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34話 死神の外套

 生屍化したオークキングを倒して、魔力草を納品した翌日。きちんとリリティカの所に納品されたかの確認をするべく彼女の営む薬屋に向かった後、そのリリティカからの頼みで防具屋のミシュレイの様子を確かめてきて欲しいとのことで、俺たちは防具屋の扉を開けたのだった。


 の、だが――


「いやー、その節はお世話になりました! おかげさまでこの通りですよ!」


 オークキングが原因と推察される流行病に冒されていたはずの彼女は、この通りピンピンとしていた。リリティカの作る薬を使ったのは確かなのだろうが、ここまでの回復を望めるものだったのだろうか。

 気になって、オルタに小声で尋ねる。


「……なぁ、オルタ。リリティカの作る薬は、ここまでの効き目なのか?」


「いや、リリィの腕は確かだけど、流石に病人を一瞬で回復させるほどの効果はないよ」


「じゃあ、何故にここまで……?」


「それはですね!」


 俺が疑問を独り言のように呟くと、ミシュレイがそれを聞いていたようで元気よく答える。


「私、実はドワーフと人間ヒュムとのクオーターでして」


 そう言いつつ、ミシュレイはバンダナを外す。その下から出てきたのは、耳でも角でもなく、天然にしては少し強くパーマがかかっているかな? くらいの、焦げ茶の髪だった。


「見ての通り、見た目はほぼ人間なんですよ。髪に強めの癖があるくらいで、ドワーフのように小さいわけでもないので」


 髪を弄りつつミシュレイが言う。純粋なドワーフは、目元にかかるくらいまで髪が伸びた後は、その独特の癖毛からモコモコと羊の毛のように増えるようにして伸びていくらしい。

 また、身長が極端に小さく、人間の子供くらいの身長で成長がストップするらしい。尤も、腕の太さなどは例外で、腕力に優れた種族というのがドワーフという種への共通認識だ。


 ミシュレイの場合、お祖父さんにあたる人がドワーフだったらしい。その人が人間と子を成し、ハーフのドワーフが生まれた。それがミシュレイの父で、その人も人間と子を成し、ミシュレイが生まれた。

 血が薄まるごとにドワーフとしての特徴も薄れ、ミシュレイは見た目ほぼ人間という状態らしい。


「なるほど。それで、今元気なことと何の関係があるんだ?」


「はい。ドワーフはその生命力が強いことも特徴でして。怪我とか病気とか、すぐ治っちゃうんですよ」


 ミシュレイの見た目は人間だが、種族特性的な所ではドワーフの血が残っているらしく、軽い怪我や病気ならば一日もあれば治ってしまうことがほとんどだという。


「ミシュレイがドワーフのクオーターだったのは初耳だったね。病が治ったのは、リリティカが回復魔法をかけていたし、それもあるのかね」


 オルタが分析する。彼女もミシュレイの種族については知らなかったようだ。


「それが大きいですかねー。実際、回復魔法がなければ今も布団で唸ってたと思います」


 回復魔法による症状の緩和と、自前の回復力。それに薬が加わって今の状況があるのだろうとミシュレイは話す。


「ふむ。生命力については妾と似たようなものじゃの。病が治るほどと言うことは、ドワーフの特性がそこそこ濃く出ておるようじゃの」


 今まで黙って話を聞いていたフィーアだが、種族特性に似たところを持っているためか会話に参加する。


「あら、あなたも強い生命力を持ってるんですね! 見たところドワーフではなさそうですけど、伺っても?」


 人間という種でないという共通項からか、ミシュレイが興味を示す。この国――ノスティは一応セントリア王国に属する――において、亜人差別の風潮はない。そのため種族というものを聞くことにさほど抵抗はないのだ。一応気にする者も希にいるため、ミシュレイのような尋ね方になるのが一般的だろう。


「うむ。妾は吸血鬼最後の生き残りじゃ。この町との確執も失せたところじゃからの。名乗っても不都合はあるまいて」


 ラウリスとの一件もあり、フィーアは吸血鬼であることを隠さない方針でいくらしい。この町には未だ吸血鬼に対して良い感情を持っていない人もいるので、気をつけるべきではあるのだが……。

 まぁ、フィーアに喧嘩を売ったところで、勝てるような人が滅多にいないのだが。


「なんと、吸血鬼ですか! 私とは比べものにならないくらいの生命力じゃないですか! 戦争の記憶は色濃いですけど、確執が失せた、というのはラウリス様とのお話が済んでいるということなのでしょうし、私は気にしませんから!」


