幕間2 王国にて
いわゆる難産でしょうか。短めになっております。
王とか王女とか面倒だなあと思いました。
今後出てくるであろう政治パートとか、今から気が滅入ります。
「どうして私があのような僻地に!」
建物の中とは思えないほどの広大な空間に、甲高い女の声が響き渡る。その声は苛立たしげで、不満を訴える時の声音そのものだった。
「エンゼリカよ。お前もわかっておろうが、かの地は今悪しき変化の最中にあるのだ」
豪奢な服を着て、金をこれでもかと使っているのであろう煌びやかな椅子――有り体に言えば玉座である――に座っている恰幅のいい男が答える。
「ここ半年における魔物の襲撃のことですの? それなりに存じておりますけど、それと私がその地へ赴かねばならないことに何の関係がありますの!」
エンゼリカと呼ばれた少女は、さらに語気を荒げて言う。
「落ち着け。かの地で今までにはないような魔物の襲撃があったことを知っておるのなら、話は早い。今この王国において信頼できる者で、かつある程度の力を持っておる者というと、お前が適任でな」
「そんなもの、冒険者でも雇えばいいのではなくて?」
彼女の言い分はもっともだ。この男――エンゼリカの父で、セントリアの王なのだが――が必要としているのは北の町への視察である。
ここ半年の間にオークキングの襲撃に加え、その生屍化。またそれに伴った伝染病と、大きな問題が次々と挙がっており、急いでそれらの根本的な原因を突き止める必要があるのだった。今までにオークキング級の魔物が襲撃してきたということはほぼなく、ましてそれが生屍化するともなると、人為的に引き起こされている可能性を考慮しなければならないためだ。
しかし、それならば彼の娘であるエンジェリカ、つまり王女を視察にやるなどということはあまりに突拍子もない話であり、危険性の面から見ても有力な冒険者を雇うか、お抱えの騎士団でも差し向けるかするのがベターだろう。
「今回の騒動は、あまり大衆に知られたくないことでもあるのだ。北で起きたようなことが、今後別の場所で起こるとも限らんのでな。その可能性は低いであろうが、大衆にはそんなことはわかるまい。無為に噂ばかりが大きくなって、波乱を生んでも拙いのでな」
国王としては、ノスティがオークキングの襲撃を受けたことを重く見ていた。中枢機関のない北の辺境の地ではあり、オークの鎮圧も速やかではあったのだが、あの森から出た魔物の襲撃にしては規模が大きすぎると考えたのである。
また、そのことが国民に広く知れた場合、無闇に恐怖を煽ることになりかねない。それが理由で食料の買い占めが起き、経済的な打撃となり得る可能性や、軍への仕官が減るなどの可能性を考えれば、情報の統制は必要なことだろう。
「騎士団についても同じことだ。あれに任せてもよいのだが、いかんせん目立ちすぎる。それに、王国の警備が薄くなるという問題もある」
お抱えの騎士団とは言うが、普段は王国の警備も兼ねているのである。警備隊は別にあるのだが、騎士団を暇にしておくわけにも行かず、訓練以外の時は貴族街を中心とした警備を行っている。警備という仕事が重要なこともあるが、どちらかと言えば貴族に対してのアピールという意味合いが強いのだが。
「目立つと仰るのでしたら、私でも同じことでは?」
エンゼリカは王女であるため、その疑問は至極当然だろう。しかし、国王はそうは思っていないようだった。
「いや、お前は私の娘であり王女という立場ではあるのだが、王を継ぐことがあるわけではない。上に兄がいるのだから、それは当然だな?」
「ええ……」
この国は王制を執っており、次期の王はその直系子孫が継ぐことになっている。その継承権は男子を優先して生まれた順である。エンゼリカには上に兄が三人いるため、滅多なことがなければ王という地位を継ぐことはない。
「お前は優秀だ。魔術に秀で、この国でもお前の魔法に並ぶ者はそうおらぬ。だが、それ故に甘やかして育てすぎたとも思っておるのだ」
小さい頃から魔法の才覚を見せ、それは今年十六歳になった今でも成長を続けているエンゼリカ。彼女の育った環境は、それはもう甘やかされてきた。欲しいものは片っ端から与えられたというのがそのまま当てはまる生活を送ってきたのである。
その弊害として、やや(・・)我が儘に育ってしまったというのが国王の悩みの種であった。
「そこで、お前に社会勉強の一環として今回の任務を授けようというわけだ」
「そんな……」
エンゼリカに甘やかされてきたという自覚はない。甘やかされるのが当然になっている生活なのだから、気付という方が難しくはあるのだが。
「何も一人で行けと言うわけではない。一応護衛としてオリヴィアをつける」
オリヴィアは国王の抱える騎士団の中でもトップを争うほどの剣術の持ち主であり、冒険者として行動していたこともあるため、この二人ならばいくら僻地であるノスティへ行っても危険なことはないとの判断だ。
「……わかりましたわ」
国王が本気であることを察し、内心ではまだ受け入れられてはいないものの、これ以上は無駄だとエンゼリカは悟った。こうなってしまえば、さっさと任務を終えて帰ってくることを考えた方が建設的だ。
「うむ、見聞を広めてくるがよい。出発は明後日だから、準備しておくように」
「……はい」
その言葉を最後に、エンゼリカは大広間を後にした。
この後に降りかかる災難のことなど、欠片も想像せずに。




