー、あれだ。俺には呪いの類いが効かないんだ。だから安心してくれ」
咄嗟に思いついた嘘だが、これはそこそこ良い線を行っているのではないだろうか。実際には効かないわけではないのだが、致死性の呪いは逆に回復効果があるといえるレベルだ。苦痛については軽減されないから、純粋に回復とは言えないのだが。
「なんと! 神様の加護をお持ちなんですね!」
どうやら呪いが効かない人は加護を持っている人になるらしい。
この世界において加護を持っている人はそれほどいないが、逆に言えばいるところにはある程度いるらしい。加護の内容は様々で、呪いを受けなくなるというものから音感が良くなるという微妙な感じを受けるものまで、いろいろなものが見つかっているのだとか。
実際、俺も女神から幸運と限界突破を貰っているわけだし、ある意味加護持ちではある。
「まぁ、そんなところだな。そういうわけだから、これ譲って欲しいんだ」
「それならば、大丈夫でしょうね。身近なところに珍しい加護を持った人がいるなんて驚きです!」
何やらミシュレイはまた興奮していたが、なんとか落ち着けて譲って貰うことになった。性能自体はとても良いものだから、いくらかの金は払ってもよかったのだが、
「いえいえ、呪い付きの装備ですし。それに、防具屋が扱えないような代物を売ってお金を頂くわけにもいかないですよ」
とのことで、無料で譲って貰うことになった。研究や呪いの解除についてはもうだいぶ前に無理だという報告をギルドにしており、所在が確かならば俺が貰っても不都合はないとのことだ。
「じゃあ、ありがたく貰っておく。あとは、オルタは自前のがあるだろうから良いとして、フィーアか?」
フィーアは前衛兼斥候として動くため、動きやすさに重きを置いたものが良いだろう。最低限の箇所が守られていれば、あとは血戒でどうにでもなると言っていた。
「なら、このハーフメイル辺りが良いと思います。他のものと違って要所以外は薄めに作られていて、かなり軽くなっているのが特徴ですね」
そう言ってミシュレイが見繕ってくれた。フィーアも気に入った様子だったので、狩りなどに行く際は着用していけるだろう。
「素材こそありふれた鉄じゃが、良い職人の作った物じゃな。ありがたく使わせてもらうのじゃ」
「ここの防具の大半は私が作っているんですよ。それも私作ですねー」
「おお、お主は良い腕を持っておるのじゃの。良い素材が手に入ったら、頼んでみるのもいいかもしれんの」
「えへへ、ありがとうございます」
女性職人というのも珍しいとは思うが、置かれている防具を見るにかなりの腕があるのは確かなようで、今後良い素材が手に入ったら加工して貰うのもありだな、と思う。
その際は俺の防具じゃなくて、パーティーのメンバーに使って貰う物になるだろうけど。
「あたしは自分のがあるから、防具はこれでいいかね」
「ヴェルゼさんは宜しいのですか?」
オルタの言葉に、ミシュレイがヴェルゼを気にかける。
「ヴェルゼは高度な魔法の使い手でな。後衛だから重い防具は要らないし、ローブが必要になることも少ないんだ」
これも嘘だが、実際高度な魔術師はその魔力を用いて障壁を作ったり、魔法耐性が高かったりするために防具があまり必要なくなるらしい。俺の言葉にミシュレイは納得していた。
「なら、大丈夫ですね! フィーアさん用のを調整しますので、明後日くらいに受け取りに来て下さい」
簡単な調整で済むそうなので、そこまで時間はかからないそうだ。お礼を言って、俺たちは防具店を後にした。
「次は……おっさんのとこか」
「そうさね。剣を潰しちゃったのを言いに行かないとね」
一応借り物であったため、数打ちの剣であるとはいえ謝っておく方がいいだろうという考えだ。武器店もすぐ近くにあるため、ついでに寄るには楽だ。
武器店の扉を開けると、店主であるおっさんが声をかけてくる。
「らっしゃい。ん、誰かと思えば坊主か。剣ならもうしばらくかかるぞ」
剣の様子を見に来たと思ったのか、おっさんはそう言う。