 力を持った種族ということもあってか、吸血鬼は確執さえなければ優れた種族であるという認識は強い。そんな種族を目の前にして興奮したのか、ミシュレイは一息で言い切った。


「おお、それは妾にとっても重畳なことじゃ。妾はフィーア・ヘイル・ヴァレンハイトと申す。よろしくの」


 確執が失せたとは言っても、やはり気になってはいるのだろう。フィーアは嬉しそうにしながら手を差し伸べる。


「私も、今まで自己紹介もせずにすみません……。ちょっと興奮してしまいました。ミシュレイ・リエッタといいます。よろしくお願いしますね、フィーアさん!」


 久々に自己紹介で家名を聞いた気がする。フィーアにつられてか、フルネームで名乗ったようだ。武器屋のおっさん――アギトだったか――も、リリティカも、名前だけだったからな。こっちの世界では自己紹介では名前だけの方が普通なのかもしれない。


 俺がそんなことを思っていると、ぶんぶんと音がするのではないかというほど腕を振って握手していたミシュレイがこちらを向いて言う。


「ところで、他の方のお名前も伺ってもいいですか? 多分ですけど、私の店のお客さんになる方々ですよね」


 店を営むという上で、顧客の名前を聞いておくというのは実は重要なことだ。気軽に会話ができるような間柄にでもなっていれば、リピーターとしてまた来てくれる可能性が高まる。それ以外にも、重要な情報を持ってきてくれるなど、様々な恩恵があるのだ。


「ああ、一方的に名前を知っていたから、遅れたな。すまない。俺は相馬八千代。こっちのくっついてるのがヴェルゼだ」


 まずは俺が自己紹介する。ヴェルゼは俺にもたれかかるようにして腕にしがみついているばかりだったので、頭を軽くぽんぽんとしながら代わりに名前を教える。


「ソーマさん? いえ、ヤチヨさんですね。それに、ヴェルゼさん。覚えましたよー!」


 この世界では名前の後に名字が来るのが一般的のようだが、俺が名乗るときは日本にいたときと同じく名字の後に名前だ。それでもなぜかどちらが名前なのかを判別することがみんなできるようで、俺は内心不思議に思っている。

 ラウリスは俺のことをソーマ君と呼ぶが、あれは敢えて名字で呼んでいるのだと思う。


「……私も、ソーマ」


 ヴェルゼの言葉に苦笑しつつ、頭を撫でてやる。そうなるには、まだ少し時間が早いと思うんだ。


「あとはあたしも一応名乗っておこうかね。あたしはオルタナ・ヴァレンハイト。間違えないでおくれよ」


 名前が変わったオルタも名乗っている。ミシュレイは頭に疑問符を浮かべていたが、オルタが「色々あるんだよ」と言えば、そんなものかと納得していた。それでいいのだろうか。


 ミシュレイもオルタのことはわかっていたようだが、後で聞いたところ、


「しばらくは誰かに似てるなーってくらいでしたけどね!」


 と言っていたので、やはり馴染みが深くなければわからないだろうというのが俺の中での結論だ。まぁ、体型がほぼ変わっているし、目の色も違っているとなると意外とわからないのかもな。




 一通り自己紹介が済んだところで、ついでなので防具を見せて貰うことにする。この後武器屋にも行くし、防具は仕立てに時間がかかるとも聞いているので丁度いいだろう。


「それでしたら、ご自由に選んでいって下さい! 看病してもらったお礼もありますから!」


 と、ミシュレイ。どうやら好きな防具をくれるらしい。そんなことをしていると商売にならないのでは? と思ったのだが、


「命あっての物種ですしね。それに、メンテナンス料もありますので、そこで採算は取れる予定です!」


 と、フィーアよりは質量を伴っていそうな胸を張っていたので、そんなものかと納得することにした。

 好意には素直に甘えておくのがいいだろう。


 しかし、そうは言っても一つ問題とも言えないような問題があった。


「俺は正直防具とか要らない気もするんだよな……。同じ理由で、ヴェルゼも」


 そう、俺とヴェルゼには防具が必要ないのである。何せ死なないのだ。ヴェルゼは受けたダメージを俺の魔力によって補修できるため、俺が死ななければ実質死なない。

 そう考えると、防具は装備している分重くなる上、ダメージを受けるとそれだけ防具が損傷するという無駄が発生してしまう。


 どうしたものか、と考えているとミシュレイが話しかけてくる。


「もしかして、ヤチヨさんは魔術師さんですか?」


「ああ、一応そうだな。魔法剣士に転向予定ではあるけど」


「なるほど……。とすると重すぎず、しかし最低限の防御力は必要。それでいて魔力が増幅できるとなおよい……ということですね」


 理想を言えばそうなるのだろうが、そんなものがあれば誰だってそれにするのではないかと思う。


「うーん……魔法生地を使ったマント辺りが無難でしょうか。ローブだと動きにくくなる可能性がありますしね」


 魔法生地というのは、繊維を糸にする際に魔力を込めつつ糸にすることでできあがる魔糸を使った布のことらしい。所有者の魔力を用いて部分的に硬化させたり、裂けたりした部分を補修できたりするらしい。


「まぁ防御面では本当に最低限ですので、あまりこれだけというのはおすすめできないんですが」


 本来はこれにハーフメイルと言われる、要所のみを守る防具を着けるのが一般的らしい。俺には必要ないけど。


「っていうと、この辺のがそうか?」


 そう言って俺はなんとなく気になった場所の、あるものを引っ張り出す。それは、店の一番奥の棚にある防具類の、さらにその隅に隠すようにして箱に入れられていたものだ。かすれて読めなかったが、かろうじてマントとだけ読めたのでそうだろうと思って取り出した。


「あー、それですか……。どこにやったのかなと思ってたんですけど、そんなところにあったんですね」


 皮ではなく、布でもない独特の生地をしたそのマントは黒を基調としたもので、華美な装飾などがないところが逆にしっくりときている。

 が、どことなく禍々しく感じてしまうのは気のせいだろうか。


「何かワケありか?」


 ミシュレイの口調から察するに、何か欠陥があるような言い振りだ。


「ワケありもワケあり。死神の外套なんて呼ばれてた品ですよそれは」


 またしても大層なものが出てきたことにやや辟易としつつ、詳細を尋ねる。


「すでに嫌な予感がしてるんだが、どういうものだ?」


「それは一応魔法生地を使ったマントに似たような性能なんですよ。表向きは」


 ただし糸から作られているわけではないため、厳密には魔法生地ではないのだとか。製造過程もわかっていないらしい。


「というか、魔法生地のマントなんて比較にならないほど高性能ですね。フルプレートのアーマーに匹敵すると思いますよ」


 ここだけ聞けばとんでもない代物だという感を受けるが、そうは問屋が卸さない。


「それ、呪われてるんですよね。というか、呪いというのも軽いレベルです」


「勿体ぶらずに教えておくれよ」


 なかなか全容を明かそうとしないミシュレイに焦れ、オルタが急かす。"死神の"なんて枕詞がついているために、彼女の好奇心を煽っているのだろう。


「言いますから、そんな急かさないで下さいよ。その外套はですね、なんと着用すると」


「着用すると?」


 怪談話でもするかのように溜めを作ってミシュレイが続ける。


「半日きっかりで着用者が死にます」


「「えぇ……」」


 俺とオルタの声が重なる。呪われているにしても、相当なものだった。ある意味とんでもない代物だ。


「その性能自体はいいんですけどね。今まで使った人達は皆半日着用して死んでしまっています」


 なんでも、半日経つ前に脱げばセーフらしい。しかしそれを忘れて、半日以上連続して着用し続けてしまうと、何らかの理由で死んでしまうそうだ。


「その原因の究明と、呪いの解除をお願いされて私の所で預かってたんですけど結局どうにもならなくて。今では死蔵するばかりで、どこに保管したかも忘れてました」


 いやー笑っちゃいますね、と一人笑っているミシュレイだったが、こんな物騒な物を紛失しかけるというのは笑い事ではないような気がする。


「でも、見つかってよかったですよ。知らない人が持ってってつけちゃってたりしたら危なかったですねー」


 それは万引きされている可能性を示唆しているのだが、本人はそれでいいのだろうか。というか、ミシュレイはあまり深く物事を考えていないような気がする。


「というわけで、それを渡してください。今度は忘れないところに厳重に保管しますから」


 そう言って俺の方へ手を差し向けるミシュレイ。そんな彼女に対して俺は、


「断る。これ、くれ」


「はい?」


 そう言ってのけるのだった。

昨日の夜までに投稿できなかったので、珍しく日中の更新です。

多分もう一話、夜中に更新するかと思います。

いないとは思いますが、日々の更新をもし起きて待ってて下さるような方がいたとしたら、大変申し訳なかったです。

この場を借りてお詫び申し上げます。ごめんなさい。

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