「いや、それはわかっているからいいんだが、実は代わりに受け取っていた剣なんだがな」
「おお、そう言えば今は持ってねえな。やっぱり剣は使いづらいか?」
「いや、属性剣を試したせいで刀身はおろか柄まで消し飛んじまった」
「はぁ!?」
俺が説明すると、おっさんは大げさなほどに驚いている。そこまで驚くことなのだろうかと思って聞いてみると、おっさんは慌てたように説明してくれる。
「おいおい、属性剣なんて普通はやろうとしたってできねえって。それこそ、王家のお抱え騎士団の中でもトップクラスくらいじゃねえとな」
セントリア王国の王が持っている騎士団の中には、属性剣の使い手がいるらしい。何でも相当な使い手で、炎の属性剣を自由自在に操り、その姿から炎剣とか呼ばれているそうだ。
「へー、属性剣ってそんな難しいもんだったんだな」
ぶっつけ本番で成功したのは奇跡的なものだったのだろう。一か八かでやったことだが、成功して良かった。
そう気の抜けた返事をすると、呆れたようにおっさんが言う。
「ことのでかさをわかってねえな……。まぁ、剣を潰しちまうようじゃ制御はできてねえみたいだが、魔力の通りの悪い鉄製の剣を消し飛ばすレベルってのはなかなかいない」
「まぁ、半ば強引に発動したからな。そんで、弁償しようと思って来たんだが――」
「あー、金ならいいわ。これからもうちで武器を買ってってくれるならな。まだ荒削りって言えるようなもんでもねえが、坊主はこれから伸びそうだからな」
これからに期待ってことで、とおっさん。
「なら、好意に甘えておくよ。剣の出来上がりは明後日くらいだったよな」
「おう、もうしばらく待っとけ」
偶然にも、防具の仕上がりと同じ日になりそうだ。それまで武器がないので、依頼は受けるとしても簡単なものでいいだろう。
魔法に物を言わせても良いのだが、魔法剣士としてやっていくなら武器も扱えるようになりたいからな。変に魔法に頼る癖もつけたくない。
「ああ、言い忘れてたことがある。というか、その可能性を考慮してなかっただけだがな」
と、おっさんが何やら言うことがあるみたいだ。
「お前に渡す漆黒鉄製の剣だが、これは恐ろしく魔力の通りが悪い。属性剣との相性は最悪だから、基本的に使えない物だと思え」
とのことらしい。鉱石によって魔力の通りがいいとか悪いとかがあるのは前に聞いたが、漆黒鉄はその中でもダントツといえるくらい魔力の通りが悪いのだとか。
逆に、その性質を利用して魔法から身を守るのにも使えるそうで、漆黒鉄製の防具は魔法耐性がとても高いらしい。固さもあるので、防具としては一級品だ。
「まぁ、剣に魔力を通すのが難しいってだけで、魔法の発動を阻害したりはしねえ。牽制に魔法を撃ったりするのなら全く問題はないからな」
「わかった。忠告ありがとうな、おっさん」
「おうよ。それと、俺はまだ二十代だからな」
顔つきでおっさんと呼んでいたが、まだそこまでの年ではなかったらしい。まぁ、今更呼び方を改める気もないのだが。
おっさんの方も自覚しているのか、そこまで嫌そうではないので気にしないことにする。
「じゃあ、これから神殿に行かないとだし、また明後日にな」
「なんだ、信仰でもあんのか」
「そういうわけじゃないが、ちょっと用があってな」
「まぁ、行って損はねえだろ。気をつけてな」
「何に気をつけるのかわからんが、行ってくるわ」
そう言っておっさんと別れ、神殿へ向かう。初めて向かう神殿に少しわくわくしつつ、女神と再会することもあるのだろうか、と想像してみる。
この世界に飛ばされた原因ではあるのだが、日本での俺は死んでしまったと聞いているし、場合によってはお礼を言ってもいいだろうからな。あとは、世界の破滅についても何か知っていれば聞いておきたい。
女神に聞きたいことを心のメモに残しつつ、町の南部に位置する神殿へ足を運ぶのであった。
神殿……。死神であるヴェルゼは入って大丈夫なのでしょうか。
いや、大丈夫なんですけどね。一応神様ですし。




